二章 壁を打ち壊せ!

第1話希望

もう夏休みも終盤になってきた。

そして今日は年に一度の地元での祭りだ。

俺は甚平を着て、ある一人の少女の到着を待っていた。


「颯くん、おまたせ!待った?」


俺は息を呑んだ。

理由はいかにも着物美人といった少女が目の前に立っていた。

その少女は紫陽花の柄の入った水色の着物を身につけていた。この暑い気温を中和させているような凛とした格好だった。

そしてそれが誰かもすぐに分かった。


「ううん、今来たところだよ、桜。着物とっても似合ってるよ」


顔も見たし、電話越しでも話したのだが、こうやって面と向かって話すのは久しぶりなのでどこかむず痒かった。


「ありがとう、颯くんも甚平似合ってるよ」


「あ......ああ、ありがとう」


素直に褒められるとつい照れてしまう。

着た時は地味な感じだなとは思っていたが、桜のお眼鏡にはかなったみたいだ。


一緒に屋台が並んでいる道を歩いていると俺は中学時代の友達に会った。


「お、颯久しぶりだなぁ〜高校楽しんでるか?」


「ああ、楽しんでるよ、そっちも元気そうで何よりだよあらた


「時間がないからもう行くな、元気でな!」


「そっちこそ彼女と仲良くな」


そう言うと新は分かりやすく慌てて足早に去っていった、隣にいた彼女の手を引いて。

ここは地元の祭りだから結構知り合いも多いのだ。桜も近くに住んでいるので見たことある人は結構いるのだろう。


そうすると反対側から俺たちと同い年くらいの三人組の女の子が歩いてきていた。


そして俺の顔を人目見て桜の方へ視線を向けるといきなり駆け寄ってきて、一言挨拶を交わすと桜が彼女達の輪に入り話していた。


あまり女子トークの内容は聞かないようにしていたのだが明らかに桜が質問攻めにされていた。桜は顔を赤くしたり視線を彷徨わせたりしていて見ていて面白かった。


彼女達の輪から抜けてきた桜はどっと疲れていたようだったが「笑わないでくださいっ!」

と可愛らしく怒っていた。


「どんなこと聞かれたんだ?」


「颯くんには教えませんっ!」


少し機嫌を損ねてしまったみたいだ。このままだと居心地も悪いから桜が甘いのを好きか確認して、綿あめを買った。

それを桜に渡そうとすると申し訳なさそうにおずおずと受け取った。


「気にしなくていいよ、俺がしたくてしたんだし」


「ありがとう......」


それでも思うところはあるようで俺のほうに差し出してきた。


「颯くんも......た...食べませんか?」


「じゃあ頂こうかな」


そうしてそのまま受け取ろうとするとすると桜が俺の手を押さえつけた。


「あ......あーん......」


桜は顔を真っ赤にして俺の口元に綿あめを持ってきた。このまま食べろということなんだろう。躊躇していると桜は目元に涙を浮かべてじっと見つめてきた。

桜が折れることはないなと感じ、一思いに綿あめに口を付けた。綿あめとは言っても友達に食べさせてもらうというのは何とも気恥しいもので綿あめの甘さをあまり感じなかった。

桜はなぜか綿あめの一点をじっくりと見つめていた。そして何かを決心したかのように綿あめに口を付けた。口に含むと桜は俯き、耳まで赤くしていた。


するとドン!という音と共に空が彩られた。


人々の心を照らすように......


その光景に桜も颯も目を奪われていた。

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