第1章 異世界召喚

第1話 召喚された勇者達

 闇の中から意識が浮上する。

 もやがかかっているように、考えがまとまらない。

 それを頭を振ることで追い払う。


「ッ! そうだ、澪は!?」


 直前まで近くにいたからか、手を繋いでいたからかは分からないが、彼女はすぐ傍で倒れていた。意識はまだ戻っていないらしい。


 一安心した俺はようやく周りに目を向ける余裕ができた。


 周りを見ると、閃光に包まれる直前まで教室にいた生徒達が意識なく倒れていた。


 中にはすでに起きている生徒もいて、俺と同じようにこの状況に混乱しているようだ。


「起きたみたいだね、悠介」


 座ったままの俺の傍に、俺より先に起きていたらしい伊月が歩み寄ってきた。


「正直、まだ寝起きみたいな感じだ」


 俺はそう返した後、差し出された手を掴み立ち上がる。


「それは授業で寝てたからでしょ?」


 そう言って彼は少しだけ笑う。

 何にせよ、伊月がいてくれて助かった。

 話をすれば溢れ出る不安を少しだけ忘れられる。


「伊月、いまどういう状況か分かるか?」


 伊月は申し訳無さそうな顔をした。


「ごめん、僕もまだ分かってないんだ」


 俺達が倒れていた床は赤いカーペットが敷かれている。

 頭を上げると、ここが広く、大きな部屋の中だとわかる。

 辺りを見渡していた俺の目に玉座のようなものが映る。

 それはアニメやゲームで見た、王の玉座にそっくりで――――



 まるで、異世界に来たみたいだ。



 その考えが浮かび、ぞっとする。

 ありえないと無意識に押し込めていたソレが、現実という刃で俺の常識を否定する。

 まさか、本当に……?


「……うぅ……ゆうすけ……?」


 隣で倒れていた澪が目を覚ます。

 周りで倒れていた生徒達も徐々に目を覚まし始める。

 そして、気づいてしまうのだ。

 俺達の日常は戻ってこないのだと。

 平穏は終わりを迎えたのだと。




「あの、そろそろよろしいでしょうか?」


 控えめだが、凛とした力強さのある声が俺達の耳に届く。


 導かれるように声の方向へ顔を向ける。

 まず最初に目に映ったのは、輝くような金髪と白磁のような傷一つない肌。

 俺たちと同じくらいの歳だろうか、その顔立ちは非常に整っていて、澪に勝るとも劣らない美少女だ。


「質問で返してしまい申し訳無いのですが、私達はどこにいるのでしょうか?」


 クラスを代表して、五十嵐先生が疑問を投げかける。

 それはみんな気になっていることだろう。

 既に俺と同じ考えに辿り着いて小躍りしている奴もいるが。


 金髪の少女は凛とした雰囲気を崩さず、玉座へ向けて歩き出す。

 

 さっきまでは誰もいなかったはずの玉座にはいつの間にか、王冠を頭に乗せた痩身の男が座っていた。


 少女は玉座の傍まで歩いた後、立ち止まり、こちらへ向きなおると、スカートの端を摘み、膝を曲げながら深々と頭を下げる。


「ミクトラム王国現国王、マルスオン・フレイス・ミクトランが娘、セレティア・フレイス・ミクトランでございます」


 セレティア王女は、下げていた頭を上げ、悪戯っぽく微笑む。


「よろしくお願いしますね、異世界の勇者様方?」

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