ももたろう
弱腰ペンギン
第1話
むかしむかしあるところに、桃太郎という美青年がおりました。
桃太郎は文武に優れ、道を歩けば女の子がキャーキャー言うほどでした。
ある日、薪拾いから帰ると、村が燃えていました。
慌てて家に駆け込むと、おじいさんとおばあさんが瀕死の重傷を負っていました。
「お父さん、お母さん!」
桃太郎は二人のそばに駆け寄ると手を握りました。
おばあさんの手はすでに冷たく、その感触に桃太郎は身を震わせました。
「ももたろう。何度も言うが、わしらは両親ではないと」
「拾った桃から生まれたというのが嘘だって知っています!」
桃太郎はひときわ強くおじいさんの手を握ると、涙をこぼしました。
「優しい子じゃの。自慢の息子じゃ」
おじいさんはそういうと戸棚を指さしました。
「あそこに、わしらが食べた桃の果実を練りこんだきびだんごが入っておる。もっていきなさい」
桃太郎はすごく嫌そうな顔をしました。
「……何年前のものですか?」
「今年作ったものじゃよ」
「……僕が生まれてから何年たってると思っているのですか?」
おじいさんはゴホゴホと咳をすると、呼吸を整え続けます。
「あの桃はかなり大きかったからの。小分けにして配った後、干物にして保存しておいたのじゃ。不思議な力が残っておっての。食べればたちどころに傷が治る」
桃太郎はハッとしました。
「それなら今食べれば!」
桃太郎はきびだんごを取ってくると、おじいさんの口にねじりこもうとしました。
「やめんか。老い先短いわしの傷が治っても意味はないわい。やめ、やめんかコラ!」
桃太郎は瀕死のおじいさんの口をこじ開けようとしましたが、激しい抵抗にあって諦めました。
「それは、お前が食べなさい。これからどんなことが起きるかわからないのだから」
「僕にとって家族は二人だけなんですよ!」
桃太郎の叫びを聞いて、おじいさんはにっこりと笑いました。
「優しい、いい子に育ってくれてうれしいよ」
そういうとおじいさんは桃太郎の頭をなでました。少しずつ力が抜けていくおじいさんの手を、桃太郎はぎゅっと握りしめました。
おじいさんの手から力が無くなるまで、握り続けました。
それから桃太郎は旅に出ました。
おじいさんとおばあさんのお墓を作ると、村を焼き滅ぼした相手を探して報復してやろうと考えたのです。
旅の商人に聞いてみると、鬼ヶ島というところにいる鬼たちが犯人だとわかりました。
桃太郎は三丁の種子島と二振りの槍で武装し、鬼ヶ島へ向かおうとしましたが。
「いや、そんな物騒な奴乗せられないし」
船頭に断られまくりました。
鬼ヶ島は島ですから、陸からは船で行くしかありません。なのに、船頭は乗せてくれません。どうしたものかと、完全武装のまま街道で途方に暮れていると。
「ちょっとそこのお侍さん。私を助けてくれませんか」
声がしたほうを見ると、イケメンが土から生えていました。どうやら首だけ出して生き埋めにされているようです。
罪人か何かだろうと、桃太郎は無視することにしました。
「っちょ。話を聞いてください。あ、行かないで!」
必死に桃太郎を呼び止めようとするイケメンですが、桃太郎には聞こえません。
「そこの頭の悪そうな面をした田舎ざむら痛い!」
桃太郎は激怒しました。
自分を悪く言うのは構いませんが、おじいさんとおばあさんを侮辱するようなイケメンが許せませんでした。
なので、槍の石突で額を思いっきり小突いてやりました。
「すみません謝りますから許してください、そして話を聞いてください!」
桃太郎は仕方なく話を聞いてやることにしました。
イケメンの鼻先に槍を突き立てて、つまらない話だったらお前の自慢の鼻が吹き飛ぶから覚悟しろよ、と脅しつつ。
「実は私が首だけになっているのは深いわけが——」
くだらない理由だったので割愛しますが、不倫してたら相手の旦那に見つかり生き埋めにされているとのことでした。
そしてつまらなかったので鼻を切り落とそうとしたのですが。
「お、俺は船の操縦ができます!」
などというので、桃太郎は思いとどまりました。
なんでこいつが知っているのかと考えましたが、途方に暮れているときに思わず漏らしてしまっていたのでしょう。反省せねばと、桃太郎は思いました。そして。
「とりあえず鼻は削ぐ」
ということで槍を構えました。
「出してくれたら手伝います、出してくれないなら、そして鼻を削ぐなら手伝いません!」
そう叫んだので、仕方なく助けることにしました。
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