第13話
「ふう、やっと着いた。
結構遠かったわね」
「ああ。
馬車を使わなかったとはいえ、キンダルから約4日の道のり、ちょうど良い肩慣らしになったんじゃないか?」
三度の野宿を経て、ゆっくり歩いて来たが、途中途中で下級の魔物に数度襲われ、妻も多少は実戦での感を取り戻したであろう。
辿り着いた先は、この辺りの村とは思えない程、活気があった。
家々は何か所も修繕中で、特に宿屋はかなり大規模に改修されていた。
驚いた事に、男女別の大きな浴場まである。
辺境の村ではまず見られない光景に、私と妻は大いに喜んだ。
「済みません、これをお願いします」
宿屋の主人に、例の彼から頂いた書類を提示する。
「いらっしゃいませ。
・・ああ、御剣様のご招待ですね。
お聴き致しております。
奥様とお二人で3か月間のご滞在、お部屋は1部屋で宜しいですね?」
「はい」
「御剣様よりご伝言をお預かり致しております。
『滞在中は、宿で何をしてもその費用は全て自分が払うので、遠慮なく訓練に励むと良い。
3か月経ち、もし訓練の継続を希望する場合は、こちらが課す試験に合格すれば認める』、以上です」
「凄い待遇。
あなた、余程気に入られたみたいね」
「この宿のご説明を致します。
食事は1日3食、専用の食堂で食べられます。
時間帯はお部屋にある当宿屋の施設利用時間を参考になさって下さい。
ご入浴には専用の湯をご利用いただけます。
ただ、こちらは村人も使用致しますので、ご了承下さい。
洗い物は、専用の袋に入れて、その都度出して下さい。
翌日に洗った物をお返し致します。
以上ですが、何かご質問はありますか?」
「洗濯までしていただけるのですか!?」
「はい。
御剣様が宿泊者にはそうしろと言われましたので。
幸い、直ぐ隣に温泉がありますので、寒い日でもよく洗えますから」
「御剣さんは、この村の領主様なんですか?」
「いいえ、ご領主様のご息女の雇い主です」
「随分この村に影響力があるようですが・・」
「それはまあ。
あの方のご援助あっての、今のこの村ですから」
都会の宿でも珍しい、外からも鍵を掛けられる部屋鍵を受け取り、指定された部屋に入る。
中に入ってまたびっくり。
通常の部屋の倍の広さに、大き目のベッドが2つ、テーブルセット、クローゼット、そして地下迷宮で見たトイレが設置されている。
後で聴いた話では、これらの設備は御剣さんから宿が格安で買い受け、その料金を宿代で相殺しているのだそうだ。
この部屋は3つある特別室の1つで、普通に泊まれば1泊銀貨10枚するのだそうだ。
つまり、3か月で金貨9枚かかる。
それだけ食事も良いという事だろう。
妻と二人、待ち受ける訓練に気を引き締めながら、先ずは旅の疲れと汚れを落としに風呂に入る。
温泉というものに入るのは初めてであったが、病み付きになりそうなくらい気持ち良い。
それに、洗い場に置いてあるシャンプーというものは、とても頭がすっきりする。
これも御剣さんから村が購入しているそうだが、もし同じ物を町で売れば、相当な利益になるだろう。
温泉施設の横に、そのお湯を利用した洗い場が設けてあるので、そこで旅の間の汚れ物(下着)を洗う。
心身共にさっぱりした後は、今回の旅の目的であるダンジョンへと向かう。
村に隣接した森を進むと程無く見えてくる入り口。
その正面に立ち、書面で指示された通りに扉に手を添える。
すると、扉の上にあるランプが青く輝き、その下にあるパネルに文字が表示される。
『ダンジョンB』
ゴゴゴゴッ。
扉が開き、奥へと通じる道が現れた。
「初めてのお客さんが来た」
ルビーとメイが午前の訓練(専らルビーがメイに稽古をつけてやる)を終え、お茶を飲んでいた所に、侵入者を知らせるアラームが鳴り響く。
二人の傍らで蹲っていたゴーレムがむくりと起き上がり、館内の転移魔法陣まで移動していく。
「慌てなくても大丈夫。
Bだから、訓練生の相手よ。
収入にはならないけど、メイにはちょうど良い練習相手だから、しっかりね。
頑張れば、ご主人様がまたパンをくれるわよ」
「本当!?
メイ頑張る。
レム君もしっかりね」
既に魔法陣の側で待機していたゴーレムに、声をかけるメイ。
ゴーレムが頷く。
和也がここでルビー達に課した、主な仕事は次の2つ。
ダンジョンAの相手には、真面目に戦い、勝利を収めて利益を得る事。
ここに入るには、そのパーティーの所持金が最低でも金貨1枚以上なくてはならず、それ以下だと入り口の扉が開かない。
規定以上所持していると、支払う金貨の枚数が選択できる。
1、2、3、4枚の何れかで、それぞれが、中で戦える回数を表している。
戦える相手はランダムなので、1枚だと、ルビーに当たった時は、ほぼ何もできずに終わる。
2枚なら、運が良ければメイとゴーレムが相手で、もしかしたら勝って、その分の報酬が得られるかもしれない(メイ金貨1枚、ゴーレム金貨3枚)。
3枚の時は必ず何処かでルビーと当たり、負けるので(尤も、彼女が和也の眷族だとは知らされないので、普通のサキュバスだと思って、勝てると考える者もいるだろうが)、彼女にどうしても会いたいと願う者以外は選択しないだろう。
では、4枚支払った場合はどうなるか。
これがある意味ここの目玉の1つで、そのパーティーが心の中で最も戦ってみたいと願う、実存する魔獣や魔物を、和也に召喚して貰える。
上位竜や海竜、クラーケン(水辺の魔獣は、当然その生息地の水と共に召喚されるので、小さな海や湖を伴う)、コカトリス、ミノタウロスや、通常の攻撃では倒せないアンデッド類等だ(召喚される魔物の大きさにより、その都度ダンジョン内の広さが変化する)。
あくまで魔獣や魔物で、人や亜人、魔人の類は、たとえ願ったとしても認められない。
また、和也が魔獣界に保護した存在も対象外だ。
滅多に出会えない魔獣や、これから討伐に向かう予定の魔物と事前に闘える事で、その対策や怖さを知る事ができる上、仮に致命傷となる攻撃を受けても、仮想ゲージが消滅し、ダンジョンから強制的に出されるだけで、お互い傷1つ負う事がない。
人や魔物双方に、無闇な殺し合いをさせないための、和也なりの策でもある(魔物も、勝てないと予め分っている相手なら、逃げる事もあるだろうから)。
召喚され、無理やり戦わされた魔物には、元の場所に返される際、その身体の悪い所を治癒されたり、和也が各地で安く仕入れた、消費期限当日の食材の中から、好みの物を3食分相当与えられる(生き物は不可。血液は可)。
一度召喚されたら、ストレス緩和のため、最低でも1週間は再召喚されない。
更に、もう二度と戦いたくないと願う魔物には、場合によっては、魔獣界への道も選択肢に加えられる。
4枚払った場合には、召喚された魔物が最初の相手として固定されるので、必ず目当ての魔物や魔獣と戦える。
ダンジョンA及びBに、一度に入れる人数は六人まで。
途中でリタイアする事も可能だが、その場合は、仮令倒した相手がいても、賞金は全て没収される。
ただし、金貨4枚払った際には、途中リタイアでも、パーティーの装備が全て新品同様に修復される御負けが付く(つまり、ボロボロの装備で入れば、出る時にはピカピカになっているという事だ)。
1つのパーティーが入っている間は、その戦闘が全て済むまで、別のパーティーは入れない。
その際は整理券が発行されるので、後から来た者達に順番を抜かされる心配はない。
当初はパーティーの武器も取り上げようと思ったが、犯罪者ではないので、それは止めにした。
ダンジョンBでは、志願者の育成が仕事になる。
ここは和也が認めた者しか入れない。
将来その国の平和に貢献する者、大切な人を守っていく力を欲する者、自分を磨き、純粋に己を高めたい者。
そういった者に、戦闘訓練を施してやり、序でに、メイやゴーレムに経験や技能を積ませる事が目的となる。
志願者に費用はかからないが、1日1回、4時間までしか入れず、メイ達が出払っている時は、戻るまで、和也が用意した訓練メニューを消化しなくてはならない。
その技量が一定以上に達すると、金貨2枚と免許皆伝の書状が出て、特殊な例外を除き、二度と志願者としては入れなくなる。
ここでは魔力に関係なく魔法が使え、身体に負荷は残るが訓練中は疲労を感じないので、自身の肉体と精神を極限まで酷使する事ができる。
その分、志願者はダンジョンを出た後はへとへとになり、温泉と食事と睡眠で、ほぼ1日が終わるのだ。
ルビー達には、こうした仕事をこなす代わりに、ここに来る当初に和也と約束したものに加え、業績に応じてボーナスが支給される。
ルビーには、和也と二人きりの時間。
メイにはアンリのパンと、希望する基礎能力の上昇か金貨。
ゴーレムには、失われた主人達との思い出の品々が、当時の映像付きで復元される。
メイ達が持ち場に着くと、早速二人連れがやって来る。
「いらっしゃい。
あなた達が記念すべき最初のお客さん。
訓練内容は、事前にご主人様から知らされているわよね?」
訓練の最初なので、ルビーが代表して彼らに話しかける。
「はい。
3か月間、ここで基礎訓練と戦闘技術を学ばせて貰える事になっています。
模擬戦中心で、訓練中は魔法が使い放題、身体に負荷を掛け続けながら、疲労は感じない。
仮令魔法や攻撃を受けても、お互いの身体に傷1つ付かない。
そう知らされております」
「結構です。
では、訓練方針を説明します。
あなた達二人で、これから毎日、この二人と戦って貰います。
私は当面は様子見。
あなた達が戦うに値すると判断すれば、その時点から模擬戦に参加します。
頭上に映る仮想ゲージは、あなた達一人一人の生命力。
傷以上になる攻撃を受ける度に減って行き、それがゼロになれば、死亡扱いとして、邪魔にならない後方で型の素振りや筋トレを繰り返してゲージを満タンにしない限り、その日は再度模擬戦に参加できません。
それを良しとして訓練をサボるか、己の未熟を少しでも埋めようと、必死に努力するか、全ては、あなた達次第。
ご主人様に認められたあなた達ですから、私達の時間を無駄にはしないと信じています。
では、早速始めましょう。
装備の差が結果に影響しないよう、ここで使用できる武器は、鉄製の物のみです。
決して折れたり欠けたりはしませんから、その点はご安心を」
彼らの、長くて短い3か月が始まった。
「それは確かですか?」
ミレニーが受付の女性に確認する。
「はい、間違いありません。
ガルベイルの鱗を持って来たのは、アリアを助手として使う、黒服の少年です」
しまった。
やはり最初にギルドで確かめるべきだった。
サリンガ(祖父が治める町の名)からの移動途中で、ちょうど良い迷宮への入り口を見つけたので、馬車から降りて腕試しをしていたのが裏目に出た。
尤も、そのお陰であの素晴らしいトイレを手に入れられたのだから、悪い事ばかりではない。
4階層になってからは、流石に魔物の質が高くなり、四人だけでは辛くなったので、あの後早々に探索を切り上げたが、帰り道では3階層で中々上への道が見つからず、予定より1日遅れてキンダルに着いた。
その後、高級宿で旅の疲れと汚れを落とし、このギルドに情報収集にやって来たのだが、お目当ての彼は最近ギルドに顔を見せていないという。
強いとは感じていたが、まさかあんな少年がガルベイルの鱗を持って来れたとは思いもしなかった。
本来なら、こんな所まで来なくても、情報収集くらい訳ないのだが、この件に関してだけは無理だった。
どうも王家が裏で情報統制しているようなのだ。
表立っては何もしていない風を装いながら、この件の情報だけは、記録を抹消し、関係者に口止めしている。
今自分が聴いたギルドの受付嬢も、例の彼と親しい係ではなく、新人で、休憩中に外出した所を、任意で路地裏までご同行願って、金貨1枚を握らせて、やっと話して貰えたのだ。
あの時ギルドに居た連中を探して聴いても良かったが、そういう輩は概して口が軽く、信用できない。
こちらが彼と接触したがっている事が、外に漏れると不味いのだ。
受付嬢と別れてから、三人の従者と今後の方針を話し合う。
心配されたが、やはり私が一人で彼と接触する事にした。
四人では目立つし、従者と違って私だけは今は普段着なので、同じ普段着の彼と会っていても、周囲に違和感を感じさせずに済む。
それに最悪、一人なら使える手段が増えるし・・。
週に二、三度顔を見せるというギルドの近くで別に宿を取って、機会を待つ積りであったが、幸運にも、その途中で彼に出会えた。
「嬉しいわ、また会えたわね」
何気なさを装って声をかけるが、まるで知らない者を見るかのような目をされる。
「誰だ?」
「え?
覚えてないの?
私よ、ミレニー」
「ああ、鎧姿でないから分らなかった」
まるで、顔なんか見ていなかったというような言い方をされる。
「今少しお時間ある?
貴方に大事なお話があるの」
前轍を踏まないよう、なるべく丁寧な言葉を使う。
「少しくらいなら構わないが」
「有難う。
じゃあ、何処かの店に入りましょう。
他人に聞かれたくないから」
そう言って、彼の手を引いて歩き出す。
直ぐに見つかった店に入ろうとしたら、彼が諦めたような顔をしたが、他に相応しい店がないので、そこに入る。
出迎えた女性は、彼を見てとても気不味そうな表情をしたが、私が個室を頼むと直ぐに案内してくれた。
注文を終え、その女性が退出するのを待っていると、何故か彼だけ呼ばれて、個室の外に連れ出された。
「済まん、少し席を外す」
「お知り合い?」
「ああ、身内の叔母だ」
あまり気乗りしないような顔をする彼を見送り、私はこれからどう話すかをもう一度纏め直すのだった。
「今まで御免なさい。
貴方には、本当に失礼な事ばかりしたわ」
てっきり、また違う女性を個室に連れ込んだとかで文句を言われるとばかり思っていたが、意外にも、彼女は深く頭を下げて、自分に謝ってきた。
「いきなりどうした?」
「先日、あの二人が店に来て、私の誤解を解いてくれたの。
貴方は彼女らに乱暴したのではなく、寧ろ助けてくれたんだって。
あの涙は、嬉し涙だったと。
それに、ベニスまで一緒に来て、彼女も太鼓判を押していったわ。
『あいつはそんな男じゃねえ。滅多にいない、良い男だ』って。
ミーとケイにも確かめたけど、彼女らも貴方を絶賛してた。
・・本当に御免なさい。
アリアと直ぐ仲良くなったから、そういう方面に長けた男なんだと先入観を持ってたのね」
これまでの表情が嘘のように、優しい笑顔を向けられる。
「・・誤解が解けたのなら、それで良い。
この店は料理も美味いし、場所も雰囲気も良い。
できる事なら、通い続けたい1軒だからな」
「有難う。
そう言って貰えると張り合いが出るわ。
今後ともご贔屓に。
本当に御免なさいね」
明るくウインクして去って行く。
個室に戻ると、ミレニーが真剣に何かを考えていたが、和也を見て一転、笑顔になる。
「ご用は済んだ?」
「ああ。
・・それで、話とは何だ?」
「・・ガルベイルの鱗をギルドに持参したのは、貴方で間違いないのよね?」
「ああ」
「倒したの?」
「いや、自分が行った時は、既に巣を移った後だったな」
この件に関しては、ヴィクトリアにしか真実を告げない考えの和也は、ここでもギルドにしたような話を繰り返す。
「・・鱗を拾った時、他に何かなかった?」
「奴に挑んで負けた者達の、武器や防具の残骸があった」
「!!
その中に、剣はなかったかしら?
この紋章が柄に刻まれていたのだけれど」
そう言って、同じ紋章らしいものが刻まれた、短剣を見せてくる。
「・・あったな」
「!!!
お願い、それを売ってくれないかしら?
今回は金貨500枚出すわ」
かなり真剣にそう告げてくるので、和也は理由を聴く事にする。
「訳を話せ。
正直、あの剣はそんなに高価な物ではなかった。
新品でも、せいぜい金貨10枚くらいだ。
なのに何故そんなに出す?
以前売ったトイレの方が、よっぽど価値が高いぞ?」
「・・ここからの話は他言無用でお願い」
和也が頷くと、彼女は静かに話し始めた。
「私には、三人の兄弟がいる。
私は長女だけど、家督の相続権は、父と兄弟に次ぐ、最後の5番目なの。
私の家は未だ古風で、ほとんど男子にしか相続権がない。
でもはっきり言って、今の父と兄弟は皆出来損ないで、浪費と女遊びにばかり
彼らの誰が家督を継いでも、我が侯爵家は大きく傾くわ。
・・そんなある日、現当主のおじい様が、亡くなった長男の剣を持って来た者を後継ぎにすると言い出したの。
おじい様が最も可愛がっていたその長男は、武芸に秀で、人望もあった。
でも家督を狙う父に
勿論、帰って来なかったわ。
当時のおじい様の悲しみは、それはもう大きくて、ギルドに破格の懸賞金を懸けてまで、奴を倒そうとした。
無理だったけどね。
おじい様は父に家督を譲らず、孫達に期待したみたいだけれど、結果は散々。
私以外は、まともに領地の運営さえできない有様。
かといって、今更女性の私に家督を譲ると言っても、これまでの伝統が邪魔をして、何か周囲を納得させる物がないと難しい。
だから、噂を利用したのね。
ガルベイルの鱗を持って来た者がいるっていう噂を。
それを耳にしたおじい様は、奴の巣まで行って、長男の剣を取り戻した者に家督を譲ると宣言した。
倒されたという報告はないから、まだ生きていて、もしかしたら巣に戻って来るかもしれない。
そんな危険な状況で、剣を取り戻した、勇気ある者を後継者にするとね。
父と兄弟は、何もできなかったわ。
あの伯父でさえ歯が立たないガルベイルに、彼らが敵うはずがないもの。
それに、私さえ何もしなければ、おじい様が亡くなった時、必然的に父か兄弟の何れかに家督がいく。
行動しなければ家督を継げない私は、同じように侯爵家の未来を憂う部下の子供達を連れて、ここまで情報を得に来たという訳」
「奴の巣まで行かずに手に入れた剣でも良いのか?」
「それはしょうがないわ。
既に誰かに持ち去られていれば、巣まで行ったところで、何にもならないもの。
要は剣さえ持って行けば良いの。
それを手に入れる苦労も評価の内よ」
「金で買うだけでもか?」
「持ってる相手を探した事が評価になるわ」
「自分が売らないと言ったらどうする?」
「・・ねえ貴方、私の事、どう思う?
もし剣を譲ってくれたら、貴方を私の夫に迎えても良いわよ?
領地の経営は私に任せて貰うけど、その他の面では、貴方を立てるわ。
この間の女性、アリアさんと言ったかしら?
勿論彼女も、2番目としてなら娶っても
「・・剣のためだけに結婚すると?」
和也が無表情になる。
「いいえ、第1の理由はそうだけど、貴方の力を認めているからでもあるわ。
それに、とても男前だし・・」
心なしか、熱い目で和也を見つめてくる。
「残念だが、自分にその気は無い。
だが、大きな領地を治める者が無能だと、その民が苦しむ。
だからチャンスをやろう。
この村に滞在し、隣接する森のダンジョンで、金貨3枚コースを選択して戦うのだ。
運良く勝てれば、宝箱から必ず目当ての剣が出るようにしてやる」
そう言って、ミレニーの前に、村の所在地やダンジョンの特徴を記した1枚の紙を出す。
「振られちゃったわね。
・・単純に売ってくれるだけじゃ駄目なの?」
書面の内容を確認した彼女が、呆れたように言う。
まるでお遊びのように感じているらしい。
「言っておくが、これはお前達のためでもある。
ここで真面目に訓練しておけば、その内きっと良い事があるぞ」
「・・分ったわ。
その代わり、必ず宝箱に剣を入れておいてよ?」
「約束しよう」
こうしてミレニー達もまた、件のダンジョンに向かうのであった。
「随分活気のある村ね。
よく掃除されているし、村人の身なりも清潔だわ。
ここの領主、誰だったかしら?」
「ヘリ―男爵でしょう」
「?
聞いた事ないわね」
「何分、貧乏貴族の一人ですから、社交界には全く顔を出しません」
和也と別れてから直ぐに出発したミレニー達は、大急ぎでこの村までやって来た。
田舎の村だから、大して期待もしていなかったが、予想に反して小奇麗で洒落た村である。
1軒しかない宿に向かうと、ここもかなり高級感がある。
一部を増築中のようだが、外観は丁寧に塗装され、何と温泉施設まである。
建物の周囲と室内の至る所に目を楽しませる木々や植物が植えられ、中に入ると真新しい木材の良い香りがする。
「2部屋お願いするわ。
期間は、とりあえず1週間で」
宿の主人にそう告げるミレニー。
「いらっしゃいませ。
ようこそおいで下さいました。
お部屋の種類は、2部屋とも特別室で宜しいでしょうか?」
「ええ、それでお願い。
因みに1泊お幾らかしら?」
「1部屋で、1泊3食付き、銀貨10枚でございます」
「あら、安いわね。
この宿はまだ新しいのかしら?」
「いえ、元は古い建物でしたが、御剣様のお力で生まれ変わりまして・・。
一部まだ作業中なのは、村の者にも仕事を与えてやれと、敢えてお残しになったからです」
「御剣様?
ここの領主は、確かヘリ―家よね?」
「はい。
御剣様は、この村への出資者であり、大恩人です」
「もしかして、その方、黒服の少年?」
「はい、御存知でしたか」
「・・お部屋に案内して」
2階の広い部屋に通されると、直ぐにあのトイレが目に付く。
金貨200枚で買った物が、特別室とはいえ、こんな田舎の宿にある。
少しショックを受けるが、携帯用ではなかったので、溜飲が下がる。
今日はもう直ぐ暗くなるため、ダンジョンは明日にして、供の者と温泉に浸かりに行く。
「・・気持ち良い」
他の村人も使うようだが、上流貴族以上の広さを誇る湯船に、滾々と湧き出る温泉。
そしてこのシャンプー。
これは是非買って帰りたい。
貴族に相応しい、エレガントな香りがする。
そして夕食にも驚かされる。
豚の燻製のような厚切りの肉を、食欲をそそる香辛料で焼いたメインは、私でも美味しいと認めざるを得ない。
脂が少なく、臭みもない肉に、この黒い粒の香辛料が最高に合う。
この香辛料も絶対に欲しい。
ベッドの寝具も最高で、とても軽いのに、凄く温かく、そして柔らかい。
こんな宿、他のどの町にもないわ。
大事な目的を忘れそうになるのが怖い。
明日は早々にダンジョンに赴く事にして、その日は深い眠りに就いた。
「金貨3枚コースだったわね」
ダンジョンの入り口に立ち、青い光を浴びながら、お金を入れる。
開かれた扉の先を進むと、広場に女性が一人で立っている。
「いらっしゃい。
あなた達、運が無いわね」
よく見ると凄い美女で、しかも人間ではない。
「どういう意味かしら?」
「今の時間は他の二人がBに出払っているから、直ぐここに来れるのは私だけ。
金貨3枚も払って即退場では可哀想だから、暫く手加減してあげる。
何時でも良いわよ」
余裕の笑みを浮かべて挑発してくる。
「たった一人で私達四人に勝てる積りなのかしら?
・・あなた達、準備は良い?」
「はい、何時でも」
男の従者二人が前に出て、真ん中にミレニー、女性の従者は1番後ろから、魔法を用いて攻撃と援護を担当するようだ。
男性二人がダッシュし、左右から仕掛ける。
「ハッ」
「ムン」
横殴りと袈裟斬りの剣がルビーを襲うが、受けるまでもなく交わされる。
ミレニーが風刃を、従者の女性が火球を放つが、それすら当たらない。
「・・あなた達、もしかして素人?
今Bで訓練している彼らと大して変わらないわよ?」
「何ですって!
・・今度は本気でいくわ」
ミレニーの合図で男の従者達が猛然と剣技を繰り出し、自身と女性従者は隙を見て魔法を連発するが、一向に相手に掠りもしない。
ルビーの頭上に表示されている仮想ゲージは、全く減っていない。
「今の時代の人間は、皆こんなに弱いの?
正直、もう少しやれると思っていたわよ?」
手加減に飽きたのか、ルビーの瞳が妖しく光る。
途端に、男性二人が動きを止めて、前屈みになった。
その頭上の仮想ゲージが見る見る減っていく。
「どうしたの!?」
ミレニーが驚いて声をかけるが、返事をする間もなく二人が消え失せる。
「!!
彼らに何をしたの?」
「飽きたから精気を吸い取ったのよ。
今度は貴女達の番」
「ひっ」
直接的には何の被害も及ばないとは分っていても、やはり致命傷となる攻撃を浴びるのは怖い。
鋭い爪で胸を突かれて、女性二人も退場していった。
後に一人残されたルビーは、誰ともなく呟く。
「先が思いやられるわね」
彼女もまた、Bで訓練する二人の下に戻るのだった。
金貨3枚使って僅か数分の戦闘。
これはもしかしたら、500枚払って売って貰った方が安かったかもしれない。
資金もそうだが、何より時間が惜しい。
あまり長引くようだと、流石に兄弟達に気付かれる。
夕食の席で、隣の特別室に滞在する若夫婦と知り合い、情報交換する。
彼らはあの少年に招待されて、ダンジョンBで訓練しているらしい。
その相手は、今日自分達が戦った女性を除く二人、オークキングの女性とゴーレムだそうだ。
女性の方は、二人がかりなら何とか対等に戦えるらしいが、ゴーレムが加わると、全く歯が立たないそうだ。
何でも、生半可な魔法は全て吸収されてしまうらしく、それでいて、ボディの装甲も固く、並の剣では傷も付かない(ゲージが減らない)。
鉄の剣に限定されているので、装甲の継ぎ目を狙って上手く攻撃しないと、何もできないまま倒されてしまうそうだ。
こちらが例の女性と戦ったと話したら、済まなそうな顔をされた。
自分達と時間が被ったせいで、最初に彼女が出てきたのだろうと。
親切にも、明日からは時間をずらしてくれるらしい。
礼を述べて、その日も早く寝た。
男性陣の顔つきが、少し変だったのが気にはなったが。
翌日、昨日より大分早く起きて、朝食後に少し休んだくらいでダンジョンに行く。
約束通り、若夫婦は先に行かずに、庭で素振りの練習をしていてくれた。
それが功を奏し、今日の相手は最初がオークキングの女性であった。
結果的には、男性従者一人が欠けただけで次のステージに行けた。
四人で総攻撃し、彼女の捨て身の攻撃を受けた一人が、彼女自身を道連れにして消滅する。
だが第2ステージで、ゴーレムに完敗する。
自分達の魔法では何を放っても効かず、盾役兼物理攻撃担当の男性が一人だけでは、その重い攻撃に持ち堪えられなかった。
宿に帰った自分達を迎えた若夫婦は、汗まみれだった。
あれからずっと、剣を振っていたらしい。
「済まないが、手を見せてくれないか?」
うちの従者の一人が、彼にそう声をかける。
『あまりお見せできる状態じゃありませんよ?』
そう言いながら、掌を差し出す彼。
それを見た男性二人の顔が強張った。
無言で何かを問い質すように、彼の顔を見る。
「大丈夫です。
訓練の前には、ちゃんと治してくれるんですよ」
「朝だけではこうならないな。
・・まさか、あの後も?」
「ここの温泉は24時間入れるので・・」
「!!」
従者二人が何かを恥じるように項垂れた。
そして彼らは、昼食後、武器屋に何かを頼みに行った。
深夜、隣の部屋から微かな物音がして、私は目が覚めた。
1階の玄関の扉を開け、従者二人が外に出るのを、部屋の窓の、カーテンの隙間から覗き見る。
彼らは、少し歩いて広い場所まで行くと、手にした木剣で互いに稽古を始めた。
そこへ、こんな時間に温泉から出てきた若夫婦が通りかかる。
彼らは互いに何かを話し、若夫婦は従者達の稽古を邪魔しないように、直ぐに宿に入って来る。
私もベッドに戻って再び寝に入る。
隣のベッドで連れが目を覚ましている事に、最後まで気付かなかった。
次の日も、最初の相手であるオークの女性は何とか倒したが、余力が尽きて、2番目のゴーレムに直ぐやられる。
その夜から、女性の従者も私に隠れてこっそり部屋から抜け出すようになった。
私は何も気付かぬ振りをして、狸寝入りを決め込む。
翌日も、その翌日も第2ステージで負けたが、気のせいかもしれないが、ゴーレムが少し攻撃を加減し、戦闘を長引かせてくれるようになった。
それから1週間が過ぎ、夜だけでなく戦闘を終えた昼にまで、黙って従者達がいなくなるようになる。
帰って来る時は、汗の臭いで私に気付かれないように、ちゃんと温泉に浸かってくる周到さ。
『余程ここの温泉が気に入ったのね』と私が
隠れて訓練している事を知られるのが、そんなに嫌なのかしら。
こうなったら、私も徹底的に知らない振りをしよう。
そう決め込んで、彼らが訓練し易いように、色々と隙を作って彼らを自由に行動させる。
『宜しいのですか?』
何をとは言ってこないが、宿の主人も、従者達の訓練のし過ぎを案じているようだ。
思えばこの人も、毎食色々工夫して、長期滞在にも拘らず、なるべく同じメニューを出さないようにしてくれている。
それでいてどれも中々の味なのだから大したものだ。
後で聴いた話によると、あの少年から、レシピや材料の提供を受けているとの事だった。
つくづく不思議な少年だ。
親切なのか、意地悪なのか、分らない。
『私の役目は彼らを信じる事。そして全ての責任を取る事。もう暫く、お世話になるわね』
そう告げると、宿の主人は深く頭を下げて、以後は黙って色々とサービスしてくれた。
「畜生、まだ着かないのか!?」
深夜、閉ざされた村の門を迂回し、森の方から村に入ろうとした男達は、ランプを片手に悪態を吐いていた。
ミレニーの兄弟三人と、その取り巻き達である。
道の整備されていない森に入るため、乗って来た馬車を降り、徒歩で進んでいたが、暗くて前がよく見えない上、最早何処に向かって歩いているのかすら、よく分らなくなっている。
彼らがここまで来たのは、当然、行方を晦ませたミレニー達の跡を追って来たからだ。
彼らも最初はキンダルへと足を運んだが、情報を得ようと入ったギルドで偶々和也と出会い、ミレニー達の所在を聞き出す事に成功する。
和也に尋ねたのは偶然だが、彼が知っていると答えると、路地裏に連れ込んで、無理やり吐かせようとした。
尤も、和也によって九人の取り巻き全員が瞬時に伸されると、慌てて金貨の入った袋を差し出し、以後は卑屈な程丁寧に尋ねてきた。
和也は詳しい説明を一切せず、ただ彼女達が居る村の場所と、その目的を教えた。
彼らはそこからまた急いでやって来たのだが、馬車3台で来たために、思いのほか時間がかかり、到着が2日後の深夜になってしまったのだ。
「本当にこんな所にあいつが居るのか?」
「奴の話では、ミレニー達は、この付近にあるダンジョンのお宝を探しに行くと言ってたらしいじゃないか。
そのお宝の中に、きっと伯父の剣があるんだろう。
明るくなったら本格的に探すとして、今は少し休むか?」
三人が思い思いに話をする中、前を行く取り巻きの一人が、ダンジョンの入り口らしい扉を見つける。
「あそこに扉がございます!
あれが、
真っ暗闇の森の中、入り口の扉がぼんやりと、向けられたランプの光を反射している。
「でかした!
これであいつを出し抜ける。
最悪殺そうと思っていたが、あいつの実務能力は惜しい。
剣さえこちらが手に入れれば、あいつを部下としてこき使える。
今まで通り楽な暮らしをするには、あいつが稼ぐ金が必要だからな」
兄弟達は嫌らしい笑いを浮かべて扉の前に立つ。
「多少は強いとはいえ、あいつらが四人でどうにかなるダンジョンだ。
どうせ大した事あるまい」
「お前達、剣の出た宝箱を見つけた者には、金貨100枚の褒美をやるぞ」
其々が軽口を叩きながら、扉が開くのを待っていたが、一向に何の変化も起きない。
「ん?
もしかして何処かに仕掛けがあるのか?」
兄弟の一人が、探そうと扉に片手を這わせる。
その途端、上部のランプが赤く灯り、その下のパネルに文字が表示される。
『ダンジョンC』
ゴゴゴゴッ。
「いきなり開いたぞ。
何だ、扉にがたでも来てるのか?
しょぼいダンジョンだ。
お前達、先へ行け」
濃い闇の中にランプを向けて、十二人全員が中に入る。
ドンッ。
突然閉まる扉。
「ひっ!
おい、扉が閉じちまったぞ!」
「それくらいで怯えるな。
がたが来てんだから、後で蹴りでも入れれば開くだろ。
早く剣を見つけて帰るぞ。
こんな田舎、もううんざりだ」
ゆっくり用心して進んで行く一行。
先へ進むほど、生臭い臭気が鼻を衝く。
ズズッ、ズズズッ、ブーン、ブーン。
「・・何の音だ?」
「お前達、剣を抜け。
魔物かもしれん」
ハンカチで鼻を押さえた兄弟達が、各々の取り巻き連中に指示を出す。
だが、その後暫くすると、濃い血の臭いを残して、誰の声も聞こえなくなった。
ジャラジャラジャラ。
ルビーの館に置かれた大き目の宝箱に、何処からともなく1000枚近い金貨や銀貨が投入される。
「・・誰かCに入ったみたいね。
あのダンジョン行きなんて、余程の事をしてきたのね。
あなた達の所持金は、ご主人様が有効活用して下さるわ。
最後に人の役に立てて良かったわね」
彼女はそう呟くと、再び眠りに就いた。
「くそっ、まだ勝てないのか!」
更に2週間が過ぎ、従者達の表情に、己への苛立ちが深く刻まれる。
「申し訳ございません、ミレニー様。
我々が腑甲斐無いばかりに・・」
「あなた達はよくやっているわ。
相手が悪過ぎるのよ。
あのゴーレムなんて、4階層の魔物より断然上よ。
しかも、鉄の剣で戦っているのですもの。
仕方ないわ」
「ですが、一刻も早く剣を持ち帰らないと・・」
「あなた達はこの1
そのあなた達で敵わないのですもの、少なくとも、兄弟達に取られる心配はないわ。
資金が尽きるまでやってみて、それで駄目なら、運が無かったと諦める。
だから、あまり自分達を責めては駄目よ」
「・・ミレニー様がご領主にならないと、オレア家は終わりです。
最悪、私があの少年の奴隷になってでも、剣を返してくれるよう頼んでみます」
女性従者の呟きに、ミレニーが怒る。
「馬鹿な事言わないの。
それに、それでは無理よ。
恥を忍んで言うけれど、私も結婚を迫って断られたわ。
アリアが傍に居るんですもの、色仕掛けは彼に通じないわ」
彼女の美しさは、サリンガの町のサロンでも有名だ。
「今はやれるだけの事をやりましょう。
それで仮令駄目だったとしても、私はあなた達を責めない。
それに今日からは、私もあなた達の訓練に加わるわ。
遠慮なく、しっかりしごいて頂戴」
「・・御存知だったのですか?」
「逆に知らないとでも思っていたの?
私、そこまで鈍くはないわよ?」
苦笑しながらそう告げるミレニーに、従者達の表情も少し和らぐ。
その日から、彼らは一層訓練に励むのだった。
その1週間後、最初に遭遇したゴーレムを仮想ゲージ半分近くまで追い詰めたものの、やはり全滅した彼らは、いつもと異なり、ダンジョンの外ではなく出口付近に戻される。
訝る彼らの前には宝箱が1つ置いてあり、その傍らにはルビーが立っている。
「本当は、私達を全て倒さない限りこれは出ないのだけど、ご主人様の寛大なお心により、今回は特別に差し上げます。
受け取りなさい」
ミレニーが半信半疑で宝箱に近付き、その蓋を開ける。
その中には、探し求めていた剣と、見覚えのある装備が幾つか入っている。
「・・あった。
伯父様の剣、オレア家の家督を継ぐ者の象徴。
やっと、やっと手に入れた」
「「おめでとうございます!」」
へたり込む彼女に、従者達が揃って祝いの言葉を述べる。
「・・有難う。
あなた達のお陰よ。
皆が支えてくれたから、これを手にできた。
本当に有難う」
件の剣を抱え、へたり込んだまま、彼らに深く頭を下げるミレニー。
「それと、ご主人様からご伝言があります。
『お前の兄弟三人は、不幸にもダンジョンCに入ってしまった。
そこに余分に入れてある装備は、彼らの物だ。
彼らがここまで乗って来た馬車を村の入り口に停めておくから、序でにそれも持って行け』
以上です」
「あの人達、・・死んだの?」
「さあ?
確認してないので正確には分りませんが、装備が転送されてきたという事は、多分、そういう事なのでしょう」
「・・あの方にお礼を伝えて下さる?
色々、有難うって」
「分りました。
・・あなた達、結構頑張りましたね。
少し意外でした。
あの若夫婦といい、人間にも多少は骨の有る者がいる事、心に留めておきましょう」
それだけ告げると、ルビーは徐に姿を消す。
後に残されたミレニー達も、その日の午後、自分達の町へと帰って行った。
宿の主人に大層世話になったからと、馬車の1台を村に寄付して。
余談であるが、この村の食事と風呂、殊に豚肉と胡椒、シャンプーが気に入った彼女達は、以後も毎年のように休暇に訪れては、大量にそれらの品を買い込み、この村にお金を落としていく。
ヘリ―家に納められる税額が、1桁増えたのは言うまでもない。
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