イケメンゲームの中で恋が芽ばえる?~戦乱の世編

あいる

イケメンゲームの中で恋が芽ばえる?~戦乱の世編

 イケメンゲームの中にワープ?

「イケメンゲームの中で恋が芽生える~戦乱の世編」カクヨム夏物語参加作品


 毎晩のようにそのゲームにのめり込んでいた私は

2020年の夏の日夢の中にいた


 今までいくつかのお城に足を運んだ経験はある、それは修学旅行だったり家族旅行だったりするわけで、決して歴史に興味がある訳ではなかった。


 美術館に置かれているような金色の鶴が描かれた屏風の前に私は佇んでいた。


 しかも、いつもとまったく違う姿で。


 映画のセットのようにも見えるそこは多分お城の中なのであろう、たくさんの時代劇風のヘアスタイルの家臣達なのか、おサムライさんが並んでいた。

時代劇で見るように左右にキチンと並んでいる景色は背筋を伸ばしてしまう緊張感がある。


 肘掛に手をかけてふかふかの座布団に座っているのはたぶん殿様なのだと思われる、濃い緑色に黒や金の柄のその着物はとても高級そうに見える。

 そしてその傍らに私はキチンと手を揃えて座っている。

 白い毛と灰色に黒色の柄をもつ猫の姿として。


 さっきから「ねぇオジサン、ココどこ?」って聞いているつもりなのに「ニャー」としか発音出来なくなっていた。


 しかも自慢の長い黒髪も一欠片ひとかけらも残っていないサバトラわたしの姿をしている。

「ちょっとマジで触らないでくれる? キモいんだけど」


 殿様らしきオジサンは時折私の頭を愛おしそうに撫でる。


その時は、たぶん今の私の武器である前足の爪で引っ掻いて見せる。


 でも悲しい事に私の爪はまあるく切られていて、オジサンの手からは血も出なかった。


 うちにも猫がいる、嫌がるミケを押さえつけて爪を切るのは私のしごとだ、引っ掻かれるし痛い思いをして切っても数日後には我が家のどこかで爪を研いでくる。


その経験から予想出来る事と言うのは残念ながら誰かがきっと爪を丸く切っているのだ。

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「またこんな夢をみている」


 イケメンばかりが登場するそのアプリを始めてから時折同じような夢をみる、前回はとあるキリシタン大名のそばでこうして座っていたし

 イケメンの茶道の名手の膝の上で寝ていたこともある。


 とにかく夢なのだということが分かった私は夢を楽しむ事にした。


 せっかくなら猫の姿ではなくてお姫様とか武家の娘とか綺麗な町娘などがよかったのだけど、夢の中だとしてもそう上手くは行かない。


 *****

 保育士をしている私の朝は早い、7時過ぎには勤務先の認可保育園に到着しないといけない。


 子どもが好きでこの仕事を選び、ずっと勤めているけれどさすがに男子が少ない職場なので25歳なのに彼氏はいないし、とうとう今年彼氏いない歴3年に突入してしまった、出会うきっかけさえほとんどないのである、焦ることもあるけれど、運命の人がもしいるとしたら、いつかきっと巡り会うだろう。


それまではこんなイケメンゲームで、擬似恋愛するしかない。

猫の姿なのは非常に残念だけど。


 何しろ夢の中で会うイケメン達はゲームの中とほとんど同じ姿で会うことができるのだから残念極まりない。



ということはあのお殿様は水戸みと光圀みつくにさんである


 時代劇では助さん格さんと諸国を漫遊するおじいちゃんだけど、イケメンゲームの中ではグルメ好きのダンディなおじ様なのだ。


「そなたはよいのお、わしはそろそろそろ城におるのは苦痛になって来たわ 」


 無理やりに膝に乗せられた私の首の下を優しく撫でながらナイスなダンディ光圀は愚痴をつぶや


 イケメンとはいえ、かなり年上である、どうせならもっと若い人が良い


 次の夢を期待しながら不覚にも光圀の膝の上で眠りについた。


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今年の春に私が勤める保育園に新卒で採用された男性保育士が後輩として入って来た。

そして私は教育係を担当することになった。

長谷川はせがわ 国吉くによし

 まるでおじいさんのような名前の新人保育士、そこそこイケメンなので、お迎えにくる母親たちからは既に人気者である、ダイナミックな遊びもしてくれるから男の子たちにも人気なのはもちろんのこと、ちょっとおませな女の子達からは特に人気がある。


「くぅちゃん先生、私ね昨日お母さんのお手伝いしてハンバーグ作ったのよ」


「せんせ〜この髪留め昨日買ってもらったの!似合うでしょー」


 そんな毎日が続いている。

*****

 イケメンゲームの醍醐味だいごみはバトルに勝ち続けて綺麗な石を集めていくことにある。

 その石を集めてガチャを回し、たくさんのイケメンたちとの会話をゲットする。


「あなたにお会いした私は、天の神に感謝したいくらいです」


「このかつお節を貰ってはくれまいか? 」


「そなたは何故そのように美しい」


 こりゃもう堪らん、現実世界では出会うこともない歴史上の人物と擬似恋愛が出来るのだ。(猫の姿だけど)


 織田信長

 徳川家光

 今川義元

 上杉謙信


 日本史にうとい私でさえ知っている名をせた武将たちもいれば、名もなき侍たちもが多少の好みはあるものの、イケメンとして登場してくるのである。

 時代は入り乱れているし、何より相反する勢力すらもまったく関係ない。


 みんな仲良しの戦国時代なので、楽しいことこの上ない、そうして想定内ではあるけれど猫の私は数々のイケメン達をメロメロにしてきた。


 

昨日の夢はどういう事なのだろうか?


その日目覚めたの目の前にいるのは新人保育士だった。



「長谷川先生? どうしてここに? 」


名もなき武士の名前は「長谷川 国吉」


 えっ?同姓同名なの?


 涼し気な瞳をキラキラさせながら

猫として生きている私の頭をそっと撫でる。

 イヤイヤ、マジで恥ずかしい。


 質素な屋敷に暮らしているらしいくぅちゃん先生こと長谷川国吉さんのそばで暮らしているうちに私は思った。


「そろそろ2次元の世界から抜け出さなきゃ」


その時がついにやってきたのかも知れない。


*****

月曜日の朝、梅雨が過ぎて日差しが眩しい通勤時間

リュックを背負い歩く長谷川先生に大きな声で挨拶した。



「長谷川先生、おはようございます、今度のお遊戯会のお話決めましたか? 」


「松田先生おはようございます、いろいろと悩んだんですけど、時代劇風でミュージカル仕立てのものにしようと思ってるんです」


「なんか……おもしろそうですね」


 その日からゲームはやめた、何だか楽しい2020年の夏になりそうな予感がする。


「時代劇風なんて初めての試みだし楽しそうですね、長谷川先生って日本史は詳しいんですか? 」


「いや、まったくなんですけど、歴史を作ってきた人物に興味はあったんですよ」


 園児たちが帰ったあとにこうして話をすることが多くなってきた、夢の中の武士と同じようにキラキラの眼差しにドキドキする。


「そういえば、僕の名前って何だか古臭いでしょ」


「あっまぁ、今どきのキラキラした名前ではないよね」


 私の名前は松田 沙羅さら、いわゆるキラキラネームではないが、オシャレ好きの両親が付けた名前

 学生時代は「サラ」という某メーカーのシャンプーがあるおかげで初対面の人にも名前を覚えてもらっていたし、自分でもお気に入りの名前だった。


 その日の日誌を書きながら、長谷川先生は言った。


「国吉って名前は実は僕の先祖に実在した武士の名前なんです」


 内心ドキリとしたけど、じっと耳を傾けていた。


「その武士は対して名を馳せてはいないけど、優しい人柄だったと聞いていた祖父が、優しくて実直な人になって欲しいと付けた名前なんです、そして今では満更嫌いでもない名前になりました、子どもの頃はもちろん嫌でしたけどね 」


 やっぱり実在していたんだと思うと嬉しくなった。


「ところで、長谷川先生は猫好きですか? 」


 優しく笑いながら長谷川先生は返事をした


「好きどころじゃないですよ、実は先日捨て猫を拾ってしまって、アパートで飼いだしたところなんです、大家さんに交渉して3日目に晴れてOKが出て飼えることになったところなんです」


私は思い切って聞いてみることにした


「是非その猫ちゃん見たいです」


嬉しそうに長谷川先生が嬉しい言葉をかけてくれた。


「この後時間があったら、見に来ませんか? めちゃくちゃ可愛いサバトラの女の子ですよ」



 やっぱりこの夏は楽しい季節になりそうだ。


 まだ日が高い夕方の道を並んで歩く2人の姿がアスファルトに優しい影を落としていた。



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イケメンゲームの中で恋が芽ばえる?~戦乱の世編 あいる @chiaki_1116

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