第18話消失と祝福
「さくら?もう気にしなくていいって」
「いえ、私が気にして仕方ないので......」
桜は俺の指を加えてしまったことに帰ってきてからもずっと羞恥を感じているようて縮こまっている。
「時間もいいとこだしお昼ご飯食べよーぜ」
璃久がそうい言うと各々自分の席に一度戻り弁当を持ってくる。
時間はそろそろ一時になるといった時で普段の日課と変わらないくらいの時間帯だ。
だから、この時間は結構クラスに入り浸ってご飯を食べてる人もかなり多い。
「あ〜なんか緊張してきたなぁ」
璃久はほんとに緊張してそうな感じの表情をしていて、顔を強ばらせている。
「お前が緊張してどうするんだよ」
「いや、真理愛が心配でさ〜もう、失敗しないか怖くて仕方ないよ」
「もし失敗してもお前が慰めてやればいいだろ」
「それもそうだなっ!」
心底バカップルだなと思う。思わせられる。
俺もこんな事言ってみたいなと思ってしまった。
そのくらい今の璃久は輝いて見えたし、かっこよかった。
そんなことは絶対璃久には伝えないし調子に乗られても俺が困る。
それからは四人でくだらない雑談をしながらお昼ご飯を食べた。
――――――――――――――――――――
「客の入り凄いな......」
「最後の方とはいえ、ここまで入るとはね......」
俺達は隙間のほとんどない体育館を見てそんなことを呟く。
俺達のクラスの後にもう一クラスが控えていて、それで二日間に渡る文化祭は終わりを迎える。
俺達生徒には後夜祭が残ってはいるが一般客が混ざっているものだともう終わりだと言っていいだろう。
客足はどんどん減っている印象だし、生徒たちはほとんどの店を二日間ずっとかけて見るなんてこともないだろう。
だから、体育館に人が集中しやすくなる。
「さすがにここまで来るとは思ってなかったな〜」
璃久は呑気そうに言い放つが表情はやはり硬い。まだまだ、体育館に人は入ってくる。
人手を伝って噂広がって言ったのだろう。
まだ、開演十分前なのに昨日の二倍近くの人が入っている。
俺も照明とはいえ、とても緊張しているし、手が汗ばんでいる。
自分の手を頬に当てて見るとそれはとても冷たかった。
そして、程なくしてブザーの音が鳴る。
この会場に誰もが息を呑む。
そして幕が開く。
王妃。
白雪姫。
狩人。
王子様。
そして七人の小人たち
彼らはこの学校で誰よりも美しい。
そう思えた。
昨日とは比にならない。
そう思わせる程の演技。
会場の誰もが呼吸をするのを忘れて舞台に視線を寄せる。
「ああ、俺じゃなくて良かったんだな......あいつでよかった。」
ここまで成功に導いてくれた白間に感謝しよう。
俺は少し嫉妬しているんだろう。
自分でできると思っていた事が他人にもできる。
ましてや、自分を超えてくるのだから。
俺はその事実にやっと目を向けることが出来たんだろう。
俺は自分に甘えていただけなんだと。
自分を甘やかしていたんだと。
それを白間が気づかせてくれた。
俺の代役に甘えず自分自身の力でここまでこの作品を持ち上げた。彼の実力と努力による結晶だ。
王子様が出ている時間というものはあまり長いというわけではないが彼は自分から他人に絡み注意点などを言い合って高めていた。
俺には出来ないな......
「ははっ」
乾いた笑い声が俺の鼓膜を揺さぶる。
これは自分に対しての嘲笑だ。
ラストシーンこれで俺が、一つ上に上がるためのきっかけが出来た。
......ありがとう
皆が息を呑む最後のワンシーン王子様は観客に対して背を向ける。
そしてマントで隠すようにして口づけをする。
白雪姫は起き上がり、小人たちの喜びと共に幕がゆっくりと締まり、体育館は拍手と歓声に包まれる。
キャストが皆前に出てくる。
皆、清々しいいい笑顔を浮かべている。
ように見えた......
俺達は教室に戻る。
次の演目を見るためにまだ体育館に残っている人が半分ほどいる。
「あぁ、雨降ってきちゃったな」
璃久が呟く。
「お前、相馬さんに『すごかったよ』くらい言ってやれよ」
「あいつは今は仲間たちと喜びを分かち合いたいだろう」
「はあ、まぁ戻ってきたら言ってやれよ」
「分かったよ」
真理愛は戻ってこなかった。
先生は体調を崩した真理愛を保健室にいかせたらしい。
主役がいない締めというものはまた異質なものだったが、キャストが感想などを述べてそれに皆が呼応する。
美浜さんが総括して終わりとなった。
「璃久、迎えに行ったらどうだ?」
璃久はそうだなと俺に言い放ち、席を立って階段の方へ向かっていった。
初の文化祭も終わり、俺の前のぽっかり空いた席を見て寂寥感がしている。
いつもだったら璃久がいないくらい何ともないんだけどな。
すると、俺の耳に無機質な着信音が届く。
「もしもし、どうした、璃久」
「真理愛は保健室にいなかったよ......」
あいつの声はどこか落ち着いていて、あいつらしくなかった。
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