第2話 勇者達のステータス①
「よろしくお願いしますね、異世界の勇者様方?」
「ゆ、勇者……?」
その単語が聞き慣れなかったらしく、女子生徒がオウム返しに呟く。
勇者、か……。
悪戯っぽく微笑む彼女を見ながら、俺は思案する。
勇者といい魔法陣といい、普通ではありえないことが当たり前に存在している。
ミクトラム王国なんて聞いたことがないし、ドッキリにしては手が込み過ぎている。
やはり、ここは異世界で、俺達はあの魔法陣で連れてこられたんだろう。
そう結論づけてから気づく。
俺はゲームやラノベをこよなく愛している。
特にラノベでは異世界に勇者として召喚された場合、大概ラスボスがいる。
だからこそ分かる。この後、王女が言うだろう言葉が。その先に待つ "お願い" が。
悪の限りを尽くし、残虐な行為をする、世界共通の敵。
「さて、本題に入りましょう。勇者様方を召喚した理由は――――」
魔王。
俺は今まで見てきたラノベの中で、一番メジャーな討伐対象を予想する。
形の良い唇が、一瞬だけきつく結ばれる。
「世界に害を為す魔王達とそれらに力を与えた邪神を討伐して欲しいのです」
予想していた言葉の中に想定外の情報が付与されていることに、俺の思考は空転し始める。
魔王達と言ったか?
いやそれよりも、邪神を討伐しろと?
倒せるのか? ただの高校生である俺達に? 無理に決まっている。
彼女はそこで一拍置いて、騒がしくなった俺達をまとめるように、再び話し始める。
「もちろん、常人にそんなことはできません。勇者が勇者たる所以、それは、神々から与えられた権能――――
スキルが存在する異世界ってのはラノベでは定番だ。
神を倒せる程のスキルがある異世界の話はそこまで聞かない気もするが。
「そして
つまりは、皆が得意とすることが邪神を倒せるくらい超強化される、ということか。
これぞ自分の才能だ!といえるものが思いつかない俺はどうなるのだろうか。
強いて言うなら順応力か?
「おい、何言ってるか分かんねーんだよ! 俺達を拐ったのはお前なんだろ、元いた場所に帰せよ!」
「いやぁ……私達を帰してよ……っ」
「ドッキリなんじゃないの……? まさか、本当に……?」
ツンツン頭で目つきの悪い男子生徒が、怒り気味に、ここへ連れて来られた全員が抱いているだろう不信感を代弁する。
それを皮切りに、再び騒がしくなるクラスメイト達。
「貴方は?」
勇者様呼びはこちらを怒らせるだけだと判断したのか、ツンツン頭の生徒の名前を問う。
「俺は
浅野は少し冷静になったのか、彼女に謝罪する。
「いえ、浅野様が悪いのではありません。謝るべきなのはむしろ――」
彼女は苦悶と苦渋に満ちた表情をするが、数瞬のうちにそれを隠すと、どこかぎこちない微笑をつくり、何かを言いかけた自分の言葉を打ち切る。
「……私は『召喚』する魔法は使えますが、『送還』する魔法は知りません」
再び怒鳴ろうとする浅野を制すように、彼女は「しかし、」と言葉を繋げる。
「私が知らないだけで、『送還』の魔法自体は存在します」
浅野もとりあえず最後まで聞くことにしたらしく、険しい顔のまま腕を組む。
「魔王……いえ、邪神が『送還』の術式を知っています」
「その根拠は?」
最後まで聞くつもりだった浅野だが、本当に邪神が持っているのか疑わしいらしく、彼女の言葉に口を挟んだ。
「過去に邪神を討伐した勇者が『送還』の魔法で元の世界へ帰ったという記録があります」
その記録は本当に正しいのか?
そう思っている生徒も少なくないだろう。だが、否定すれば、その細い糸のような希望すらなくなってしまう。
だから誰もそれを言わない。言い出せない。
疑念から目を逸らすしかないのだ。
とりあえず皆が納得した表情を見せると、彼女は話を前向きなものへ変える。
「さて、皆様には自分の能力を確認してもらいたいと思います」
「確認って、どうやんだよ?」
浅野が疑問を投げかける。
どうやらみんなはクラスの代弁者を彼にしたらしい。
「召喚された勇者全員が『
心の中で念じてみる。
思いっきりスキル名を叫んでいる奴もいるが、周りに白い目で見られている。俺も、ちょっとやってみようかな、と思っていたから危なかった。
目の前に半透明のウインドウが出現する。
驚く生徒を横目で見たが、その生徒の前には何もない。
自分にしか見えないのか。
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【
レベル1
HP:50/50
MP:1200/1200
スキル
魔力操作、魔力感知、死霊術、霊視、呪術、召喚魔法、降霊術、闇魔法、剣術、
「死霊術の極致」
称号
異世界人 勇者 尽きぬ魔力塊
====================
最初に目につくのは異常な数値のMPだ。
反面、HPの数値はとても低い。
MPと比較しては駄目なのかもしれないが。
ざっと見ると、死霊術関係が多い。死霊術に才能があったということだろうが、あまり嬉しくない。
剣術がスキルにあるのは、澪の家が道場をやっている関係で小さい頃少しだけ剣道をしていたからだろうか。まあ、長続きはしなかったが。
なぜ言葉が通じているのか疑問だったが、「言語理解」スキルがあることで、その疑問は解消された。
称号の"尽きぬ魔力塊"ってのは、MPが異常に多いせいだろうか。
……言い方に若干の棘がある気がする。
ステータスを見て分かるのは俺が魔法職だということだ。
MPを使うのであれば、死霊術は魔法の範疇に入るだろう。
「皆様、能力の確認はできたでしょうか?」
みんなが確認を終え、落ち着きだした頃を見計らって、王女が話し始める。
「まず、レベルとは強さの指標です。レベルが上がると、HPとMPの最大値が上昇し、身体能力も向上します」
ステータスには表示されていないが、筋力、敏捷などのパラメータもあるということか。
「あのう、職業って変えられます?」
唐突に、五十嵐先生が、こめかみを押さえながら王女に問う。
「何か職業に問題でも?」
「いや、問題というか、その……」
どこか煮えきらない様子の先生は、言葉を濁す。
「皆様に見せてもよろしいのであれば、『
先生の前に半透明なウインドウが出現する。
そこに書かれていたのは……
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【
レベル1
HP:120/120
MP:40/40
スキル
身体強化、投擲、強化魔法、魔力操作、気配感知、格闘術、
「
「身体超強化」
====================
五十嵐先生マジKOEEE!!!
俺、
「なんで私は
何かを思い出したのか、どんよりとした目で落ち込みだす五十嵐先生。
「ええっと、神から与えられた
少し言いづらそうに、王女は残酷な事実を伝える。
それを聞いて目のどんより度がさらに上がる先生。
……哀れだ。
「で、でも『天職』は神から与えられる特殊な
王女は、落ち込む先生を元気づけようと、殊更に明るく接する。
「ふ、ふふふ。やり直そうとしたって、どうせこの
わざわざ部屋の隅まで歩いていき、腰を降ろす。そのまま体育座りへと移行し、膝を抱えて顔をうずめる。
その後に聞こえてくる、しくしくという泣き声。
……憐れだ。
「さ、さて、皆様。これから一人ずつステータスを見せてもらいます。これはパーティを組む時の参考にしますので、拒否はなるべくないようにお願いします」
とりあえず放置することにしたのか、彼女は大きく脱線していた話を戻す。
それにしても、ステータスを見せないといけないのか……。
先生の一件で忘れていたが、この突出したMPはやはり異常なのだろうか。
魔法職の比較対象がいないと判断のしようがないな……。
「まず私のステータスを見てください。一般人がどの程度か分からないでしょうから」
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【セレティア・フレイス・ミクトラン】 人間族 女 16歳
レベル5
HP:40/40
MP:10/10
スキル
護身術、恐怖耐性、調理、生活魔法、
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「『自己鑑定』スキルは勇者ではない人も持っているんですね」
眼鏡をかけた神経質そうな男子生徒が、王女に話しかける。
「はい。といってもこのスキルは本来、異世界から来た勇者だけが持っているのですが、スキルは遺伝することがあるので、勇者の血を引いている我々王族にも『自己鑑定』スキル持ちが生まれるのでしょう」
その王族と結婚した過去の勇者はこちらで骨をうずめることにしたのだろうか。
それとも――――
「では、どなたからでも構いません。ステータスを見せてください」
浅野が前に出る。
「まずは俺からだ!」
空中にステータスが投影される。
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【
レベル1
HP:150/150
MP:30/30
スキル
剣術、盾術、回復魔法、光魔法、補助魔法、
「盾の才能」
「
====================
先生のインパクトが強すぎてあまり驚きはないが、『限界突破』という主人公のような固有スキルを持っている。
浅野のステータスを見て気づいたが、相手に見せるときは称号が表示されないらしい。
「レベル1でこのステータスとは……、素晴らしいです」
「へへっ、どんなもんよ!」
金髪美少女に褒められて照れたのか、鼻の下をこする浅野。
前衛職と後衛職のステータスを、浅野と俺の職業を基準にして考えると、HPは三倍の開きがある。
他の魔法職のステータスを見ていないから決めつけることはできないが、よくあるゲームのように、おそらく魔法職は打たれ弱く、自身を守ってくれる前衛がいないとまともに戦えない。
他の魔法職と比べて、俺のMPがどの程度の量なのか知っておきたい。案外、一般的な量なのかも知れないしな。
浅野の番が終わると、さっき王女と話していた眼鏡をかけた男子生徒が前に出る。
「次は、僕が見せますよ」
彼の前に表示されるステータス。
俺はそれを見て、驚愕した。
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