第28話

 「これで、王都を除いて全ての町を回ったわね」


最後の町での試合からテントに帰って来て、今は湯に浸かっている二人。


「そうなるな。

君のお陰で、この国に流通する金貨の、実に1割近くを回収できた。

感謝する」


「私のアイテムボックスに入ってる金貨、引き取ってくれない?

何だか残りのスペースがほとんどない気がするの。

私は10万枚もあれば十分。

それだって使い切れないのだから、他は全部貴方に返す」


「そういえば、君のアイテムボックスは、ここのテントより少し大きいくらいだったな。

今拡張してやる」


和也はそう言って、彼女のリングの容量を10倍にしてやる。


「・・有難う。

大分広くなった。

でもさっき言った通り、余分な金貨は回収して」


湯から右手を出し、リングを見つめていた彼女が、和也に重ねてそう言ってくる。


「そんなに気になるのか?」


「・・ドワーフの迷宮で見た光景がね、ずっと心に残ってるの。

使い道のないお金を幾ら貯め込んだところで、私には虚しいだけだわ。

この中には、必要な物だけを入れておきたい」


「分った」


彼女の希望通り、10万枚以外の金貨を全て、自分の収納スペースへと移す。


「代わりに何かを与えよう。

君には嫌な思いをさせてまで、最後まで付き合って貰った。

その分、他で報いたい」


「・・なら、キスしても良い?

エマにもされたそうね。

私も、貴方と本気のキスがしたい」


和也の顔を見て、真剣にそう言ってくる。


「・・良いぞ」


ミザリーが立ち上がり、湯船に凭れ掛かっている和也を跨いで、再び腰を下ろす。


じっと瞳を見つめてくる彼女が、囁くように告げる。


「目を閉じないで」


ゆっくりと合わせてくる唇。


舐(ねぶ)るように動かされるそれが、やがて和也の唇を開き、舌を差し入れてくる。


大きな動きで、吐息と唾液を送り込みながら、和也の口内を蹂躙してくる。


暫くして、唾液の細い糸を引きながら、顔を紅潮させた彼女が唇を離す。


「随分慣れているのだな。

経験があったのか?」


意外そうな和也の問いに、彼女は視線を逸らせて口にする。


「毎朝練習してたのよ、貴方で。

尤も、舌を入れた事はなかったけど・・」


「・・・」


「怒った?」


不安げに聴いてくる彼女。


「そのくらいなら、別に構わない。

君はそれに見合う働きをしている」


「有難う。

・・そう言って貰えて良かった」


嬉しそうに微笑む彼女。


「自分が目覚めた時、いつも君の顔が間近にあったのはそういう理由か。

君は肉食系なのだな」


「何だか知らないけど、微妙に貶されている気がするわ」


それからまた暫く、和也を貪る彼女であった。



 夕食を屋敷の皆と食べようと、その庭に転移した和也達。


片隅で、職場から直帰したエマと、今はフリーのミサが、其々の得意武器を用いて剣の稽古をしている。


短剣を手に、素早く多彩な攻撃を仕掛けるエマに、盾と長剣を構えたミサが、威力のある重い一撃を繰り出している。


暫く見ていたミザリーが、感心したように呟く。


「二人共強いわね。

闘技場で戦っても、かなり良い所までいきそう」


彼らが視界に入ったエマが、ミサに稽古を中断する合図を送って、側に寄って来る。


「御剣様、今晩はこちらでお食事ですか?

皆が喜びます」


「君の戦闘は初めて見たが、中々のものだな」


「有難うございます。

錆びつかないよう、ミサに付き合って貰ってました」


「御剣様、お言葉に甘え、お世話になってます。

ここの暮らしは、まるで貴族のようです。

何の負担もなくこんな暮らしをさせていただいて、少し心苦しいですね。

私にも、何かできる事はございませんか?」


ミサがそう挨拶してくる。


「まだやりたい仕事は見つからないのか?」


「ギルドで単発の依頼をこなしてはいますが、もう誰かとパーティーを組む気にはなれませんから・・。

お陰様で、暮らしには全く困らないので、ゆっくりと探していきます」


「そうか。

時々、君の手を借りても良いか?」


「勿論です。

何でも仰って下さい」


皆を連れ、屋敷の中に入ると、レミーが夕食の準備に取り掛かっていた。


和也の姿を見て、顔を輝かす彼女。


「ご主人様、今日はこちらでお召し上がりですか?」


「そうしたい。

料理が間に合わなければ、自分達二人は別の物を食べるから、気にしないでくれ」


「大丈夫ですよ。

ご主人様にそんな事をさせたらメイドの恥です。

ただ、もう少しだけお待ち下さいね」


「分った、有難う」


まだ地下で仕事をしているミレーを除き、エマ、ミーナ、ミサの三人が、和也達とテーブルを囲んで、彼が淹れたお茶を飲む。


三人の近況に耳を傾けながら紅茶を飲む和也に、時折会話に参加するミザリー。


これまでの反省から、自身も魔法を学びたいと口にするミサ。


やはりレミーは理解が速いと感心し、負けずに勉強量を更に増やしたミーナ。


エマは、もう直ぐ始まる王国主催の闘技大会について口にする。


「これはまだ届いたばかりの情報ですが、御剣様が大会にエントリーした場合、無条件で町の代表になれるそうです」


「予選を免除してくれるのか?」


「はい。

本日闘技場から届いた通知にそうありました(冒険者ギルドは、身分証に住所を記載しない国の公示場)。

予選は町内での勝ち抜き戦ですから、もし運悪く貴方に当たってしまうと、仮令どんなに強くても、必ずそこで負けます。

王国本戦での成績は、各町の闘技場の評価にも繋がりますから(闘技場は国の管轄下)、彼らもより強い代表を出したい。

ですから、残り1枠のために、貴方以外で行うそうです。

どの道、本戦でも御剣様の優勝は動かないのに」


「王国主催の大会では、個人戦にもエントリーする積りでいる。

負けてもデメリットがないから、自分ではなく、ミザリーを出す。

尤も、負けるはずがないがな」


「初耳よ。

何で貴方が出ないの?」


「賭けを面白くするためだ。

それに、レジーナと戦うにも、その方が良いだろう?」


「・・確かに、パーティー戦だけだと負け惜しみを言ってくるかも」


「どういう関係かは知らんが、白黒つけた後は和解を勧める。

部下の報告では、嫌な人物には思えないからな。

身分を笠に着て、虐められた訳ではないのだろう?」


「彼女はあの町の領主の娘だったけど、それだけはしなかったわ。

貧しい者にも平等だった。

ただ、何故か私にだけは喧嘩を売ってきたのよ。

武芸だけでなく、他の面でも、色々とね」


それから暫くして、ミレーが1階に上がって来たところで、レミーの料理ができ上がる。


今夜はテールシチューとパンだった。


何時間も煮込んだ牛のテールがごろごろ入った、野菜たっぷりのシチュー。


それに、和也が地球のフランスで樽ごと仕入れた、赤ワインのグラスが添えられる。


ぶつ切りにされた牛の尾骶骨からは、とろとろのゼラチンが解れて、口にした者の頬を緩める。


これはこの世界では、この屋敷でしか食べられないであろうご馳走の1つ(薪が主流の一般家庭では手間がかかり過ぎて作らないし、貴族はそもそも尾骶骨など食べない)。


会話を止め、皆が黙々と食事を進める。


レミーに落ち着いて食事をさせるため、食後のデザートは和也が用意し、濃厚なレアチーズケーキにブルーベリーのソースを添えて出した。


皆が一息吐いた頃、和也が切り出す。


「王都での本戦を見に行きたい者はいるか?

希望者がいれば、自分が転移で共に連れて行くが?

数日間の開催のようなので、其々のリングにも転移先として登録しておく」


「宜しいのですか!?

なら是非!」


エマが真っ先に名乗り出る。


「仕事は休めるのか?」


「ええ。

溜まっている休暇を消化して行きます」


「・・私もお願いできますか?」


ミサが遠慮がちにそう言ってくる。


戦士としては、やはり最高峰の試合を見ておきたいのだろう。


「勿論良いぞ。

他の皆はどうする?」


「ご主人様のご活躍は見てみたいのですが、他の試合はちょっと・・」


「私も、王都には行ってみたいのですが、闘技場は・・」


レミーとミーナは、人が死ぬかもしれない闘技には消極的だ。


「別に試合を見る必要は無い。

観光や買い物を楽しむだけで良いぞ?」


「なら行きたいです」


「私も」


ほっとした二人がそう答える。


「ミレーはどうする?」


「行きたいですが、研究もありますから・・」


「良い仕事をするには、適度な休養も必要だ。

薬を待つ者達の、一刻も早くという願いに応える気持ちは大事だが、そのために君の生活を制限する事はしないでくれ。

どちらも大事。

それを忘れないで欲しい」


「・・行きたいです」


「ほんの数日だ。

しっかりと羽を伸ばして、また頑張れば良い」


笑みを浮かべた和也が、更に付け加える。


「向こうでの滞在用に、家を1軒買っておく。

宿屋は何処も一杯だろうからな。

それから、王都以外の全闘技場を制覇した記念に、ここに居る皆と、カナとリマのリングに、金貨200枚ずつ入れておく。

運用するなり、貯めておくなりして、今後の暮らしに役立てると良い」


「200枚!?」


ミサがびっくりしている。


「私、もうお給料要りません。

ミザリーさんから頂いた分を合わせると、もう一生暮らせる額です。

只でさえここは生活費が全くかからないのに・・」


既に金貨2000枚近く持っているレミーがそんな事を言うと、ミレーも同じ事を口にし、今後の給与の支給を拒否された。


「私も、御剣様からお給料を受け取るのは止めにします。

周りの皆さんが懸命に働いているのに、学んでいるだけでお給料を頂くのは、流石に心苦しくなってきました。

学び終えたら、ここでお世話になりながら、外に働きに出る積りでおりますので・・」


奴隷から解放され、和也と正式に契約しているミーナも、そう言ってくる。


「以前も言ったが、長い人生には何が起こるか分らない。

稼げる内は、きちんと稼いだ方が良いぞ。

給料は、飽く迄も君達の労働の対価なのだから」


「ご主人様に見捨てられなければ大丈夫です。

・・見捨てませんよね?」


レミーが芝居がかった仕草で瞳をうるうるさせると、ミレーやミーナ達も和也を見つめてくる。


「・・さあ、どうかな?」


苦笑を浮かべながら、わざとそう告げる和也。


「酷い。

乙女心を弄んだ挙句、飽きたらポイなんて。

ううう」


泣き真似をする彼女に、ミザリーが笑いながら口にする。


「大丈夫よ。

以前教えた事を守っていれば、少なくとも皆が生きている間は、彼は貴女達を見捨てないわ。

この人は、そういう人だから」


「なら安心です」


さっさと泣き真似を止めたレミーと、他の皆の顔に、其々安堵の表情が浮かぶ。


「何か言ったのか?」


「内緒」


和也の問いに、ミザリーは笑顔でごまかす。


「そう言えばエマ、君がしている事の実費は、自分に請求してくれて良いぞ?

君の行いは、自分の目的にも適っている」


「何かしてたの?」


和也が知っていた事に対して、驚きの表情が顔に出たエマに、ミザリーが問いかける。


「・・時々ですが、仕事が無くて食事にも困るような人に、内緒で銀貨1枚を渡してました。

勿論、誰にでもという訳ではなく、熱心に依頼を受けに来ても、彼らに見合う依頼がなかったり、仲間に恵まれなかったりして、その日食べる食事にも事欠く人達だけですが・・。

御剣様に出会い、ミザリーさんに多額のご厚意を頂いて、今の私はギルドで支給される給料が必要ありません。

ですから、そこで出会った真面目で勤勉な人が困っていたら、できる範囲で、なるべく助けるようにはしてました。

あからさまにそうしては、他の受付嬢から何を言われるか分りませんので、陰でこっそりと、口止めした上でしていた事ですが、御剣様はご存知だったのですね」


「偶々な。

後で纏めて請求してくれ」


「申し訳ありませんが、それはお断り致します。

私の意思でしている事ですし、御剣様からは、ミザリーさんの分も含め、既に十分な援助を頂いております。

私が負担している額など微々たるものですし、どうかお許し下さい」


そう言って微笑まれては、和也もそれ以上言えない。


「良い所ですね、ここ。

皆が皆、仲間や周囲の誰かを大切にしている事が伝わってきます。

とても居心地が良い」


ミサが穏やかな笑みを浮かべている。


「カナ辺りは、御人好しの集団だと笑いそうだがな。

・・そろそろ帰るか」


ミザリーにそう声をかけ、腰を浮かす和也に、彼女以外の皆が不満を漏らす。


「泊まっていかれないのですか?」


「今日は帰る」


「ではせめてお風呂だけでも・・」


「身の危険を感じるから遠慮する」


「あの時は皆どうかしていたんです。

普段はもっと落ち着いて入ってますから・・」


其々が名残惜しそうに引き留めてくるが、今回は帰る事にする。


「また来るから」


転移した和也達を見送った後、ミサが遠慮がちに四人に尋ねる。


「あの、皆さん御剣様とご一緒にお風呂に入ってるのですか?

・・つまり、そういうご関係?」


「だったら良いのにね~」


レミーが笑う。


「ご主人様の唯一の欠点は、性欲がなさ過ぎる事です」


『内緒ですよ』とミレーが苦笑する。


「でもちゃんと奥様がいらっしゃるのだから、希望はあります」


何処までも前向きなエマ。


「そういった見返りを求めない方だから、心から信じられる。

本音を言うと、少し歯痒いですけどね」


ミーナも微笑んでいる。


それらを聴いて、『自分の気持ちは暫く隠しておこう』、そう考えるミサであった。



 翌日の昼、和也はサイアスの町に居た。


ミーナの家族の、その後の様子を直に見るためである。


酒場では、彼女の母親が働いていた。


昼間から酒を飲む連中を相手に、忙しなく給仕している。


「次はこれをあのテーブルに持って行っておくれ。

溢すんじゃないよ」


女主人の言葉に返事をし、彼女なりに急いで届けに行く。


「ほら、今度はこれだよ。

奥のテーブルだ」


安く酔える店のようで、混んでいるし客層もそれなりだ。


だが彼女は、必死にそこで働いていた。


下級とはいえ元貴族。


そのつまらないプライドを捨て、人夫のような汚い身なりをした男達にも、丁寧に接客している。


まだ1日3時間程の勤務のようだが、それでもしっかりと、足が地に着いていた。


妹は、店の売り子をしていた。


若くて容姿も良いので、呼び込みには打って付けのようである。


「いらっしゃいませ~」


「どうぞご覧になっていって下さい」


それ程大きくはないが、よく通る声が、行き交う客を振り向かせている。


初対面では気弱でおどおどとした印象しかなかったが、今は明るさも垣間見える。


姉から預かった金貨が100枚近くあるはずだが、彼女もそれを使い潰す気はないようであった。


父親は、市場で軽作業をこなしていた。


軽めの荷物を運び、周囲の掃除をして、ごみを片付ける。


それを延々と数時間繰り返すだけの仕事。


貴族だったプライドを捨てなければ、とてもやってられないだろう。


その服装も、仕事に合わせた作業着だ。


離れた場所から暫くその仕事振りを見ていた和也は、彼の休憩時間に合わせて声をかける。


「レミーとどういう話をしたかは知らんが、それなりに生活しているようだな」


果物のジュースを差し出しながら、そう話す和也を見て、男が静かに一礼する。


「先日は大変お世話になりました」


「疲れているだろう。

そこに座って話そう」


丈夫そうな木箱の上を拝借して、二人で並んで腰かける。


「・・レミーは元気でやってますか?」


「ああ。

とてもよく働いてくれる。

彼女のお陰で、屋敷の雰囲気はいつも明るい」


「彼女は本当に良い娘でした。

恥ずかしながら、あまり収入がなくて、僅かな給金しか払ってやれませんでしたが、心の中ではいつもあの娘に感謝していました」


「お前に伝言がある。

お前の元債権者達からだ。

『あまり思い詰めるな。

きちんと返してくれたし、縁があったらまた仕事しよう』

・・以上だ」


男が、項垂れていた顔を上げる。


「本当に全て返済していただけたのですか?」


信じられないような表情で和也を見てくる。


「約束は守る。

五人の債権者に、其々金貨1枚ずつの慰謝料を添えて、全部で金貨120枚、確かに返済しておいた。

これがその証文だ」


「・・有難うございます。

ご厚意に甘える事しかできませんが、心から感謝致します」


其々の証文を見終えて、男が深々と頭を下げてくる。


「幾つか聴いても良いか?」


「私で話せる事なら」


「何故夜逃げしたんだ?

レミーが身売りした代金では、負債を全額返せない事は知っていたはずだ。

その金だけ持って、彼女を犠牲にして、何故逃げた?

その時の彼女の気持ちを考えなかったのか?

彼女が奴隷に落ちると言った時、それを止めるのが主人の役目だったのではないか?」


再度項垂れた男が、やっと出せたというような声で、話し出す。


「・・あの時は、そうする以外に道はないと思ってしまったのです。

このままでは、娘二人が奴隷に落ちる。

それだけは絶対に防がねば・・そう考えると、渋る家族を馬車に乗せて、夜道を走っていました。

レミーが作ってくれたお金を基に、闘技場で大儲けできれば、彼女を買い戻す事も可能になる。

そんな都合の良い事を考えながら、自己を正当化して彼女を犠牲にしてしまった。

情けない男なんです、私は。

而も、貴方が出た試合で相手側に賭けて、その大切な、本当に大切なお金を全て失くしてしまった」


「・・やはりそうだったのか。

まあ、普通は向こうに賭けるよな」


「・・妻と二人、生きる気力さえも失って、護ったはずのミーナも自ら奴隷に落ちた。

貴方が家に来られた時は、もう何もかもがどうでもよくなって、死のうと思っていました」


「お互いレミーに救われたな。

自分はあの時、彼女の気持ちを最優先に考え、お前達にはかなりきつい言葉を使ってしまった。

もし彼女がフォローしてくれなければ、それが結果的にはお前達を追い詰めたかもしれん」


「私達は、ああ言われても仕方がない事をしてきました。

それなのに、レミーは笑って全てを許してくれた。

今度こそやり直さねば、私達は真に彼女を裏切る事になる。

家族で真剣に話し合い、働く上で邪魔になる一切のプライドを捨てて、生まれ変わった積りで頑張る事にしたのです。

ミーナが作ってくれたお金も、なるべく使わないようにして、次に会った時、彼女に返す積りでした」


「・・あと半年、もう半年だけ耐えて見せろ。

その間に、ミーナには経営学をしっかりと学ばせる。

それが済んだら、彼女に会わせてやるのと同時に、お前に仕事を与えてもやる。

銀行、そう言っても分らないだろうが、今のこの世界の、平民達が抱える問題を、ある程度はクリアできる仕事だ。

彼女の知識を借りながら、最初は家族だけでやってみるが良い。

そのために必要な土地と建物、初期費用は、全て自分が貸してやる。

これからの半年間、皆が其々の職場で人を観察し、その思考や動向をできるだけ学んでおけ。

学問で得る知識だけでは難しい仕事だ。

人の心、感情、その弱さ脆さを知って、来たる仕事に役立てるが良い」


時間を取らせた分、男の身体に疲労回復の魔法を掛け、その場を去る和也。


折れんばかりに頭を下げて彼を見送った男は、その言葉を家族に伝え、それに忠実に、その後の半年を過ごした。

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