第3話花火と過去

花火を見ていると色んな記憶が蘇ってくる。

それは小さい頃両親と行った記憶だったり、友達と行った記憶だったり......彼女と行った記憶だ。

前までの颯だったら嫌なものと割り切ってしまっていただろう。

だけど、今はそんなことは思わなくなっていた。それは、この隣にいる女の子のおかげだったり年上の先輩だったり......

この半年だけで颯を取り巻く環境は大きく変わった。

辛い事だってあったけど誰かが隣にいた。

俺の事を笑わしてくれる友達が俺を支えてくれた。

今は亡き彼女が俺を天国からずっと見ていてくれる。

そう思うと今見ている花火も悪いものではないなと思えるようになった。


俺の目元に誰かの指が触れる。


「颯くん?どうしたの?」


覗き込むようにして桜が心配そうに声をかけてくる。

視界が歪む。

俺は泣いているのか......

その事に気づいて急いで目元を拭う。

そして、桜に礼を述べた。


「桜、ありがとな」


桜は神妙そうな表情を浮かべる。

桜には俺が去年に彼女を亡くしていることは知らない。だからこんな表情になるのも仕方ない。だけど伝えておきたかった。俺が今こう思えてるのは桜の力が大きいから。

だから俺はもう一度桜に感謝を述べる。


「ありがとうな、本当に......」


「どういたしまして」


そう言うと桜はまた、花火の方へ視線を向けた。


「桜って花火は好きか?」


「花火?私は好きだよ。夏の風物詩って感じがして、でもそれだけじゃないんだ。咲いてもすぐに散ってしまう花みたいでとっても儚いと思うんだけど、恋に焦がれる女の子って感じがとっても好きなんだ」


「それはまた独特な感想だね」


普通の高校生はこんな感想は持たないだろう。花火好きな理由なんて『綺麗だから』で十分なんだろうけど桜がこんな感想を持つこと自体が気になった。


「そうかな?高校生がもつ感想って感じはしないよね。私って結構小説とか読むんだ。でさ、私の好きな物語の中でこんな一節があるの。『花を摘む。名前も知らない道端の花を。幸せの花。誰かが幸せな最期を迎えた時に一つだけ咲く花。』ってね。私は花火がそんな幸せの花であって欲しいと願ってるの。自分の最期に一瞬だけであってもあんなにも綺麗な花を咲かせられたら良いと思わない?」


「そうだね、俺もあんなに綺麗なものが人の最期に咲く『希望』であるならとっても素敵だと思う」


そんな感想を交わして、再び花火に目を向ける。

もう終わりも近いようでクライマックスに向けて会場を奮い立たせるかのように大きな花火が音を上げ、人々はそれに目を奪われる。

すると会場には終わりを告げるアナウンスが流れ、どことない寂しさを漂わせる。

俺達はそのまま動かずに何も無い真っ暗な空を見ていた。


「終わっちゃったね」


「仕方ないよ。そういうものだし」


こうやって割り切るのも簡単だけどあんな話をした後だとそうは思いきれない。


「来年も来よう!これを見に!」


「そうだね!こんなに綺麗な『花』を見れるのは年に数回だけだもん!絶対来ようね!」


俺達はそう決めるとこの場を後にした。

桜を送りに行っている時は花火に関することは話さず桜の好きな小説の話だったり学校の話をした。


「颯くん、今日は付き合ってくれてありがとね!」


「楽しかったよ。また、学校でね」


二人が別れ際に来年も来ようねと言うことはなかった。心に留めておいているのだろう。

一人になり、何度か通った帰り道を歩いていると空虚感が襲ってきた。


「俺って、案外寂しがり屋なのかもな」

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