#文化祭
#38 【初コラボ】あるてまの金持ちとなんかします【黒猫燦/リース=エル=リスリット】
憂鬱な日々の始まりだった。
眠気と気怠さでまだ本調子ではない頭で、現実から逃避するようにスマホを確認する。
何度見ても8月が終わってもう9月になっている。
つまり最高にハッピーなサマーバケーションは終わりを告げて、これからはアンニュイな学校生活が再開されるというわけである。
どうせ夏休みの間何度も会っていただろうリア充どもが、歩道の真ん中でまるで感動の再会のように抱き合うのを睥睨しながら、ひたすら心を無にして歩く。
あーあ、リア充邪魔だなぁ。道の真ん中でクソ暑いのにクソ寒いコントしてるんじゃねーよ。
ホント邪魔、メッチャ邪魔、学校に着くまでに似た集団を2,3回は見かけたけどホント周りの迷惑考えてほしいよね。
いや別に嫉妬とかしてませんけど、はい。
どうせ教室入っても「久しぶり―」とか声掛けられないのが分かっててちょっと苛ついてるわけじゃないし! 最近Vtuber活動で楽しい毎日だったからリアルのボッチ生活思い出して寂しいとかじゃ全然無いし!
ガララっ、とわたしにはちょっと重い扉を開いて教室へ入る。
一瞬、ジロリと視線がこちらへ向けられるけど自分の友達じゃないと理解した連中はすぐに視線を戻して雑談へ興じていく。
ほら、久々のクラスメイトのご対面なのに誰一人として挨拶して来ない。わたしの学生生活なんてこんなもの。
自分を変えたくてVtuberなんて始めてみたけど、相変わらずリアルじゃボッチライフ。
懐かしくもある変わらない日常に、はぁ、と人知れずため息を零して自分の席へ──、
「お、おひゃにょぅ……」
一瞬、それが誰へ向けた言葉か理解できなかった。
ほぼ無意識の反射で声の方へ振り返ると、どこか小動物を想起させる女の子がプルプルと震えながらこちらを見ていた。
だからそれが自分に対しての挨拶だと理解した時、どうして自分に挨拶を? という驚きから小さく、
「……ぇ?」
と、戸惑いを漏らしてしまった。
あぁ、今のは失敗した。
コミュ障は急に話しかけられると吃ったり、驚きから声が漏れたりしてロクな返事が返せないのだ。
なんで挨拶されたのかは分からないけど、挨拶には挨拶を返さないといけないという、Vtuber活動で学んだ経験から直ぐに言葉を捻り出そうとした時。
「ぐずっ、ごめ゛ん、なざい……なんでもないでずっ……」
女の子は泣き出した。
プルプル震える体をガクガクと揺らしながら、必死に涙を堪えるように嗚咽交じりに謝罪を繰り出された。
え、は、え、ちょっと、どういうこと!?
まだ何もしてないのに!?
呆然としていると女の子は目元を拭いながら、ピューッと教室を飛び出していった。
あとに残されたのは伸ばそうと中途半端に持ち上がった左手と、クラスメイトの視線だけ。
な、何だったんだ一体……。
それから始業式が始まって、担任から2学期の簡単な説明がされて今日は解散となった。
2学期は学祭に体育祭に修学旅行とイベントが多い。
正直ボッチ、というか陰キャからすると地獄の目白押しだから授業を受けている方がまだマシなんだけどなぁ……。
そんなことを考えながら配布プリントを鞄に詰め込みながら、さっさと帰って今日の配信の準備をしようと立ち上がった。
今日はリース=エル=リスリットと初コラボだから緊張するなぁ。
あの人、湊の昔馴染みっぽいしどんな話したらいいのかよく分からないし……。
「あ、黒音さん!」
「ぴぃ!?」
背後から急に名前を呼ばれて、思わず悲鳴が出てしまった。
だ、誰だわたしの名を呼ぶのは!?
黒音なんて名前呼ばれるの久々すぎて驚いたぞ!?
「あ、え、と……」
なんて名前だったか忘れたけど、コイツは確かクラスのスクールカースト上位にいる女だ。
つまりリア充、わたしの対極に位置する存在。
そんな人間がなんで話しかけてくるの……。
まさかこれから校舎裏に呼ばれてイジメとか……?
う、うぅ……、ボッチでもイジメにだけは遭遇せずに過ごせてたのにどうして今更。
グッバイわたしのスクールライフ……!
「良かったらこれからカラオケ行かない?」
「え、カラオケ……?」
「新学期で久しぶりに顔合わせする子もいるから、景気づけにどうかなって。それで黒音さんもどう、かな?」
どうやらイジメじゃないらしい。
ホッと一息吐くがいや待てよ、とわたしの警戒センサーがビンビンに反応した。
カラオケとか言って呼び出しておいて個室で裸に剥かれて撮影されるとかそんなパターン……!?
あ、あり得る……。
学生のリア充ってお金がないからカラオケボックスをヤリ部屋にして乱パするとか、薄い本の定番だしそうに違いない……!
「ご、ごめん、なさい……。えと、用事があるから、すぐに帰らないと」
「そっか。引き止めてごめんね! じゃあ、また明日ね!」
意外とリア充は聞き分けよく去っていった。
もしかして本当にカラオケに誘われただけなんだろうか……?
疑ってちょっと悪かったな、と思いながらわたしはトボトボと帰宅することにした。
◆
【初コラボ】あるてまの金持ちとなんかします【黒猫燦/リース=エル=リスリット】
21,023 人が視聴中・黒猫 燦 チャンネル登録者数 10.5万人
#黒猫さんの時間 #リスリット放送局
「こんばんにゃー」
:こんばんにゃー
:今日から9月だーい
:黒猫さんは新学期?
:毎日が夏休みに決まってんだろ!
「黒猫さんは学生なので今日から新学期なのです。えぇ、本当にもう、リア充どもがうじゃうじゃうじゃうじゃと……ちっ」
:投げキッス助かる
:実感がこもり過ぎてる……
:リアルJK説濃厚
:けどボッチ陰猫なんだよね…
:やっぱつれぇわ
「はい! つよつよJKな黒猫さんの学校生活は程々にして、今日のゲストを紹介します、にゃ」
はぁ、いつだってこの瞬間は緊張するなぁ。
配信前に少し打ち合わせをしているとはいえ、人と話すこと自体が苦手なんだから仕方がない。それも相手が少ししか関わったことがないなら尚更。
「じゃあ出てきてもらいましょう、あるてま2期生のリース=エル=リスリットさんです、にゃー」
「こんばんにゃー、リース=エル=リスリットにゃー」
「それ私の!?」
:www
:こんばんにゃー
:わー黒猫さんがふたりだー(棒)
:リース様だにゃー!
「はい、リース様ですよー。今日もスパチャたくさん落としましょうねー」
「ちょ、ちょっと、そういうのやめてください!」
この人、人のチャンネルだからって何言ってくれてんの!?
そういう行為は叩かれるんだからな!?
:¥10,000
:¥9,625
:¥50,000
「あ、おバカ! のせられてスパチャしないの! お金は大切にしろよ!」
:黒猫さんのせいで今月の食費無くなりました
:あと29日霞食って生きるわ
:お返しは今日のパンツでよろ
:たまにはブラが知りたい
:詳細はよ
「おバカ! セクハラ! セクハラが過ぎる!」
「それでどのような下着を?」
「う、え、い、言わないけど」
「えぇ、こんなにスパチャを投げられて言わないのですか?」
:¥1,000
:¥9,625
:¥3,888
:¥9,628
「なんで! 無言スパチャなんだよ! あぁもう、今日は赤と黒が交じった下着だよ! 大人っぽいの!」
「それは……随分と大胆ですねぇ」
「うぅー……」
:エッ
:1日これってことはつまり
:始業式もこれ
:ド淫猫!
:なお見せる相手はいない
まだ始まってすぐなのになんでこんな疲れてるんだよぉ。
もう終わりでいいかな、いいよね? 充分でしょ??
「では本日のお題に移りましょうか」
「うぇー……」
:そういえば今日何すんの?
:初コラボだから定番のマロでしょ
:↑けど募集ツイートなかったよ
:黒猫さんの定番デッキ性癖トーク
:↑あーそれがあった
「ちょっと待て性癖トークはデッキじゃないが!? それに性癖トークとかしないが!? 勝手な印象操作はやめてもらおうか!」
「仕方ないですねぇ。私の性癖は──」
「ストップ、ストーップ! 語らなくていい! から!」
「えーざんねーん」
:なんで止めるんだ!
:リース様の新たな一面を知れるチャンスが!
:黒猫許すまじ
:謝罪に性癖語れ
:以下ループ
「あぁもう! ほら、リース=エル=リスリット本題!」
「はいはい、あと私のことはリースでいいですよ?」
「リスリット早く」
「あら残念。では本日のお題は『夏波結について語り合おう!』でーす」
:マジ!?
:夏波結大好きVtuberコラボやんけ!
夏波 結 ✓:聞いてない
:ゆいままもよう見とる
まあ、そういうことでリスリットとのコラボは結について語り合うことになった。
というのも、コラボを持ち掛けてきたのはリスリットからだ。
初めは何をしようかとあーでもないこーでもないと意見を出し合ったのだが──当然チャットで──最終的にリスリットはわたしに次いで結とコラボ回数が多いということで、こういう形に着地した。
いや、結について語り合うなんて凄く恥ずかしいんだけど、こうでもしないとリスリットと共通の話題がないのだ。
ほら、初コラボでゲームするのもちょっと気まずいでしょ……?
お互いに無言になるかチャットと会話する未来が見えるもん。
だから、初コラボは親睦を深めるためにも共通の話題で雑談が一番だと思うわけだ!
「じゃあまず、結の良いところをいっせーのせで言いましょうか」
「おっけー」
お互いに息を揃えていっせーのせっ、
「胸!」
「顔!」
夏波 結 ✓:ちょっと
:草
:やっぱそこなんだよなぁ…
:仕方ないネ
「は? 結は胸が一番なんだが?」
「いえいえ結は顔が一番ですよ?」
「お? にわかか?」
「そちらこそにわかでは?」
はー!?
話にならねぇなこの女!
結と言えばあのデカい胸だろ!
あれに母性的な包容力を感じてつい甘えたくなるんだろうが!
「結は胸!」
「結は顔!」
「デカチチ!」
「美少女顔!」
夏波 結 ✓:いい加減にしなさい!
:これは通話に乗り込む勢い
:正妻最強決定戦だ…
「じゃあ結との思い出トークで勝負だ」
「受けて立ちますよ。私と結の絆をなめてもらっては困ります」
:バチバチッ
:何が始まるんです?
:第三次正妻戦争だ
:一次と二次どこー
:女達の女の取り合い
:助かる
「結は休日はいつも起こしに来てくれる! 何なら髪乾かしてくれるし!」
「結の家でお泊りしたことは? 一緒に寝たことは?」
「はー? お風呂入ったことあるし!」
「私もありますけど?」
「ぐ、ぐぬぬ」
こ、この人絶対デビュー前のことネタにしてる!
だってそんな配信聞いてないもん!
:休日は起こしに来る
:お泊り、寝る
:お風呂
:は?てぇてぇか?
夏波 結 ✓:ねえお願い黙って
夏波 結 ✓:おねがい
「じゃあ結の好きなところ言うし」
「どうぞ」
「優しい、これに尽きるね。何しても私のこと嫌いにならないで付き合ってくれる。ほんと優しい」
「結は可愛いんですよ。褒めるとすぐ顔を赤くするし、寂しい時は口に出さずに無言でアピールしてきます。愛くるしいですね」
え、なにそれわたし知らない。
見たい、超見たい。
しかし同じ結を語っているはずなのに、こうも見ている姿は違うものなのか。
それはちょっと、なんか、妬けるなぁ……。
「じゃあ次は結の嫌いなところ──」
「……ないですねぇ」
「困った、完璧超人かよ……」
お互いにさて、どうしようかと一旦小休止。
語り合うとか言いながら、なんか張り合ってるだけなのでは? という状況に気づきつつあるけど、ここまで来るとお互いに引くに引けないものだ。
どっちが真の結好きか、ここで決着をつけるしかない……!
「結としたいデート、とかありますか?」
「結としたいデート……お家でのんびりしたい」
「はぁ、分かってませんねぇ。結が本当に好きなデートプランはドラ──」
「いい加減にしなさい!!!」
:!?
:結さん!?
:正妻決定戦に本人登場柱
:これは荒れる予感
:どうあがいても神回
「え、ちょ、結が来るとか聞いてない……」
「これはルール違反ですよ」
「さっきから聞いてたら言いたい放題ってくれて、覚悟はできてるんでしょうね」
「黒猫さん」
「が、がってん!」
「では皆様、ばいにゃーです」
「ばいにゃー!」
「あ、待ちなさ」
【この放送は終了しました】
【初コラボ】あるてまの金持ちとなんかします【黒猫燦/リース=エル=リスリット】
23,178 人が視聴中・黒猫 燦 チャンネル登録者数 10.5万人
#黒猫さんの時間 #リスリット放送局
:終了したw
:伝家の宝刀炸裂
:困ったら枠閉じるの止めなさい!
:これ裏では通話続いてんのかな…
:配信外の第二回戦ファイッカーンッ!
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