第24話

 その日、いつものようにミザリーとの訓練を終え、湯に浸かっていた和也の脳裏に、妻からの予約が入った事を知らせる、予約表が浮かび上がる。


「む、・・・」


明日からの4日間、連続で四人の妻が予約を入れてきた。


「どうしたの?」


対面で浸かるミザリーが、虚空を眺めて意外そうな表情をしている和也に話しかける。


「済まないが、明日は半日ほど一人で出かける。

その間、好きに過ごしていてくれ」


「良いけど、何処行くの?」


「それについてはノーコメント」


「誰かと会うの?」


「それもノーコメント」


「・・女の人?」


「黙秘する」


「あのね、幾ら私でも、貴方に誰も女がいないなんて考えてないわよ?

寧ろいない方が可笑しいとさえ思う。

だから、そこまでして隠さなくても良いんじゃない?」


「別に隠してなどいない。

単に言わないだけだ」


「む、信用ないのね」


「そうではない。

君だって、無闇に人に言わない事があるだろう?

自分に言っていない事もあるだろう?

それと似たようなものだ」


『まさか朝の日課に気付いてるの?

・・いえ、そんなはずないわ。

もし知っていたら、この人が大人しくしている訳ないもの』


「そんな顔をしなくても大丈夫だ。

君が少し重くなったのは、飽く迄筋肉量が増加したからであって、決して脂肪が付いたからではない。

身体のラインだって十分に美しい。

気にする必要はないぞ」


「・・・」


『そうよね、こういう人だもの。

心配するだけ無駄よね』


「・・そろそろ上がりましょ?

魔法の練習もしないと」


ミザリーが立ち上がり、湯船から出て行く。


和也は、脳内の予約表に『了承』のサインを入れると、ゆっくりとそれに続いた。



 「お帰りなさい。

紫桜さんは、既に彼女のお部屋でお待ちです。

こちらでの時間(和也により、1日が地球時間の約3倍に設定されている。公転はない)で、1日経つ毎に、其々のお部屋に移動して下さいね」


己の居城に戻った和也に、出迎えたエリカが笑顔でそう告げてくる。


今回予約を入れてきたのは、紫桜、マリー、有紗、アリアの四人。


今まで他の者が連続で予約を入れてきた事はなかったので、疑問に思った和也がエリカに尋ねる。


「今回の彼女達の行動について、お前は何か知っているようだが、それを教えてくれないか?」


予約を入れなかったエリカがここに居るからには、彼女も今回の件に絡んでいるはずだ。


「・・あなたがあまりにもミザリーさんと仲が良いので、皆さん少々ご不満なのですわ。

わたくしはそう感じてはおりませんが、妻や眷族ならともかく、それ以外の方とのお付き合いにしては、彼女達の眼には些か度が過ぎると映るみたいです。

あまりあなたにお会いできない方々の中には、そう感じてしまう程、寂しい思いをなさっている方もいるという事です」


「自分はそんなに彼女とべたべたした覚えはないぞ?

一緒に風呂に入り、同じベッドで眠りはするが、それだけだ」


「あなたは無防備過ぎなのです。

ご自分に好意を寄せてる女性と同衾しておいて、陸に注意も払わず眠っているのですもの」


「ちゃんと下着は守っている」


「(ミザリーに対する)告げ口になってしまいますから、わたくしからはこれ以上申せません。

彼女達に直にお尋ねになると良いですわ。

・・あの星だけ時間を止めて、こちらに来られましたよね?

ですが、わたくし達妻と、あなたと関係を持った一部の眷族達は、あなたが敢えてそうしない限り、時間の制約から自由でいられる。

そしてその時彼女達の許可を得た人物もまた同様に。

今あちらで、わたくしを除く五人の代表として、ヴィクトリアさんがミザリーさんと会っています。

彼女だけは、あなたとミザリーさんの様子を見ていなかったらしいので、冷静に話ができると判断されました。

旦那様であるあなたに無断でした事ですが、どうか彼女達を責めないであげて下さいね。

ミザリーさんがあなたに有益だと判断されれば、彼女のしている事は今後も黙認されます。

ですが、もしそうでない場合、わたくしを除く他の皆さんが、(寝ている和也の顔に障壁を張って)彼女の邪魔をするそうです」


聴いていた和也が微妙な顔をする。


「あいつ、一体何をしていたんだ?」


「ですからそれは申せません。

ほら、お急ぎにならないと、紫桜さんのご機嫌が更に悪くなりますよ?

皆さんにとって、あなたとの時間は何より大切なのです。

一人一人、ちゃんとご期待に応えてあげて下さいね」


「お前自身は、含むところはないのだな?」


心配になってそう尋ねる和也。


「今回の件については、あなたの背中を押したのはわたくしですし、あなたの側に、美しくて有能な方が集まるのは喜びでもあります。

あなたが日々笑って過ごせる事、わたくしには、それが最優先事項なのですから」


その笑顔に魅了された彼は、思わずエリカを抱き締めそうになるが、ここを訪れた本来の目的を思い出し、何とか踏み止まる。


紫桜をこれ以上待たせる訳にもいかず、彼女の部屋へと足を運ぶ和也。


「ごゆっくり」


彼の背に向け、丁寧に腰を折るエリカ。


その後、自室に戻った彼女は、丸1日(地球時間で3日)の長い眠りに就くのであった。



 テント内で魔法書を読んでいたミザリーは、突然目の前に現れた女性に驚く。


つい先程まで、自分の対面には誰も座っていなかった。


この敷地は、和也によって結界が張られているので、そもそも他人は彼の許可なく入って来れない。


それを可能にしている時点で、彼女が只者ではない事が分る。


物凄く綺麗な女性だ。


人間離れしていると言っても過言ではない。


まだ20歳そこそこだろう。


左右で色が異なる、神秘的な瞳と、自分よりも大きな胸元。


黒一色の服装は、和也の関係者である事をも連想させる。


向こうが何も言わないので、こちらから慎重に声をかける。


「・・どなたですか?」


「意外と肝が据わっているのね。

もっと驚くかと思ったわ」


その女性は意外そうに微笑むと、自らの名を告げる。


「わたくしの名はヴィクトリア。

旦那様の六番目の妻です」


「旦那様?

・・それってもしかして彼のこと?」


「ええ、そうです。

御剣和也様。

わたくし達の夫であり、主でもあります」


「やっぱりいたんだ。

それも複数。

全部で何人いるのですか?」


分ってはいた事だが、やはり実際に聴くと、多少のダメージを受ける。


「妻は今の所六人ですが、その他にも従者のようなお立場の方が、数名おります。

今後は更に増えるでしょう」


「何それ、随分お盛んですこと。

身体が持つのかしら」


少しカチンときて、つい嫌味を言ってしまう。


「あの人が常識で測れないのは理解してるでしょ?

それとも、もう彼を狙うのは止める?」


「・・私の事、ご存知なのですね。

彼から聴いたのですか?」


「いいえ、わたくしは見ていなかったけど、他の皆さんはご覧になっていたそうよ。

貴女が毎朝、彼にしていた事をね」


「!!!」


「他の女性に対しても、かなり寛容であるあの方々がご不満に思うくらいだから、随分熱心に励んでいたのでしょうね。

・・そんなに彼が好きなの?」


彼女達の夫に、毎朝のように不義を働いていた自分を見るその目は、相変わらず穏やかで、口調にも激しさが伴わない。


実際そうなのだが、まるで格下の相手がしていた悪戯を、やんわりと窘めているみたいだ。


だが、仮令容姿や実力で劣ろうとも、私にだって意地がある。


あの人の側から離れてやらない。


それは既に決めた事。


ここで怯んだら、私のしていた事が、本当に只の悪戯になってしまう。


「好きです。

心から愛しています。

いつまでもずっと一緒にいたい」


「でもきっと、それは無理だと思うわよ?

貴女と彼では、流れる時間に、超える事のできない差がある」


「彼が人間ではない、そういう意味ですか?」


「そうね。

でもそれだけではないわ。

・・貴女は確かに美しい。

今、この時点ではね。

だけど、10年、20年も経てば、その容姿も次第に衰えてくる。

身体も、若い時のようには動かない。

そんな中で、相変わらず若く素敵なあの人の側に居て、周囲から他の女性と比べられる事に耐えられる?

不似合いだと嘲笑される事に我慢できる?

これからも、あの人を狙う、若くて綺麗な人は大勢出てくるのよ?」


「・・・」


正直、それを考えなかった訳ではない。


老いて陸に動けなくなってまで、今の彼にしがみ付けば、それは醜悪にさえ映るだろう。


尤も、彼の方からいなくなる可能性だってある。


私が転移できるのは、飽く迄も彼の力を借りているから。


それを取り上げられ、不意に姿を消されれば、自分には何も打つ手はない。


毎朝の日課が、長い時には数分に及ぶのは、そうした不安から逃れ、目を背ける意味もある。


「貴女はまだ若くて美しい。

今なら彼以外のどんな男でも靡くでしょう。

十分に資力も得たようだし、彼の魔力でその能力が跳ね上がったはずよ?

まだ決して遅くはない。

同じ人間の、良い男を探したら?」


「嫌です。

貴女の言う事が事実であっても、私は彼が良いと言ってくれるまでは、その傍に居たい。

もう他の男性では満足できない。

愛せない。

仮令抱いてくれなくても、側で彼を見ているだけでも良いから」


「わたくし達が認めないと言ったら?」


「・・・」


「彼ね、今何してると思う?

これから4日間、毎日ずっと妻の方々のお相手をなさるのよ?

他ならぬ、貴女のせいで」


「4日?

彼は半日と言っていたけど?」


「それはこの世界の時間を止めているからよ。

今、この世界で行動できているのは、わたくしの許可を得た貴女一人だけ。

外を見てごらんなさい。

吹き抜ける風すら止まっているから」


「時間を止めた?

この世界全体の!?」


「ええ、彼がね」


そんな事、人間以外の存在だとしても、可能なの!?


まるで神様じゃない!


・・まさか、違うわよね?


もしそれが事実だとしたら、もうどうにもならないじゃない。


よろよろと椅子から立ち上がり、恐る恐るテントの幕を開ける。


じっと外に目を凝らす。


林立する木々、その小枝さえだの葉が、風で煽られた状態のままでいる。


少し離れた草花の上を舞う蝶が、空中で静止している。


一切の音が聞こえない。


森の香りさえしてこない。


そんな・・嘘でしょう?


膝ががくんと落ちそうになる。


でも精一杯の気力を振り絞って、どうにか椅子まで戻る。


「理解できた?」


「・・彼、神様なんですか?」


そうだとすれば、これまでの全てに納得がいく。


圧倒的な武力、出たら目過ぎる魔力、大陸に点在する隠された迷宮を瞬時に探し出し、行った事がない場所まで、仮令それがどんなに遠くても、転移で直ぐ行ける。


弱い者に向ける優しい眼差し。


人助けが趣味だとまで言った、その言葉の数々。


自分がどんなに迫っても、眉一つ動かさなかった理性。


「それはわたくしからは言えないの」


「あの人に性欲なんてあるのですか?

とても妻を複数娶るだけの意欲があるとは思えませんが」


自嘲ぎみにそう尋ねる。


「普段はプロテクトをかけていらっしゃるから。

ああ見えて、彼がその気になると、凄いのよ?」


クスクス笑いながら、そう答えてくれる。


何処かの王族とすら思える程の気品を兼ね備えた彼女が、憚る事無くそう言って退ける。


私では、とても太刀打ちできそうにない。


きっと他の五人の妻達も、彼女に負けず劣らず美しいのだろう。


自分を見てくる男達の眼からして、容姿だけは誇れると思っていたのに、それすら彼女達には敵わない。


諦めなければ駄目なのかな?


高望みなのかな?


・・でも、もう他に行く当ても無いし。


『もう一押しかしらね。

容姿に問題は無いし、性格だって悪くはなさそう。

彼を一途に想っているし、身持ちだって堅いはず。

・・そう考えると、何だか可哀想ね。

まだキスしかしていないそうだし、仮令毎日だとしても、それくらいなら良いのではないかしら』


ヴィクトリアは、自分が妻になるまでの事を考える。


色々あった。


初対面から彼と喧嘩して、仲直りしてはまた拒絶に近い事をして、時間をかけながら、大事に気持ちを育ててきた。


それは彼が無意識に与えてくれた猶予でもあるし、妻の方々が見逃してくれたお陰でもある。


わたくしは彼の『器』ではない。


アリアのように、添い遂げる事が半ば確定していた立場ではない。


本当に、ただ幸運に恵まれただけ。


この娘も多分、『器』ではないでしょう。


『器』であれば、本人同士が何となく分るそうだから、エリカさんがそう仰らない以上、恐らく自分と同じ立場。


ここに来る時、彼女をどうするかの最終的な判断は、わたくしに一存すると言われてきた。


・・助けてあげたいわね。


今にも潰れそうな彼女に、救いの手を、彼に愛されるチャンスを与えてあげたい。


旦那様なら、この娘を無下にしたりはしないだろうし、他の妻の方々だって、本心では彼女を否定してはいないはずだ。


ヴィクトリアの脳裏に、何時かの入浴時での、マリーの言葉が甦る。


『・・受け入れて貰えなかった相手にも、其々の出会いがあり、心惹かれる出来事が存在し、決して忘れられぬ想いがあるのです。

自分が勝者になったから、自分以外の女性はどうでも良い。

旦那様の妻の中で、もしそんな考えが許されるとしたら、それは最初の妻である、エリカ様だけです』


そのエリカさんは、旦那様の側に、また一人女性が増えるかもしれない事を、純粋に喜んでおられた。


だからこそ、私達の企てに参加なさらなかったのだ。


・・このミザリーさんが、どちらを望むかは分らない。


でもせめてその機会だけは与えてあげよう。


そう決めた。


「最後に1つだけ聞いても良い?

貴女はこれからもずっと、彼一人だけを愛せるかしら?」


敢えて聴かなくても分るが、会話の糸口を作ってやる。


「・・勿論です。

もう私には、彼しかいないから」


「ならわたくしは、貴女の味方になってあげる。

貴女を応援するわ」


ミザリーが、俯かせていた顔を上げる。


半信半疑で尋ねてくる。


「何故ですか?

先程までは、私に否定的な感じでしたが・・」


「別にわたくし自身は、貴女に思うところはないもの。

それにね、多分他の妻の皆さんも、本心では貴女を排除しようなんて考えておられないわ。

恐らく、貴女を試しているのだと思う。

旦那様に愛されるためには、少なくとも2つの条件があるからね。

1つは絶対に心変わりをしないこと。

もう1つは、最後まで彼に付いて行く覚悟があること。

・・貴女には、それがあるわよね?」


「はい、あります」


ヴィクトリアの眼を見て、力強くそう答えてくる。


「教えてあげる。

彼に愛されるには、2つの道がある。

その妻になるか、若しくは眷族になるかのどちらか。

妻になる時、眷族化して人ではなくなるから、どちらも同じようなものだけど、妻の方が果たす役目は大きいかもしれないわ。

それに、星1つを任される場合もあるから、何かと忙しい。

わたくしを含め、ほとんどの方々は、彼と離れて暮らしているから、月に一度くらいしか、可愛がっては貰えない。

・・彼次第ではあるけれど、貴女はどちらになりたいの?」


「眷族というのは、ただ人でなくなるだけですか?」


「妻と違い、その生き方を自由に選べるわ。

旦那様に抱かれるためには、その相手を彼一人に絞る事が絶対条件だけど、それ以外の束縛はほぼないわ。

ずっと彼の側に居て、その邪魔をしない限り、彼を見ていく事も可能よ。

夜の営みだけは、予約制だけどね」


ミザリーが浮かべる表情から、ヴィクトリアには、彼女がどちらを望んでいるかが大体分る。


「・・今直ぐに答えを言わなくても良いわ。

旦那様に問われた時、迷わないように、しっかりと考えておいてね」


「はい、有難うございます。

どうして味方になってくれたのかは、未だによく分りませんが・・」


嬉しそうに礼を述べるミザリー。


「わたくしも、他の方(エリカ)から助けていただいたし、貴女、何となくだけど、わたくしと似たような所があるから。

・・わたくしも、彼をその気にさせるまで、幾度も喧嘩して、何度も意地を張って、最後には泣いてまで縋った。

本当に彼が欲しかったから、形振なりふり構わずに攻めたわ。

だから、貴女が朝彼にしているという事にも、頷ける。

頑張りなさい」


ミザリーにそう告げると、テーブルに、紅茶とお菓子を出す彼女。


「少しお話しない?

貴女と彼の出会いとか、これまでどんな事をしてきたかなど、言える範囲で教えてくれないかしら?

・・その本、読んでくれているのね。

先の内容が読みたくなったら、遠慮なく言ってね?」


風の魔法書を大事そうにリングに終おうとしたミザリーに、嬉しそうに目を細めた彼女が言う。


「これ、貴女が用意して下さったんですか?

とても分り易くて、読んでいて楽しいです」


それから数時間、まるで仲の良い姉妹のように、二人は話に花を咲かせるのであった。



 「エリカさん、何か仰ってた?」


部屋に入るなり、直ぐに腕を引かれ、ベッドへといざなわれた和也。


お互いの肉体が触れ合う音と、彼女の呼吸だけが聞こえる慌ただしい時が過ぎ、今は静かに寄り添っている。


「お前達が欲求不満だと言っていた。

しっかり期待に応えろとな」


「そこまでは仰ってないでしょう?

不満があったのは確かだけれど、ミザリーさんを虐めるために、ヴィクトリアさんを送ったのではないのよ?」


「それは分っている」


「あの娘の本心を確かめる積りもあったけど、1番の理由は、ヴィクトリアさんと仲良くなって貰いたかったからなの」


「何故彼女と?」


「ヴィクトリアさんにはまだ、彼女自身を慕ってくれる、眷族の娘がいなかったから。

わたくしには菊乃がいて、有紗さんには皐月さんがいる。

マリーさんにはユイさんとユエさんが、アリアさんにはオリビアさんがいる。

あなたと離れて暮らしていれば、時には誰か他に、お話相手や行動を共にしたいと思う方が欲しいはずでしょう?

だから、勝手だとは思うけど、ミザリーさんはどうかなと、四人で相談したの」


「まるであいつが自分の眷族になるかのような口振りだな」


「あなたにその気は無いの?」


「今回の目的は、飽く迄『ざまあ系』の実践と観察だ。

それ以外の事に興味はない・・と言いたいところだが、またしても幾つかの柵ができてしまった。

自分を慕い、心を開いてくれる者に対して、そう邪険な態度を取る積もりはないし、一旦保護した相手を、無責任に途中で放り出す事もしたくない。

彼女の気持ち次第だが、眷族にはしても良いと考えている」


「やっぱりね。

あなたが何かを新しく始めて、只で済んだためしが無いもの」


「心外だな。

まるでいつもそうしてるようではないか」


「事実でしょう?

そう言われたくないのなら、これからは、何かを始める時、妻同伴でして頂戴」


紫桜が、再度和也に覆い被さってくる。


「そう言えば、ミザリーは、一体自分に何をしていたんだ?」


「今忙しいから後にして」


余計な事を言うなとばかりに、彼女が口を塞いでくる。


結局、和也は予約を入れた四人の誰からも、その内容を聞けずに帰るのだった。

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