#45 【初配信】三期生デビュー【あるてま】

「今宵ちゃんこの後カラオケ行かない?」

「その後は明日休みだしトモの家でオールしよ!」

 

「あ、え、その、今日はどうしても外せない用事があるので……」

 

 衣装は揃ってメニューも決まって。

 後は教室の飾り付けだけになって、教室の端でちまちまと装飾を作っているとクラスメイトからお誘いがあった。

 どうして陽キャどもはすぐ陰キャも誘ってカラオケに行きたがるんだろうか。お前ら陽キャだけで楽しんでおけよ……。

 とはいえ、今日は本当に用事があるので何が何でも断るのだが。

 

 そう、今日はなんと言ってもあるてま3期生のデビュー日だ。

 19時から1人30分ずつ、計6人の後輩がデビューする。

 だから先輩として、頼れる先輩として見逃すわけにはいかないのだ。

 

「そっかぁ、残念。黒音さんいつも忙しそうにしてるもんね」

「また今度いこうねー」

 

「あ、はい」

 

 ところでわたし、まだ恒例の挨拶通話してないから後輩がどんな子か知らないんだけど大丈夫なのかな。

 

 ◆


【初配信】九天 溢です【あるてま】

 12,456 人が視聴中・九天 溢 チャンネル登録者数 6,978人 


:遂にこの日が来たな

:ドキドキしてきた…

:3期生のトップバッターはマトモな子だといいな

:2期生…トップバッター…何故か2回行動の大トリ…ウッ頭が

黒猫 燦:オイ


 シャワーを浴びて、晩御飯も食べて、お菓子とジュースをセットして視聴準備は万端。

 あるてまで通話をしながらデビュー配信を見るという案がディスロでは出ていたけど、わたしは1人ゆったりと見たかったので断った。

 待機所は既に盛り上がっている。

 1期生の時より多かった2期生、それより更に多い3期生の同接数はそれだけVtuberという概念がオタクの間に広まって、そして期待されているという証だろう。

 

 あー、自分のことじゃないのにソワソワするぅ。

 

:来るぞ、来るぞ

:どうか事故りませんように

:炎上だけはしませんように

来宮 きりん:まとめ役ください

 

 19時、少し過ぎて1分。

 

「どもどもー」

 

:きちゃ

:どもどもー

:かわいい!

:ほーんええやん推すわ

 

「わぁ、沢山いますねー。暇人の皆さんお疲れさまです」

 

:!?

:暇人!?

:(正解の音)

:ままかわええから許したるわ

 

「うそですようそ、皆さん私に会いたくて来てくれたんですもんねー? ありがとうございます。じゃ、軽いジョークも挟んだことですし早速自己紹介いきましょーか」

 

:ちゃんとしたデビュー配信だ…

:感動すら覚えるな

:サクサク進行いいぞー

 

「あるてま3期生、九天 溢くてん いつです。好きなタイプはイジり甲斐のある可愛い人、逆に苦手なのは生真面目な人ですかねぇ。まあ適当によろしくお願いします。あ、これ当日発表の公式プロフィールです」

 

【プロフィール】

【九天 溢】

 古今東西マイペースガール。

 普段被っているパーカーはその日の気分で変わる。

 甘えたがりだが意外と毒舌。

 

 パッと画面が切り替わり、今まで非公開だったプロフィールが映し出された。

 ようやく公開された情報の数々にチャットが一気に勢いを増す。

 そうだよなぁ、3期生の情報って全く公開されてなかったもんなぁ。

 2期生のわたしですら何も知らされてなかったんだから、視聴者からすれば待望の新情報の数々に水を得た魚状態だ。

 

 にしても九天溢ちゃん、か。

 紺碧の長髪にパーカーを纏った可愛らしい子だ。

 ちなみに胸は控えめ。ヨシ、先輩としての威厳は守られた。

 

「あはぁ、皆さんはしゃぎ過ぎですよ。がぶーっと咬みますよー?」

 

:サメパーカーかわいい

:拙者パーカー系女子すこすこ侍

:シャネルカ・ラビリット ✓:サメはアニマル組に入りますか?

:なんかこの子癖になってきた

 

「あ、シャネルカせんぱーい。この前は通話楽しかったでーす。またお喋りしましょうね?」

 

:もう仲良しか

:兎の餌食に

黒猫 燦 ✓:え、通話とか聞いてない

:あっ

 

「黒猫さんこんにちは。やー、本当は黒猫さんともお喋りしたかったんですけどねぇ。ウチのマネージャーさんに3期生は黒猫さんと接触禁止って言われてて」

 

 は?

 なにそれいじめか??

 あるてまとA of the Gパワハラで訴えるか???

 

夏波 結:燦から情報漏れたら、ね…

:せやな 

:うっかり雑談で色々こぼしそう

:みんなよく我慢した

黒猫 燦 ✓:みんなが私をどう思ってるかよーくわかった

 

「まあ、それは置いといて。このパーカーかわいいですよねー。実は他にもいっぱいあるんですよ。猫とかうさぎとか、ペンギンなんかもありますねぇ。また今度着てきますね?」

 

:楽しみ

:オタクこういうの大好き

来宮 きりん✓:きりんさんはありますか

世良 祭:きりん、じゃましない(#^ω^)

相葉 京介:気にしなくていいぞ

 

「さて、時間も少ないですしサクサクいきましょー。配信内容ですけど雑談とかコラボとか多めにやりたいですね。ゲームはひとりでやるより視聴者参加型? とかメインでやりたいです。ほら、私って寂しがり屋なので」

 

 いやぁ、この短い時間でもこの子は寂しがり屋には全く見えなかった。

 むしろ神夜姫先輩や終理永歌のような、人を弄ぶのが趣味なタイプ……。

 い、嫌な予感がする。

 

「あー、そろそろ時間もないですし最後に告知だけしますね」

 

:お?

:告知?

:なんざんしょ

 

「明日の21時から黒猫さんと、私の次に配信する子でコラボしまーす。いぇーい」

 

黒猫 燦 ✓:は?

:こwれwはw

:まーた黒猫か

:本人すら知らないコラボとは

:いつものあるてまじゃん

 

 いや、聞いてないんだけど。

 確かに運営から明日の夜は時間を空けておくように言われていたけど、3期生の情報わたしだけ内緒なのにデビューの翌日にコラボとかおバカが過ぎるのでは???

 企画者出てこい?

 

「で、翌々日には永歌先輩の週末ラジオにお呼ばれして、週が明けて半ばの水曜日は結先輩のラジオにも出演するのでよろしくお願いしまーす」

 

:コラボ沢山!

:気合入ってるねぇ

:第二の夏波結だ…

:コラボおばけ!

 

「では、お時間もそろそろですので本日はここまで。皆さん、またあしたー」

 

:ばいばーい

:おつかれさまー

:ないすデビューでした

:高評価999回押した

黒猫 燦 ✓:コラボNG

:ええやん推すわ

 

 ◆

 

「ねえ聞いてないんだけど!?」

 

 配信が終了して次の配信が始まるまでの数分のインターバルで結へ通話を繋げる。

 もちろん明日のコラボに抗議するためだ。

 

「ほんとゴメン! けど最近の燦ってばよく口を滑らせるから危ないなって思って」

「うっ、ま、まあ、3期生のことはいいよもう。けど明日のコラボは急過ぎるって」

「私もそう思ったんだけどね。運営曰くリスナーと同じ情報量の燦がコラボしたら親近感湧いていいんじゃないか、って」

 

 いやいや、確かに今のわたしは視聴者とほぼ同じ目線だけども。

 だからこそ同じ目線の人間がコラボするってのは危険なのに、運営は何を考えてるの!?

 こう、コラボってのはちゃんと下調べしたり事前通話したりサムネ作ったり会話デッキ作ったり色々準備が──ん? わたしってコラボの準備したことあったっけ……?

 

「話した限りじゃふたりともいい子だから多分大丈夫。何かあったらフォローするし、ね?」

「うぅ……わかった」

 

 どうせ予定はなにもない、というか土曜のその時間はもともと配信をしてないときは結と通話している時間帯だし。

 

 まあ、運営の無茶振りは今に始まったことじゃない。

 一部の例外を除いて突発的に見えるコラボだって、ちゃんと事前に運営に話が通っている。

 例えば祭先輩と初コラボ、例えば結と初コラボ。

 わたしが知らないだけで運営は全部把握しているのだ。

 

 だって土日や夜空いてるかとか、マネージャーに毎週スケジュール提出しなきゃいけないからねぇ……。

 突発的に予定が入っても、結にはたいてい伝えているのでそこ伝いでマネージャーに連絡が行くし。

 暇してるのは端から筒抜けである。

 

 だから仕事を捩じ込む?

 お? やはり運営が諸悪の根源では???

 

「あ、そろそろ次の子始まるけど向こうの通話入る?」

「……はいらない」

 

 ◆


【初配信】神々廻 ベアトリクスよ【あるてま】

 14,126 人が視聴中・神々廻 ベアトリクス チャンネル登録者数 6,159人 


:期待が高まる

:名前からしてオーラを感じるわ

:3期生も推してくでー

:この娘が明日のコラボ相手ね!


 どうしてデビューしてない顔も知らない後輩が明日のコラボ相手なんだろうか……。

 まあ、気を取り直してお菓子片手に見よう。

 

「うぅ、緊張する……。あーもう、噛んだらどうしよ……」

 

:お?

:始まってるよ

:初配信恒例助かる

:ノルマ達成

 

「え、えぇ!? これもう始まってるの!? やらかしたぁ……」

 

 画面に映るのはちょっとツリ目の金髪ロングの巨乳だ。

 あ、これオタクが好きなやつ!

 

「あー、えっと、うー……ヤバい、頭真っ白」

 

:がんばれ!

朱音 アルマ ✓:ゆっくりでいいぞ

:深呼吸してけー?

 

「すぅ、ふぅ……。よし、落ち着いたわ。改めて、あるてま3期生、 神々廻ししばベアトリクスよ」

 

 言い終わると同時、画面が切り替わる。

 まあ、カンペが出てくるとかそんな訳はなくまたしても公式プロフィールが表示された。

 

【プロフィール】

【神々廻ベアトリクス】

 母は海外の貴族、父は一般日本人。

 大恋愛の末に日本で駆け落ちして生まれた17歳ハーフの女子高生。

 口で嫌いとは言いつつも本心は好きなツンデレタイプ。

 ついつい言い過ぎて後で反省会を開いているらしい。

 

「はい、これがわたしのプロフィール。運営ちゃんが用意してくれたんだけど、なにこれツンデレって。おかしくない? おかしいと思わない?」

 

:ツンデレじゃなくてポンコツだよなぁ!

:そういえばあるてまってツンデレ系いないな

:黒猫が実質ツンデレ

:あれはチョロイン

:ベア子かわいいよ

 

「ちょっと可愛いとか言いながらベア子なんて可愛くないあだ名やめてくれます?」

 

:けど本心では嬉しく思っている

:なるほどなぁ!

:ツンデレ、なのか……?

:お前にデレてないだけや

 

「普通にベアって呼びなさいよ……。いやそもそも馴れ馴れしくあだ名使うんじゃないわよ!」

 

 神々廻ベアトリクス、この子が明日のコラボ相手かぁ。

 配信直後のつぶやきを見るに結構ドジっぽそうだけど、明日のコラボ大丈夫なのかな……。

 

「えっと、いっちゃんは他になに言ってたっけ」

 

:いっちゃん!?

:だれ!?

:九天溢でいっちゃんか…

 

「え、あっ、ちがっ、これは溢がそう呼べって言うから仕方なく呼んでるだけで。別にあだ名ぐらい良いじゃない!」

 

:馴れ馴れしいやつだ…

:らぶらぶじゃん

:いつべあ?いつべあ?

:好みの異性言ってたよ。あ、同性か

 

「は、はぁ!? だから違うってもー!」

 

 画面の向こうではぁ、はぁ、と肩で息をしている様が容易に想像できた。

 そうだよね、視聴者のチャットにツッコんでると疲れるよね。先輩分かるよ。

 

「好きなタイプは内緒よ! 嫌いなタイプはアンタたちみたいな意地悪な奴ら! わかった!?」

 

:取り敢えず嫌いなタイプじゃなかったは

:せふせふ

九天 溢 ✓:みーてますよー

:彼女もようみとる

 

「違うっつってんの! ハイ次! あれよね、配信内容よね、取り敢えず雑談は極力しないようにするわ」

 

:お喋りして;;

:毎秒雑談して;;

:そもそも明日雑談コラボじゃね

:たしかにー

 

「うっ、明日は仕方ないじゃない。溢がどうしても先輩とやりたいって言うんだし……」

 

 どうやら明日のコラボの主導者は九天溢らしい。

 まあ、本人のノリ的にそんな気はしていたけど、本当に人と絡むのが好きな子だな。

 

「ともかく、当面はゲーム配信をメインでやるわ。そんなに喋りも得意じゃないしね」

 

:ベア子の喋り面白いよ

:もっと喋れ

:ベア子ォ!可愛いぞ!!

 

「うっさい! もう時間だし告知して終わるわよ。明日は溢と猫ちゃんでコラボするから絶対来なさい、以上!」

 

:猫ちゃん……?

:(先輩)

:黒猫さんと呼ばれ、猫ちゃんと呼ばれ、先輩の威厳とは…

 

「あっ。ま、まあ別に問題ないでしょ。問題ない、よね……?」

 

:黒猫だしな

:ええんちゃう

:淫猫だから気にしなくていいよ

:ちゃん付け助かる

 

「はぁ……取り敢えずこれで終わるわよ。次は……あー、おっさんの配信だから楽しみにしてなさい」

 

:おっさん!?

:あるてまも遂におっさんデビューか

:黒猫とかは心におっさん飼ってるけどね…

:おっさん助かる

黒猫 燦 ✓:お前ら見てるからな

 

「あ、猫ちゃん。かわいい」

 

:!?

:あ、配信切れた!

:おつかれー

:最後まで事故ってったな…

:ええやん推すわ

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