第11話彼のトリセツ
「ふぅー疲れたな」
紅白戦を終えて、しばらく動かしていなかった体が悲鳴を上げている。主に足が。きっと明日には筋肉痛になっているのだろう。そのくらい疲労が溜まっていた。
今週末は文化祭なのでそこまで水曜日までしか練習がないらしい。それまでの辛抱だと思いながら駅に向かっている。電車を使う人は少なくて、ほとんどが自転車で通学をしている。俺は同学年の一人と帰路を共にしていた。
「小鳥遊、バスケうまかったな、まじで」
「そんなことはないよ」
彼は宮崎琉唯。バスケ部の一年で結構近めの中学にいた奴だ。
彼も同じ地区で敵として戦った仲だが、今は仲間というと不思議な感じがする。
いきなり、おいそれと仲良くなれるわけではなく趣味とかもわからないのでバスケ談義をしている。彼のポジションはシューティングガードで今日もいいプレーをしていて印象に残っている。
それからはバスケ談義に熱が入っていたのだが話の方向性はどんどんズレていき、やはり高校生と言うべきか恋愛についての話になっていった。
「小鳥遊は彼女とかいないの?ていうかいるでしょ?」
「いないけど。宮崎は?」
「俺?いるよ。同じ学校だぞB組だよ。ちなみに俺もB組な」
あまり他人の恋愛とかに興味はなかったのだが話を聞いていると案外面白いもので、色々な事を根掘り葉掘り聞いた。
色々と問い詰めていると話している側はだんだんと恥ずかしくなってくるようで、話を聞かせろと言われたが、色恋沙汰ないのでと秒で断った。駅に着くと宮崎は項垂れていて、小鳥遊こえーよと呟いている。
まだ小言を挟めるようだったので電車の中で更に問い詰めるようにしていると彼の降りる駅に着いた時、去り際に
「颯に彼女ができた時絶対にいじり倒してやるからな」
と言ってきた。
俺は清々しい程の笑顔で
「おう、その時はまた話聞かせてな」
と言い返しておいた。いつの間にか名前呼びになってたしそこそこ仲良く慣れたといっていいだろう。なかなかに面白いやつだったし、今後頼りにさせてもらおう。
俺は筋肉痛と戦いながら、水曜日までの朝練と放課後練を頑張った。中学で引退してからやっていなかったからブランクは一年くらいあるため、体力もまだ全然戻っていない。そんな中夏休みをこの暑い体育館の中で夏の間耐え抜いた連中と練習するのは俺にはハードワークだった。
「やっと終わったぁ〜」
俺が着替え場所近くの石段に腰を下ろすと琉唯が俺の隣に座ってきた。そして「お疲れ」と言いながら水の入ったボトルを俺の頬に当ててくる。
「ありがとよ」
ボトルを受け取り水を飲む。するとつい顔をしかめてしまった。
とってもぬるかったのだ。
そんな俺の表情を見て琉唯は笑っている。
「蘭」
その一言で琉唯の笑いは止まり従順な下僕のように正座した。
蘭といのは琉唯の彼女の名前だ。
彼があまりにもベラベラと話すため聞かれたくないだろうなってところまで俺は知っていた。要は弱みを握っているのだ。
俺は周りにひけらかすつもりもないのだが、琉唯を止めるにはいい手段だ。たくさん使わせてもらおう。
その後は着替えて琉唯と共に帰った。文化祭の話がメインであとは中学の時の大変だった事とか、勉強の事について話した。琉唯は学校入ったばっかりの時はまあまあ頭がよかったらしいが、部活メインになって今では結構落ちてきているらしい。
俺が学年で十位以内に入っている事を告げたら教えてくれと懇願してきた。どうも数学の小林先生の教え方が酷いんだとか。正確には先生自身が説明する所まではいいのだがそこからほとんど演習をしないらしい。
応用問題も解かせるが解説は自分で行うので分からない人は分からないままということだ。俺が快諾すれば「神様、天使様、颯さま」と泣きついてくる勢いを見してきた。そんだけ酷いということだろう。
その後、文化祭の話をすればすぐテンションを戻したので「嘘泣きするやつに教える余裕はないな」と言えば「じゃあ、どうすればいいんだよ」と逆ギレされてしまった。
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