第17話
「・・随分沢山買って来られたのですね」
王宮に戻った和也が抱えていたパンの量を見るなり、エリカが少し驚いたような声を出す。
和也が帰り際、少しエリカ達の土産に欲しいと頼んだところ、アンリが大喜びで大きな袋一杯に持たせてくれたのだ。
「買ったのではなく、貰ってきたのだがな。
自分からはもうお金は取れないと言うので、別な形で払うようにはしたが」
「もしかして、お仲間が増えたのですか?」
「彼女の気が変わらなければ、何れ眷族として迎え入れる約束をした」
「この国に、あなたの御眼鏡に適う人材がそんなに居るなんて、とても嬉しい事ですわ」
「・・あと一人、増えるかもしれない」
あの子からは多分、逃げられないだろう。
何となく、そんな気がする。
「まあ、あなたって、エルフが大好きなのですね」
嫌味ではなく、本当に嬉しそうに微笑むエリカに、和也は告げる。
「当たり前だろう。
お前と同じ種族なのだから、嫌いなはずがない」
柄にもなく、精一杯のイケメン面を作ってエリカを照れさせようとするが、逆に切り返される。
「わたくしがエルフだから可愛がって下さるのですか?」
「そんな訳ないだろう」
「ではわたくしの何処がお好きなのですか?」
「・・・」
何も言えなくなってしまった和也を見ながら、悪戯が成功した子供のように笑うエリカであった。
「これ美味しい!」
王家揃っての昼食の席で、早速和也が貰ってきたパンを手に取り、口に含んだエリカが驚きの声を上げる。
「・・確かに旨いの。
御剣殿、これは何か特別なパンなのであろうか?」
エリカの表情を見て、自分も食べてみた女王が、目を見開いて尋ねてくる。
「いや、市場で売っている極普通のパンだ。
少なくとも、今日までは」
「?」
今一つ理解できていない彼女達に説明する。
「このパンが旨いのはアンリの技術の賜物だ。
だが明日からはもっと旨くなる。
自分が彼女に授けた【豊穣の庭】の特質は、持ち主の想像力や発想力に大きく左右される。
持ち主の味覚が向上し、より感性と発想が磨かれれば、【豊穣の庭】はそれに応え、その者が作ろうとする食べ物に合わせて最高の食材が用意されるのだ」
「【豊穣の庭】、ですか?
それはあなたがお金の代わりにお支払いになったという、あの?」
「そうだ」
「これ以上美味しくなるなんて・・お母様、このパン、王家主催の晩餐会などでお出ししませんか?」
「そうじゃな。
宰相はどう思うか・・と聞くまでもなさそうじゃな」
女王が夫の意見も聞いてみようと彼の方を振り向けば、寡黙な宰相は既に1つを食べ終わり、2つ目を手にした所であった。
「じゃが、こんなものが市場で売られていた事に、今まで気付かなんだとはな。
全く耳に入ってこんのはどういう訳じゃ」
「恐らくだが、この国の住人は他でパンを食べた事がないのだろう。
国に閉じ籠っているから、外の世界を知らないし、初めからこれを食べていれば、そういうものだとしか思わないのかもしれない」
「閉鎖的な社会というのも考えものじゃな。
ダークエルフへの待遇も含め、改善点は多いようじゃ。
先ずは手始めに、我らの食するパンは王宮で作らせるのを止め、この店を王室御用達にするとしよう。
これを食べてしまっては、もういつものパンでは満足できん」
苦笑いしながらそう話す女王を見ながら、アンリが喜ぶ顔を思い浮かべる和也であった。
昼食後、エリカと女王達は仕事に戻って行ったので、和也は挨拶しておこうとした最後の一人に会いに行く。
人で溢れる市場の通りを隠密の魔法でやり過ごし、人影がまばらな昼時の住宅街を歩く。
目当ての家は直ぐに見つかり、内部の様子を透視する。
両親が居ては、自分が少女を訪ねてきた理由を説明しなければならない。
今の自分には、彼らを納得させられるだけの説明が困難だと判断し、できれば少女が一人でいる時に会おうとしたのだ。
幸い、仕事にでも出ているのか、家には少女一人しか居なかった。
殺風景な小さな部屋で、一心不乱に自分が授けた書物を読んでいる。
ただ、どうやら苦戦しているようだ。
文章の意味以前に、文字があまり読めていない。
辞書のような薄い手書きの冊子を頻繁にめくっている。
生まれつき目が見えず、この世界には点字のようなものも存在しないので、つい最近視力を得たばかりの少女が読めないのは当然である。
入り口の扉をノックする。
読書の邪魔をされて不機嫌そうに振り向くと、面倒臭そうに扉の前まで来るが、声だけは丁寧だ。
「どなたですか?」
今は自身の魔力を一切漏れないようにしているので、自分だとは判らないらしい。
「通りすがりの旅人だ」
その瞬間、扉が勢い良く開かれる。
和也が挨拶の言葉をかけるよりも早く、少女が胸に飛び込んで来た。
「読書の邪魔をしたようで悪かったな」
「・・覗いていらしたのですか?
私だってもう大人の女性なのですよ」
和也の胸に擦り付けていた顔を上げ、形だけ怒ったような仕種を見せる少女。
大して気にもしていないのは、和也に回した両腕を放そうとしない事からも分る。
「本当の大人は、自分の事を大人と強調したりはしない」
薄茶色の奇麗な髪を優しく撫でながら、少女をからかう和也。
少女は何かを反論しようとしたが、頭を撫でる和也の手の心地良さに、開きかけた口を閉ざして、俯いたまま、和也に回した両腕の力を込めるだけだった。
「中に入れて貰っても良いか?」
あまり人通りがないとはいえ、誰に見られるか分らない。
自分を抱き締めたまま動く気配のない少女に、そっと、そう声をかける。
「済みません、どうぞお入り下さい」
和也を抱き締める行為に没頭して、基本的な事さえ忘れていた自分が恥ずかしいのか、僅かに顔を赤らめながら、家の中に彼を招き入れる少女。
エルフらしく、木の温もりを大事にした家の、少女の部屋へと案内される。
先程透視した通り、椅子と机とベット以外には小さなクローゼットしか置かれていない、年頃の少女の部屋としては少し彩りに欠けるように思われる部屋。
地球の基準で言えば、中学生くらいであろうか。
多感な幼少期を盲目で過ごし、空想の中で育ってきた少女の部屋は、実用的な物以外は何もなかった。
「紅茶を淹れる事ができるようになりましたので、お出ししても良いですか?」
自分の為に何かをしたいという少女の気持ちを有難く受け入れる。
程無く、溢さぬようにゆっくりとした足取りで、2つの紅茶を運んできた。
その内の1つを手に取り、香りを楽しんでから口に含む。
正直、王宮で最高品質のものを飲んでいる身としては、味はそれに劣る。
だが、少女が自分のために習いたての技術で心を込めて淹れてくれた1杯は、そんな事を何処かに吹き飛ばしてしまう程、心に沁みる味だった。
そんな自分を、少女が嬉しそうに見ている。
暫く、穏やかな時間が過ぎていった。
「文字が読めるようになりたいか?」
紅茶の余韻を楽しんだ後、徐に少女に尋ねる。
「それは勿論。
貴方様から頂いたこの書物を理解するのに欠かせませんから。
でも、この歳まで習った事もありませんので」
机の上に広げたままの、読み書きの教本をちらりと見る少女。
「直ぐに読めるようにしてやる事もできるが?」
「・・是非にと言いたいのですが、何か狡い気がします」
「狡い?」
「だって、他の人は何ヶ月、何年もかけて、1つ1つ学んでいくのでしょう?
それを、神様のお力で一瞬で成してしまうのは、他の頑張っている人からすれば、狡いと思われるのでは?」
「成る程、そういう考え方もあるな。
では、生まれつき持っている才能は狡いのか?
才能なき者が何年かけても辿り着けない境地に、一瞬で到達できた者は狡いのか?
貧しき者が必死に勉強して試験に合格して入った学校に、金持ちが寄付金を積んで入るのは、狡いのだろうか?」
「・・才能は、その人のせいではないし、お金持ちも、貧しい人の分までお金を出しているのだから、・・よく分りません」
「要は、人によって役割が違うという事だ。
才ある者は、その者にしかできない事をするための時間が必要だ。
誰でも時間をかければできる事に、同じ時間を費やす必要はない。
金持ちも、貧しい者が特待生として無料で学べるための土台を作っている。
これは、国を治める王にも言える事だ。
人々の頂点に立つ王とて、何もかもできる訳ではないし、自分でやる必要もない。
国の行く末を決める、大事な決断だけをすれば、後の事は有能な臣下に任せた方が上手くいく事の方が多い。
そうする事で、人材が育ち、雇用が生まれて、国が豊かになっていくからだ。
極端な話をすれば、文字など読めなくても、他の誰かに読ませて内容を理解できるのなら、その分の労力で帝王学でも学んだ方が国の為になる」
「・・そうですね。
何と無くですが、分ります」
「君には、やりたい事があるのだろう?
それは何年先でも良い、自己満足で終わらせる事のできるものなのか?」
何もかも見透かすような和也の眼差し。
そう、私にはこの御方を称え、その教えを広めたいという願いがある。
暗闇で、日々同じ作業、同じ行動を繰り返すだけの魂の監獄から私を解き放ち、光溢れる世界で、希望に満ちた生を送れるようにしていただいたご恩に報いたい。
そのお力が、普く世に知れ渡れば、この御方に祈りを捧げる者の中から、私のように手を差し伸べていただける人が出るかもしれない。
両親やお医者さん以外の人と、陸に話した事もない世間知らずの私が、見知らぬ他人に神の教えを伝える事は、並大抵の事ではないだろう。
ただ話をすれば良いという訳にもいくまい。
自分の考えを押し付けるだけでは、上手くはいかないはず。
相手に思いを共感して貰えるだけの、特別な知識や能力が要るはずだ。
学ばねばならない事、やらねばならない事は、それこそ数え切れない。
この御方が仰る通り、文字の習得などで時間をかけている暇などないのではないか。
「・・お願いしても、宜しいですか?」
「勿論だ」
「なんだか私ばかり得をしているみたいで申し訳ないのですが」
「大丈夫だ。
後できっちり取り立てるから」
「う・・頑張って働きますね」
多分に誤解を含んでいそうな言葉を聞き流し、和也は少女の額に右手の人差し指を当てる。
そこから生じた小さな蒼い光が、少女の額に吸い込まれていった。
「書物を読んでみろ」
言われるままに、和也から贈られた書物を手に取って・・。
「な、何ですか、これ!?」
その表紙に書かれた題名を見て、驚く少女。
「『ある男の呟きの書』?
・・これは貴方様の教えを記した聖なる書物では?」
どうやら、表紙の文字はまだ読めていなかったらしい。
「聖なるかどうかは知らぬが、自分の考えを書いた書物に間違いはないが」
「でも、神の教えを記した書物に付ける名としては、少し威厳に欠けるような気がします。
これでは、貴方様のお言葉が人々に軽く取られてしまいます」
「それでも良いではないか。
信仰とは、他人に強制するようなものではない。
力で以って圧力をかけたり、威厳を込めて虚勢を張らずとも、誰かの心に何かを残せればそれで良い。
人生とは、あくまでその者個人のものだ。
他者が敷いたレールの上を、規則正しく歩むも良し、思うが儘に、自分の選んだ道を駆けて行くも良し。
その過程で、何かに躓き、ぶつかり、立ち止まったその時に、再び歩み始めるための手助けができればそれで良い。
この世界を創ったのは確かに自分ではあるが、既にここは、そこに暮らす全ての生き物達のものでもあるのだから」
「・・そういえば、まだお名前すらお聴きしていませんでした。
私の名はリセリー。
貴方様のお名前をお尋ねしても宜しいですか?」
「御剣和也だ」
「御剣様、改めてお願い致します。
私が貴方様のお考えを世に広める事、お許しいただけますか?
今のお言葉を聞いて、私の進むべき道が、朧気にではありますが、見えた気がします。
今はまだ未熟ですが、努力して、御剣様の教えを説くに相応しい人物になってみせます。
ですから、どうか」
そう言って、小さな頭を下げるリセリー。
「本当なら、許可したくはない。
そんな厳しい道を選ばずとも、長い間暗闇で踠いていた君には、もっと伸び伸びと、人生を楽しんで欲しい。
でも、気は変わらないのだろう?」
「はい。
御剣様は私の王子様。
何も見えない闇に囚われていた私を、颯爽と助けてくれた白銀の王子様。
あの時から、私の心は貴方様で一杯。
もう御剣様なしではいられません。
この溢れる思いを抑えるためにも、御剣様のお役に立ちたいのです」
「君の人生はまだまだ長い。
他に好きな男ができるかもしれないぞ?」
「む、それは私に対する侮辱ですか?
でしたら生涯を独身で通して、私の想いを証明して差し上げます」
「・・君の意志を変えるのは無理だと分ってはいたが、言わずにはおれなかったのだ。
・・良いだろう。
好きにするが良い」
「有難うございます。
精一杯頑張りますね」
和也から言質を取れて、大喜びするリセリー。
「ただし、条件がある」
「何ですか?
お嫁に来いと言われるのでしたら、今直ぐにでも良いですよ」
「自分はロリコンではない」
「ロリコン?」
可愛らしく首を傾げるリセリー。
「君のような幼い美少女に、性的興奮を覚える者の事だ」
「私は子供ではありませんー」
口を尖らし、言葉の語尾を伸ばすリセリー。
『そういう所が既に子供だ』
切りが無いので、心の内に止めておく。
「条件というのはな、君がやるべき事を成し終えた時、まだ自分に対して今の気持ちが残っていたのなら、我が眷族に加わるという事だ。
世の中には、辛く、悲しい事も多いが、それと同じくらい、楽しい事、嬉しい事がある。
君に与えられた時間は長くはあるが、それでも数百年を教団の為だけに使わせるのは気が咎める。
だが、我が眷族になれば、不老不死の下、その後幾らでも余暇を楽しめるからな。
それで償いをさせてくれないか?」
「眷族ですか?
御剣様の僕のようなものでしょうか?
勿論、それに加えていただけるというのなら、喜んでなります。
でもそれは、償いを受け入れるという意味ではありません。
私が、自分の意志で、そうしたいからです」
「・・そうか。
ならばもう何も言うまい。
この世界を少しでも住み良いものにするために、君の手を借りるとしよう」
和也がかざした右の掌に光が集まる。
そこに生じたリングを、その現象を興味深げに眺めていたリセリーの、右の薬指に嵌める。
「婚約指輪ですか?」
右手を宙にかざして、銀色に輝く幅1㎝程のリングを嬉しそうに眺めながら、ませた事を言うリセリー。
「残念だが、それは左手に付けた場合だ。
言っておくが、そのリングは君に生涯を伴にするような人物が、我の他に現れた時以外には外せないからな。
左手に付け替えようとしても無駄だぞ?」
「・・意地悪です」
後でこっそりそうしようとしていたリセリーは、恨みがましい目で和也を見るのだった。
「さて、君の両親が帰って来る前に、やるべき事を済ませてしまおう。
初めの内は、色々と、君一人でする事になる。
先ずは、知識と教養を蓄え、人を惹きつけるだけのものを身につけねばならない。
自分がその書の中で述べている言葉の真の意味を理解しなければならない。
勿論、短期間でそれを成すには、大量の書物を読み、頭脳を鍛える必要がある。
だからせめて、読むべき書物に不自由しないよう、【知識の部屋】の使用を許可する。
また、様々な言語で書かれている書物に対応し、厖大な知識の吸収に脳が耐えられるように、万能言語能力の授与と、脳自体の機能強化もしておこう。
この能力は、本来、我が眷族になるまでは与えないものであるが、君が行く道の、その険しさ故に、先渡ししておく」
和也がそう言うや否や、リセリーに嵌めたリングが一瞬、蒼く光る。
「何でも良い。
本が読みたいと心で強く念じてみてくれ」
和也にそう言われ、戸惑いながらも、まだ小さい頃に母親に聞かせて貰った御伽噺の事を考える。
『あんなお話が良いな』
リセリーがそう思った瞬間、何もなかった空間に、淡い光を帯びた年代ものの木製の扉が出現する。
「開けてみるが良い」
いきなり出現した扉にびっくりしたが、持ち前の好奇心で、重厚な扉を押し開く彼女。
「わあ!!」
視界に現れた、夥しい数の書棚。
人が二人も通れば狭く感じるような通路の両脇を、書棚が埋め尽くしている。
明る過ぎない、落ち着いた照明の中、縦に長く伸びる通路。
書棚の側には、高い所の本でも手が届くように、脚立のような物が置いてある。
「これ全部、御伽噺なのかな」
「そうだ。
この部屋は、権利者の思考に同調する。
この世界だけではなく、世に無数に存在する本の中から、権利者が念じた本の種類を出現させるのだ。
もし読みたいジャンルを指定せず、ただ、本が読みたいとだけ念じた場合、ここは迷宮と化す。
中を歩くだけでも数十年はかかるから、余程暇にでもならない限り、お勧めしない」
リセリーの呟きに、和也は丁寧に説明を施した。
「それと、君はまだ子供だから、良い子の成長を妨げるような本は、仮令念じようとも出現しないようプロテクトが掛かっている。
大人になるにつれ、徐々に解除されていくから、もしそういう類の本が読みたければ、それまで待つ事だ」
「読みません!」
子供扱いされた事と、どちらに腹を立てたのかは分らないが、真っ赤になって抗議するリセリー。
そんな少女を穏やかな眼差しで見つめつつ、その頭を優しく撫でてやる。
彼女のこういう、打てば響くような反応に、つい、からかいたくなってしまうのだ。
「でもな、そう邪険にするものではないぞ。
男女の営みは自然なものだ。
人類が繁栄するためには避けて通れない。
要は程度の問題なのだ。
徒にそればかり強調するのであれば、それは猥褻なものとして扱われてしまうが、逆にほんの少し、その者達の気持ちを表現する手段として取り入れるだけならば、ものによっては文学作品として高く評価される。
物事には二面性のある事の方が多い。
害にしかならないと思われていても、実は意外な所で役に立っていたりする。
君がこれから多くの人と接していく上で、外見や職業だけでその者を判断せず、その”眼”でかの者の本質を見極める事を期待する」
「・・やっぱり私の眼、他とは違うのですね?」
「そうだな。
ただ、先程も言った通り、使い方を誤らなければ、この上なく君の役に立ってくれる。
もし間違ったとしても、その時は尻を叩きに来てやるから安心しろ。
君ならきっと大丈夫だ」
「・・エッチ」
憎まれ口を叩きながらも、不安が晴れたのか、彼女は和也の腰に腕を回し、その頭を擦り付けるのだった。
「ここからは、君に対するお願いになる。
だがその前に、取って置きの場所に招待しよう」
そう言うと、和也はリセリーの肩を抱く。
次の瞬間、彼女は見た事もない部屋にいた。
先ず目に付いたのは、黒い大きな塊。
4本足で立っているようにも見えるが、何に使うのかまるで分らない。
次いで、長い木製の机が幾段にも連なり、壁際には透明な板のようなものが見える。
さっきまで昼間のはずだったのに、その透明な板から見える外の景色は明らかに夜のものだ。
しかも、自分の居た世界とはまるで違うその風景。
奇麗なピンク色の花びらを、そよ風に乗せるように散らす木々。
何もない広い地面を囲むように点在する道具や建物。
柵のような物で囲まれた敷地の、その遥か向こうには、巨大な石の建物が、所々小さな光を点滅させながら、まるで威圧するかのように幾つも聳え立っている。
「何処ですか、ここ?」
不安で、和也の服の裾を抓みながら、そう尋ねるリセリー。
「この場所はな、いや、この世界はな、何時か自分が挑戦してみたい場所なのだ。
今はまだ、自分には早い。
だが、何時かはきっと・・」
「神様でも太刀打ちできない存在が居るのですか?」
驚いて、和也を見上げるリセリー。
「そうだな、自分ではまだ、軽くあしらわれて終わりだろう」
その表情から、どうやら大した問題ではないようだと理解したリセリーは、新たな疑問を尋ねてみる。
「では、何しにここへ?」
「これから君にお願いする事を、より理解して貰うためだ。
現物を見て貰った方が早いからな。
その辺に腰掛けてくれ」
机の座席が上がったままの状態で、試行錯誤を繰り返し、何とか座る事に成功したリセリーを見ながら、和也はピアノに向かい合う。
「リセリー、君は人に信仰を広めようとする際、どんな手段を考える?
説法か?
それとも何らかの奇跡を見せるか?」
いきなり言われて少し考える素振りを見せるリセリー。
「そうですね、最初はやはり、自分のお話を聴いて貰う事からでしょうね」
「見知らぬ他人に、いきなり話を聴いてくれと頼むのか?」
「・・初めは、知り合いの人や、大勢の人が集まる場所なんかで、聴いてくれる人を探そうと思います」
「今まであまり人と話した事もないのだろう?
知り合いもそんなに沢山いるのか?」
「・・・」
黙ってしまった彼女に、優しく、慈しむように語りかける。
「自分はな、君にあまり辛い思いをして欲しくはない。
もう十分苦しんだろう?
自分の為に君がこれ以上、困難な目に遭うのが忍びないのだ。
自分の教えを世に広めたいという、君の考えは尊重する。
でも、その手助けくらいはしても良いだろう?」
「それでは、私がやったという事にはなりません」
俯いて、か細い声でそう告げるリセリー。
「自分がするのはあくまで手助け。
君にヒントを与えるだけだ。
実際の段取りや作業は全て君がするのだから、問題ない」
「・・・」
黙ったままのリセリーに、和也は話を続ける。
「人の不安や苦しみに、奇跡や魔法で対処して信者を増やすのは、自分の好む所ではない。
君のように、その者の人生を左右しかねない。
信仰とは、日常の生活の中に、当たり前のように存在し、かつ、それを当人が意識していないくらいがちょうど良い。
信仰のために生きるのではなく、生きる傍ら、信仰に触れるくらいが。
・・他人から押し付けられるような方法では、人はやがて離れて行く。
各人のペースを尊重し、好きなように選ばせる事、それが大切だ。
だから、信仰への入り口は広い方が良い。
それと知らずに関わって、何時しか生活のリズムに溶け込んでいくような、そんな方法が」
「そんな事が可能なのでしょうか?」
今一つ実感が湧かないリセリー。
「それを今からやって見せる。
少しの間、聴いていてくれ」
そう言うと、和也はピアノの鍵盤に両手を添える。
姿勢を正し、一呼吸すると、静かに音を奏で始めた。
今まで聴いた事もない、甘く、たおやかな旋律。
窓から差し込む月の光が、和也を優しく照らし、その音色に艶を纏わせる。
次々と心に浮かんでは消えていく、淡く、切ない気持ちの波。
夜の眠りにつく前の、楽しかった1日を振り返るような、そんな曲。
僅か数分の、夢のような出来事に、リセリーは言葉が出ない。
そんな彼女を見て、和也は更に弾き続ける。
先程と同じメロディーに、もう1つのピアノの音が重なる。
連弾。
本来は二人で行うその演奏形態を、魔力を用いて一人で奏でる和也。
机の上に両腕を載せ、その上に頭を載せて一人静かに微睡むような状態から揺り起こされ、今度は、恋人とデートを楽しんでいる時のような錯覚を覚える。
デートなんてした事もないのに、イメージが次々に浮かんでくるから不思議だ。
やがて、先程と同様に曲の終わりを迎えようとした時、和也は最後の仕掛けをする。
同曲の、オーケストラによる演奏。
和也の魔力で一時的に生み出された管弦楽の音色による、圧倒的なイメージ量の増加は、まだ幼さの残る彼女に、人生の黄昏で、それまでの思い出を振り返っている自分を確かに連想させた。
満ち潮が引いていくように曲が終わりを告げた時、リセリーの頬には、彼女の想いが残した痕跡が、まだはっきりと現れたままだった。
「・・何なんですか、それ?
魔法具か何かですか?」
暫く余韻に浸っている内に、やっと感情の制御を取り戻したリセリーが、呟くように言葉を発する。
「これはグランドピアノといって、この世界では当たり前のように存在する、最もメジャーな楽器の1つだ」
「楽器ですか?
その大きな物が?」
彼女が存在する世界では、楽器といえば、太鼓や笛、ラッパや竪琴くらいがせいぜいで、このような精密で巨大なものは想像もつかない。
ピアノから離れ、校庭を囲むように咲き誇る夜桜を窓辺で眺めながら、和也は告げる。
「この世界では、1000年以上もかけて、人は音楽を生み出し、発展させ、暮らしの中に取り込んできた。
時代により、使用される意図は異なったが、常に人の心を動かし、副次的に何かをさせるのに役立ってきた。
・・自分は音楽が好きだ。
嬉しい時、楽しい時、人は音楽を聴く事でその喜びを何倍にも高め、悲しい時、苦しい時には、音楽と共に在る事で、その痛みを和らげてきた。
そこには、人の生き様の、ほぼ全てが凝縮されている。
ある音楽を聴けば、それが流れていた頃の、人の営みを思い出す事ができる。
ついこの間まで、傍観者でしかなかった自分には、それが数少ない楽しみの1つでもあったのだ」
「・・音楽を、信仰に取り入れろと仰るのですか?」
「そうだ。
歌や音楽は、人間の感情と結び付き易い。
何かを訴えたり伝えたりするのに適している。
信仰という習慣の基礎ができていない状態で、延々と教義などを説くよりも、歌や音楽を流しながら、ほんの少し話をして、後は聴く者の想像に任せるくらいの方がきっと上手くいく。
教会という、神を意識し易い場所で、それに相応しい曲を流す事ができれば、その効果は計り知れない」
「でも、私は何の楽器も演奏できないし、歌も歌った事がないので・・」
自分の無力さを痛感して、下を向くリセリー。
「言っただろう。
何もかも自分でやる必要はないと。
君は先ず、多くの事を学ぶべきだ。
万能言語能力があるとはいっても、人の上に立つのに必要な知識の吸収には、早くても数年はかかる。
その間に、幾つかの基本的な楽器を職人組合に作らせ、それを最初は無償で提供して、学びたい者に練習させれば良い。
同時に、国の援助を受け、孤児院などを経営し、そこで育つ子供達に、歌の練習や音楽の勉強をさせるのだ。
そして、その成果を発表する場を設ける事で、他者と競わせ、技術を磨かせて、よりやる気を引き出させる。
そうして育てた人材を、国や教会が雇う事で、指導者として後進の育成に当たらせるも良し、国の大切な行事や、教会の儀式などで演奏する楽団や聖歌隊を作るも良し。
その辺りは君の判断に任せる」
和也により、人の限界を超えて脳機能を強化され、言葉の持つ意味の正確な理解まで得られる万能言語能力を与えられたリセリーは、今の時点でこの一連の話の趣旨を正確に理解し、自分なりのプランを立て始める。
「職人組合への依頼と、作らせる楽器の設計図などはどうするのですか?」
「依頼には女王の力を借りる。
彼らは今、樹人族の素材で作る高級家具などに代わる収入源が必要になっている。
今後、世界規模で需要が高まる楽器の製造を長期に渡り独占できるのだから、この話に飛び付くだろう。
設計図は、数種類の楽器のものを、数枚分、自分が用意しよう」
「孤児院に関しては、長く戦乱から遠ざかり、治安も良いセレーニア王国ではそれほど需要はありませんね。
元々、人口自体が少ないですし。
経営するなら、エルクレール帝国のような大国が良いですが、これも難しいですね」
「それについては自分に心当たりがある。
数年で何とかできるだろう」
「後は、後進の指導者が育つまでの初期の指導をどうするかという事と、練習成果の発表の場をどのように設けるかという問題ですね」
「初期の指導は君にして貰う」
「え、私ですか?
さっき何もできないと言ったではないですか」
「君自身が上手でなくても、指導方法を理解し、教材が揃っていれば問題ない。
指導方法は今から伝える。
教材は後日、用意しよう」
「今から?
先程御剣様が演奏なさったようなレベルのものを教えるのに、そんなに直ぐに身に付く訳がありません。
無理です」
「大丈夫だ。
君の脳に直接刻むから。
それと、指導に必要だから、絶対音感も習得させておく。
指導方法の知識はとりあえず、ピアノとヴァイオリンくらいで良いだろう」
リセリーの座る机の側まで来た和也が、彼女の頭を優しく撫でる。
「え?」
いきなり流れ込んでくる数多の知識、その行為の意味が正確に理解できる事に驚くリセリー。
「知識だけでなく、実際の指導現場や練習風景も見ておいた方が良いな。
今から君に見せるのは、この世界の生徒たちの日常の練習風景だ。
よく見ておくと良い」
和也が、机のある側と反対側の、壁に掛かった木製の長い板のような物に魔力を注ぐ。
すると、そこがスクリーン状になり、数々の映像が写し出され始めた。
同一の服装をした人間の少女達が、大勢で歌を歌っている。
ただし、彼女達には其々役割があり、皆同じようには歌っていない。
高音、低音を、更に幾つかの音に分け、美しいハーモニーを作り出している。
場面が変わり、発声練習であろうか、両手を後ろに組んで、お腹の底から声を出している。
二人1組になり、腹筋を鍛える運動、息を長く薄く吐く練習、ピアノと共に音階の訓練もしている。
今度は大きな室内で、数十人の女生徒達が、様々な楽器を手にして演奏している映像に変わる。
指揮を執る人の下、多様な楽器が迫力あるメロディーを奏で、先程の声楽とはまた違った美しさがある。
次に映し出されたのは、少人数の、各パートごとの練習風景。
メトロノームを使い、正確なリズムで音を出す練習。
何かの道具のような物で、自分の音を聴いている生徒。
年上らしい生徒が、年下の生徒達に楽器の使い方を指導してる。
離れた場所で、一人で何度も同じ音を出しては、首をひねり、また繰り返す生徒。
練習が終わったのか、楽器の手入れをしている生徒もいる。
全員揃っての音出しでは、指揮者が少し演奏させては、音の合ってない生徒に個別の指示を出していた。
どの娘も凄く一生懸命で、でもとても楽しそう。
音楽に接する眼が輝いている。
そして、演奏会らしい風景。
今までより更に大きな会場で、大勢の観客に見守られ、独特の緊張感の中、練習の成果を存分に発揮していた。
審査結果の発表の場では、どのグループも何かしらの賞を得ていた。
成る程、一生懸命練習した成果に、何も与えないよりは効果的かな。
何より教育上、その方が良いよね。
金賞という、1番良い賞を受賞した集団の生徒達が、帰り際、皆で集まって何かを残しているのが印象的だった。
「最後の人達は何をしていたのですか?」
「写真を撮っていたのだ。
この世界は魔法がない代わりに、文明が異様に発達している。
瞬間的な映像を、保存状態さえ気を付ければ、数百年以上保存しておける。
ほら、あれがそうだ」
透明な板とは反対側の壁に、薄暗い中でよく目を凝らすと、額縁の中に飾られた、先程の光景と同じ景色が見える。
「ここは平和な世界なのですね」
歳に似合わず、落ち着いた、穏やかな声を出すリセリー。
「そうだな。
一部、そうではない場所もあるが、大体は人が穏やかに暮らせる世界になっている」
「・・帰りましょう。
そろそろお母さんが帰って来ます」
そう言って、椅子から立ち上がり、和也の服を抓むリセリー。
和也はその肩に右腕を回すと、元の世界へと転移した。
「御剣様が弾いてらした曲、あれは何という曲ですか?」
自分の部屋に戻ったリセリーが、唐突に尋ねてくる。
「あの世界で随分前に、ピアノの詩人と称された者の、代表作の1つだ。
曲名は・・内緒にしておこう。
後で探してみると良い」
「?」
「自分でも弾いてみたいのだろう?」
「神様って狡いです。
隠し事ができないじゃないですか」
「別に心を覗いた訳ではないぞ。
君があの時見せた表情から、何となく、そう感じただけだ。
君には初期の指導者としても働いて貰うから、特別に、専用の練習部屋も与える。
読書の傍ら、気分転換にでも使うと良い」
和也がそう言うと、【知識の部屋】とは少し違った、無機質な扉が現れる。
促されるままに扉を開くと、青空の中にピアノが1台置いてあった。
足を踏み入れようとして、慌てて飛び退く。
「大丈夫だ。
気分転換しやすいように、演奏中、心に映る景色がそのまま現れるだけだから。
初期設定が青空になっているのだ」
「【知識の部屋】といい、時間を忘れてしまいそう」
至れり尽くせりの環境に、思わず溜息を洩らすリセリー。
「まだ子供だし、長く家に見当たらないと両親が心配するか。
では最後の特典として、2つの部屋の中で流れる時間を、通常の10分の1に設定しておく」
「また子供扱いして。
エリカ様には到底及ばなくても、何時かきっと素敵な大人になって、御剣様をメロメロにしてあげるんだから。
・・私を傷物にしたのだから、必ず迎えに来て下さいね」
まだ少し不安なのか、俯いてそう告げる声が、徐々に小さくなっていく。
「人聞きの悪い事を言うな。
・・約束しよう。
時が来れば、必ず迎えに来る。
だから、その時まで頑張れ」
もう何度目になるだろうか。
リセリーの頭を撫でるその手は、どこまでも優しかった。
教団の設立に向けて、本格的に動き出す時期が来た時は、女王から、その旨の知らせを送らせる事を告げると、和也はリセリーの家を後にする。
1日の仕事を終え、家路を辿る者が出始めた、夕暮れ間近の街並みを、これでほぼやり残した事はないなと考えながら、その風景を心に留めるように、ゆっくりと歩いていく和也であった。
(同じ頃、とある異世界での、女生徒達の会話)
「あら?
・・ねえ、誰かピアノの調律を頼んだの?」
「聞いてないよ。
てか、そんなに早く来てくれないでしょ」
「何か凄く音が良いわ。
誰かいじったのかしら?」
「さあ?
・・そういえば、一緒に来た友達が、今日の桜は一味違うとか変な事言ってた。
『桜が喜んでる』とか。
いつも植物ばかり世話してる、変わった娘の言う事だけどね。
・・何か良い事でもあったのかな?」
僅か100年足らずで知らぬ者のいない程の成長を成し遂げ、大聖堂の完成後は、名実共に世界最大の宗教となる教団、『蒼き光』。
その初代教皇として、教団史上に燦然と輝く名を残した女性、リセリー。
彼女の功績は、御剣教を世に広めた事に止まらない。
この世界の音楽史を語る上でも避けて通れない人物である。
神から授かったとされる楽器、ピアノとヴァイオリン。
その名手にして生みの親。
その繊細な造形と美しい音色の再現は、彼女の尽力なしでは実現できなかったとさえ言われている。
特に、ヴァイオリンの命とも言われる、その弓に塗るニス。
その原料を求めて、魔の森を探し回った彼女の冒険譚は、一部脚色されはしたが劇となり、今でも子供達に大人気である。
また、後に友好国となるエルクレール帝国の、宰相夫人が始めた孤児院に、その設立当初から関わり、アンリの店のパンを配って、子供達に声楽の基礎を学ばせた事でも有名である。
帝国で年に一度開催される、2大音楽祭の1つ、リセリア。
人間が生まれながらに持つ、声という美しい楽器を、芸術の域にまで高めて競うその祭典の名は、彼女の名から取ったものだ。
一切の嘘偽りを見抜くと言われるその眼差しは、弱き者には限りなく優しく、力ある者には澄んだ湖の如き静謐さで、その者のためになる道を示したと伝えられている。
最後に、彼女がエルクレール帝国を親善訪問した際、当時の皇帝キーネル1世に、御剣教を事実上国教とさせた、ある出来事を紹介しておこう。
宰相夫人が経営し出した孤児院兼療養所は、彼女の人柄とその待遇の良さで、瞬く間に評判になった。
孤児院の子供達には美味しい食事と高い教育を施し、療養所では、貧しい者にも安価で金持ち同様の治療を施した。
それを可能にした理由の1つに、最近頓に勢力を増してきた御剣教が絡んでいるとの報告を部下から受けたキーネルは、国賓として、教皇リセリーを王宮に招く。
現在は皇帝として、帝国のトップに君臨している彼も、御剣神に命を救われ、生まれ変わった一人である。
その神の代弁者たる彼女の話に、当然、興味があった。
謁見の場で、キーネルは彼女に尋ねる。
『御剣教の教えの中で、我々王族が、最も重視しなければならないものは何か』と。
それを聴いたリセリーは、贈り物として持参した『呟きの書』の写本を開き、自分が述べるよりも神の御心が伝わるからと、あるページを読むように勧めてきた。
『ある男の呟きの書』
その書の存在は早くから知られてはいたが、未だ嘗てそれを読んだ者は彼女の他にはいない。
教皇リセリーが、神から直接賜ったと云われる、彼女個人宛の書物。
彼女はこれまで、それを誰にも触れさせなかったからだ。
その貴重な書物を、写本とはいえ、自分が読める事に、キーネルは喜びを隠せなかった。
震えそうになる手を、臣下の手前、懸命に宥めながら、示されたページを読み進める。
やがて、それを読み終えた彼は、ゆっくりと玉座に背を預け、両の瞼を閉じた。
・・どのくらいの時が過ぎて行ったであろうか。
家臣達が辛抱強く彼を見守る中、徐に立ち上がったキーネルは、こう宣言した。
『これより先、エルクレール帝国の皇位継承者の資格に、御剣教の信者である事を付け加える』
教皇リセリーが恭しく頭を下げ、居並ぶ重鎮達もまた、彼女同様に頭を垂れた。
彼の心を捉えて放さなかった神の教え。
そこには、こう書かれていた。
『学問や仕事で成功し、高い評価を得た者。
スポーツや武術で勝ち上がり、大会で優勝した者。
何れにせよ、人の上に立つ事を許された者には、決して忘れてはならない事がある。
そこに辿り着くまでの自分を振り返ってみると良い。
輝きを得た自分の眩い光の陰に隠された、多くの人達が見えるはずだ。
自分が輝く事よりも、他者が輝く事を喜び、願って、惜しみなく力を貸してくれた者達が。
子供を学校に行かせるため、懸命に働いたその賃金を、自らに使わず、子の為に使ってくれる親。
その者を大会で勝たせるために、体調を管理する栄養士、故障を起こさせないよう気を配るコーチ。
自分が立ち上げたプロジェクトの成功のために、任せた仕事を完璧にこなそうと、身を削って付いて来てくれた部下達。
苦しい時、立ちはだかる困難に挫けそうになった時、黙って側に居てくれた、大切な人。
・・心に確と刻め。
今の自分は、その者達の代表者なのだと。
今の自分の地位は、その者達の力の結晶であるのだと。
その感謝の念がある限り、汝はその輝きを失う事はないだろう。
今度は汝の番である。
目を向け、育てよ。
意欲と知識を持ちながら、機会に恵まれず、踠き、苦しんでいる者達を。
それこそが、自分を支えてくれた者達の恩に報いる道でもある』
読み終えたキーネルの意識は、神による裁きを受けた直後の自分にまで遡っていた。
あの後、帝国の切り札である魔導船を全て失い、小国に無様に敗戦した彼を待っていたものは、皇位継承権1位の剥奪という通知だった。
事実上、ほぼ決まっていた次期皇帝の資格が白紙に戻された。
流石の父も、帝国の切り札を全て失わせた彼を庇う事はできなかったようだ。
今までの自分の行いからすれば、本来なら、王家追放すら有り得たのだ。
それを、1位の位を剥奪されはしたが、継承権自体は剥奪されなかったのだ。
ただ感謝する以外に何もなかった。
あの戦で、天上から降り注ぐ七色の雨に打ち抜かれた時、自分の中で、何か憑き物のようなものが落ちた。
それまで、エリカ王女の事しか目に入らなかった自分の視界が、元に戻ったかのように開けた。
だが、皇位継承権1位という肩書きを失った自分の側からは、実に多くの者達が去って行った。
それまでやりたい放題やってきて、多くの者の心を踏みにじってきた自分の側には、自分に付いて、旨い汁を吸おうとする者達しか居なかったのである。
後宮からも、ほぼ全員が去って行った。
たった一人、コゼットだけが残っただけだ。
もう直ぐ後宮から追放される時期が来るはずだから、手切れ金でも待っているのかと邪推して、自分の資産からお金を渡そうとしたが、彼女は受け取らなかった。
そしてあろう事か、できればずっと自分の側に居たいとさえ、言ってくれたのだ。
彼女との出会いは、自分がまだ学生だった頃、昼休みに、授業をサボるための場所を探していた時に遡る。
あまり人の来ない、小さな中庭のベンチに、思い詰めたような表情で座っていた彼女。
今にも自殺しそうな感じがして、柄にもなく、話を聞いてやった。
どうやら彼女の成績を妬む者達から嫌がらせを受けていたようで、それが親にまで及びそうになっている事に、心を痛めていた。
よく見ると、それまで自分の側に居た女性達とは異なり、派手さはないが、純朴で、落ち着いた感じのする可愛い娘だった。
決してそれだけが理由ではないが、色々と助けてやっている内に、彼女の側が自分の居場所のように感じてきた。
居心地が良いのだ。
彼女と居ると、見栄を張る必要がない。
有りの儘の自分で良いのだ。
そんな彼女と離れたくなくて、無理やり手折って後宮に入れたが、有力諸侯の娘達の機嫌も取らなければならず、そうこうしている内に、エリカ王女に出会ってしまった。
そこからの自分は、本当に彼女に合わせる顔がない。
なのにまだ、自分に対してそう言ってくれた。
裁きを受けた際の、かの御方のお言葉が蘇る。
『本当に辛い時、苦しい時にこそ、側に居てくれる者達を大切にせよ』
次期皇帝の肩書きを失い、後宮に娘達を送ってきた有力諸侯の後ろ盾も消えて、気にかけてくれる父以外は、コゼットだけが今の自分の側に居てくれる。
彼女を大切にしなければならない。
今までの分まで、尽くさなければ。
全てを失い、見栄を張る必要のなくなった今この時が、自分のスタートだ。
自分が恥をかくのは良い。
彼女に恥をかかせてはいけない。
せめて、彼女の笑顔だけでも守っていこう。
あの時、そう自分に誓った。
彼女の後宮追放期限が来る前に、父とコゼットの両親の五人だけの式を挙げた。
肩書きが外れ落ちぶれた、今の自分の婚姻に文句を言う者もなく、寧ろ平民のコゼットを娶るには都合が良かったかもしれない。
ただ、急いでいたので、彼女に着せてやるウエディングドレスの製作が間に合わず、有り合わせのドレスしか着せてやれない事が、心残りだった。
そんな自分の思いが届いたのか、彼女と二人で誓いの儀式をするために祭壇の前に立った時、奇跡が起きた。
彼女の足下から、小さな光の輪が生じ、それが彼女を包み込むように浮かび上がっていくと、徐々にその衣装を変えていく。
その光が彼女の頭上で消えた時には、コゼットは、眩いばかりの純白のドレスを身に纏い、人の手によるとは思えない程の細やかな刺繍の入ったヴェールを被り、その手には、見た事もない美しい花々のブーケを持っていた。
あの時の感動は未だに忘れられない。
コゼットの驚く姿を、溢れ出る涙と共に見た、あの時の気持ちを。
神はまだ自分を見捨ててはいない。
あの時のお言葉の通り、自分達を見守っていて下さる。
父も、そしてコゼットの両親も、歯を食いしばって嗚咽を耐えていた自分を、とても優しい眼で見ていた。
それから、皆で神に感謝の祈りを捧げたのは言うまでもない。
そこからは、ただひたすら、国民の為に働く日々だった。
毎日、城下の街を歩き回り、国の様子を見ながら、困っている者がいれば、話を聞いた。
コゼットの両親の紹介で、様々な平民とも会った。
自分の権限でどうにかできるものはその場で対処し、無理なものは、城に帰ってから担当の者に頭を下げて回った。
初めの内は、あまり良い顔をされなかった。
落ちぶれた皇子が人気取りをしていると、陰口を言われもした。
それでも、できない事はできないと謝り、約束した事は必ず守っていると、少しずつ空気が変わってきた。
ある時、商隊ルートの再編を頼まれて途方に暮れていると、コゼットの父親が、下級貴族の男性を紹介してくれた。
何でも、以前に隣国との貿易をしていた家らしく、商隊ルートに詳しく、また、盗賊が出る地域にも精通しているという。
今は家業を廃業し、妻の手伝いをしているというその男性に頭を下げ、何とかルートの再編に漕ぎ着ける。
その際、自分の変わりように驚いた彼らから、その理由を尋ねられ、何とは無しに神のお陰でやり直す事ができた事を話すと、彼の妻が他の部屋から1つの額縁を持って来て、『私達の家の家宝です』と見せられた。
そこに収められていた1枚の紙のような物、それはコゼットが、『神様から頂いたの』と言って、今でも大切に保管している物と同じ物であった。
非常に驚き、そして納得した。
そうか、彼らも・・。
念のため、声に出して尋ねると、肯定され、彼の妻についての説明を受けた。
今度は自分が彼らの話を聞く番だった。
その話を聞きながら、彼らのような有能で熱意ある人材を取り溢していた事を嘆き、その事に気付けた事に安堵する。
他の者に聞かれれば只では済まない秘密を打ち明けられ、その信頼に応える事も約束した。
帰り際、彼が自分に対してこう言った。
『・・正直、上流貴族の方々には、あまり良い思い出がありません。ですが、神に認められた貴方ならば、信用できます。また何か、人々のお役に立てる時が来たら、精一杯お手伝いさせていただきます』
暗い夜道を一人で歩きながら、その言葉について考える。
自分は偶々、コゼットのお陰で救われたに過ぎない。
そう思う事もしばしばあった。
本当に自分には、神に救われるだけの価値が有るのか。
この時はまだ、その答えが出せないでいた。
それが、後に帝国宰相となり、自分の右腕として、今も側に控えるロッシュとの出会いである。
その後も、目紛しく日々が過ぎて行った。
彼の知恵を借りながら、相変わらず市街を駆け回る日々。
コゼットの両親のお陰で、多くの市民とも顔馴染みになり、自分を見る者達の目に変化が起き始めていた時、大きな事件が起きる。
今まで、魔導船の前に沈黙を強いられてきた近隣諸国の内、帝国に次ぐ強国であったドガ王国が攻めて来たのだ。
あの敗戦以来、守りを固めるだけの我が帝国であったが、自分についていた有力諸侯達が日和見を決め込み、兵の大半を自分達の領地に引き上げたため、帝都にはあまり兵が常駐していなかった。
加えて、今まで魔導船に頼りきりの戦が多く、魔法部隊も歩兵の錬度も今一つ他国に見劣りしていた。
国境付近の砦から、皇帝の下に援軍要請の早馬が駆け込んできた時、慌てる周囲の重鎮達を尻目に、気が付けば、自分が行くと名乗り出ていた。
皇帝の周囲を固める重鎮達は、それを聞くと、騒ぐのを止め、失笑した。
『もう魔導船は残っていないのですぞ』と、嫌味を言う者さえいた。
だが、父である皇帝だけは、その後の自分を見てきたせいか、『任せる』とだけ言ってくれた。
ただし、帝都を守る兵は割けぬ故、自分で志願兵を集めろとの条件付きで。
かなり厳しい条件だったが、国を傾けるような失敗をした自分が再び指揮をとる以上、周囲を納得させるには妥当な線だろう。
音の増幅魔法を操る魔法師を従え、王宮のバルコニーに出る。
そこから、市民に呼びかけた。
『皆聴いてくれ。
帝国は今、国境付近の砦でドガ王国の攻撃を受けている。
先程、早馬が援軍要請を携えて来た。
私はこれから、その救援に駆けつける。
しかし、帝都に常駐する兵の数が少ない今、援軍に割ける余裕はない。
だから皆に頼みたい。
戦える者は、今から2時間後までに王宮広場に来て欲しい。
私と共に戦って欲しい。
・・皆は既に知っているだろう。
私は、先のセレーニア王国との戦で、帝国の切り札である魔導船を全て失うという失態を犯した。
今のこの現状は、私が招いた事でもある。
私は、その責任を取らねばならない。
だが残念な事に、私個人には大した力はない。
一人では、何もできない。
どうか、皆の力を貸してくれ。
2時間後、集まってくれた者達で出発する』
あの時は無我夢中だったから言えた言葉だが、今思い返してみると、かなり恥ずかしい。
魔導船なしでは、ほとんど何の実績も無い自分に命を預けろだなんて、無茶も良い所だ。
まあ、当たり前だが、時間ぎりぎりまで待っても、それほど集まらなかったな。
二百人。
熱意はあっても、強行軍に耐えられる年齢で
援軍から外された者も含め、そのほとんどが、自分が街を回りながら知り合った者達。
ロッシュ夫妻も居た。
一人一人と感謝の握手を交わしながら、頭の中では、如何に皆を生還させるか、それだけしか考えていなかった。
砦に到着した時には、守備兵達は満身創痍だった。
直ぐ様彼らを後方に下げ、事前に伝え聞いていたロッシュ夫人の治癒魔法を受けさせる。
その間、父がこっそり同行させてくれた障壁魔法の使い手に頑張って貰った。
ざっと見た相手の戦力は6000。
我が国を攻めるには明らかに少な過ぎる。
恐らく、帝国にどの程度の余力があるのか探りに来たのだろう。
それに対して、こちらは守備兵を入れて500足らず。
とても勝ち目はないが、ひたすら防衛に徹していれば、連絡を受けた諸侯達が援軍を寄越してくれる。
自分の為でなくても、国の危機なのだから。
あの時は、本気でそう思っていた。
まさか準備に手間取ったとの言い訳をし、全く援軍を寄越さないとは夢にも思っていなかったのだ。
3日経ち、それまで騙し騙し障壁を展開していた兵の魔力が尽きた。
負傷兵は、ロッシュ夫人の強力な治癒魔法により全員完治していたが、数が違い過ぎる上、向こうは魔法師の魔力を温存し、こちらが消耗するのを待っていた。
自分が捕虜として投降し、皆を逃がす以外に、全員を助ける道はないか。
付いて来てくれた者達を含め、ここに居る皆は未来ある勇敢な若者達。
大貴族達の兵が当てにならぬと分った以上、国の守りのために必要な人材だ。
陸な力もない自分一人の命との交換なら、安いものだ。
何より、指揮官は一人でも多くの兵を家族の下に帰すのが仕事なのだから。
敵が、こちらの魔力切れに気付き、侵攻し始める。
『私が一人で捕虜として投降しよう。それと引き換えに、皆の安全を保障してくれるよう頼んでみる』
唖然とする周囲の兵達を尻目に、コゼットの顔を思い出し、詫びを入れようとした、将にその時、・・忘れもしない、あの蒼き風が、敵に向かって吹き荒れた。
次いで、砦の正門前に、光り輝く魔法陣が現れる。
以前目にした、あの御方のものとは色も紋様も異なるが、女性らしさを感じさせる、美しい魔法陣。
その輝きが一際強くなると、見覚えのある女性が現れた。
『お久しぶりです、殿下。主人の命により、助太刀致します』
セレーニア王国唯一の将軍、マリー将軍は、そう言って微笑んだ。
そこからの展開は、未だに信じ難い。
魔法力に秀でたエルフ族の中でも、最強の武将であるマリー将軍。
だが幾ら彼女が強くても、6000の兵を相手にどうこうできるとは思えない。
門を開け、共に打って出ようとした時、涼しい声で止められた。
『殿下達はそこからお出にならぬよう。良い機会なので、今の自分の力を少し試してみたいのです』
そう告げた彼女は、左手に嵌めたリングを、右の掌で押さえた。
彼女の全身が蒼く光り輝く。
その瞬間、マリー将軍の前方に、巨大な魔法陣が現れた。
幾何学的な紋様で縁取られたその魔法陣の中央に、白百合の花の下で蹲る、巨大な銀狼の姿が見える。
その銀狼が、片目を開けた。
魔法陣の輝きが激しさを増していく。
巨大な咆哮を放つと同時に、その銀狼は魔法陣を飛び出し、ドガ王国の兵達を数十単位で吹き飛ばしていく。
途中、敵兵が何十発か魔法で反撃を試みたが、傷一つ負わない。
銀狼の牙が刃向かう兵を噛み砕き、巨大な足が逃げ惑う兵を踏み潰していく。
奇妙な事に、その圧倒的な蹂躙の中、時々わざと、兵を避ける仕種を見せる事がある。
多分、その者達は、神により生かされる者達なのだろう。
自分と同様に、やり直す機会を与えられるのかもしれない。
捕虜とした際は、丁重に扱ってやろう。
最早、戦いとさえ言えなくなった光景を目にしながら、そんな事を考えていた。
時間にして、僅か10分足らずの戦闘で、6000の兵を壊滅させた銀狼が魔法陣に戻り、再び眠りに就く。
何となく、物足りなさそうな表情をした彼女の呟きが、風に乗って聞こえてきた。
『・・魔法を使う前に終わってしまいました』
・・父には、二度とセレーニアと事を構えないよう、しっかりと進言しておこう。
『敗れたとはいえ、一度はそちらに刃を向けた我が国に対するセレーニアのご厚意、感謝の言葉もありません。このご恩は何時か必ずお返し致します』
門を開き、急いで彼女の元に駆け寄ると、丁寧に頭を下げながらそう伝える。
『随分とお変わりになられましたね。・・流石は旦那様。人は、きっかけ1つで
後半の呟きは、一体誰に向けたものなのか。
目を細め、優しげに笑うマリー将軍は、来た時と同様に、慌しく帰って行った。
こちらの状況を知らせる早馬を走らせた後、2日遅れで帝都に戻った自分達を、大観衆が出迎えてくれた。
6000の敵兵相手に一人の犠牲者も出さずに済んだ事に、皆喜んでいた。
兵達の家族と思われる者達が、頻りに手を振ってその帰還を喜んでいる。
無事に帰せて良かった。
自分と同じように、兵達にも、その帰りを待っていてくれる者がいるのだ。
今までは、その事に気付かなかった。
単なる駒としか見ていなかった。
なんと傲慢であった事か。
高い位置から人を見下す事に慣れてはいけない。
時々は、人々と同じ目線でものを見なくては。
・・あの時は、良い勉強をさせて貰ったな。
それから数年。
以前にも増して好意的な視線で見られる事が多くなっていく中、問題に直面する度、増えていく人の輪。
多くの者達の力を借りて成した数々の事業、戦果の、そのほとんどは、自分の功績としてだけ評価された。
だが、彼らは皆、そんな事を気にはしなかった。
その成功だけを、純粋に喜んでくれた。
父に許され、大勢の国民に推されて、自分は今、この玉座に座っている。
『自分が輝く事よりも、他者が輝く事を喜び、願って、惜しみなく力を貸してくれた者達』
この言葉は、正にここ10年で、自分が出会った人々の事のよう。
・・家臣達が心配そうに自分を見てる。
そろそろ、こちらに戻って来なくては。
国民に強制はできぬが、皇位継承権保持者には、御剣教を信仰させよう。
その方が、きっとこの帝国のためになるから。
エルクレール帝国第14代皇帝、キーネル1世。
後の歴史家が、帝国史上最高の名君と記し、国民が、賢帝キーネルと称えた彼は、その後も様々な改革に取り組む。
上下水道の建設、公衆浴場の設置、国による医療費の補助、初等教育の無償化、後宮の廃止など、枚挙に
芸術面でも、それまで学術の都として高めてきた絵画と彫刻に加え、セレーニア王国から管弦楽、孤児院から声楽を取り入れ、それを国が強力に後押しして、毎年2大音楽祭が開催される道を作った。
年々その名声を高めていくキーネルに対し、有力諸侯から再び婚姻の申し出が殺到したが、彼はその一切を断り、コゼット一人だけを生涯愛し続けた。
彼女との間には、王家待望の女の子も二人生まれ、その日は国民の休日となっている。
また、大のセレーニア
何より、彼の治世においては、二度と侵略戦争を起こさず、国民の生活をとても大切にしたという。
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