九歳児-2/フタリデ


つい最近知ったのだが、彼女は機嫌が良くなる毎に行動が分かりやすくなるらしい。

普段聞かない、僕自身も見知らぬ歌を口遊くちずさみ。

まるで我儘な王女か何かのように、僕を引き連れ彼方此方を彷徨う。

仕方がないな、という感想が浮かんでしまうのはおかしいことだろうか。

或いは。

この時からもう、彼女に――――。



彼女が聞いたという”噂”。

それは、僕等の学年ではなく2つ上。

つまりは五年生を中心としたもののようだった。

軽く聞いた限りでは、こんな。


『第二次世界大戦中、この辺りも空襲の被害が出ていた。

とある日、いつものように空襲警報が出ていたが子供たちは丁度隠れんぼ中で。

警報を聞きそびれ、そのまま亡くなった子は今でも隠れんぼを続けている。』


どこにでもありそうな、そんな噂話。

五年生、つまりは社会科の授業で”そういうこと”を学んだからこそ。

広まり始めたんじゃないかとも疑ってしまう。

特に噂していたのは、女子に偏っていたというのもあって。


「……創作じゃない?」


一通り聞き回った後で、そう零してしまった。

思い浮かべたのは、あの謎の存在。

そして、何故か浮かんだのは


今まで読んできた本の中で、幽霊は大半が空想のものだと書かれていた。

そう、僕も思い込みたかった。

そして、残り半分は実在し。

それを見たことが有る、見ることが出来る霊能力者の話だった。

……それにも、同意せざるを得なかった。


こんな話は、誰にもしていないし出来ない。

同時に、誰かに話したくて仕方ない内容でもあった。

見たものが、夢だったのだと。

幻覚だったのだと、信じたい。

けれど、話してしまえばまず間違いなく異常な目で見られるだろう。

そんな考えは、子供にでも。

いや、子供だからこそより実感していたのだ。

文字通りに、隣の少女の実情――――「自分たちとは違う」という視点を持ってして。


そんな考え方を巡らせていたのは、どれくらいだったのだろう。

手を強く引かれ、そちらを向けば。

頬を膨らませた、悠月の姿があった。



機嫌を取るのに、手を変え品を変え。

色々と声を掛けたり、謝ったりしたけれども中々許してはくれず。

口でつーん、と言い続けているような状況で。

どうしたものか、と溜め息を吐きながら前を見た。

気付けば校舎裏なんかに来ていた僕達の目の前に映るのは、暗い影に佇む一本の大木。

そして、それにぶら下がる影。


え、っと口から漏れて。


ゆらり、と影は姿を揺らした。

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