第3話スタートライン
次の日仕事に向かうと一人の女性が話しかけてきた。
「颯くん〜おはよう、今日もよろしくね」
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします。」
「そんな硬くなくていいのに〜芸歴は同期なんだし〜」
「これは僕なりのけじめですって。あくまでも二つ上の先輩ですしね。」
この人は鈴木三玖といって僕のモデル仲間だ。
それでいて結構親しい間柄だ。
しかもとても大人びていて二つ上とは思えないほどしっかりしてる人だ。
「颯くん学校は楽しい?」
「まあまあ、楽しいですよ」
「ふ〜んどーせ颯くんの事だからさぞモテモテなんでしょーね」
あははと苦笑いしながら別室で着替え始める
三玖さんと話すと心做しが落ち着くというかそんな気がした。
着替え終わると監督が話し始めた。
「それでは撮影を始めます!」
そういうと現場の空気に緊張感が走り、皆緊張した面持ちとなった。
結局撮影は四時間くらいかかってしまい普段よりかかってしまった。
「颯くん、お疲れ様〜」
「三玖さんお疲れ様です。今日もありがとうございました」
「それにしても颯くん珍しくミスが多かったね〜なにか悩み事でもあるのかな〜?お姉さんで良ければ聞くよ?」
いたずらっぽく話しかけてくる。
あれだけミスってしまえば勘づかれても仕方ないだろうとは思ったが人様に相談してどうにかなる内容ではなかったので隠すことにした。
「なんでもないですよ」
「そっか〜それはいいとして颯くん今日一緒にご飯行かない?お昼も過ぎちゃってるし」
時刻をみると十四時を回っていた。
「そうですね、行きましょうか。」
幸い俺たちはそんなに有名なわけではないしバレる事はないだろうがお互いマネージャーに許可をとり、共に出かけた。
「ファミレスですか、、」
「高校生のお財布にも優しいでしょ?」
「まあ、そうですね。お気遣いありがとうございますとでも言っておきます」
「可愛くないなぁ」
「逆にこの年でかわいいって言われるのもキツイものがありますよ?」
「ハハ、それもそうだね」
俺が瑞希の事を気にしているのに気づいているからだろうか。
場を和ませようとしてくれている気がした。
注文したものが届くと二人は他愛もない会話をしながら食べ続けた。
それらを平らげると三玖さんがいきなり尋ねてきた。
「颯くん、やっぱりなにか悩んでることあるでしょ」
「いや、ほんとにないですって」
そう返すが三玖さんはなかなか折れず先に俺が折れてしまった。そして俺は中三のときに彼女を交通事故で亡くしたこと。
腫れ物に触れるような扱いをされてきて今の高校に来たこと。
その彼女のことが割り切れていないことを打ち明けた。
「へぇーそんなことがあったんだ。でも、どれも颯くんが悪いわけじゃないし颯くんがそれに縛られる必要も無いんだよ?」
「それはそうですけど」
「確かに彼女を失うことは颯くんにとってとっても辛いことだったと思う。でも颯くんは一度自由というものを感じてみるべきだよ」
「僕だってこの辛い記憶を思い出したいわけじゃないのに勝手に頭に浮かんできてしまうんです。モデル業だって新しいことに挑戦してみようとして」
「それは本当に君にとって挑戦だった?」
食い気味に言ってくる。こんな三玖さんは初めてだ。
「正直今から言うことは君にとってキツいことかもしれない。それでもきいてくれる?」
僕が頷くと三玖さんはまた話し始めた。
「モデル業って行っても颯くんはスカウトされただけでしょ?この世界ではここまで来たくて来たくて仕方ない人だっているんだよ。それでも諦めずに挑戦するこれは私はとても立派な事だと思う。私も颯くんもたまたまチャンスが転がっててそのチャンスを掴むことが出来ただけ、果たしてそれが挑戦とよべるのかな?言い方は悪いけど颯くんがその束縛から逃れたいだけでモデル業をしているのならそれは逃げだよ。やるなら全力じゃなきゃ!颯くんもし全力でやって忘れるまでは行かなくても割り切ることが出来たのならそれは成功だと私は思うんだ。だから颯くんが全力でやろうと決めたところがスタートラインだよ。つまり颯くんはまだスタートラインにさえ立てていないんだよ。一緒に頑張ろうよ颯くん。私は君ならきっと出来ると思うよ」
「そうですね......」
よく考えてみても俺は何かに全力で取り組んだことがあっただろうか。
いいチャンスだと思った。瑞希との事を割り切るためならなんだって全力で取り組んでやろうと。
「三玖さん、俺やってみます」
「よし!よく言った!でもさ〜その女の子の事、本当に仕事だけで忘れられるかな〜」
なぜかニヤニヤしながらこちらを見てくる。
「とりあえずやってみますよ。それじゃ、今日はお開きということで
......」
立ち上がろうとすると腕のいきなり掴まれた。
「ど......どうしたんですか?」
悪い予感がする。早く帰りたい。
「やっぱさ〜その女の子の事を手っ取り早く割り切るためにはやっぱり彼女を作ってみるって言うのが一番いいと思うんだよね」
「は......はぁ」
「でもさ、颯くんにとっちゃ彼女作るなんて楽勝じゃん?そこで試練を設けます!!」
「いや......ほんとに大丈夫なんで!」
そういうと三玖さんはむっとしてこちらを見てくる。
「じゃあ、その試練はね〜」
ん〜と考え始めた。えっ無視?ていうか考えてなかったの?
「そうだね。じゃあ、その彼女のを事を思い出す度に近くにいる女の子の事を褒めようか」
「えっ、なんでそうなるんですか」
「やっぱ彼女作るとか正直颯くんにとっちゃ余裕じゃん?」
2回目だ。そんなに重要な事だったのだろうか?
「いや、そんなことはないと思いますけど」
そういうと三玖さんはジト目で見てきて何も聞かなかったかのようにまた話し始める。
「でもさ、それだけじゃつまんないしちょっとは颯くんが慌てふためくところがあってもいいんじゃないかなと思って」
あれ、この人さっき否定した事ちょっと根に持ってない?
「それ面白感覚で言ってますよね?」
「いやいや、颯くんが男を好きになる前に手を打たねばと思ってね」
そう言いながらウインクをかましてきた。くそ。かわいい。
「別に、俺がやるとも限りませんよ?」
「あれ?颯くんもしかして怖気付いちゃった?てっきりこのくらいのことなら喜んで努力すると思ってたのにな〜」
ばっちり煽られてる。仕方ない乗ってやる。
「はいはい、そういう事ならやりますよ。」
ぶっきらぼうに告げる。ここで反撃に出ることにした。
「しかし、三玖さんって本当に美人ですよね」
「え?」
「ほんと一緒に仕事が出来て光栄というか、もう一緒にいれることがほんとに嬉しいです。」
「ほ......ほめたってなんもでにゃいよ」
「そうやって噛んじゃうところとか本当に可愛いな〜」
「う〜もうっ!颯くんのバカ!」
耳まで赤くなってる。とはいえ、俺も相当恥ずかしい。
顔が赤くなっている気がする
そうして俺たちはそれぞれの帰路に着いた。
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