#39 【念願のコラボ】今日は特別ゲストを用意したぞ【我王神太刀/あるてま】

 新学期が始まって暫く。

 Vtuberを通して人間的に成長したわたしだが、だからと言って私の生活が劇的に変化するなんてことはなかった。

 強いて言えば夜遅くまで配信をしていると翌日の学校が眠くて眠くて仕方ないといったぐらいで、入学した頃と何も変わらない代わり映えしない日々を送っていた。


「あ、ぇぅ……く、黒音しゃんっ!」


 訂正。

 わたしの日常にもなにか変な小動物がうろちょろするようになった。


「黒音さん、黒音さん」「黒音さ、ぎにぃ!?」「うぇ、ぐすっ、黒音さん……」


 なんだろう。

 妹を見守るような、いやもしかしたらドジな子犬を見守るようなこの感情は。

 歩けばすぐに転んで、話すとすぐに噛む。そしてすぐ泣く。

 こんなか弱い生物がこの世に存在するのか!?!?


「え、えへへ、黒音さん……」


 思わず泣いている彼女の頭をナデナデしてあげると、さっきまでの涙が嘘のように花が咲いたように笑う。

 ……かわいいな。


 ともかく、わたしの日常もなんだか少しずつ変わってきているような、そんな感じだった。


 ◆


【念願のコラボ】今日は特別ゲストを用意したぞ【我王神太刀/あるてま】

 14,090 人が視聴中・我王 神太刀 チャンネル登録者数 80,150 人


「紅蓮の炎に抱かれろ!」


:紅蓮の炎に抱かれろ!

:¥10,000 初手スパチャ

:我王様ー


「我の放送へよくぞ来た家臣共。今日は2人のゲストが来ているぞ、一人は此奴だ」

「オトばんわー、あるてま2期生の戸羽乙葉です。今日はよろしくおねがいしまーす」

「こ、こんばんにゃぁ……。黒猫燦です、よろしくです……」

「と、言うわけでこの2人がゲストだ。今日はよろしく頼む」


:¥5,000 『速報』我王コラボ成立

:我王、よく頑張ったな……

:罰ゲームとか企画以外でマトモにコラボしたのってもしかして初…?

:これはあるてまの歴史が動いた瞬間


「えぇい、貴様ら! 我がコラボすることの何が可笑しい!?」

「あはは、我王さんはコラボ禁止枠ですから」

「共演NG」

「同期からの我の扱い酷くない?」


 そんなわけで今日は我王の配信へお邪魔していた。

 普通、女性Vtuberが男とコラボするとガチ恋勢が裏で叩いてきたりするものなんだけど、リアルタイムでわたしのマシュマロを確認してもそんな気配は欠片もなかった。

 ディスコで2人に確認してみてもやはりそんなマロは来ていないらしい。

 あれ~~~????


「さて、今日何をするかだが」

「普通にお喋りします」

「我の台詞を盗るな」


:同期からもリスナーからも辛辣な我王

:それが我王やん?

:わたし我王のガチ恋勢だけどこれでこそ我王かなって最近思い始めた

:炎我王炎


「燃やすなッ! 貴様を紅蓮の炎で焼くぞ!?」


 ここで言う紅蓮の炎とはブロックである。

 まあアンチとかスパムに対して実行されるもので、一般リスナーに対しては言葉だけなのは周知の事実である。

 しかし男組とコラボである。

 正直、以前男組へ対して過激な発言をしたらしい、、、わたしとしては、コラボすることに対してちょっとした後ろめたさがあった。


「で、コラボとは一体何をするんだ?」

「えぇ……、我王さんまさか何も考えずにコラボに誘ってきたんですか?」

「そ、そんなわけなかろう!? しかしここはコラボ経験豊富な子猫がバシッと仕切ってくれるに違いない」

「んぇえ!?」


:我王の無茶振り

:コラボすると弱気になる我王

:そして意外と辛辣な乙葉君

:大人しいけど地味に毒強いよね…


 誘ってきたのは我王だ。

 その時は自信満々に同期でコラボだ、と言っていたのに蓋を開けてみれば参加者はわたしと戸羽乙葉と我王の3人。

 しかも無計画。

 この我王、実は頼りないのでは……?


「えと、初コラボだったら普通にマシュマロ読んだりとか、なんか簡単なゲームしたりとか……」

「マシュマロ、なるほどな」

「けど告知してなかったからあまりマシュマロがないんですよね」

「では我のクソマロでも焼くか」


【マシュマロ】

 自宅で簡単!我王で焼ける!クソマロスイーツ「スモア」!!

『材料』

 ビターの板チョコ ……1枚

 マシュマロ ……10個

『作り方』

 耐熱皿に板チョコを砕いて並べます。

 お好みのマシュマロを考えて、チョコの上に並べていきます。

 ※甘さが気になる人はクソマロでもOK!

 我王神太刀に投げます。

 紅蓮の炎でマシュマロを焼いてできあがり!

 料理が苦手な方でも、我王くんが焼いてくれるので火加減要らず!簡単安心レシピです!是非、一度お試しあれ!くろぴか!!!


:草

:紅蓮の炎は便利だなぁ


「我ほどになると紅蓮の炎で料理も出来るからな。余裕だ」

「スモアってなに?」

「キャンプでよく作られるお菓子ですね。マシュマロを焼いてチョコを乗せたクラッカーに挟んで食べるんです。甘くて美味しいですよ」

「はぇ~勉強になる」


:公式設定でお菓子たくさん食べたいって言ってた猫

:ちなみに猫なのにチョコが好物である

:え、乙葉君がお菓子作ってそれを端から黒猫さんが食べる回だって!?


「いいですね。黒猫さんやりませんか?」

「え、やだ」


:即答するな!

:乙葉くんショックで固まったぞ!?

:そこは普通社交辞令でも返事するもんだ

:これだから陰猫って呼ばれんだよなぁ


「だってお菓子食べるってそれ目の前にいるってことじゃん!? 無理だろ死ぬぞ私!?」


:あー

:なーるほどな

:納得

:せめて全体企画なら…

:あるてま2期生でお菓子作りか

:作れそうなのゆいまましかいない件

終理 永歌 ✓:観てますよ

:ひぇ!?


「では次のクソマロへ行くか」


【マシュマロ】

 ――平穏な日々は、終わりを迎える。

「我が名は我王神太刀がおう かみたち! この宇宙の支配者である!」

 燦達の前に現れたのは、全てを燃やし尽くす地獄の獣。

 炎雷をその身に纏った破壊の王。

 その餓えた視線は、倒れ伏した友――『夏波結』へと向けられていた。

「そこな人間……光栄に思うが良い。その身を我が糧としてやろうッ!!」

 我王は獰猛に笑う。

 その牙を剥き出しにし、肉を貪り骨を噛み砕きたいと喉を鳴らす。

 そんな我王の前に、燦は立っていった。

 その小さな体は震え、毛は恐怖で逆立ち、本能が今すぐ逃げろと叫んでいる。

 けれど燦の心は、大切な友達を見捨てたくないと泣いていた。

 彼女がくれた温もり、彼女がくれた優しさ……たくさんのキラキラとした宝物。

『――ねぇ燦。私たちもうとっくに友達でしょ? だからさ、一人で抱え込まないで……私にもっと、頼ってくれていいんだからね?』

 燦と友達になってくれた。

『また無茶して。燦ってば危なっかしいんだから……これじゃ、目が離せないよ』

 いつも優しく、燦を見守ってくれた。

『燦の事が心配なの。お願いだから、一人でどっか行かないでよっ!』

 燦の為に怒って、泣いてくれた。

『……ありがとう、燦』

 燦を信じて、頼ってくれた。

 我王の襲撃から燦を庇い、結は気絶してしまった。

 彼女を守りたい。

 燦は大切な人を守る為、我王へと立ち向かう。 

「にゃあっ!!」 

「……なんのつもりだ子猫ッ! 我が紅蓮の炎に焼かれたいか!」

 我王の唸る様な威嚇に、燦は『うるさいっ!』と吼えた。

「にゃああああああ!!!!」

「なっ!? 子猫風情がぁあああああ!!!!」

 ――ゆいは、私が守ってみせる!

 そこにはもう、臆病な子猫などいない。

 ただ一匹の――理不尽へ抗う勇者がいた。

 これは小さな黒猫の、大きな勇気の物語。 

『劇場版あるてま☆サンシャイン! ~臆病な黒猫と紅蓮の獣~』 絶賛放映中!

「…………ふにゃっ!?」

【燦の見る夢 END】


「なあ……我のマロってSSマロ多いんだが貴様らはどうだ?」

「僕はそんなにSSマロは来ないですよ? 献立の相談は毎日来ますけど」

「私はいろいろ来る」


 クソマロもSSマロも闇マロも応援マロも性癖マロもアンチマロもたくさん来る。


「で、SSだが……地獄の獣なのに宇宙の支配者で破壊の王って設定盛り過ぎでは?」

「我王さんがそれ言っちゃうんですか?」

「紅蓮の炎に抱かれろにゃ」


:ぶっちゃけこれ燦ちゃん勝ち目ないよね

:だって地獄の獣で宇宙の支配者で破壊の王だもん

:オマケに紅蓮の炎と漆黒の雷使えるからな…


「というか、これって黒猫さん本当に子猫になってません?」

「あ、たしかに……」

「どうやって我に勝つのだこれ」

「我王さん負けるんですか?」

「いや、どう見てもこの流れは我が負けないと可笑しいだろ」


:子猫に負ける我王

:既に今日のコラボで負けてるようなもんだけどね…

:しー


「は? 我負けてないが?」

「ざーこ」

「黒猫さん、お口悪いですよ?」

「にゃーん……」


:戸羽くんはじめて見たけど良いストッパーだね

:他のあるてまに比べると大人しいんだけど天然毒舌だから地味に一番刺さるんだよねぇ

:我王と黒猫だけなら絶対煽り合いになって配信終了してたから乙葉くんいてよかった…


「じゃあ今度は私のマロを紹介します、にゃ」


【マシュマロ】

 我王のことはどう思ってる?ただの怖い人?


「おバカ……?」


:www

:黒猫さんは正直だなぁ

:どっちもおバカでFA


「子猫、屋上へ来い」

「屋上ないですよ?」

「やっぱりおバカじゃん」

「あー! あー!!」


 いやぁ、戸羽乙葉は我王をいじるには丁度いい人材だ。

 最初は男組へ混じって大丈夫かって不安だったけど、案外なんとかなるもんだね!


「じゃあ次いくよ次」


【マシュマロ】

 我王君に色目使わないで

 このぺったんまな板おニャン子クラブ


「は? ボインボインだが??」

「鏡を見たほうが良いぞ」

「黒猫さんは我王さんに色目を使ってるんですか?」

「使ってないから! 男キライッ!!」


:ついにぶっちゃけやがったコイツ

:やっぱりレズじゃないか

:男コラボNG黒猫さんですにゃ


「え、と。僕男なんですけど嫌われてるんです? ごめんなさい」

「あ、や、え、違う。いや、えぇ……」


 戸羽乙葉が純粋でつらい。


「それで女大好き黒猫燦は」

「やめろ!?」

「男キライ黒猫さん?」

「やめて!?」


 ちょっと前にエゴサしたら、黒猫燦はあるてまの女好き枠とか言われていてちょっとショックを受けたんだぞ!

 女なのにスケベポジに入れられる人の気持ち考えたことあるんですかぁ!?


「あ、じゃあ僕のマシュマロ読みますね」


【マシュマロ】

 オトばんわー。

 今回同期男3人コラボということですが、次回以降やってみたい企画などありますか?


「待って、男3人って私女なんだが!?」

「まあ実質男ということだろう」

「黒猫さんは可愛い女の子ですよ?」


:乙葉くんw

:フォローなんだけどずれてるんだよなぁ!

:そこがいいところだよ


「やっぱりさっきも言いましたけど、お菓子作りとかいいですよね」

「菓子作りか……。我は肉を焼くしか出来んな」

「お菓子に肉は必要ないんだが?」

「普段の料理の話だ!」

「いやぁ、喧嘩するほど仲が良いんでしょうか。皆さんどう思います?」


:相性良さそうだよね

:実は息ピッタリ

:乙葉くんいないとダメそうだけどね…


 実際、我王と2人でコラボすると絶対に途中で息切れして失速するのが目に見えている。

 だから間に結とか戸羽乙葉みたいなクッションを挟むのがベストだと思っている。

 あれ、そういえば結がいなくてもコラボできるようになったのって、いつからだっけ……?


「じゃあ次行きましょうか」


【マシュマロ】

 紅蓮の炎でオトこんばんにゃー。

 乙葉くんは我王さんと黒猫さんのいいところ言えますか?

 僕は思いつきません。


:言えないんかい!

:ひっどいなw

:まあ素で癖の強い2人だからなぁ

:我王は兎も角、黒猫の良いところね…

:えーっと、なんだろうな

:あれ、マジで思いつかないんだけど


「なんなんなん!?」


 わたしのいいところたくさんあるだろ!

 顔が良いとかスタイルが良いとか、他には、可愛いとか美少女とか、なぁ!


「我王さんは真面目で良い人ですよ。夏コミの感想動画を撮る時も積極的に話しかけてきてくれましたし、コラボも良く熱心にお誘いしてくれます」

「いつも断るけどな」

「あはは、都合がなかなか付かなくて」


:コラボNG我王くん…

:共演NGじゃなくて世界が我王をコラボさせまいと動いていたのか

:異世界の人間だから世界が敵なんだよ(適当)


「黒猫さんは一見臆病なのに人との繋がりを誰よりも求めているんですよね。だからコラボも2期生の誰よりもやってますし、端にいるように見えて実は常に様子を伺っている。とても一生懸命で良い人です」

「……やめてぇ」


 顔から火が出そう。

 え、なんでこんな羞恥プレイ受けてんの?

 コイツ陰キャは褒められるのが苦手って知らないのか!?


「あれ、他にも2人のいいところはたくさんあるんですけど、もう言わないほうが良いですか?」

「もう勘弁してください」

「我は別に構わんが」

「私が限界なんだよ!」


:恥ずかしそうな黒猫さんじゃん

:ちやほやされたいとか言いながら褒められ慣れてない黒猫さんじゃん

:黒猫さんはかわいいなぁ~


「あーもう! 我王、次なにすんの!?」

「うむ、思いつかん」

「オイ!?」

「じゃあさっきの続きでお互いの好きなところを褒め合うのはどうですか?」

「やらないから! 絶対にやらないからな!?」

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