第37話 レベルとスキルと第七師団のご到着


「っ、はっ! 気を失ってました! すみません! ああ……まだやっぱり赤い……夢じゃなかったんですね……」


 格納庫の床を染める死んだばかりのような死骸たちに、受付嬢はやや引き気味でつぶやいた。


「それにしても、マックスのスキルが、ここまで強力になるなんて信じられないわね。眠っていたチカラが覚醒したのかな?」

「うーん、確かスキルが変質したとかなんとか……っていうか、それを確かめに今日は来たんだよ」


 そう、今日の主目的はスキルとレベルのチェックにあるのだ。


 ザッツが同情を誘ってきたせいで遅れたが、すぐに受付嬢に調べてもらわねば。


「はい! 喜んで、『竜返し』『不死身』の称号をもつ新しい英雄様! すぐに準備するので待っててくださいね!」


 おしりの埃を払い、ニコニコ楽しげな受付嬢に言われて、待機する事しばらく。


 冒険者になりたての頃は、気になって毎日レベルチェックしていたので、とても馴染み深い魔導具がやってきた。


 ギルド専用の魔導具『レベルチェッカー』。


 こいつに会うのも2年ぶりだな。


 レベルチェッカーに腕を差しこみ、ちょっと待つ。


「ん、あれれ、おかしいですね……マックスのレベルが″測定不能″になってますよ!」

「測定不能? 壊れてるんじゃないのか?」


「それじゃ、わたしがちょっとやってみよっかな」


 場所を代わり、マリーがレベルをチェック。


「聖女様のレベルは現在90ですね! 2日前に測られた時と変わりはなさそうです! 流石は聖女様ですね、レベルチェッカーも嬉しそうです!」


 ふむ、マリーは正常に測れるか。

 というか魔導具のくせに、マリーにデレるな。

 一桁目の数字がぷるぷる動いて1レベルくらいおまけしそうになってるじゃねぇか。


 仕方なのないやつだ。


「それじゃ、もう一回」

 

 その後、俺は同じように、レベルをチェックしてもらったが、『レベルチェッカー』が俺のレベルを指し示すことはなかった。


「もしかして上限があるんじゃないかな? ほら、だってわたしのマックスって、ドラゴンを倒しちゃうくらい強いでしゃない? えへへ」

「うーん、言われてみれば、たしか『レベルチェッカー』の測定上限が″150レベル″までに設定されてるとか聞いたことがあるような……だとしたら、凄いことですよね! 流石は『竜返し』にして『不死身』のマクスウェル! って感じですね!」


 受付嬢のわかりやすいおべんちゃら。


 なのになぁ〜これはかなり嬉しいなぁ〜。

 そうか、俺、測定不能になっちゃったかぁ〜!


「二つ名に『測定不能』を加えてもいいかもしれませんね!」

「ふふ、いいわね、『測定不能』のマックス!」


 へへ、なんだか、二つ名が凄い勢いで増えてるが、結構楽しんでるのでよしとする。


「それじゃ、次はスキルを調べてみましょうか!」


 格納庫の床をコロコロ転がって、『レベルチェッカー』の横にならんだ無骨な魔導具、その名も誰が予想できようか『スキルチェッカー』である。できた?


 『スキルチェッカー』の真ん中にポカンと空いている穴に、腕をふかく差しこんで、これまたしばらく待つ。


「あ、今度は正常に出ましたよ! ええと、どれどれーーぇ、スキルランク:特級……特級!? めっちゃ進化してますよ、これ?! ていうか、スキル名は〔世界倉庫せかいそうこ〕……らしいです。あれ、名前もすっこく変わってません?」

「〔世界倉庫せかいそうこ〕」

「そう、ですね……壊れてないと思いますけど……」


 言われて見て、顎に手をあてて考える。


 世界倉庫か。


 広大にがる大草原のうえに無数に立てられた、このギルドの格納庫のような建物群。


 命が育まれて、上空には大気のおおきねうねりがあり、撃ちだされるのを今か今かと待っている巨木たちが、大倉庫群のよこで待機している。


 そうか、まぶたの裏に霞んで見えるポケットのなかの世界はそうなっていたのか。


 俺だけが感覚的に納得できるスキル名。


 ハッキリと文字にされる事で、俺はより自身のポケット空間を明確にイメージすることができるようになった。


 今ならば、スキル名を知らなかった頃とは、また″段階の違う″スキルパワーを発揮できる気がする。


「スキルの名前が変わるなんて事あるの?」


「はい、ありえる話ではありますよ! レベルアップや、スキルの熟練度の上昇でスキルは進化することが知られています! まあ、統計的に見たら10万人に1人くらいは、女神様からもらった賜ったスキルとは別のスキル名のスキルを保有していますね! ご存知ありませんか? 『氷結界魔術団』のプラスミドさんはーー」


 マリーは初めて知った、と言って感心するようにため息をつき、俺の肩に手を置いて「マックスは本当に凄いね!」と屈託のない直球の褒め言葉をプレゼントしてくれた。


 それだけで嬉しくなり、舞い上がってしまう俺。

 なんとも単純なことだと、自分自身で思ってしまう。


「ん、そうだ、ギルドに返さないといけない物があったんだ」


 俺は指を弾いて、ポケットから血に塗れたスカーフの巻かれた短剣を取りだした。


 これは2年前、白い魔物に惨殺された熊級冒険者の遺体から回収した遺品だ。


 険しい顔をする受付嬢へ「遺体は後日、準備ができた時に」とひとことつけ加えた。


 長い時間がかかったが、ようやく彼を帰してやる事が出来そうだ。


 受付嬢はことを察して深くうなづき、短剣の柄と鞘の先を支えて、丁重に受け取ってくれた。


「こちらはお任せください。……んっん、それでは、お気をつけて! マックスさんは本当にありがとうございました、これで私の仕事も安泰あんたいです! 次に来るときは、新パーティー結成ですね! 待ってますからね、お二人とも!」


 お世話になった受付嬢へ手を振って、俺たちは冒険者ギルドをあとにする。


 外へ出てみると、何やら前の通りが騒がしい事になっていることにすぐ気がついた。


 通りの瓦礫撤去をしていた人々は、何重にも重なって、通りの真ん中の道をあけて、その中央を指差して熱狂している。


「なんだろう、凄い人だね! ちょっと屋根のうえ登ってみよっか、マックス!」


 ピョンっとひとっ飛びして、冒険者ギルドの屋根に登るマリーを追いかけて、俺も彼女の隣に跳びあがり、そのとなりの屋根に腰をおろす。


 するとーー、


「ッ! そこにあらせられるのは、【施しの聖女】マリー・テイルワット様でありますか?!」

「ヒッ!?」


 いきなり、でかい声が通りに響いた。


 屋根にあがった瞬間、聞こえたソレに、マリーは驚いて思わず足を滑らせてしまう。


 俺は落ちそうになる彼女の手を握り、思わず抱きとめた。


「っ」


 瞬間、地上から高速で飛来する矢。


 指を鳴らして、矢を進化したスキル〔世界倉庫せかいそうこ〕にしまって無効化する。


 おお、倉庫内を元気に矢が飛び回ってるのがわかるぞ。これはポケット空間内の制御力が上がってるんじゃないのか?


「っ、消えた?!」

「今、矢をたしかに放ったはず……あれ?」

「全然見えなかったが、何が起こったんだ……?」


 ザワザワしだすのは、通りを歩いていた鋼の立派なフルプレートアーマーに身を包んだ者たちだ。


「こいつら聖女様に矢を放ったぞ!」

「クソ騎士ども、ジークタリアス舐めてんじゃねぇぞ?!」

「マリーたんに何してんじゃぁあああ!? この身の程知らずども、ぶちのめすンゴねぇええッ!!」


 相手が明らかに戦闘のプロでも、聖女のためになによりも恐ろしい暴徒とかして発狂するのは市民たち。


「いや、待て、これは、聖女様を抱きとめるなんて不敬をはたらいた、あいつに、痛っ、やめ……市民に殺される?!」

 

 あっという間に地上は、阿鼻叫喚へ変わってしまった。

 馬に乗った騎士たちと、それを数千人の謎に息のあった人海戦術で、反復横跳びしながら囲い、襲い掛かるジークタリアス市民との地獄絵図だ。


 屋根のうえの、俺とマリーは困惑を隠せず、思わず眉をひそめて固まってしまった。


「えっと、マリー、こういう時はどうすれば……」

「止めなくちゃだわ! マックス、力を貸して!」


 マリーは立ちあがり、大声をだして場を鎮静するために声をあげはじめた。



         ⌛︎

         ⌛︎

         ⌛︎



 しばらくのち、冒険者ギルド前の通りの混乱はおさまり、馬に乗っていた騎士鎧の集団は皆が騎馬から降りて、膝をつき、かしずいていた。


 かしづく対象は、もちろん我らの聖女様である。


「【施しの聖女】様、大変申し訳ございません。私の部下の過ちは、私がすべての責任を負いますゆえ、どうか従者の方へ無礼を働いたことをお許しください」


 騎士鎧の集団のなかでも、ひときわ体格の大きい男ーー短く刈り上げられた黒髪、野性味のある口髭ーーが、丁寧な言葉づかいと、はっきりした口調で喋り、心からの誠意をもって頭を下げてくる。


 マリーはそれを受けて「許しましょう。ただし、二度と無いように」と粛々とした態度で答えた。


 完全に聖女モードのマリーの顔だ。

 

「それより、まずは名乗ったらよろしいのでは? ソフレト共和神聖国の紋章がうかがえるので、敵勢力ではないと判断していますが……」


「はっ! では、許可いただいたので、まずは私から名乗らせていただきます」


 ひときわ体格のよいリーダーらしき男は、ビシッと起立した。


「私は『神威しんい十師団じゅっしだん』が第七師団騎士団長アルゴヴェーレ・クサントス、我々はかねてより議論されていたジークタリアスの崖下世界開拓、ならびに『あかけもの』討伐の助勢にはいるため、アクアテリアスから参上いたしました」


 はっきりとよく通る声でその男は言った。


 まわりで野次馬をしていた市民たちが、名乗りを聞くなり騒がしくなりはじめる。


「『神威の十師団』って、あの最強エリート騎士集団っていう……」

「まじかよ、ジークタリアスを助ける為に動いてくれてたのか」

「というか、アルゴヴェーレ・クサントスってあの三傑のひとりじゃね?」


 どよめく民衆をよそに、マリーは愛嬌のある笑顔をつくり正面から堂々と応じる。可愛い。


「よくぞ、参りました、騎士団長様。アクアテリアスからの長旅ご苦労様です」

「ハっ、ありがたきお言葉。……ところで、質問をひとつよろしいでしょうか? 今、ジークタリアスは討伐戦線なるものを形成して、崖下へおもむいていると聞きおよんでいるのですが……聖女様はここにおられ、さらには街も民衆の心も、この荒れよう。いったい何が?」

「それについては、あとでゆっくりお話ししますね。まずは神殿へ参りましょう」


 マリーはそういって突然現れた第七師団を、まるであらかじめ取り決められていたかのように、神殿へ導きはじめた。


 マリーも困惑してるはずなのに……流石だなぁ。


 俺は彼女の胆力に恋をしながら、争いを呼ばぬよう努めて義務的にマリーの2歩後ろにつづくのだった。


 ただひたすらに、背後の騎士たちからの視線が恐かった。

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