第19話壁を打ち壊せ!

 俺は教室を出て闇雲に校舎中を探す。

 ホームルーム中のクラスもあって時々注目を集めていたが、そんなことは気にも止めず、ただひたすらに探し回った。ただ、こんなに走り回っていても璃久も真理愛も見かけないのはおかしいなと思った。


 俺は足元を止めて、窓から空を見る。

 やはり、太陽が顔を見せそうな様子はなく、朝よりも分厚い雲が空を覆っていた。


 俺は璃久に連絡をかけようと自分の手元に視線を下に向ける。


 ......あれ。


 俺は目線を下ろした時に違和感を感じた。

 そしてもう一度、顔を上げる。

 体育館の脇に真理愛が座っているのが見えた。

 俺はスマホをポケットにしまって、階段を降りる。体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下を渡り、ゆっくりと真理愛の隣に腰を下ろす。

 その地面は酷く濡れていて、冷たさと不快感が込み上げてくる。

 俺は汗をかいた時のために持ってきていたタオルを真理愛の頭から被せる。

 一瞬こっちを向いた時に見えた表情は暗く、悲しそうだった。


 俺が隣に座ってから一分程無言の時間を過ごす。


「......白間君にキスされちゃった」


 比喩的な意味ではないだろう。

 多分あの舞台上でされたものだ。

 その声は璃久に対する申し訳なさからなのか、自分の事を考えてないような冷たさを含んでいる気がする。


「あの後、白間君に告白されたの。私は断ったけどね。りっくんの事が好きだから」


「.............」


 俺は何も喋らずに真理愛の言葉を待つ。


「これから話すことに颯くんは絶対に責任感を感じないでね.......」


 なんの事だろう。俺は頭をひねるが分からない。でも、俺が招いたしまったことなのだろうとは思った。


「私は、寝顔の件で説得しに行った時に白間君が居なくなると困るって言ったの。それで白間くんは勘違いしちゃってそうなっちゃったの」


 そう言ってこちらを見る真理愛の顔は力のこもっていない表情で、とても無機質なものだった。

 こんな表情をさせたくなかった。

 血の味がする。唇を無意識に噛み切っていた。

 俺が王子様をやってれば......

 何故俺はやらなかったんだ。


「りっくんに合わせる顔がないよ......」


 あいつは何をしているんだ。

 なぜ来ない。ここで真理愛を立ち直らせることが出来るのはお前だけなのに......

 俺には多分できない。

 俺が出来るのは璃久を連れてくることだけ。


「ごめん真理愛、待ってて」


 俺は初めて真理愛を名前呼びしていた事にも気づかずに走り出す。

 まるで、誰も走っている様子がなかったんだ。

 璃久がいるのは多分そんなに特別な所じゃない。

 守りたい所だ。あいつが一番居て楽しかった所。


 そんなの教室以外ある訳ないだろ。


「やっぱりな、お前ならここにいると思ったよ」


 璃久はこっちに視線を向けることもせずにじっと下を向いている。


「でも、なんでここにいるんだよ......」


 多分璃久は真理愛がキスをされた事に気づいていた。だから何もしていないし、何もしなかった。


 俺はそれが許せなかった。


 俺は璃久の胸ぐらを掴む。


「早く行けよ」


 これまでに出したことのないようなドスの効いた声がでる。


「俺が行ったところで何が変わるんだよ」


 お前しか変えられないんだよ。なぜそれに気づいてあげられないんだ。


「変えられないなんて言ってんじゃねぇよ。変えて見せろよ」


「何にも変えれねぇお前が何言ってんだよ。むしろこの結末を作ったのはお前だろ」


 璃久は全部分かって言っているんだ。

 多分白間と真理愛の話を聞いてしまったから。真理愛がキスされたことにも唯一気がついた。


「そうだ。俺は何も変えれねぇけど、お前は変えれるだろ少なくともこの状況は」


 身勝手なのは自覚していた。けどもう一つ気がつかせられた。

 ――俺は璃久に頼りすぎていたんだ。

 自分一人じゃ何にもできない。俺は無力なんだ。

 だから俺は無理やりでも俺が璃久の気持ちを変えてやるしかない。

 こう思えるようになったきっかけをくれたのは白間だ。多分今までの俺だったら真理愛に話しかける前に璃久を呼ぶ。そんな人任せしかできないだろう。

 だからもう一歩。『壁』を打ち壊すんだ。


「そんなの勝手すぎんだよ」


「勝手でもなんでもいいよ。でも、今困ってんのはお前の彼女だろ!お前が助けなくてどうすんだよ!」


 俺が声を荒らげるとクラスに残っている生徒が何人がビクッとした反応を見せる。


「『すごかったよ』の一言くらい、言ってやれよ......」


 そして俺は彼女真理愛が今一番欲する人に向かって言った。


「あいつは今一番お前に言って欲しいに決まってんだろ!」


 璃久は驚くような顔もせず、無表情に近い顔をしていた。でも、少し口の端は浮いているように見えた。


「そうか、親友はやてに言われるんなら、それが正しいのかもな」


 そう言って璃久は俺の隣を通り過ぎようとする。


「体育館の脇にいる」


 璃久は「分かった」とだけ伝えて走っていった。

 俺は若干雰囲気の悪くなった今日に謝って荷物をまとめて教室を出た。

 後ろから俺を追いかけて来るような足音がする。


「颯くん、一緒に帰ろ」


「いいよ、桜」


 俺はまた一歩進めたかな。

 気が進まないけど、白間には感謝しないとな。

 あの演劇は間違いなく俺の事を変えるに到ったきっかけだ。

 それで一歩踏み出せた。

 そして今日俺はもう一歩踏み出そうと思う。


「桜、俺と付き合ってくれないかな」


 ――――――――――――――――――――――――

 これにて二章完結です!

 正直に言うと最後まで告白させるつもりはなかったんですが、こうすべきかと思いこうなりました!

 レビューや、フォローしてくれると嬉しいです!

 今後は異世界の方を中心的に進めていきたいので更新頻度落ちます。ご了承ください......

(書きたくなって、変わらない可能性もあります)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼の心を救うのはあの彼女です! らららんど @raraland

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ