第48話 名探偵マックス 


 マリーは敷かれた布のうえで、おしりをスライドさせて寄ってくる。


 俺はマリーのその動作ひとつさえ、本来は一緒にいて不快な俺のため、聖女としての行動をしてくれたんじゃないか、と疑うようになっていた。


 今までのように素直に喜べない。


 これではいけない、

 こんな態度では、いつか本当にマリーを傷つけてしまう。


 心に刺さったくさび。

 通称″ノーコメント事件″を今すぐにでも解決しないと。


「……マリー、昨日さ、お昼寝に俺と一緒にいて楽しいか、って聞いたの覚えてる?」

「っ、えーと、あぁ、うーん、確かそんな、やりとりもあったようなー……」


 頬をかきかきして冷や汗をかくマリー。

 記憶をさぐる姿さえ可愛い。


 とりあえず、よかった。

 覚えてはいるようだ。


「考えたんだ、俺。考えた結果わかっちゃったんだ、ノーコメントの意味」

「へ? わかったの? っ、あわわわ、それは、その、違うっていうか、別に違わないんだけど……っ! ただ、聖女として個人に特別な感情を向けるわけにはいかないって言うか……!」


 何か言ってるが、優しい弁護は聞くまでもない。


 ノーコメントの意味。


 それはすなわち、一緒にいて楽しくないから、わたしに関わるの遠慮したら? ということ。


 残念ながら、これ以外の答えはない。

 

「マリー、君の気持ちはわかってるんだ。だけど、俺の気持ちを聞いてほしい」


「はわわわっ、ぅ、うん、わかっ、た……っ!」


「俺はマリーと幼馴染だから、一緒にいるのが当たり前なんて言ったけど、本当はそんなこと思ってないんだ……俺は、マリーと一緒にいれる時間が、俺には値しないほどの奇跡のような幸運だと思ってて……マリーと一緒にいるのが凄く、凄く、すごーく楽しい。だけど、マリーにはそうじゃないんだよね、うん、わかってる」


「そんな、熱烈にアプローチされたらわたし…………へ?」


「マリーの気持ちを見透かしたように全部当てちゃってごめん。でもさ、俺、勘鋭いからわかっちゃうんだよね。マリーは聖女として、俺と一緒にいることがつまらないって言いたいから、ノーコメントにした。うん、わかってる。本当に勝手でごめん。だけど、俺はマリーと一緒にいれて心の底から楽しかったって事だけ伝えたくてさ」


 俺は瞳を閉じて、最後の言葉を言い終えた。


 身勝手すぎる発言。


 マリーの気持ちを完全に理解しながらも、なお、俺の勝手な″楽しかった″、だなんて感情をぶつける。


 こんなんだからマリーに見放されるのだろうか。


「マックス」

「うん、わかってる。もうこれ以上は無理しなくていい」

「ねぇ、マックス」

「さあ、ジーク行こう。これ以上マリーに迷惑をかけられない」

「ねぇ、ちょっと、マックスてば」

「ああ、最後に、このパンケーキひときれもらっていい?」

「話聞いてよ、マックス! ていやっ!」

「ぶぼへぇ?!」


 頬をビンタされて転がされた。


 見上げるとそこには、キリッと目つき鋭く怒りを抑えきれないと荒ぶる聖女様がたっていた。


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