七歳児/カイダン
「それ」は一体何だったのかは、分からない。
けれど、間違いなく人ではなかった。
そして、同時に生きてもいなかった。
他者には全く見えなかったと思われるそれ。
自身にだけは見えていたと思われるそれ。
今、思い返せば。
やはり、日常は侵食され始めていたのだ。
◆
小学校に上がり、文字を学び始めた頃だ。
当時、「読書の時間」と呼ばれる時間帯が存在した。
朝の十分、何かしらの本を読みましょう。
そんな時間帯のことだ。
学校側としては、文字を学ぶ切っ掛けにして欲しいとか。
そんな意図があったのだろうけれど。
僕は、去年の経験からか。
俗に「怪談」と呼ばれるジャンルへと傾向していった。
例えば、学校の七不思議。
例えば、都市伝説。
例えば、創作譚。
例えば、オカルト論。
少しずつ、少しずつ。
その方向性は深みへと。
面白かった、というのは勿論ある。
モチーフ、各国での怪談の違い。
或いは地域によって伝わる話の違い。
けれど。
そんなことよりも、僕は必死だったのだ。
アレがなんだったのか。
それを知るためにも。
◆
そんな中で、一つ。
これ関係じゃないか、と思い当たったものはあるにはあった。
「七歳児までは神様の子」と呼ばれる、昔ながらの言葉だ。
これの本質は、言葉の頃……江戸時代くらい(当時は、凄い昔くらいのイメージしか無かったが)。
幼児の生存率が極めて低く、それをごまかすために産まれた言葉だともされていた。
けれど。
怪談、或いは昔話を掘り下げれば掘り下げるほどに。
「子供」だからこそ、出会う怪異というのが散見していた。
例えば、神隠し。
例えば、ムラサキカガミ/白い水晶。
例えば、座敷童子。
で、あるのならば。
僕が見かけたものも、それに類するものなのではないのか、と。
最後に見かけた時には。
視線よりも先に、臭いで、音で。
その存在に気付けるほどに近付かれていた。
多分僕は、今こうしていられなかっただろう。
そう子供ながらに確信できるほどのナニカ。
そう、形容するならば。
神、にも。
幽霊、にも。
近しい存在に、狙われていた。
そうとしか、言えなかったのだ。
◆
――――ねえ、知ってる?
――――何を?
――――この学校ってね、ずっと昔から有るでしょ?
――――みたいだね。 パパとかママも通ってたって。
――――だからね。
――――うん。
――――パパが、昔。 見たんだって。
――――何を?
――――おばけ。
◆
多分に、運が良かった。
そうとしか僕は思えていなかった。
そして、これっきりにしてほしいと願い続けていた。
――――そんな簡単に、済めば良いはずもなかったけれど。
かさり、と。
枯れ木のような、音がした。
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