第13話リハーサルと彼の信念

 リハーサルともなれば舞台の上からはひしひしとした緊張感が伝わってくる。

 カーテンは締め切り、指す光はごく僅かな日の光と照明の光だけで体育館自体の照明は全部消されている。

 本番と違うのは観客がいるかいないかだけだ。

 クラスメイトが観客席の方から見ているが彼らには色んな失敗を見られているから あまり緊張することはないのだろう。

 故に本番ではどうなるか、わからない。

 もしかしたら大失敗に終わるかもしれない。

 誰かが大観衆の前で大恥を書くことになるかもしれない。

 でも、そんなプレッシャーを跳ね除けて大成功でもした時にはそれはものすごい達成感に包まれるだろう。

 後から友達にはよかったねともて囃されて、クラスでも特別扱いを受けることが出来る。

 俺は舞台の上の人にはそうなって欲しいと思う。

 上から目線だと思われるかもしれない。

 大役を断った癖にって。

 それで彼に白羽の矢が立ったのだから彼でよかったって思われるような演技をして彼の方が適任だったと思ってもらいたい。


 これは自分を納得させるための詭弁なのだ。

 結局のところ俺は人任せだ。

 皆の前に立って何かをするって事ができない。というよりかは新しい事に挑戦出来ない。する勇気がないのだ。

 俺がもしあの時に断らず舞台に立っていたらどうなっていただろうか。そんなことを考えたって仕方がない。あくまでそれはIFであって現実では起こり得ないものだ。

 そう自分に言い聞かせて舞台を見る。


 舞台上では皆生き生きとした表情をして舞っていた。

 一つ一つの動作がその人の感情を表すようで魔女の怒りの感情だったり、小人たちの歓喜した表情が全面に押し出されていた。

 白間も例外ではなく、血の滲む努力を重ねたのだろう。

 もし俺と真理愛の推測が当たっていたとしても代役に甘えるような彼じゃなかったみたいだ。自分が決めたことはしっかりとやり通すといった信念が見える気がする。

 俺はそんな彼に憧れてしまったのかもしれない。

 確かに寝顔を撮られて嫌な気持ちにもなった。

 けど、今の彼を見ているとそんなことはどうでもよくなってくる。間違いなくこの中の誰よりも努力していると思えた。

 そして、俺はもし失敗しても俺が誰にも責めさせない。そう心に決めた。

 これは白間のようになるための第一歩だ。

 自分で決めたことは突き通す。彼はそんなことを思っていないかもしれないけど、少なくとも俺の目にはそう映った。だから勝手に俺は起こらないかもしれない未来を想像する。他人に押し付けた自分を卑下してでも彼を、彼らを批判から守ると。


 舞台が終わり暗転する。すると、クラスメイトからの拍手が鳴り響いた。皆、浮かれた表情をしている。高校生にしてはハイレベルすぎる演技を見せられたのだ。そんな気持ちになるのは必然とも言えるだろう。

 それでもキャスト達は舞台の上で話し合っていた。浮かれた雰囲気ではなくしっかりと地に足のついている感じがする。

 あの様子を見るに軽く反省会をしているのだろう。

 明日の本番を見据えて自分たちのパフォーマンスをまだあげようとしているのだ。

 凄まじい向上心だなと俺は感服する思いだった。


 皆はゾロゾロと教室に戻っていき他のクラスが入ってくる。その中には琉唯もいたのでB組だろう。B組は数人のグループをいくつか作ってダンスをするという。音楽のジャンルはJ-POP、K-POP、洋楽がメインらしい。琉唯から聞いた話では男子はほとんどが洋楽だとか。

 時間帯は俺らの前後くらいだから見に行くことにしている。

 また、新しいイジりネタが増えそうだし。

 まあ、かっこよかったらそれはそれで褒めるつもりだ。

 動画を撮ってどれが彼女かはもちろん聞くつもりだ。


 教室に戻るとやはりというか弛緩した空気が蔓延していて、眠らないようにと改めて意識させられる。

 もう写真ばら撒かれるのはゴメンだしな。

 誰かと話そうかと思案していると桜と目が合い、ゆっくりと向かってくる。


「凄かったね、みんなの演劇」


「そうだね、ここまでになるなんて思ってもいなかったよ」


 どこが凄かったみたいに感想を話し合っていた。

 そして少し昨日の写真で気になることがあったので桜は知っているのかどうか聞いてみる。


「桜、昨日のこと知ってる?」


「へ?き、昨日?」


 ん?もしかして知ってるかも?


「い、いや何のこと?」


 桜の顔がわかりやすい程に赤くなっている。


「桜、もしよければ写真のフォルダ見せて貰えないかな?」


「え、え?いや、だめっ!絶対だよ。絶対にだめだよ」


 俺は知ってるなと確信した。知らないフリをして隠そうとしているのだからやましいことがあるに違いない。


「桜?今日一緒に帰ろうな」


 できるだけ冷めた声で言う。


「その前にフォルダ見してくれる?」


「ゔ......はい、どうぞ」


 見るとやっぱり俺の寝顔の写真があった。俺は消すこともせずそのまま桜に返した。

 すると桜はキョトンとしていた。


「消したりしないの?」


「いや、今更なんだよね。もう消しきれないからいいやって思って......」


 桜はじゃあ今日一緒に帰ろうねと言って自分の席に戻って行った。

 すると、璃久は体を俺の方に捻って

「颯、女の子に写真のフォルダ見せろとか鬼畜ぅ〜」と言われた。

 とりあえず椅子を思いっきり蹴って若干浮いたことに璃久がびっくりしていた。


 帰りのホームルームが始まると文化祭実行委員が皆に発破をかけていた。


「明日はみんなで頑張ろぉ!!」


「「「「おぉ!!!!!!」」」」


 学年中にその叫びは鳴り響いていた。

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