第21話

 「・・息子を宜しくお願いしますよ?」


「分っております。

我が伯爵家は、第1王子であるご子息を支持致します。

その代わり・・」


「ええ勿論。

息子が国王になった暁には、必ず重臣として迎え入れましょう」


王宮の庭、その物陰で、国王の第2夫人と男が密談をしている。


それを聴いているルビーは、メモにまた1つ情報を記載した。


ここに来てから約一月。


その間、昼夜を問わず情報収集に励んだ彼女は、どの派閥に誰が居るかを粗方理解していた。


勿論、それだけをしていた訳ではない。


ロダン専属のメイド数名を、完全に自身の味方につけてもいた。


一人は、ロダンの食事に毒を盛っていた。


この時が初めてだったらしく、緊張で強張った表情をしながら料理を運んでいたその肩を、そっとルビーに摑まれる。


悲鳴を上げようとするメイドの口を塞ぎ、彼女ごと別室に転移するルビー。


怯えるメイドに、彼女が何をしたのかを言い当てた上、自害用にと所持していた毒を取り上げる。


それから、床に崩れ落ちたメイドに、優しく諭すように告げた。


「訳を話して。

貴女自身はロダンに恨みは無いはずよね?

見ていた限りでは、よく働いていたもの。

何か理由があるのよね?

私が力になってあげるわよ?」


思いがけず優しい言葉をかけられたそのメイドは、泣きながら理由を述べた。


自分の母親が、父親の病気のために借金を負ったこと。


お金を借りた相手が悪く、法外な利息を取られていること。


そして、それを全て立て替えてやると言って、ある男が自分に近付いて来たこと。


その男は第1王子派の誰かに仕えているらしく、自分がロダンの食事に毒を盛る事を条件にしてきたこと。


勿論断ったが、今度は秘密を知られたからと、両親を何処かに監禁し、やらなければ殺すと脅されていると。


話を聴き終えたルビーは、そのメイドに告げる。


「よく正直に話してくれたわね。

貴女と貴女の両親は、私が絶対に助けてあげる。

その代わり、もう二度とこんな事をしては駄目よ?」


泣きながら頷く彼女を立たせると、ルビーは自らの人差し指を口に含み、それに若干の唾液を付けて、メイドの唇をなぞる。


「舌で舐めなさい」


言われた通り、ルビーの唾液が付いた自分の唇に、舌を這わせる彼女。


「これで仮令貴女の身に何かあっても、直ぐに私に伝わるわ。

貴女の記憶も読ませて貰うけど、この仕事が終わればちゃんと解除してあげるから、心配しないで。

本当はキスでする行為なんだけど、それをするのはご主人様とだけだから」


妖艶に笑うルビーに頬を赤らめたメイドは、元の調理場に戻され、適当な理由をつけて、新しい料理を運んで行った。


サキュバスであるルビーには、元々性的な事で、男女を操れる能力がある。


和也の眷族となって、更に後天的な能力を得ている彼女は、その唾液や血液を対象に取り込ませる事で、その相手と視界を共有(勿論一方通行)し、思考や記憶を読んだり、身体の現状(心理的、物理的)を把握できたりもする。


魅了は、ただ催眠のように従わせるだけで、そこに本人の意思は入らない。


対象に普通に日常生活を送らせるには、こちらの方が使い勝手が良いのである。


「さて、今度はあちらね」


メイドの記憶を読み、彼女の両親と、その男の行方を探す。


遠視と透視を駆使して探すこと約3分。


城下町の外れの、古びた一軒家で、彼らの姿を見つける。


ルビーの眼が鋭くなる。


転移で一瞬にしてそこまで行った彼女は、約束を破り、口封じにメイドの両親を殺そうとしていた男を瞬殺する。


何が起きたか分らず、唯々怯えるメイドの両親に、簡単に事情を説明するルビー。


それから、男の死体の傷口に、自身の指を噛んで出した(和也が生み出す武器以外では、彼女達は傷も付かないから)血を一滴垂らし、その記憶を読み取る。


それが終わると、汚らわしい物でも扱うように、男の死体を一瞬で焼却し、灰も残さず消し去った。


彼らに少しだけこの場に居るように命じ、読み取った男の記憶を辿って、その家に転移し、有り金全部と、借金の証文を持ち帰る。


メイドの両親の前で、その証文を燃やし、男の家にあった金貨15枚を彼らに渡すと、父親の方の病を治してやる。


暫く身を隠す場所があるかと尋ねると、ミレノスに親類がいるというので、一旦彼らの家に寄って必要な物を持ち出し、そこまで転移で送ってやった。


腰を折らんばかりに頭を下げてくる彼らに別れを告げ、また王宮に戻る。


先程のメイドが食後の食器を運んでいるところに現れ、首尾よく事が片付いたと知らせてやると、彼女も泣いて喜んだ。


後日、彼女の休憩時間に少しだけ、転移で両親に会わせてやる。


元気になった父親の姿を見たメイドは、ルビーの依頼主であるロダン(彼女はそう思っている)に、より忠誠を尽くすのであった。


二人目は、先ずコリーを狙ってきた。


恋人を誘拐され、その命と引き換えに、彼女の飲むお茶に、やはり毒を盛ってきた。


これもルビーにより事前に阻止され、一人目と同様な方法で相手の居場所を突き止め、やはり似たようなやり方で、メイドの恋人を一時的に避難させた。


彼女は毎回敵の家から金品を根こそぎ奪っては、それを被害者に分け与えているので、この彼も、避難先で生活に困るような事はない。


和也により、『先ずは過失なき被害者を優先せよ』と常々申し渡されているルビーは、それを忠実に守っている。


なので、被害者宛の弁済を時に厳し過ぎるくらいに取り立てるが、エメラルド同様、和也から人の善悪を見分ける眼を与えられているので、その瞳に赤く映らない限り、無闇に命までは取らない。


今回も残念ながら、赤く映ってしまったようだが。


恋人の無事を確認できたメイドは、コリーに毒を盛った事を黙っていてくれたルビーに心から感謝し、以後はロダンの為に懸命に働くようになった。


三人目は、メイド本人を狙ってきた。


家族も恋人もなく、ロダンが幼い頃からずっと仕えてきたメイド。


裏工作に失敗した敵は、そのメイドが生活のために与えられている王宮内の個室で、犯行に及ぼうとした。


就寝中に殺し、その代用として自分達の息のかかった者を送り込もうとしたようだが、その刺客が室内でナイフを振り上げた途端、ルビーによって拘束された。


魅了を使って情報を吐かせた後、瞳に赤く映る女性でもあったので、そのままダンジョンCに送る。


騒ぎで目を覚まし、一部始終を見ていたメイドに簡単に事情を説明する。


そのメイドも、今後の身の安全のためと、ロダンを護るという強い意思で以て、ルビーの唾液を受け入れた。


刺客から得た情報で、深夜、盗賊達が潜む館に転移するルビー。


性交後の独特な異臭がする部屋で眠る男女数人を、そのままダンジョンCへと送り込む。


館にあった金品は、全て彼女が没収し、彼らに依頼を持ち込んだ貴族は、今はそのまま放置して置く。


こうして自身の仲間を増やし、意識せずとも送られてくる情報を得ながら、敵にその存在を知られる事なく活動していたルビー。


そんなある夜、一向に成果が出ない事に痺れを切らした敵側が、到頭直接行動に打って出てきた。


ロダンとコリーの其々に、二名ずつの刺客を送り込んできたのだ。


部屋の見張りがちょうど彼らに靡いた騎士達だけで構成された晩、皆が寝静まった王宮内の通路を、音もなく移動して来る集団。


予め手引きされた侵入経路を通って、暗殺者達の魔の手が二人に迫って来る。


ルビーは姿を消した状態で、遠視を用いてその有様を全て見ていた。


彼女は先ず、コリーをロダンの部屋のベッドまで転移させ、それで目を覚ました二人に、大人しくしているようにと告げる。


その後、静かに部屋のドアを開けてきた暗殺者二人の精気を、一瞬で吸い取る。


彼らが倒れた事で失敗を悟った見張り番が騒ぐ前に、その者の精気も全て抜き取る。


三人の遺体を素速くダンジョンCへと送り、その足でコリーの部屋に行っていた刺客の下に転移した彼女は、誰も居ない部屋に不審を抱いた彼らの精気も抜いて、やはりCへと送る。


最後に残った一人、コリーの部屋の見張り番だった女性騎士だけは、生かしておいた。


自身の瞳に赤くは映らなかった彼女が、短剣で己の喉を突こうとしたところを止め、その刃を握り潰す。


首を摑んで口を開けさせ、自らの唾液で濡れた指を、その中に突っ込む。


相手が喉を鳴らした事を確認したルビーは、彼女の記憶を読んでいった。


「助けてあげる」


暫くして、最早抵抗せずに大人しくしていた女性騎士の喉を放すと、咳込む彼女にそう告げる。


「貴女の妹は、私が必ず助けてあげる。

だから、これからはちゃんと二人を護るのよ?」


呆然としている女性騎士を連れて、ロダンの部屋まで転移し、そこで待っていた二人に、彼女の口から真実を話させる。


親がその上司である侯爵から無理やり辺鄙な土地を買わされ、高い金利付きの返済に困ると、妹を妾に要求してきたこと。


相手はもう50過ぎで、まだ未婚の妹には将来を約束している相手がいること。


その侯爵は女癖が悪く、これまで何人もの女性が被害に遭い、最後は謎の死を遂げていること。


暗殺に手を貸せば、見て見ぬ振りをすれば、妹の要求は取り下げると言われた事など。


「よく話してくれました。

ルビーさんのお陰で、幸い自分達には何の被害もありません。

貴女を許します。

ですから、今後は自分達の味方になってくれますか?」


14らしからぬ威厳を持って、ロダンが優しく女性騎士に話しかける。


彼女は泣いて平伏し、以後は彼らに忠誠を誓うと約束した。


「では私は、これから外で少し仕事をしてきます。

あなた達は、何事もなかったかのように、また寝て下さい。

もう今夜は、誰も襲ってはきません。

朝になったら、敵側の誰かが死んでいますが、それにも無関心でいて下さいね」


妖し気に微笑むルビーは、それから直ぐに何処かに転移していった。


「・・彼女が味方で、本当に良かったですね」


「ええ、本当に。

妹には後でお礼の手紙を送らなくては」


女性騎士にも持ち場で休むように伝えると、コリーはロダンの顔を見て言う。


「今夜は久し振りに私と寝ましょう」


「・・そうですね。

今夜くらいは良いかもしれませんね」


二人が同じベッドに入って眠りに就いた頃、ルビーは女性騎士の記憶にあった侯爵の屋敷に居た。


和也からも、『女性を己の性欲のためだけに凌辱するような輩には、死か、それに準ずる罰を』と厳命されているが、そう言われるまでもなく、彼女自身もそれを許さない。


己の母が古の魔術師達に散々玩具にされた挙句に死んだ事を、彼女は決して忘れない。


爛々と輝く真紅の瞳を虚空に向け、屋敷全体の構造と、中に居る人員を確認する。


その後、そこで何が起きたのかは定かでないが、翌朝、当主である侯爵とその妻、その息子達、及び使用人の何人かが死体で見つかる。


館にあったはずの大量の金品も全て持ち去られ、その家系で生き残ったのは、たった二人、まだ幼い娘達だけであった。


公には盗賊の仕業として処理されたが、同じく生き残った他の使用人達が、誰一人として賊の姿を見ていない事からも、巷では悪霊の仕業とまで噂されていた。


侯爵から没収した財産の中から、ルビーは女性騎士の親に、土地の購入費用と不足分に対する金利、その証文を返す。


そして金貨300枚と引き換えに、辺鄙な土地(約10万坪)の権利書を譲り受けた。


お陰で女性騎士の妹は、予定通りに婚約者と結ばれ、その家の財政状況も大幅に改善されたという。


初の実力行使に完全に失敗した敵側は、どうやら相手には優秀な護衛がいるようだと警戒するようになる。


自分達が送り込んだ刺客の死体さえ出てこない上、主要人物の一人でもあった侯爵が、謎の死を遂げた。


姿の見えない敵に恐れをなす者も出始め、第1王子側の結束も、徐々に揺るぎ始めていた。



 私室で寛ぐ国王の膝元に、突如として現れた1枚のメモ。


驚いた彼がその周囲を見回すも、人の気配は全く感じられない。


とりあえず、メモの内容に目を通す国王。


そこには、二人の王子の派閥メンバーが細かく記載され、第1王子側の何人かには、これまでの余罪まで明記されていた。


「・・誰だか知らんが礼を言う」


それだけ言うと、国王はまた読書に勤しみ始めた。



 『ん?

・・ルビーからか。

土地の権利証と、金貨2万枚を送ってきたようだな(和也の妻や眷族達は、彼に向けて物を送る事ができる。引き出しはできない)。

随分辺鄙な土地だが、広さだけは十分だ。

さて、誰に任せようか。

・・相変わらずらしい。

そうだな、彼らにしよう』


朝の洗面と歯磨きをしながら、そんな事を考える和也。


テントに戻り、食事をしていたミザリーに声をかける。


「少し出かけてくるから、君はここで待っていてくれ」


「何処に行くの?」


「『ミカナ』で使う食材を生産して貰う者達に、会って話をつけてくる」


「分った。

それまで魔法の本でも読んでるね」


昨晩は少しご機嫌斜めだった彼女は、今朝は非常に上機嫌だった。


女性には、毎月の症状など、あまり詮索してはいけない事がある。


妻に迎えるまでのアリアとの暮らし等で、それをよく理解している和也は、そう思って深く考えない。


彼女の機嫌に、その秘密の日課が大きく関与しているなどとは夢にも思わない。


同じ枕を使って寝ているので、起きがけに彼女の香りを強く感じても、彼は別に気にしないのだ。


珈琲を一杯だけ飲むと、直ぐに何処かへと転移していった。



 「兄貴~、これからどうします?」


「・・森に入って獣でも狩るしかねえな」


元『モブA』だった二人は、田舎に帰り、和也から貰った金貨で、お互いの畑を購入しようとした。


だが、同じ村に住んでいた彼らの幼馴染の家が、商人に畑の肥料代などで多額の借金があると聞き、彼女らが奴隷に売られないように、その金全部を使って借金を清算してしまった。


自分達の実家も貧しく、とても二人を食べさせるだけのゆとりもない。


彼らが色々と考えていた所に、再度和也が姿を見せる。


「相変わらず冴えないな」


苦笑しながらそう口にする和也。


「あの時の黒服!

・・よくここが分ったなあ」


「相変わらず格好良いっす」


「どうやら生活に苦労しているようだな。

良ければ自分が仕事を与えてやれるが?」


「本当か!?

一体何の仕事だ?」


「筍栽培だ」


「筍?

何だそれ?」


「この国では未だ食用とされていないが、手間さえかければかなり美味い野菜だ。

収穫は年1回、約40日程の間だが、それ以外でも、伐採した竹を加工して竹細工が作れる。

収穫した筍は、お前達が食べる分以外、全て自分が買い取る。

竹細工も、出来が良ければ買い取ってやろう。

最初の内は慣れずに苦労するだろうし、資金や食料もないだろうから、それも自分が何とかしてやる。

・・どうする?」


「どうするったって、なあ?」


「そうっすよね」


「俺達には他に陸な選択肢なんか残ってねえし、お前の依頼なら喜んで受ける。

・・俺達なんかにあそこまでしてくれたのは、お前が初めてだ。

嘲笑もせず、こちらの気が晴れるまで付き合ってもくれたし、御負けに餞別まで恵んでくれた。

お前を満足させる仕事ができるか分らねえが、全力でやるよ。

・・有難う」


「お前達の良さを理解しているのは、何も自分だけではない。

・・あそこを見てみろ」


和也が視線を送った方向に目を遣ると、自分達の幼馴染である女性二人が、僅かしかない食料を持って、少し離れた場所からこちらを覗き見ている。


大方、彼女らの食事を分けに来たのだろう。


その二人に向けて、和也が手招きする。


恐る恐る近付いて来た彼女らに、和也は尋ねる。


「君達は、もし彼らと新しい土地で暮らせるとしたら、共に行きたいと思うか?」


「おいおい、何聴いてんだよ。

恥ずかしいじゃねえか」


「でも、できるなら一緒に暮らしたいっす」


女性二人が、其々の幼馴染の裾を摑む。


「・・決まりだな。

これから新たな土地まで案内するから、親に別れを告げるなり、必要な物を持ってくるなりしてくれ。

金や食料を持ってくる必要はない。

嫌な親でないのなら、それは家族に残しておくと良い」


四人が顔を見合わせ、一旦各自の家まで帰る。


その間、和也は周辺の田畑を観察し、連作でやせ衰えた大地に恵みを与える。


森にも自然薯や食べられる茸、山菜などを植えてやり、毎年少しずつでも、それらを収穫する事で、村人の暮らしの足しにしてやる。


「待たせたな」


先程の四人が戻って来る。


どの者も、前回と同じ格好で、風呂敷1つ分くらいの持ち物しかない。


「では行くぞ」


四人を連れて瞬時に転移した場所は、10万坪もある広大な平地。


何が起きたか理解できない彼らに、和也は告げる。


「少しここで待っていてくれ」


それから、魔法でその土地の改良を始める。


土を深く掘り起こし、石や岩を砕き、十分な養分を与えて、親竹を約1000本植えていく。


空いた土地に、彼らの家を二軒建て、井戸を二つと、男女別の共同浴場を設ける。


大きな倉庫を1つ建て、そこに筍の育成に必要な4種類の肥料の袋を束にして積み上げ、農機具や調理器具を保管する。


生活に必要な、米や麦の袋も、各自の約2年分を、薪と共に積んでおいてやった。


最後に、四人の服と身体に浄化をかけ、更に服の解れや傷み、身体の病を治してやる。


「これで大体は済んだはずだ。

4月の収穫の時期、またここに来てそれらを買い取る。

筍栽培は、意外と手間がかかる。

日々その成長を見守り、時間との闘いの時もある。

お前達の家に、栽培方法を詳しく説明してくれる、『何故何筍なぜなにたけのこ』を設置して置いた。

テレビと言っても分らないだろうが、映像と音声付きで、筍に関する全てを教えてくれる。

上手く活用してくれ。

・・何か質問はあるか?」


和也の作業を呆然と眺めていた彼らは、そう言われてやっと正気に返る。


「・・お前、一体何者なんだ?」


「フッ、よく聞かれる。

ある時は縮緬問屋の隠居、またある時は世界的大企業の会長、更にはとある学園の用務員、何処かの国の国王だったりもする。

我ながら多忙だとは思うが、楽しいので苦ではない。

この国では、今のところ大した肩書はないな」


「・・言ってる事の半分も分らんが、只者ではないという事だけは理解した。

こちらからお前に連絡する手段はあるのか?

治安面でも不安が残るしな」


周囲に何もないから、魔物や賊に襲われたら一たまりも無い。


そう考えているようだ。


「敷地の周囲には結界が張ってあるから、自分の許可なしには如何なる存在も入って来れない。

折角生えた筍を、盗まれたり、猪などに食われたりすると困るのでな。

連絡手段は・・それ用の若竹の葉に、自分への用件を書いた紙を吊るしてくれ」


彼らの家に、それ用の紙と墨、筆を生じさせる。


「ここからは出られねえのか?

偶には買い物とかにも行きたいが」


「お前達の出入りは自由だが、隣の村や町までは、歩きだと3、4日はかかるな。

・・1か所だけ、一人につき月に一度のみ、特定の町に転移で往復できるようにしてやる。

何処が良い?」


「何処でも良いのか?」


「この国の中ならな」


四人が相談する。


「・・ウロスの町にしてくれ」


「分った。

冒険者ギルドから少し離れた場所に、お前達だけが見え、使用できる転移門を開いてやる。

忘れるなよ?

これがそうだ」


近くの地面に、その紋章を映し出す。


「これが輝いている間は、そことの往復が可能だ」


「・・何から何まで済まねえ。

その筍とやらは、必ず俺達が栽培してみせるから」


「期待しているぞ?

世話を怠らなければ、収入も、全部で年に金貨30枚にはなるはずだ」


「「!!!」」


「それからこれは、当面の予備費。

生活が落ち着くまで、倉庫に一定の食料を補充しておくからそれ程困らないとは思うが、何かあった時のために取って置け」


四人其々に、金貨2枚の入った布袋を渡す。


「では自分はこれで失礼する。

遅くとも、収穫の時期にはまた顔を見せるから」


来た時同様に、転移で姿を消す和也。


その彼に深々と頭を下げた四人は、以後毎年、立派な筍を育てて和也を喜ばせた。


『ミカナ』で売る肉まんには、不思議で美味しい食材が詰まっている。


そう評判を呼び、各店で用意する毎日1000個の肉まんは、何処も皆、その日の内に売り切れるのであった。

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