九歳児-3/ツラレテ
その時、僕は。
叫んだのだったか。
絶句したのだったか。
そんな。
自分の肉体の行動も曖昧になるほどの衝撃を受けて、立ち竦む僕と。
同じように、同じく上を見上げて。
徐々に、それを認識して。
大きく叫んだ彼女とは。
やはり、何かが違うような気がしていた。
ぷらり、ゆらりと影が舞う。
吊られた、首の縄が動作して。
大樹を揺らして、影となり。
足元に転がる、
小石を踏みつけ、ぎしりと鳴って。
◆
その叫び声を切っ掛けとして、周囲に生徒や教員が駆けつけて。
それからは、学校始まって以来の騒動となっていた。
吊られていたのは、四年生のクラスを担当していた四十代くらいの男性教諭。
当然、残っていた生徒は全員帰らされて。
翌日も緊急集会からの半日授業、即帰宅。
担任が席を外す中、騒ぎ声の中。
つまらなそうに、周囲を見回していた悠月を意図的に放置して。
僕は――――考えに没頭していた。
クラスメイトから飛び交う、先生についての噂話。
ママから聞いたんだけど、お母さんの事で悩んでたんだって。
私は入院してたって聞いたよ?
近くに住んでる人が、帰ってきてるのを見たとか。
そんな、本当なのか。
或いは、噂話をすることで盛り上がりたいのか。
何方とも判断がつかない、噂話。
それが囁かれる度に、妙な不安が募っていく。
何故なのかは、分からない。
ただ、それが火の付いた導火線のように感じられて仕方がなかった。
◆
今日は大分軽い、ランドセルを背負って。
大多数の生徒の波に乗り。
帰宅しようとした僕の首を引っ張ったのは。
やはりというか、彼女だった。
「半日で授業終わっちゃったでしょ。」
「……帰れっていうんだから、帰ろうよ。」
嫌そうに、僕が呟けば。
「家に、パパもママもいないのよ。」
「だから?」
「付き合ってくれてもいいでしょ。」
頬を膨らませ、言外に。
自分のものと主張するような悠月の言葉に。
少しばかりの反発と。
大多数を占める、諦めと。
ほんの一欠片の、優越感を混ぜ合わせ。
仕方がないな、と溜息を吐いた。
「……それで。」
「?」
首を傾げて、彼女が問い返す。
「君の家に行けばいいの? 何処?」
そんな事も知らない、僕等二人は。
周囲の視線を気にせずに、話し続けた。
◆
ぷらり、と揺れる黒い影。
縄も無く。
姿も無く。
影だけが、揺られ続ける校舎裏。
誰かがじっと、それを見て。
ずっと、そのまま。
そんな、
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