第4話 指南役
俺はおそらく、特定の条件下でしか能力を発揮できないタイプだ。
前衛系の職業ではなく、打たれ弱いことがそれに拍車をかける。
考え込んでいると、みんなの視線が俺に集まるのを感じた。
どうやら俺以外は、全員ステータスを見せ終わったらしい。
このステータスを見て、みんながどんな反応をするのか分からないが、ここは意を決するべきだろう。
俺の前に半透明なウインドウが出現する。
この場の誰もが、驚いた表情を見せる。
王女や、影の薄い王様も例外ではない。
それに含まれないのは、俺や先に知っていた伊月と澪だけだ。
「…………」
いや何か言ってくれ。
反応されないことが、一番悲しい。
そんな中、王女が言いにくそうに口を開く。
「MPはとんでもなく多いのですが……」
そこで止まった王女と交代するように、いままで黙っていた王様が言葉を続ける。
「普通の死霊術師と比べて、HPが低いな。一般人よりも少し多いくらいでしかない」
初めて喋った王様はそんな無慈悲なことを告げる。
そこはもっとオブラートにですね……。
「魔法を何度も使ってもMPが尽きないのはいいが、その貧弱なHPだと狙われてすぐに死ぬだろうな」
RPGでもヒーラーや打たれ弱い魔法職を先に倒すのは常套手段だし、魔法を連発できるくらいのMPを持っているのであれば尚更だ。
理解はできるが、それで命を狙われる側からしたらたまったものではない。
「さて、各々のステータスは見た。己の能力が弱いと嘆いている者達もいると思うが、そう悲観することはない」
水を得た魚のように、生き生きと話し出す王様。
「君達はまだ赤ん坊と同じだ。これから己を知り、技を磨くことで、成長できる」
そうだ、俺のHPだってレベルが上がればまともになっていくハズだ。
……おそらくきっと多分。
「そのためには、誰かが教えてやらないとな?」
王様は、にやりと笑うと、手を叩く。
それを合図に、玉座とは正反対の位置にある、大きな扉が開き、数人の男女が入ってきた。
彼らは、俺達の前に来ると、一糸乱れぬ動きで横一列に並んだ。
「君達を鍛えるために、指南役としてこの者達を呼んだ。この者達は全員、その道のプロであるから、存分に扱かれるといい」
王様はあくどい笑みを見せると、クツクツと笑う。
左端にいた、魔法使いのようなローブを羽織った妙齢の女性が一歩前に出る。
「魔法を使いたい子は私のところに来なさい。手取り足取り教えてあげる」
妖艶に微笑む彼女を見て、男子高校生達が鼻の下を伸ばす。
かくいう俺も、周りから見ればそうなっているのかもしれないが。
「ゆ・う・す・け?」
澪が満面の笑みで俺の名前を呼ぶが、ゴゴゴという音が聞こえてくる気がする。
俺は、必死で無表情に努めた。
魔法職が集まり終え、一列になって魔法使いの女性の前に並んだ。
その中には、伊月や北野もいる。
どうやら伊月は、魔法を主に使うことにしたようだ。
「剣を使いたい奴は、俺の所へ来い。ビシバシ鍛えて立派な戦士にしてやる」
甲冑を着た壮年の男が、獰猛な笑みを浮かべる。
自分の職業が剣士ではなく、死霊術師でよかったと初めて思った。
きっと、ハー○マン式の訓練で、精神的にも強くするのだろう……。
その後も指南役の自己紹介は順当に進んでいく。
一通りの自己紹介を終え、それぞれの適性に合った指南役の所へ集まった生徒達は、周りとこれからの訓練について話しているようだ。
そんな中、俺は一人、その場に佇んでいた。
理由はと言えば。
死霊術は専門外だから、と魔法使いの女性に断られてしまったからだ。
魔法職と考えていたがよくよく考えれば、死霊術が魔法の範疇に入るのか曖昧だ。
みんなが師を得て強くなっていく中、俺だけ独学で鍛えていくというのも悲しい。
やはり、今からでも他の所に頭を下げて入れてもらうべきか……。
定まらない意思を持て余していた俺の耳に、何やら慌ただしく走る音が聞こえた。
ドタドタドタドタ!
その音は、どんどんこちらへ近づいてくる。
バァンッ!と、さっき指南役達が入ってきた扉が勢いよく開き、ひどく慌てた様子の女性が駆け込んできた。
――だが駆け込む途中、何もないところですっ転んだ。
びたーんという音が聞こえてきそうなほど勢いよく顔面から倒れ込んだ女性は、少し色褪せた黒のローブのフードを跳ね除けるようにガバッと顔を上げた。
「遅れて申し訳ありません! ちょっと道に迷ってまして……」
揃ってぽかんとしていた俺達の視線が、女性が顔を向けている王様のほうへいく。
同じく呆然としていた王様は、ハッと意識を取り戻し、咳払いをする。
「……彼らに自己紹介を」
「あっ、すみません! まだ名乗ってませんでした!」
慌てて居住まいを正した女性は、こちらへ向き直る。
黒曜のような瞳が、俺たちに向けられる。
「ナディア・クルゼルと申します。職業は――」
見渡すようにみんなを見ていた彼女の瞳と、俺の視線が交錯した。
「――死霊術師です」
目が合ったとき、一瞬彼女が驚いた表情を見せたのが印象的だった。
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