第5話
それから数日。
桃太郎は大人の階段をハイスピードで登っていきました。
村を焼き討ちした相手が鬼ではないこと。村を治めるはずの国が荒廃し、盗賊団が跋扈していること。そして、そいつらが『鬼ヶ島から来た鬼だ』と名乗っていることを知りました。
「おいおい、今すぐ行こうっていうのかい?」
鬼の膝の上に座り、抱きしめられながら頭をなでられていた桃太郎は怒りだしました。
およそ人のする所業ではないと。
「つっても、あたしらはここで平和に暮らしてられるしなぁ」
鬼は自給自足でのんびりと暮らしていました。
観光地として温泉街を経営してはいますが、ゆっくりとした生活でした。
「うちの地獄のかまゆで温泉旅館も経営は順調だし。まぁ、そのなんだ。アッチのほうもホラ、観光客から、な?」
桃太郎はこの温泉街の『裏メニューあり。別料金』というシステムを知った時は驚きましたが、今では鬼たちと一緒に働いているのでよく理解しています。
ただ、雉衛門と猿彦がこのシステムに感づいていたのもあとで知りました。それでちょっと揉めました。
鬼ヶ島での暮らしはおおむね良好で、村を焼き討ちにあった桃太郎にとっては第二の故郷となりました。
ここを立派な温泉街にすることが、鬼たちへの恩返しになると張り切っています。
犬たちもそれぞれの働き口を見つけました。桃太郎は、三人とも鼻の下を伸ばしながら働いているようだと聞いています。そのことでもちょっと揉めました。
穏やかな暮らしをとても楽しんでいた桃太郎ですが、一つ気がかりなことがありました。
あの爆破された小舟です。
鬼たちは何もしていないとのことでしたし、鬼ヶ島に来ることを知っている人間はほとんどいません。
船頭だって犬がやりましたし、せいぜい桃太郎が声をかけた船着き場の人間くらいです。
その人間たちだって、鬼ヶ島の真実を知っていて、危ない身なりをした自分たちを遠ざけるために避けていたのだろうと、桃太郎は思っています。
だから余計に『帰れなく』する理由がわかりませんでした。
「それで、次の交易船なんだけど」
鬼からそれを聞いて桃太郎は思わず立ち上がっていました。
「お、おい、どうしたんだいきなり」
血相を変えて立ち上がった桃太郎に、鬼が驚いていました。
行かねばならぬ。交易船はどこにつくのかと、桃太郎は鬼に尋ねました。
「お前たちが来たところからだけど……」
桃太郎は初日に取り上げられた種子島を掴むと、鬼の呼び止める声も聞かずに飛び出していきました。
そして鼻の下を伸ばしている三人をひっ捕まえると、浜辺へ駆けていきました。
浜辺では、いくつもの船が荷揚げを行っていました。
しかし、荷揚げを行っているのは明らかに商人や護衛ではなく。
「へっへっへ。感づいた奴がいたか」
武装した盗賊団でした。
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