第二部 番外編2「見たかった君の顔」
「珠玉・・・確かに、僕は怖い所に連れていけって言ったぞ。」
珪は目の前に広がる、目を細めて、体格の良い女装お姉さんたちを見た。
「少しの間違いくらい、目をつむれ。」
隠れるように店の入り口に立ち、助けを求めるように手を伸ばす珪を見た。
「少しじゃないだろ!!」
その言葉を最後に、珪はお姉さん達の群れに埋もれた。
それを見ていると、笑いが込み上げてきた。
「珠玉ちゃんも行って来たらどうなの?みんな、寂しがってたわよ。」
昔と変わらない姿で、顔に笑みを浮かべた店長が話しかけてきた。
店長は水商売をしているせいか、雰囲気を盛り上げるのは得意だが、必要以上に関わって来ない質だったから、俺にとって楽な存在だった。
「店長、ありがとう。でも、俺は良いよ。」
店長から、楽しそうな店の雰囲気に視線を移した。
こんな時間・・・今までは考えられなかった。
出来れば、この光景をもう少し味わいたい。
「俺まで酔いつぶれたら、珪を回収できないだろ?」
「あら~。その時は、私が手厚く介抱してあげるわよ。」
投げキッスをしながら店長は言った。
その瞬間、体中の毛が逆立った気がした。
「本当に変わってないな・・。店長のそういう所、昔から好きだったよ。」
そう言ったとき、不意に笑みがこぼれた。
「まあ、嬉しいわ。私もあんたの今の表情、大好きよ。」
「なんだか、くすぐったいな・・・。」
店長なりに俺のことを心配していたのか・・・。
自分の顔を触った。
俺は思い違いをしてたんだな・・・。
「もう、可愛いわね。食べちゃおうかしら!」
「て、店長?!」
逃げようとしたが、服を掴まれて逃げられなかった。
「自滅してるじゃないか・・・。」
全身に疲れを感じながら、机に突っ伏して、ぐったりしている珠玉を横目で見た。
「飲ませ過ぎちゃった!珪ちゃん、珠玉ちゃんお持ち帰りしてね!」
店長はかわいらしくウインクして、珠玉の傍に水を置いた。
珪は愛想笑いをした。
「どうやって帰ろう・・・・。」
アイデンティティ 雨季 @syaotyei
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