第2話

「どうもありがとうございます」

 助けたイケメンは、身長180センチはありそうな、すらっとした男でした。

 桃太郎は170センチに届きませんので、とてもイラっとしましたがこらえました。

 こいつより報復しなければならない奴がいるからです。

 イケメンは『犬塚平八郎』と名乗りました。めんどくさいので犬と名付けました。

 イケメンからひどいだのなんだの言われましたが無視しました。

 これで船を出せると思った桃太郎ですが、船着き場に行くと。

「ハァ? 船をよこせたぁ、気でも狂ったか?」

 と、船大工に追い出されてしまいました。

 お金がなければ船は手に入りません。どうしたものかと悩んでいると。

「おい。なんで犬塚が居やがる」

 筋肉が発達した大男が桃太郎たちを、というか犬をにらんでいました。

 長く伸びたもみあげが印象的な、ガテン系のシブいおじさまです。

 桃太郎は自分が助けたというと、大男は怒り出しました。

「こいつは俺の嫁に手を出しやがったんだ。だから俺が埋めたんだが?」

 なるほど。道理でさっきから犬がしゃべらないわけだと、桃太郎はなっとくしました。

「あんたは人助けだと思ったのかもしれねえが、嫌がる妻を『一回だけだから』としつこく口説いたんだ。よりによって俺の目の前で」

 なるほど。バツが必要だなと桃太郎は思いました。しかし、そっちに事情があるということは、こっちにも事情があるということだと主張しました。

「そうか。たしかに船頭としちゃこいつは優秀だ。離岸流につかまって何度も浜に戻されるくらいに立派な操船技術をもってやがる」

 桃太郎は別の男を探そうと決意しました。

「いやいやいや。ちゃんと操船できますからって!」

 必死に食らいついてくる犬を押しのけ、桃太郎は必死に考えました。自分はどうしても鬼ヶ島に行きたいのだと大男に伝えると。

「そういや浜辺に打ち上げられた小舟があるな。壊れちまってるが多少修理すれば使えるようになるから、そういうのを使えば——」

 桃太郎は必死に頼みました。

 大男が腕の良い船大工であると思ったからです。

 桃太郎たちと話している間も、若い衆へ的確な指示を出していました。一朝一夕にできることではないと思ったのです。

「頼ってくれるのはうれしいがね。こっちも仕事があるんだよ」

 桃太郎は必死に頼み込みました。

 犬の首を差し出したりしましたが、やはり生活を犠牲にすることはできないと断られてしまいました。

「桃太郎さん、大事なことなんだが、小舟だと鬼ヶ島まではかなり危険だぜ?」

 島は陸から離れているので、小舟だと転覆の恐れが高いとのことでした。

 それでもいかねばならぬのだと桃太郎が犬に言うと。

「はぁ。あんたも頑固な人だねぇ」

 大男はため息をつくと。

「家に下宿している船大工見習いの渡世人がいるんだがね。そいつに練習がてら、船を修理させてみちゃどうかね?」

 と、教えてくれました。

 桃太郎はお礼を言うと渡世人のところへ行きました。すると。

「なにか用ですかぃ?」

 ずいぶんと斜に構えた渡世人が出てきました。

 どこか世を嫌う鋭い目と隙の無い佇まいは、只者ではない雰囲気を持っていました。

 しかし、とてもちっちゃい男で、150センチくらいしかありませんでした。

「人と話すときゃぁ、目ぇ見て話すもんじゃないかぃ?」

 桃太郎はそうだったねと謝ると、渡世人の前にかがみました。それが痛くプライドを傷つけたらしく。

「なめてんのかオラァ!」

 自らの身長と同じくらいに刀を振り回そうとしたところ、戸口の梁にスコっと刺さってしまいました。

 抜けなくて苦労していたので刀を取ってやると。

「ありがとう」

 素直にお礼を言われてほほえましくなりました。



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