七歳児/カイダン


「それ」は一体何だったのかは、分からない。

けれど、間違いなく人ではなかった。

そして、同時に生きてもいなかった。

他者には全く見えなかったと思われるそれ。

自身にだけは見えていたと思われるそれ。


今、思い返せば。

やはり、日常は侵食され始めていたのだ。



小学校に上がり、文字を学び始めた頃だ。

当時、「読書の時間」と呼ばれる時間帯が存在した。

朝の十分、何かしらの本を読みましょう。

そんな時間帯のことだ。

学校側としては、文字を学ぶ切っ掛けにして欲しいとか。

そんな意図があったのだろうけれど。

僕は、去年の経験からか。

俗に「怪談」と呼ばれるジャンルへと傾向していった。


例えば、学校の七不思議。

例えば、都市伝説。

例えば、創作譚。

例えば、オカルト論。


少しずつ、少しずつ。

その方向性は深みへと。


面白かった、というのは勿論ある。

モチーフ、各国での怪談の違い。

或いは地域によって伝わる話の違い。


けれど。

そんなことよりも、僕は必死だったのだ。

アレがなんだったのか。

それを知るためにも。



そんな中で、一つ。

これ関係じゃないか、と思い当たったものはあるにはあった。

「七歳児までは神様の子」と呼ばれる、昔ながらの言葉だ。

これの本質は、言葉の頃……江戸時代くらい(当時は、凄い昔くらいのイメージしか無かったが)。

幼児の生存率が極めて低く、それをごまかすために産まれた言葉だともされていた。


けれど。

怪談、或いは昔話を掘り下げれば掘り下げるほどに。

「子供」だからこそ、出会う怪異というのが散見していた。


例えば、神隠し。

例えば、ムラサキカガミ/白い水晶。

例えば、座敷童子。


で、あるのならば。

僕が見かけたものも、それに類するものなのではないのか、と。


最後に見かけた時には。

視線よりも先に、臭いで、音で。

その存在に気付けるほどに近付かれていた。

気付いていることに・・・・・・・・・気付かれたら・・・・・・

多分僕は、今こうしていられなかっただろう。

そう子供ながらに確信できるほどのナニカ。


そう、形容するならば。

神、にも。

幽霊、にも。

近しい存在に、狙われていた。

そうとしか、言えなかったのだ。



――――ねえ、知ってる?

――――何を?

――――この学校ってね、ずっと昔から有るでしょ?

――――みたいだね。 パパとかママも通ってたって。

――――だからね。

――――うん。

――――パパが、昔。 見たんだって。

――――何を?

――――おばけ。



多分に、運が良かった。

そうとしか僕は思えていなかった。

そして、これっきりにしてほしいと願い続けていた。


――――そんな簡単に、済めば良いはずもなかったけれど。


かさり、と。

枯れ木のような、音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る