第2話二人の距離

「綺麗......だね」


「そう......だな」


俺も桜も花火に目を奪われ、心が温まるような感覚を覚えた。

ふと、横を見てみると花火に照らされた桜の横顔が見える。もみあげの部分は耳にかけられていてその表情がよく見えた。

まるで心でも吸い込まれたかのように花火に集中していた。

その姿は儚げで触れれば簡単に壊れてしまいそうなほど脆いものに見えた。


俺は桜がこちらを向いた事にも気づかず呆然も立ち尽くしていた。


「颯くん?私の顔に何か付いてる?その......じっと見られると恥ずかしいよ......」


そう言われて俺は自分が無意識に桜の事を見てしまっていた事に弁解をしようと試みる。


「ご......ごめん。つい桜にみと―――じゃなくて、それもう一口食べたいなって」


そして桜が手に持っている綿あめに指を指す。

桜は照れたように笑い綿あめを差し出してきた。


「はい、どーぞ。口下手な颯くんっ」


俺はそれを受け取りながら恥ずかしくなってそっぽを向いた。そして綿あめを一口齧る、ずっと桜に見られてるのが気になるが、今、桜の方を向いて平常心でいれる気がしないので気づいていないフリをしておいた。


俺達はその後花火を片目に見ながらよりよい場所を求めて歩いている。人の流れも激しく歩きづらい。

すると桜は流れに逆らって来ている人とぶつかってしまい倒れかかっている。

俺は支えになろうと腰に手をかけたが片手だけでは支えきれず俺まで倒れかけてしまった。片手を地面につけてなんとか転倒は免れたが、問題は別にあった。


桜との距離が近い。


颯としては桜の腰を持ったつもりだったがそれではこんな状態にはなるまい。

そう思って自分の手の位置を見てみるとそこには胸が―――というわけではなく脇腹を持っていた。


二人ともこの激しい人の流れの中でこの状態が数秒間維持されていた。


すると、周りの人からの視線がズバズバ刺さってきてだんだんと居心地が悪くなってきた。

急いで桜を引き上げて、俺は片手を差し出した。

桜は一瞬何か分からなそうな表情を浮かべたが何かを察したように颯の手を取り、俯いてしまった。

颯が手を引けば大人しく着いてくるので人混みを抜けるまでは手を繋いだ状態でいることにした。


「やっと人混みを抜けれたね」


「そうだね、でもちょっと疲れちゃったね」


そうすると桜が「あっ」と声を上げどこかに指をさした。

俺も追随するようにそちらを見ると石段にちょうど二人分くらいのスペースが空いていた。


「あそこで見よっか」


そうして桜ははしゃいだように俺の手を引っ張ってそこまで連れて行った。

さっきまでとは立場が入れ替わってしまっていることに苦笑しつつそのまま石段に腰をかけ二人は空を見上げる。

花火を見ている二人の手は繋がれたままだった。

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