第12話代用品

「照明!ここしっかり当てて!」


 俺は叱責されていた。

 俺は照明係を担うこととなっている。

 当てられる方はモデルの仕事でよくあるのだが、当てる方となるとまた気分が変わって新鮮な感じに浸っていた。

 俺はごめんなさいと告げ気持ちを戻す。まだ、文化祭本番までは二日間あるが運よく体育館を取れたんだとか。

 体育館でやるのは初めてで、本番、この体育館がいっぱいになるのかと考えると実感が沸かなかった。

 すると、隣から煽るような声が入ってくる。


「おいおい、颯さんや集中してくれんと困りますなぁ」


「その口調やめろ、璃久。ムカつく」


 璃久はそんな軽口を叩きながらもしっかりと手元を動かしている。

 何かと器用なやつなのだ。頭は悪いけど。

 真理愛は舞台上で演技というか、今は死んでいる。正確には寝ているだが。

 桜は音響をしているらしい。

 舞台上を見てみると小人の中に一人だけ飛び抜けて背が高いやつがいる。

 石橋だ。

 今日は小人役の一人が学校を休んでいて、代役をしているのだとか。絶対配役ミスってるだろ。

 本番では違う人がやるのでいいのだが、なんなら王子様より存在感が出でいた。

 とりあえず一通り終えると真理愛は王子様役の白間郁斗と仲の良さそうに話している。

 隣で璃久がゔぅと唸っているが、あのバカップルっぷりならそうそう離れることは無いだろう。


「なんだ?璃久。嫉妬か?独占欲強いやつは嫌われるかもな」


「颯......冗談でも言っていい事と悪い事があるんだぜ?」


 これは俺の方に非があるのでちゃんと謝っておく。


「悪かったって。お前らは仲睦まじいバカップルだよ」


「バカップルっで言うなぁ!」


 璃久が追いかけて来る。俺は急いで逃げるなりしていると


「お前らうるさぁぁい!」


 と言われ監督兼脚本の美浜さんに怒られてしまった。

 俺たちは持ち場に戻ってお互いの愚痴を言い合っていた。


「颯、お前が悪いんだからな。俺たちは至って普通のカップルだ」


「いや、お前が自覚ない方が悪い、お前めちゃめちゃ相馬さんの事甘やかしてるからな?あれをバカップルと言わずしてなんというんだよ」


「それは、颯のバカップルに対する基準が低いだけで、みんな的には普通じゃないか?」


「そのみんなが璃久と相馬さんが付き合っているということを知らないんだけどな」


 二人の事はあまり広まっておらず知っててもクラスの女子の一部とかだけなのだ。

 璃久の方は知られても問題ないらしいが真理愛が部活で色々と聞かれるのが嫌らしい。

 俺ももし彼女ができたとして部活のメンバーに聞かれるのは嫌だからな。

 ん?琉唯るい?あいつは知らん。

 俺たちは二回通して体育館を使える時間は終わりとなった。

 後、体育館を使えるのは明日のリハーサルの一回だけだ。

 真理愛や白間もセリフはしっかりと覚えていたし、本番で抜けるような事がなければ大丈夫だろう。

 教室に戻ると友達と駄弁っていたり演技の練習をしていたりしていて体育館でのピリッとした空気はなくなっていた。

 俺と璃久に関してはピリッとした空気を読まずに軽口を叩きあっていたが......

 そんな璃久は真理愛のところへ行って褒めちぎっているようだ。真理愛が困惑を隠せていない。璃久もいなければ桜も友達と話していて俺がぼっち状態の時に小人役の巨人もとい石橋が声をかけてきた。


「よぉ、颯!俺の演技どーだった?」


「演技というか存在自体が浮いてた」


 思っていた感想をそのまま告げると石橋は首を傾げている。


「お前身長高すぎて小人に見えねぇってことだよ」


 そう言うと石橋は納得したように手を叩きおぉ〜と声を上げている。

 何が彼をおぉ〜と言わせるに至ったのかは分からないが自分があの中に混ざっても大丈夫だと思ってるあたり石橋は天然なんだろうなと思った。

 石橋はまた他の所へ行き俺はまた一人ぼっちになった。

 すると、突然瞼が重くなってきた。

 最近は部活に加えて、家での勉強時間も増やしているので、寝る時間が短くなっている。朝練も出ているので朝は六時ちょうどくらいにに起きないと間に合わない。普段と違う生活習慣になってきて体が着いてこなかったんだろう。颯は眠気に抗えず教室の隅で瞼をそのまま閉じた。



 ふと、目を覚ます。

 結局寝てしまったんだなと思い時間を見てみると三十分くらいしか立っていなかった。

 少し尻が痛いが疲れはかなり取れている感じがした。

 ふと隣に目をやれば璃久がスマホのゲームをしていた。

 璃久も俺の視線に気づきこぅちに視線を向けた。


「颯、お前大変だな......」


 俺がどういう事か分からず素直に聞き返した。


「どういう事だ?」


 璃久は言うかどうか思案して、確認を取ってきた。


「なあ、颯。気を悪くしないっていうなら言うけど多分知らない方がいいぜ」


「璃久が俺になんかしたのか?てか、それしか考えられないんだけど」


 そう思い。俺は携帯のカメラを立ち上げてインカメにしてから自分の顔に落書きなどがないことを確認する。

 他にも特に問題はなかったので、言うほど悪い事ではないだろうと思っていた。


「いいよ、聞かせてよ」


 璃久は一息ついて鳥のマークが目印のSNSを開く。

 俺はその画面を見て驚愕した。

 俺の寝顔が白間のアカウントで上げられていたのだ。

 しかも白間は白雪姫の王子様役に抜擢されるくらいの人気はあり、SNSのフォロワー数も千を超えていた。

 しかもリツイート数といいね数がどんどん増えている。


「なんで、こんな事になってんだよ」


「すまん。俺が真理愛と話してお前がうたた寝してる時に取られちまったっぽい」


 璃久に非はないので璃久を責めるような事はしない。俺でよかったとも思った。マイナーな層に対してだがモデルとして世間に顔を出しているから。だけど寝顔を取られていい気分になるはずもなくましてや許可なしにSNSにあげるなど言語道断だ。


「なんで、こんな事をするんだ......」


 すると、近くいた真理愛が寄ってきた。

 既に事情は察しているようで白間がこんな事した理由も検討は着いているみたいだ。


「多分だけど、キャスト決めの時の事が大きいんじゃないかな」


 俺は一応察しが着いたが、誤解のないように真理愛が思っている事を最後まで聞いておく。


「キャスト決めの時王子様役に颯くんが推薦されたじゃない?でも颯くんはそれを断って次に白間くんに白羽の矢が立って颯くんの代用品みたいに言われるのが嫌だったんじゃないかなぁ」


 俺と同じ結論に真理愛も至っていた。


「それじゃあ、俺から言っても逆効果っぽいよね。相馬さん、悪いんだけど説得お願いしていい?」


「もちろん!」



 真理愛は十分もせずに直ぐに戻ってきた。

 ピースサインを満面の笑みで向けられたので、俺も出来るだけの笑顔でピースを返した。

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