第6話彼女の悩み

もう九月に入るというのに、日差しはじりじりと照りつけ、クーラーを使っての生活を余儀なくされていた。時刻はそろそろ四時になるが、太陽は若干傾いているくらいであり、秋への入りを微塵も感じさせない雰囲気があった。

俺はあまりの暑さに何かをする気も起きずただひたすらに三人の到着を待っていた。

ピンポーンと、家のインターホンが鳴る。

カメラには三人の姿が映っていた。

俺は足早に玄関へと向かい。ドアを開ける。


「よお、颯。早く入れてくれよぉ〜」


「璃久は礼儀という物を知れ」


璃久はそんな俺の言葉を意にも留めず脇を抜けていった。


「颯くん、お邪魔しますね!」


真理愛は今日が自分たちのためのパーティーなのでテンションが上がっているみたいだ。

笑顔が多いように思う。

対して桜は少し緊張した面持ちをしている。リビングとはいえ異性の家に入るのだから緊張もするだろう。

俺だって桜の家に入った時は少なからず緊張したし。

俺が案内すると桜は子犬のように後ろを着いてきた。

昨日はいじられたし、緊張をといて貰うためにもジョークを耳元で囁いた。


「男の部屋に来て緊張してるのかな?」


すると桜は身体中の血が沸騰したかのように顔を真っ赤に染めた。


「うぅ、颯くんのいじわるぅ」


そう言って俺の背中をポカポカと叩き俺をリビングに押しやって行く。

俺が笑っていると、桜もそこまで気にする事でもないのかと錯覚したかのように普通に接してくれた。


「颯おっそーい、何してたんだよ」


「別になんでもいいだろ......桜と話してただけだって」


だが、桜はアタフタとしていて、それを見ていた二人はニヤニヤとした表情ででこちらを見てきた。


「お前らのためにケーキ作ったのに出してやんねーぞ」


「嘘です、ごめんなさい、許してください」


土下座するような勢いで平伏してきた。

俺がケーキを作ったのは二人のためという理由もあったのだがただ作ってみたいと思っていたからである。

家に一人の時が多いので自炊をするようになって、料理が趣味と化しているのだ。

ご飯を食べるにも時間帯的には早いため、俺たちはゲームでもして時間を潰すことにした。

まずはトランプだ。

最初は王道のババ抜きをする事にした。

俺の手札は七枚残っていて、周りも同じような感じだ。

ただ一人だけ明らかに焦ってる人がいる。

桜だ......

恐らくジョーカーを持っているのだろう。

むしろこの反応で持っていないと言うのならば女優になった方がいいレベルだと思う。

それ程までにわかりやすい反応だった。

何周かすると璃久が上がった。

そうすると俺が桜から引くことになるのでジョーカーを引かないよう気をつけようと思いどれを引こうか吟味する。

そして真ん中にあるトランプに手をかけると桜は口を一の文字のようにした。多分ジョーカーなのでそれは引かないようにしてサイドのトランプを引くこれでワンペア揃い真理愛に引いてもらうことで俺は上がることが出来た。

そして真理愛も揃ったらしく、桜が残りの一枚を引いて負けることとなった。

すると璃久が罰ゲームを付けようと提案してきた。

内容は「負けた人はどんな悩みでもいいから一つ打ち明ける」に決まった。

そして十数分後.....

「また、私の負けだよぉ......」

案の定桜が負けていた。そして桜が打ち明けた悩みは



「好きな人が鈍感すぎて困ってます」



璃久と真理愛はなんだか共感しているような表情をしているが、俺にはよく分からなかった。とりあえず大変なんだろうなとは思ったので桜に「まぁ、頑張れ」と声をかけたら璃久と真理愛が可哀想な目で桜を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る