九歳児-1/ユウジン


一年間も、黴臭い部屋の中で共に過ごしていれば変化も生じる。

それを理解していなかった、というのはおそらく子供だからで。

変化するまでの間、居心地のいい空間に任せていたのも子供だから。

とは、言っても。

変化した先は、いい方向への変動だったのだけど。

けれど、周囲の事を加味すれば……悪い方向でもあった。



常に薄い幕カーテンに覆われた、黴臭い図書室。

人数自体が少ないからか、司書などと言われる存在もおらず。

年老いた職員が兼業として本の管理をする程度。

だからか、僕が。

或いは彼女が、ここに入り浸る事を咎めるような人物もおらず。

実質的に二人だけの部屋のようになって久しいこの場所。


がちゃり、と音を立てて入ってくる白い影。

彼女――――悠月ゆづきは。

いつからか、好んで。

黒、青と言った暗い単色の服を着込むようになっていた。

それが白い髪を更に映えさせ。

そしてそれが故に男はちょっかいを掛け。

女子は羨ましそうに見るものもいれば、鬱陶しがるものもいる。

けれど、親しい存在はほぼおらず。

文字通りに、孤高の存在に近付いていた。


その中の唯一の例外に近いのが、僕。

その理由を問うても、小さく微笑むだけで返事は返らず。

気付けば。

彼女との折衝役、近付きたい存在なんかで僕の周囲は囲まれるようになっていた。

それから逃げようとして、更に二人の世界へと閉じこもる。

悪循環にも近い、二人の循環。

それを、どちらとも差し止めようとしないのは。

この居心地を、壊したくないのが多分にあったからなのだろう。



珍しい話を耳にした、と。

彼女が珍しく声色を上げながら言ったのは。

三年生に上がって暫く経った、夏休みまで一月ほどの雨の滴る6月の事だった。


「一体何の話?」


そう、読んでいた本に栞を挟んで聞き返す。

発行されてから十数年は云うに経っているであろう、学校の怪談を取り纏めた本。

背中に貼られた借用カードには、殆ど名前が描かれていなかった。


「おばけよ、おばけ。」

「……お化け?」

「この学校に、出るんだって。」


気にならない?

そう、首を傾げながら目をじっと見つめられて。

少しばかり、顔が赤くなるような熱を感じて視線を逸らした。


「…………どこに?」

「わかんない。 出る、って話してるのを聞いただけだから。」


一人で遊び回っているからか、彼女は五感が優れていた。

恐らくは上級生か、下級生か。

どちらかが噂しているのを耳にしただけなのだろうけど。


お化け、つまりは幽霊。

人、生き物が死した後に残る

その存在は悪影響を与える、と言われる存在。

――――僕が見た、アレと近しい何か。

背中に、冷たい汗が流れるのを感じながら。


「……探してみない?」


彼女の、小さい笑みと。

ぎゅ、と握られた左手を振り払えずに。


噂でしか知らない。

実在不明の、幽霊を探す。

小さい冒険が始まろうとしていた。

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