第14話 ジークタリアス:駆け出し冒険者と氷結界の男
ちょっと長めです。
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だんだんと寒くなってきた近頃。
太陽の日差しが眩しい、よく晴れた日。
ここキリケリ村では、まさに新しい冒険の
見事な剣を空にかかげて、光を受ける
「目的地は、『崖の都市』ジークタリアス! 俺たちの冒険は今この時はじまる! さあ、いくぞー!」
「「おぅー!」」
彼の後ろには2人いる。
白いローブを着た少女と、歳のわりに体躯のたくましい赤い髪の少年だ。
2人は先頭の少年の掛け声に元気よく答えた。
「あんた達、わざわざこんな季節に発たなくてもいいだろうにねぇ」
少年たちのさらに背後、3人の育ての親である老齢の女性は、頬に手を当てて、心配そうに言った。
「大丈夫だよ、母さん。この時を夢見て元ポルタ級冒険者のじいさんに剣をみっちり鍛えてもらったんだから! それに俺には、父さんがついてる!」
「ライト……そうね、あんたのお父さんは本当に勇敢な人だった。その血を引いてるなら、止めることなんて出来ないわよね。もう、こんなに立派になって、ぅぅ」
輝く剣をお守りのように大事に鞘に納める少年ーーライトは、先にまつ
それを見て女性は、涙をながしながら、「いってらっしゃい。必ず帰ってくるんだよ」と、慈愛に満ちた眼差しで、若き冒険者たちを送りだした。
⌛︎⌛︎⌛︎
順調にジークタリアスへの道程をいくライト達。
その
「うわぁあ! 【白魔術師】だからって、白いローブ着てくるんじゃなかったあー!」
はねた泥に汚れて、
ライトと背の高い赤髪の少年ーーボルディは、腹をかかえて笑いすぎの涙を目端にうかべる。
グウェンは、鼻をすすりながら、二度とホワイトローブなど着ないと硬く心に誓って、ひとつ成長した。
「はぁ、にしても、もう丸2日くらい歩いたのに、まだ付かないのかー。じいさんは『道なりに歩いて1日くらいだな』とか言ってたのになー」
比較的、魔物が出てこない街道沿いで焚き火を起こして温まりながら、横たえた丸太に寝て、ライトは退屈そうにつぶやいた。
「多分、鍛えられた元ポルタ級冒険者の足だからじゃないかな。僕たちはまだ体も小さいからね」
「ボルディの言う通りね。でも、たぶん流石にそろそろ見えてくるよ。前に行った時も、そんな遠い感じはしなかったしね! 明日にはきっと、ジークタリアスに到着してるに違いないね!」
元気に宣誓するグウェンに、ライトとボルディはともに明日のジークタリアス到着を誓った。
ーーガサガサ
「っ」
楽しく笑いあっていると、ふと、草むらの影から現れた、獣の影に少年たちは息を呑んだ。
「街も近いはずなのに、まさかこんなところで魔物に出会うなんて……」
「ら、ライト、わたし、ど、どうすれば……」
喉を引きつらせ、グウェンは涙目で助けを求めた。
「大丈夫だよ、グウェン、俺が君を守る」
「っ」
「そして、世界で2番目に最強のスキル〔
なんとも心強い言葉に、グウェンは胸の高鳴りを感じていた。
したり顔のボルディは、ゆっくりと中盾と剣を持ちあげ手堅い構えにはいる。
「よし、それじゃ、やるか! 『キリケリの刃』、初の魔物退治だぁあー!」
⌛︎⌛︎⌛︎
焚き火の炎が散らかる現場。
火のついた木の枝を集めなおし、指先を火傷しながら、なんとか焚き火を復活させて一息いれる三人。
ボロボロになったライトの前で、グウェンは目をつむり、手の甲にうかんだ『
「詠唱開始
女神の加護をここに
傷ついた肉体を癒し、耐え抜いた魂を癒し
神秘の扉を開きたまへ
わたしが守り
わたしが癒し
わたしが助ける
来たれ、祝福よ
来たれ、刻印よ
来たれ、清浄よ
癒しの聴き手、このモノを救いたまへ」
ゆっくりと詠唱を唱え終わり、ライトの頬に優しくふれるグウェン。
ーーバリバリバリバリッ
白い雷が、ライトの頬をつたって全身に広がった。
「痛痛痛痛痛いぃいー!? あぁあー! いったぁああー! もっと優しくやれよーっ!?」
頬を
「し、仕方ないでしょ! 戦うまえにあんなこと言うから、すこし張り切っちゃったんだから!」
「戦うまえに……? 俺なんか言ったっけ?」
ライトはポカンとした顔で、頬を染めてうつむくグウェンを見つめる。
ライトの言葉が、グウェンを惚れ直させたことに、まだまだ子供な彼自身が気づくわけもなかった。
「……僕が思うに、これはライトが行けないかな」
「……? それどういうーー」
ボルディが静かにつぶやいた後、グウェンのつま先はライトのすねを打ち抜くのは時間の問題だったようだ。
⌛︎⌛︎⌛︎
翌日、3人の若き冒険者は、念願の街へ到着した。
幼い頃より、元高位冒険者の口で数々の冒険譚を聞かされて育ち、10歳の『
少年少女は目をキラキラさせて、街を駆け、探検し、疲れきってから宿をとって、おおいに眠った。
翌日から、彼らの冒険者生活が幕を開けた。
⌛︎⌛︎⌛︎
ーー半年後
すっかり冒険者としての生活が板についた少年少女たちは、今日もまた冒険へ挑む。
冬を越して、暖かくなってきた今日この頃。
ライトとボルディは、近隣の草原へ薬草を採集しに。
貴重な〔
彼らは、日々の糧を得るのにコツコツ頑張っていたーー。
「ーーって、違ーうっ!」
「い、いきなり、どうしたの、ライト」
「『どうしたの、ライト?』じゃないわ! 俺たちが憧れた冒険譚は、薬草採集を極めて、環境を見ただけで草の群生地をわりだす薬草マスターたなることじゃない! 違うだろ、こうじゃないだろ!」
ライトは摘んでいた薬草を、地面に叩きつけようし、思いとどまり、背中のカゴに放りこむ。
「違う、だろ……こんなんじゃ、こんなはずじゃ、ないのに……」
「ライト……ごめん、僕がヘマしたから」
ボルディは申し訳なさそうに顔をさげた。
彼らの夢見た冒険者生活が、日々を生きるためにアルバイトするように変わってしまったのには訳がある。
話は、2週間ほどの前にさかのぼる。
ライトたち3人は、最下等級の″猫級冒険者″からスタートして、受けられるクエストは何でも受けまくり、若さゆえの素晴らしい働きで、多くの経験をつんでいた。
(そう、劇的なレベルアップも経験して、すべてが楽しかった毎日だった。ギルドのお姉さんからも褒められて、グウェンに足を蹴られたりしながらも、あとちょっとで、次の等級である″熊級冒険者″に上がれそうになっていたのに……)
その頃、ライトたちはらだんだんと街の事情にも詳しくなっており、この街に【施しの聖女】なる、とっても綺麗で可憐な尊き方がいると聞き及んでいた。
しかし、誰が噂の聖女様なのかわからない。
話によると、『英雄クラン』という最高等級の超先輩のパーティで活躍してるらしい。そう聞き、ライト達は、ギルドで待ってれば会えると考え、はじめて酒場でミルクを飲みながら時間を潰していた。
一刻もはやく立派な冒険者になりたいライト達には、それまで暇などなく、また年も若すぎることから、ギルド内に知り合いが出来ることもなく、日夜、クエストボードと受付、宿屋とクエストを高速でまわしていたのだ。
ギルドで待っていると、ついに目的の人物は現れた。受付のお姉さんに確認をとれば、どうやら間違いない。
ライトもグウェンも、ボルディでさえも、聖女のもつ高貴なオーラに呑まれていった。
だが、ライトは気になってしまった。
どうして、聖女様はあんなに悲しそうなのか。
そして、不幸なことに理由に気がついてしまった。
かたわらの紅い瞳が男が原因だと。
笑顔なのに、心は泣いている。
聖女様が、そんな不幸な目に逢うのはおかしい。
まわりの誰も助けないなら、自分が助ける。
「聖女様、嫌がってますよ! 離してあげてください!」
ライトがそう言った瞬間、聖女は目を丸くして驚きを表し、自身の手首を掴む紅瞳の男の手をふりほどいた。
が、それが全ての急変のはじまりだった。
男の平手ひとつで、ライトは簡単に吹っ飛び、意識不明の重体、激昂したボルディが掴みかかるもの、膝蹴りを受けて、ライト以上の重体。死にかけていた。
グウェンが泣きながら頭を下げて、その場は収拾ががついたが、それ以来、ライト達にはギルドに居場所がなくなってしまったのだ。
ゆえに、彼らはギルドでない、街の錬金術師から直接頼まれた薬草採集や、神殿でのアルバイトで、この2週間を生きるため稼ぎをはじめたのだ。
「ぅぅ、間違ったことなんて、してない、俺は、俺は、あの男が間違ってると思う……」
「僕もだよ。でも、話によるとあれは『力』のアインって呼ばれてる魔剣使いの【英雄】だよ。猫、熊、オーガ、ポルタ、ドラゴン……僕たちの、遥かさきにいる最強の冒険者のなかでも、一番に強い魔剣士だ」
ボルディは悔しさを噛みしめながら、薬草を引っこぬき「僕たちとはすべてが違う」と、力なく首をふった。
「ほう、だから、こんなところで草むしりってわけかい、坊主達。いや、おっさん、そういうの感心しないなぁ」
「っ」
突如聞こえた声に、ライトとボルディはピクリと体を震わせて、顔をあげる。
そこには、ライト達が薬草採集する手前で、いつからか同じように薬草を採集している、壮年の男がいた。
(え、この人、いつからここに?)
まったく、接近されたことに気づかなかったライトは、背筋を冷たいものがつたっていくのを感じていた。
「えっと、あなたは?」
「いいからいいから、そんなの。大したもんじゃないから。とにかくね、坊主達、おっさんが言いたいのは、この俺は坊主達のファンだってこと。わかるか? いや、本当、お前たちの一生懸命な顔とか、最近、やけに
「はぁ。えっと、でも、俺も剣士だから何となくわかるんですけど、あなたも″相当な実力者″では……」
ライトにはわかった。
意識を集中すれば、目の前の壮年の男もまた、尋常に域におさまる存在ではないのだと。
「特に魔力……スキルとか使ったりして注意くらい、出来たりしないですか?」
「いや、無理無理。可能かどうかじょなくて、おっさんがビビっちゃったからね。……それに、おっさんのスキル、閉じこめるだけだしなぁ、あとが恐いよねぇ」
男はなにかを考えながら「いや、でもやっぱダメだね」と考えを改めている。
「いやそれよりね、坊主達、今話をしといたほうがいい話があるってわけだから、ちょっと聞いといた方がいいぜ」
男は草の汁で染まった手を手拭いでふいて、ふところから羊皮紙を取りだした。
それは、ちまたで話題の『緊急クエスト』へ参加するための用紙だった。
ギルドへ行かないと手にはいらない紙だ。
「おっさんは、何かするわけじゃない。いやね、前途ある若者に選択肢すら与えられないのは、どうかと思ってね、ほんと」
ヒラヒラとさせる紙を、ライトは受け取った。
「これに出て、『
「あー、いや、そこまで高望みはしないほうがいいな。おっさん、坊主達に死んでほしいから、これを渡すんじゃねぇからなぁ。『赫の獣』の討伐自体は『氷結界魔術団』がやる。それにサポート入れるだけでも、猫級の坊主達になら、十分な功績っていうわけだ。そら、名前書いた書いた。今日から、またギルドに戻ってこい。アインのやつには、おっさんが勇気だして『後輩いじめるな』って言っといてやっから」
「っ、ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございますっ!」
少年たちの感謝の言葉を受けて、壮年の男は満足そうな立ちあがる。
そして、薬草カゴを背負いなおし、足早にどこかへと行ってしまった。
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