検察 被告人に初めて会ったのはどこですか?


イヌ どこって言っても、そのへんの道端だよ。


検察 被告人からあなたに、声を掛けてきたんですね?


イヌ うん。


検察 なんと?


イヌ 鬼ヶ島はどこだって聞いてきて。どこだって言われても、海の向こうなんだから説明しようがねえだろと言ったら、鬼ヶ島にいちばん近い浜辺まで案内してくれ、と。


検察 で、案内したんですか?


イヌ いや、めんどくせえから嫌だっつったんだよ。そしたら、きびだんごをくれるって言うから、案内してやった。


検察 きびだんごを貰えなかったら、案内してなかった?


イヌ うん。


検察 あなたは、被告人が鬼ヶ島に行って何をするか、その目的は聞いていましたか?


イヌ いや、聞いてないよ。


検察 もし被告人が鬼退治をするために鬼ヶ島へ行こうとしていたと知っていたら、案内しましたか?


イヌ さあ、どうだろうね。鬼のやつらがやっかいなのは間違いないから、きっとしたんじゃないかな。


検察 あなたも鬼が嫌いですか?


イヌ 当たり前じゃねえか、そんなの。鬼が好きなやつなんかいるかよ。




検察 あなたが、被告人を浜辺から鬼ヶ島に運んだんですね?


サル そうです。


検察 どうやって?


サル 私は漁船を持ってたから、それで向こう岸まで連れて行ってくれと言われまして。


検察 なぜ被告人に協力しようと思ったんですか?


サル だって、きびだんごが欲しかったから……。


検察 あなたは被告人の目的を知っていましたか?


サル 船の中で聞きました。


検察 止めようとは思わなかったんですか?


サル 冗談だと思ってたから……。きっと鬼ヶ島に知人か親戚がいて、ただ単に会いに行くんだと思ってました。


検察 鬼ヶ島に渡りたいという人は、たくさんいますか?


サル さあ……たまに、今回みたいに連れてってくれという人はいるけど、そんなに多くはないんじゃないですかねぇ。


検察 被告人は鬼を殺害したのは正義だと言っていました。あなたもそう思いますか?


サル どうでしょう。鬼に苦しめられている人がたくさんいるのは事実ですし……、私には判断できません。


検察 もしきびだんごを貰えなかった場合は、被告人に協力しましたか?


サル するわけないですよ。わざわざそんなの。あくまでも、取り引きです。




検察 被告人に凶器となるナイフその他を提供したのはあなたで間違いないですね?


キジ はい、その通りです。


検察 凶器は無償で譲渡したんですか?


キジ いえ、被告人からきびだんごと交換してくれと持ち掛けられました。


検察 あなたは殺人幇助の疑いで警察の取り調べを受けましたね。被告人が凶器となるナイフを何に使うかは知っていましたか?


キジ いいえ。警察にもそのことを疑われて、殺人ほう助をしたのではないかとさんざん言われましたが、誓っていいます、知りませんでした。


検察 あなたが被告人に提供したナイフは刃渡り30センチもあるサバイバルナイフです。殺傷能力はじゅうぶんあります。そんなナイフを、被告人はどのように利用すると思ったんですか?


キジ それについてはまったく考えていませんでした。きびだんごが欲しかったから、交換に応じただけです。


検察 もう一度問いますが、あなたは被告人が鬼ヶ島に何をしに行くか、本当に知らなかったんですね?


キジ はい。


検察 知っていたら、ナイフときびだんごの交換に応じましたか?


キジ しなかったと思います。


検察 なぜですか?


キジ だって、交換してたら殺人ほう助で私も逮捕されていたわけでしょう?


検察 被告人の犯行については、どう思っていますか?


キジ よくやってくれたと思います。鬼なんか、この世から一匹残さず消し去るべきです。


検察 なぜそう思う?


キジ 当たり前じゃないですか。あいつらのせいで私たちは苦しめられてるんです。もう、あんなやつらに好き放題させておく余裕は、私たちにはないはずです。


検察 先ほどのイヌさんサルさんも、きびだんごが欲しかったから被告人に協力したと言っていました。きびだんごとは、そんなに魅力的なものですか?


キジ いや……まあ正直そんなに欲しいというものではないですが、タダで人のために働く動機はないでしょう。もらえないよりもらえたほうがいいに決まってます。世の中って、そういうもんでしょう?

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