九歳児-1/ユウジン
一年間も、黴臭い部屋の中で共に過ごしていれば変化も生じる。
それを理解していなかった、というのはおそらく子供だからで。
変化するまでの間、居心地のいい空間に任せていたのも子供だから。
とは、言っても。
変化した先は、いい方向への変動だったのだけど。
けれど、周囲の事を加味すれば……悪い方向でもあった。
◆
常に
人数自体が少ないからか、司書などと言われる存在もおらず。
年老いた職員が兼業として本の管理をする程度。
だからか、僕が。
或いは彼女が、ここに入り浸る事を咎めるような人物もおらず。
実質的に二人だけの部屋のようになって久しいこの場所。
がちゃり、と音を立てて入ってくる白い影。
彼女――――
いつからか、好んで。
黒、青と言った暗い単色の服を着込むようになっていた。
それが白い髪を更に映えさせ。
そしてそれが故に男はちょっかいを掛け。
女子は羨ましそうに見るものもいれば、鬱陶しがるものもいる。
けれど、親しい存在はほぼおらず。
文字通りに、孤高の存在に近付いていた。
その中の唯一の例外に近いのが、僕。
その理由を問うても、小さく微笑むだけで返事は返らず。
気付けば。
彼女との折衝役、近付きたい存在なんかで僕の周囲は囲まれるようになっていた。
それから逃げようとして、更に二人の世界へと閉じこもる。
悪循環にも近い、二人の循環。
それを、どちらとも差し止めようとしないのは。
この居心地を、壊したくないのが多分にあったからなのだろう。
◆
珍しい話を耳にした、と。
彼女が珍しく声色を上げながら言ったのは。
三年生に上がって暫く経った、夏休みまで一月ほどの雨の滴る6月の事だった。
「一体何の話?」
そう、読んでいた本に栞を挟んで聞き返す。
発行されてから十数年は云うに経っているであろう、学校の怪談を取り纏めた本。
背中に貼られた借用カードには、殆ど名前が描かれていなかった。
「おばけよ、おばけ。」
「……お化け?」
「この学校に、出るんだって。」
気にならない?
そう、首を傾げながら目をじっと見つめられて。
少しばかり、顔が赤くなるような熱を感じて視線を逸らした。
「…………どこに?」
「わかんない。 出る、って話してるのを聞いただけだから。」
一人で遊び回っているからか、彼女は五感が優れていた。
恐らくは上級生か、下級生か。
どちらかが噂しているのを耳にしただけなのだろうけど。
お化け、つまりは幽霊。
人、生き物が死した後に残る
その存在は悪影響を与える、と言われる存在。
――――僕が見た、アレと近しい何か。
背中に、冷たい汗が流れるのを感じながら。
「……探してみない?」
彼女の、小さい笑みと。
ぎゅ、と握られた左手を振り払えずに。
噂でしか知らない。
実在不明の、幽霊を探す。
小さい冒険が始まろうとしていた。
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