八歳児/テンコウ


小学校二年生に上がった頃に、少しばかり身の回りに変化があった。

兄――自分とは10歳程離れた――が、大学の為に一人暮らしをしたいと言い出したのだ。

親もそれ程反対することもなく、それ自体は極めてスムーズに通り。

なんとなく。

――――戻ってくる気は、あまり無いんだろうな、と。

そんな違和感のような、直感を感じたのを覚えている。



――――はい。 では転校生を紹介します。


そして、もう一つの変化。

こんな田舎に、一人の転校生がやってきた。


名前を、九重 悠月ここのえ ゆづき

髪をストレートに、背中……腰の付近まで伸ばし。

目の辺りを覆う、何かから隠れるような前髪。

小学二年生からしてみてもやや小柄なその少女は、当日からしてクラスで噂されていた。


髪が、銀……というのか。 或いは白というのか。

少なくとも僕達が知る日本人とは違う髪色を持ったその少女は。

北欧の血を四分の一程引いている、というその名乗りの通りに。

僕等とは、異質な存在と認定された。


この年代にしてみれば。

異質な存在、或いは孤高の存在。

そんなものは関係はないと言ってしまえばそれで済む話ではあった。

けれど、彼女はどちらかと言えば内向的で。

クラスメイトと遊ぶことを余り好まなかった。


一人、本を読んだり。

或いは外で走ってみたり。

虫取りをしてみたり。

それら全てを一人で行う少女。

遊ぼうよ、と誘っても。

私はいい、と断る少女。


僕は、もう。

この頃には、数名の友人と話す程度で。

一人でいることのほうが多かったから、そんな風景を遠巻きに見ていた。



誰かが言っていた。

彼奴チョーシ乗ってるよな、とか。

ぼっちだぼっち、とか。

影に日向に、言葉を差し向けられる彼女。

けれど、そんな言葉を受け流す少女。


……少しだけ、寂しそうに見えた。


そんな思い上がりのような。

或いは、空想のような。

或いは、妄想のような。

思い上がりを持ってして、僕は彼女へと話しかけたのだ。


その時、彼女は何を読んでいたのだったか。

僕は覚えていなかったけど。

その時の会話だけは、互いに覚えている。



「……大丈夫?」

「……何が?」

「色々、言われてるみたいだけど。」

「……慣れてる。」


ああ、そうだ。

僕は、彼女が寂しそうに見えて。

彼女は、僕が■■そうに見えて。

黙って、隣り合っていた。


古びた校舎の一室。

図書室、と名付けられた黴臭い本の中。

壊れかけの椅子の上で、二人。

静かな時間を、過ごし始めたのだ。


そんな時間が、定期化するまでに。

そう、時間は要らなかったけれど。



くすくす、と何かが笑う。

遠巻きに、何かがこちらを見ている。

それが、何なのかは一切わからないままに。

後少しだよ、と。

それ・・は、口遊くちずさんだ。

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