第4話 因縁の男

 ボヨヨンバブルなどという魔法の効果が切れるまで、私は恥辱を味わった。こんな下らん魔法を編み出したのは、どこのどいつだ。


「とても面白い映像が撮れました」といいながら、にっこりと笑う年増女神。

「とっとと削除しろ」

 浮かれた女神に私は言う。

「生憎ですがこれは、心が疲れた時に皆で鑑賞するため、大事に残しておきます。それが嫌なら、もう二度と、おかしな気は起こさないことです。いいですね?」

 私は女神の言葉を黙止した。

「もう一度魔法を使いますか?」女神が私を挑発する。

「私の魔法はどうなったのだ?」

 私は女神の言葉を更に無視し質問に質問で返した。


 炎系の魔法を発動したはずが、バラの魔法になり、無属性の攻撃魔法はボヨヨンバブルなどというふざけた魔法に変わった。

 私には、それが不思議でならん。


「いいでしょう」女神が頷く。「あなたに魔力を授ける、というのは大変危険な行為です。ですので、もしもの時のために、二つの防御策を考案しました」

「ふたつ?」

「ひとつは、魔法のランダム化です。たとえ落ちぶれた魔王といえども、あなたの魔法を封じることは、容易ではありません。そこで、あなたの魔法が、あなたの意図とは異なるように魔法を掛けました」

「その魔法とは」私は女神に疑問を投げかけた。

「混乱系の魔法とだけ言っておきましょう。それが解ければ、あなたは今まで通り魔法が使えるようになるでしょう」


 どうやら私は、不覚にも魔法にかけられたらしい。魔力を失っていたとは言え、不甲斐ない。


「して、二つ目は?」私は、落ち込むのをやめ、女神に話しの続きを促した。

「これから同行する人物です。もしもあなたが魔法を取り戻したとしても、魔王殿に対抗できる唯一の人物です。ここまで明かしてしまえば、もうどなたかお分かりですね」


 私が本来の力を取り戻した時、私と対等に渡り合える人物。そんなやつはこの世に一人しか存在しない。


「お入りなさい!」

 女神が声を張り上げる。それに呼応するように謁見の間の扉がゆっくりと開き始める。そして、扉の奥に、人影が現れた。

 その男は、ゆっくりと歩きながら、私の横を通り過ぎていった。金髪で色白の美男子。馴染み深いというよりは、因縁深いと表現したほうが違和感がない。

 私と同じ水色の作業着に身を包んだそやつは、女神の横に立ち、私に目を合わせた。

「さっきのボヨヨンバブルは見物みものでしたね」爽やかな声が謁見の間を支配する。

 私は、その男を突き刺すように睨みつけた。

「そんなに怖い顔をしないで下さい。僕は、これから一緒に暮らす仕事仲間ですよ」といい、勇者は微笑みを振りまく。

「これはどういうことだ」私は女神を睨みながら、声を上げた。

「どうもこうも、ご覧の通り、あなたが戦って敗れた勇者様です」

「そういうことではない」

「これから一緒に頑張ろう」と声を掛けてくる勇者。

 呆れてものが言えない私は、その場でうなだれた。


 この私が、勇者と魔力配達に従事するだと?


「積もる話もあるでしょうが、まずは、サレスへ向かって下さい」女神は話を切り上げようとする。「勇者様、ふつつかな魔王殿をよろしくお願いします」

「お任せください女神様」

「待て! 話はまだ終わっていない!」

 私は声を荒げながら女神に歩み寄る。

 すると、私のすぐそばに勇者が突如として現れ、私の腕を掴む。

 勇者お得意のとき魔法か。

「さあ行こう!」爽やかな一言と共に、私をあり得ない力で引っ張る勇者。

「貴様」と叫ぶ私の声も虚しく、全く抵抗できない私は、成す術なく、ただただ勇者に引きずられるしかなかった。

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