第3話
優月視点
『貪食』と『強欲』のエネルギー争奪戦は凄まじいものになった。
僕も白龍もお互いが《漆黒》と《白銀》を操って四方八方で激突する。その度にお互いのエネルギーが奪われ、喰われる。
お互いがお互いのエネルギーを自分のものとするこの戦い、有利なのは『傲慢』で大幅な強化をしている白龍だ。
しかし僕の『貪食』も負けていない。《神魔黒練気》と《竜気》、《鬼気》のエネルギーの塊により強化された『貪食』は『傲慢』によって強化された『強欲』とも対等に張り合っている。
終わらないこの戦いに先に変化をつけたのは白龍だった。
『白炎』
『暴風波』
『岩石弾』
『水刃』
『光剣』
『闇槍』
唐突に放たれた七色の魔法。一発一発が『傲慢』により強化された馬鹿げた威力を持つ魔法だ。
また、追加で上位属性と思われる魔法も放たれる。
僕はそれに対して内包される力を見抜き、『虚空障壁』を複数展開して防ぐ。
完全に相殺となった魔法は、しかし僕の気を少し逸らすことに成功していた。
足元から不意打ちで放たれた白銀が僕の足を切断しようとする。
咄嗟に切断を回避したものの足を斬り裂かれる。
「ッッ」
足を斬られると、黒龍戦以来の魂へのダメージとその痛みに目を細める。
だが『貪食』の集中力を保ち、今僕を斬った白銀を喰らう。
『主、《演技》と《上級操糸術》が破壊され、消滅した。』
『分かった。引き続き報告お願い。』
『おうよ。』
僕はスキルを破壊され消滅させられたことに歯噛みしつつも『貪食』を付与された漆黒を動かし続ける。
(やられたな。でも今度は僕の番だ。)
「研がれた龍の刃は全てを斬り裂く『龍爪刃』
月華天真流 漆黒魔天 破地天撃」
僕は『龍刃』の上位魔法である『龍爪刃』で斬撃の威力を大幅に上げると更に漆黒で強化した『破地天撃』を放つ。
叩きつけられた刀から放たれたその一撃は白龍を完全に捉える。
白龍の足元が地割れを起こすと共にそこから四つの巨大な漆黒の刃が現れて白龍を斬り裂いた。
『なにっ!ぐあああ!』
遂にまともなダメージを白龍に与えることに成功する。流石の白龍もこれには防御の対応ができなかったようだ。
さらには同時に発動されていた『
手に入れたのは白龍の魔法の能力の一部だ。その一部はスキルに変換されて僕の力となる。そのスキルは二つ。《雷属性魔法》と《黒闇属性魔法》だ。
流石は『貪食』だ。相手から自然属性と最高位特殊属性を奪うとは。
更に、この二つのスキルは喰った際に《漆黒》の影響を受けたことで、その能力が変化した。
まず《雷属性魔法》は《漆黒》の影響で、《黒雷魔法》に変わった。『属性』の文字が消えたのは、《漆黒》により変異した結果、設定された属性から逸脱したために起こったのだろう。
《黒雷魔法》の能力は単純に《雷属性魔法》の威力、速度、操作性等、諸々が大幅に上昇しただけだ。
次に《黒闇属性魔法》は漆黒を強化する材料となった。まるで意思があるかのようにスキルを飲み込む漆黒はスキルの能力により強化され、新たな能力を開眼させる。
それが《
僕は即座にその二つの両方を使う。
「黒雷よ我が身に留まりその力を宿せ『黒雷纏』」
まずは《黒雷魔法》で体に黒雷を纏わせて強化する。
纏った黒雷により、威力の増大、速度の超上昇、反射の超上昇などが起こる。
また、その力は雷を纏うという危険な魔法で、制御を誤ったり、長時間の使用をすると、体に大きな負荷や、ダメージを与えてしまうことになる。
しかし、僕の場合は《神体》の権能を持つためそのデメリットは一切ない。つまりはいくらでも体に負荷のある技や魔法を使用しても大抵は問題ないというわけだ。
白龍は再び『眷属招来』を使って自身の守りをさせつつ、自分は《白銀》の操作と回復に専念しているようだ。
しかし、僕のスキル《反転》のせいでそれが阻害されており、まだ時間がかかりそうだ。
眷属は無限にいるかのように溢れ出ており、蛇の大群がこちらに向かっていた。
僕は《漆黒》の派生能力を発動してから、刀を蛇の大群に向かって横薙ぎする。
「《黒紅蓮》」
《漆黒》はその性質を炎へと変化させる。《漆黒》の炎が解き放たれた。
黒炎は蛇を塵も残さず焼失していき、大群を一撃で屠る。
(今が攻め時かな。)
僕は苦無を一本その場に落とすと強化された体で、地を駆け抜け手負いの白龍へと迫る。
『深月』で高速移動をしながら、《黒紅蓮》で蛇の群れを一掃しつつ、同時に刀に《漆黒》、神気、魔力、練気、気功の四つが一刀に集まり、その威力を増大させる。
そして最後に『龍刃』の魔法を使うと一気に白龍への攻撃に移る。
無限に湧く蛇は《色欲》が効くようで僕に触れた側から勝手に僕の味方となり、蛇大合戦みたいな感じで、僕に触れて味方になった蛇vs白龍が生み出す蛇という熾烈な戦いが繰り広げられている。
(…取り敢えず蛇は問題なくなったな。)
僕は蛇を無視することにしてから、再び白龍へと迫る。白龍の身体に刻まれた四つの大きな斬傷は未だ回復してはいないようで、白龍はその痛みに耐えて満足に動けないようだ。
しかし、《白銀》の操作に影響はないようで、全方位からの同時攻撃が襲ってきた。
それに対して僕は思いっきり跳躍し夜翔のスキル《空翔》で空を駆ける。
下から追ってくる波のような《白銀》を刀を持っていない手に《漆黒》でできた刀を形成して握る。
そして『貪食』を付加したその刀で《白銀》を思いっきり斬る。
《白銀》の波はまるでザパン!という波の音が聞こえそうなほど綺麗に真っ二つに斬られ、再び《強欲》を上回るエネルギーを白龍の《白銀》から喰らい取った。
今回は『貪食』が先程強化されたことによって完全にこちらが上回ったのだ。これならば、今後も僅差ではあるがこの争奪戦を有利に進められるかもしれない。
僕は《白銀》を斬り裂いてできた白龍への一本道へと空を蹴って進んでいく。
勿論途中白龍による攻撃が行われていたが、龍装とスキルと権能と神紋をフル活用している今の僕にとっては片手の《漆黒》で作った即席剣で十分対処可能だった。
そして僕の間合いに白龍が入った瞬間に僕は今まで右手に持つ天朧に溜めてきた力を振るう。
「夜刀神夢幻流 斬ノ型 星喰」
小さくぽつりと溢すような言葉は気合いを入れる表れで、僕の体に丁度良い力が入る。
白龍は何とかそれを防ごうとしていたがその防ごうとして放った《白銀》と魔法を僕は全て《黒雷魔法》による黒い電撃で相殺する。
《黒雷魔法》の威力は高く、使い勝手も良い。また、白龍から喰らっただけあり、そのスキルレベルは高い。そのため魔法の威力や操作性も高いのだ。
「その咆哮は衝撃波となり全てを吹き飛ばす『
そして《龍属性魔法》の『
そしてようやく刀が白龍に届いた。
超強化された『星喰』が白龍に届き、その威力を内部と外部に同時に伝わらせる。内部は白龍の臓器がぐちゃぐちゃになるほどの威力で蹂躙し、外部は大きな斬傷に加えて、その余波で白龍の白い鱗を滅茶苦茶に破壊する。
『グギャァァァ!!!』
白龍はこの大ダメージに悲鳴をあげる。いくら《傲慢》で強化されているとはいえ、膨大なエネルギーと威力を纏った攻撃は相当なダメージを白龍に与えた。
(畳み掛ける。)
僕は着地する間に無数の斬撃で白龍の身体に傷をつけ、さらに着地と同時に《神魔黒練気》を刀に集中させる。
「黒刃」
膨れ上がった黒い力、《神魔黒練気》は大きな刃と化して白龍の身を大きく斬り裂く。
『黒刃』とは僕の編み出した簡単な技で、《神魔黒練気》を限界まで圧縮することで、最後に解き放つときの威力を上昇させる技だ。
『グゥ、アァァ!』
しかしここで終わる白龍ではない。『傲慢』を生かして集中強化した《白銀》を僕の周囲全体に溢れさせて僕を殺そうとする。
流石に『傲慢』により集中強化された《白銀》を止める術はなく、保険として落としておいた『転移』の魔法の付与された苦無の位置に一瞬で移動して難を逃れる。
今の僕ではあれを喰らうのは相当にまずい。一発即死の可能性が高い。そのくらいの威力だった。
白龍は僕が離れたことで超強化された《白銀》と『眷属招来』で呼び出した蛇の大群に四方八方を防御させると、傷の治療を断念してこの状態を打開するための詠唱の準備を始めた。
僕は一先ず先程の攻撃で白龍から喰らったエネルギーを消化していく。
喰らったエネルギーは超膨大で、奴の能力も喰らっている。
能力が僕のものへと変換された結果、僕が得た力は一つ。
それは純粋な力だった。能力はスキルにもなってはおらず、本当にただの力。喰らった膨大なエネルギーを僕の体内に収めたことによって生まれたパワーだ。
強いていうならば、『神力』。正に神の格を持つ龍から手に入れたこの力は僕の自由に発動し、種族の限界を超えた力を僕に授ける。
これにより強化された僕の身体は不足していたパワーを龍装と神装、スキルの重ねがけを使わなくても補えるようになった。
僕が早速この力で白龍へと迫ろうとするが、そこで白龍の詠唱が始まった。
恐らくはこの状況で発動させる最後の逆転の一手は黒龍も使っていた『龍気結界』だろう。
あれは世界を変えるほどの力を持つため、自身に有利な環境を作り出して一気に逆転できる。
『 我を輝かせるは純白の光を放つ白銀
我が白銀に勝る光などなく
全ての光は我が輝きには及ぶことなし
さすればこの世は我が光で照らされるだろう
太陽の輝きを呑み込む我が光は衰えることなし
我が力 我が勝利 我が栄光
全てを輝かせ我が光を永遠とせよ!
龍気結界『
僕はすぐに妨害に入ろうとして、白龍の築いた堅固な守りを破壊しようとしたが、その矢先に白龍は一息に詠唱を完成させてしまう。
瞬間、視界は真っ白に染まり、次に目を開いた時そこには白銀色の世界が広がっていた。
一切の影や黒はなく、僕の影も光に呑み込まれる。一切の黒がない世界。光に満ち溢れた世界が広がっていた。
『我が世界へようこそ人の子よ。お主は強い。我を追い詰めるほどにな。しかし、これで我が勝利は確定した!
この空間では我が禁止した能力の全てを我が光により無効化する。この空間での絶対者は我、アジ・ダハーカである。お主はこうなった時点で敗北しているのだ!』
そうして白龍は勝利を想像したのか笑い出した。
しかし白龍の余裕も理解できる。実際に今の僕は龍装とスキルの力が一切引き出せない。
というよりかは引き出した途端に、いや瞬間に消える。白龍の言葉通り無効化されるのだ。これにより《漆黒》や『
既に漆黒を纏っていた装備は元の状態に戻っている。
これは確かに圧倒的に追い詰められた状況だと言えるだろう。
『行くぞ!』
声高らかに叫ぶ白龍の言葉と共に《白銀》が察知することも許さずに放たれる。
《白銀》の出現兆候や予兆など一切が分からず、僕は回避行動を取ってはいるが、体を斬り裂かれるばかりとなった。
『強欲』によりどんどんエネルギーやスキルが削られていく。
そして遂には〔道化師〕のクラスが丸ごと破壊され、ユニークスキルの《合成》も消滅した。
また、他の能力も消えていく。
このままいけば、僕の負けは確実だろう。しかし白龍は一つ忘れている。
それは僕が『神装使い』だということだ。先程までの防戦の間にしっかりと神装が使用可能か確かめたのだ。
僕はここでEX《イクシード》スキル【走馬灯】を発動する。
これにより視界がスローモーションへと切り替わり、僕に余裕をもたらす。
『行くよヘラクレス。』
『おう!』
「 力と不屈の化身よ
汝が王の求めに応じその身を顕現せよ
其は世界の理なり
故に我が命運は汝とともにあらん
豪腕と英明 勇猛と不屈
汝が力を我が意志の下に集わせよ
試練を超えし英雄よ 汝不屈の神なり!
神装 『アフィティビトス』 」
神装が発動し僕の体を包み込む。
暖かな緑の衣が身を包み、濃密な深緑のオーラが発せられる。そのオーラは不思議と安心感と力強さを僕に感じさせる。
『神装か。龍装に気を取られすぎたか。だが、神装一つで我の有利は動かん!』
白龍はそう言うと再び《白銀》による猛攻をする。それに対して僕は神装の《神器能力向上》で大きく上がった能力をフル稼働する。
【走馬灯】に加えて《思考加速》を活用することで更に集中力と思考速度、処理能力を上げ、《剛力無双》で力を増大し、《抗体》で飛来する魔法への耐性が上がる。
更に《生命力操作》で身体を強化した後【
これにより神出鬼没の《白銀》が出現してから回避可能となった。
僕はスローモーションの世界の中で回避を続ける。既に神装発動前の最初の攻防で体には無数の傷が刻まれており、自然と《不屈の英雄》も発動していたことで、その回避能力は尋常ではないほどに高まっていた。
そのため、先程から白龍の攻撃は一切僕に当たっていない。
白龍もそれに気がついたのだろう。先程までの傲慢で、余裕だった姿に少しの動揺が見える。
その隙を僕は逃さない。白龍にとっては一瞬のことだろうが、【走馬灯】発動中の僕にとってはその僅かな隙すらも大きな隙へと変わる。
夜刀神夢幻流 体ノ型
*********
夜刀神夢幻流 体ノ型 虚歩
意識の隙間を突いて相手から消えたように錯覚させる歩法。相手から消えたように思わせるため、相手にとっては一瞬で接近されたように感じる。
*********
白龍の動揺による意識の隙間に入り込むと、そのまま白龍にとっては消えたかのように一瞬にして白龍に接近する。
『なっ!』
白龍は僕がいつのまにか間近まで接近していたことに驚き、固まる。そしてすぐに攻撃を試みる。
しかし、遅い。
「夜刀神夢幻流 斬ノ型
*********
夜刀神夢幻流 斬ノ型
斬ノ型最速の技。音も無く一瞬にして振われる刀は全てを置き去りにする速度とそれに付随した威力を兼ね備える。
*********
白龍の僅かな動揺と驚愕による硬直の隙を僕の刀は斬り裂き、ボロボロの白龍の身体に更に大きく斬傷を刻む。
「
「
「
そこから間髪入れずにすぐに威力重視の能力を発動する。そして、強化された特大の一撃を白龍にお見舞いする。
「夜刀神夢幻流 斬ノ型 音無 返し」
『返し』による二撃目は先程よりも威力が増しており、先程付けた傷の上にその特大の一撃を叩き込んだ。
白龍の身体を深くまで斬り裂く手応えを感じる。
『ギアアァァァ!!!』
完全に致命傷となった二連撃に白龍は絶叫し、そして遂に結界が解かれる。
流石に相手に有利な環境での戦闘に、僕も結構な傷を負っているため結界を出た直後に《神聖属性魔法》による回復で、傷を治す。
白龍はもう立つこともできておらず、身体を地面に倒していた。
『まさか、我が人の子に負けるとはな。』
白龍は流石にここからの逆転は無理と判断したのか、そんな言葉を出す。
『お主の勝ちだ人の子よ。中々に楽しい時間であったぞ。』
白龍はそう言って遂に目を閉じる。最早その力も残っていないのだろう。
僕はそれを見て自らの手で最後の一撃を放つ。
そして、これをもってようやく全ての龍、竜王、鬼王の討伐が完了したのだった。
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