第2話
優月視点
それから数日後、僕は白霧の森へと出発した。
装備は万全で、体力魔力もしっかりと回復した。
僕はそして消滅したカナンの跡地を通り、王国を出て、その先にある白い霧の立ち込める森へと辿り着いたのだった。
長旅の疲れをその近くの町で取ってからついに森へと足を運び入れた。
『ヘラクレス。今回は勝算はどのくらいだと思う?』
僕は以前黒龍戦の前にした質問を今度はヘラクレスに投げかける。
『んー、そうだな。おおよそ六割っていったところだな。やっぱ黒龍の龍装があるのはでかいしな。
大体は勝てんじゃねえか。だけど相手は黒龍と同じ三つの神格を持つ龍だ。油断や慢心は命取りだぜ主。』
ヘラクレスの力強い言葉と注意を聞いて僕は頷く。
『ああ、今回も勝とう。』
『おうよ!』
僕はヘラクレスとの会話を終えると《契約》で天朧を呼び出してから、森へと一歩を踏み出した。
森へと入ると、とてつもないプレッシャーを感じる。
僕が既にスキルで白竜の場所を探り当てているのと同じで、白龍も僕が森に入ったのを察知したようだ。
僕は白い霧の中を一歩ずつ進んでいく。白龍のいる森の奥へと進むにつれて、空気は重く、霧は深くなっていく。
そして遂に白龍と対面した。
『来たか。人の子よ。待ちくたびれたぞ。我を待たすなど不遜極まりないな。』
白龍の重く静謐を秘めた声が発せられる。そして霧が晴れていくと、その姿が見える。
黒龍とは対照的な純白を纏った身体に赤い瞳は爛々と輝いている。
「それは失礼。貴方を討伐しに来ました。」
僕は淡々と相手の傲慢な言葉に返答する。
『くくくっ!我を殺すというか!人のくせに傲慢な奴め!良いだろう、ではやってみるが良い!最強は我だ!弁えろよ三下!
我はアジ・ダハーカ!最強の龍なり!』
白龍は静謐さを捨て去り、その傲慢を表に出して吠えた。
「やるよヘラクレス。」
『おう!』
僕は刀を前に出して詠唱を唱える。
「 《
神紋を解放し、その力を身に秘める。
「 全てを染める漆黒よ
絶望を齎す災禍の龍よ
その力を解放し我が意志の下に集わせよ
其は漆黒 其は暴食 其は憤怒
喰らえ 怒れ 大罪を犯せ
罪は円環を廻り 円環は罪を増幅させる
其は我が身を滅ぼす罪となる
然れども我が漆黒は其の罪すらも黒く染めよう
漆黒よ 黒天を生み 天上にて怒り 神を貪れ
龍装『ニーズヘッグ』 」
九節詠唱を完了させ、漆黒の奔流を巻き起こす。そして、漆黒に身を包み、漆黒に紅い筋の浮かび上がった刀を持つ。
更に称号の効果で能力が大幅に上がるのを感じる。
いきなり全力勝負だ。
「
速度と威力を併せ持つ一撃をいきなり放つ。
『固有能力発動 《白銀》』
やはりというべきか白龍も黒龍の《漆黒》のような神格を持っているようだ。
まだその能力は分からないが、斬れないことはないと考えて、迫る白波を斬り裂いた。
『ほう、こうも簡単に我が《白銀》を斬り裂くか。面白い。』
そう言うと更に接近する僕に対して白龍は四方八方から白銀の剣を出現させる。
『白剣桜舞!』
(黒龍の黒剣と似たようなものか。)
『ヘラクレス。《白銀》に付与されている能力は分かる?』
僕は黒龍の時のように《白銀》に能力があると見てヘラクレスに問う。
『うむ。白龍の《白銀》に付加された能力は《破壊》と《消滅》だ。
《破壊》は《白銀》によって負傷した対象のスキルやクラス、称号の破壊。
《消滅》は《白銀》の《破壊》によって破壊されたものを完全に消滅させる能力。つまりは破壊されれば二度と元に戻らなくなる。完全消滅だ。
だが、《消滅》はあくまでも《破壊》の派生だ。そんなに恐れることはない!』
『わかった。』
僕は白剣に囲まれる中、臆すことなく前へと踏み出す。
「黒剣乱舞」
白剣に対してこちらは黒剣を展開する。勿論白龍と僕では撃ち合いでは先に弾切れになるのは僕だ。
だが、前へと進む間相殺できればいい。
僕はそう考えて白剣に対して黒剣をぶつけた。舞い散る白の剣に僕の黒の剣が衝突し、僕の周りで弾けていた。
『黒龍の力も操るか!』
白龍は僕が黒龍の力を使っていることに気づき、『
それは単に僕の接近を許さないためだろう。だが僕は『天使の雫』のスキル《結界》と漆黒の合わせ技で『
『ぬぅ。ならば『
一直線に迫る僕に対して少しの焦りが出たのか、《白銀》を乗せた息吹を放ってくる。
その威力は他の龍とは別格で、黒龍に匹敵する強さだ。
「空間を断絶する虚空の壁をここに 『虚空障壁』」
《空間属性魔法》が進化した《虚空属性魔法》の障壁を展開する。
さらに、
「聖なる壁よ敵を阻め『聖壁』」
《神聖属性魔法》の『聖壁』を展開する。
そして最後にもう一度『天使の雫』の《結界》を起動させる。
その三枚の防壁に『白光息吹』が衝突する。『息吹』の力はやはり凄くて、張った障壁は一枚ずつ破られていく。
しかし僕はその中で新たな詠唱をしていた。
「 我が貪欲は満たされるを知らず
我はいつも飢えている
我が口は神樹さえも噛み砕き 魂を貪り尽くす
然れども我が欲は収まることなく
我が飢えは満たされず 止むことなし
飢えを満たすために我は今日も全てを貪ろう
喰い尽くせ 『
そして最後の結界が破られると共に威力が少しは減退した『息吹』が迫る。
だが、その前に溢れ出る《漆黒》が口を開き、その全てを飲み込んだ。
『なに!神格までも扱うだと!」
どうやら白龍は龍装が神格の力すらも使えることは知らなかったらしい。
僕が発動した『
『貪食』のお陰で、他の龍などの能力を手に入れる事ができたし、その能力は驚異的だ。
そして『貪食』で喰らった『息吹』のような純粋なエネルギーは僕のエネルギーに変換され、僕の力となる。
(よし。これで大分力が上がる。これならあれも使えるか。)
僕は『息吹』を喰らうことで得た力を使って、さらに権能を発動させる。
「《神魔黒練気》発動。」
《神魔黒練気》は《白銀練魔》が更に変異した権能だ。
その能力は魔素、気功、練気、神気の全てを同時にかつ、自由に扱えるというものだ。また、その操作性などの能力全てが上がっている。
黒いオーラが吹き出して僕を包み身体を強化する。つまりは『魔纒』のようなものだ。
「夜刀神夢幻流 体ノ型
*********
体ノ型
夜刀神夢幻流の三つの型のうちの一つ。体術の型。
全部で六つの技と三つの奥義がある。
体を極端に前に傾けて加速していく歩法。一歩が大きく距離を一気に詰めるのに最適な技だ。
*********
体を前に傾けて前傾姿勢で一気に加速する。タンッタンッタンッ!という小気味の良い音を立てながら瞬く間に白龍との距離を詰める。
今の『深月』は《神魔黒練気》によって大きく強化された体でやっているため、その速度は通常よりももっと速い。
既に白剣と黒剣は二つとも消えている。
『
これも黒龍と同じ全方位に通常の『咆哮』の何倍も強力な『咆哮』を放ってくる。
「虚空より出し歪みよ盾となせ『虚空歪曲:多重壁』」
僕は流れるように詠唱を完了させると、眼前に鉄壁の守りを展開する。
『虚空歪曲:多重壁』はどんどん破られていくが、確実に白龍の攻撃の威力を削いでいき、あと一枚のところで防ぎ切る。
『これも防ぐか!やるではないか!』
白龍はそう言うが、僕は既に次の手を打っていた。
「喰らえ『
白龍の周りを囲むように漆黒が溢れ出し、それがまるで巨大な口のように白龍を飲み込んでいく。
『なんだと!』
先程の『全方位白光龍咆哮』を『貪食』で防がなかった理由がこれだ。
僕は白龍に気づかれないようにしながらも一気に決めるために『貪食』を白龍の周りに潜ませたのだ。
『 我が体に秘めるは無数の眷属
例え我が身が傷を負おうとも
我が眷属は我が敵を食い尽くそう
我が傲慢の眷属よ解き放たれよ
『眷属招来』! 』
白龍の詠唱により、その体から無数の蛇が生まれてくる。それらは身を挺して白龍を庇い、自ら『
蛇の生成速度と生成数は衰えることを知らないとばかりに無限に溢れ出てきて、白龍を守る壁のようになり、僕の『
しかし、『貪食』の能力は食ったものを己の力に変換すること、その間にも僕の力は増すばかりで、その力を『貪食』に注ぎ込んでいるため、『貪食』を破ることなど出来はしない。
『 我はこの世の王
全てを従え全ての頂点に立つものなり
我が力は天を突き
我が身は神をも容易く超える
我が身我が力は全ての頂点であり
何者にも超えられることなし
さすれば今我が力の前に刃向かう愚か者を
我が至高の力をもって叩き伏せよう
平伏せ 畏れ 崇めよ
我こそが至高なり! 『
白龍は僕が眷属に足止めを食らっている間に九節詠唱を完了させてその神格の能力を発動させてきた。
僕は即座に『貪食』を引っ込めてエネルギーを貯めるにとどまる。
僕が『貪食』を解除するとともに白龍も眷属の召喚を止める。
『
その力は強力だ。発動と同時に白龍の力が大きく上がるのを感じる。まるで『
その能力は単純に全能力の超強化。純粋な力の底上げをする能力だ。
白龍が軽く前足を振るうとそれだけで衝撃波が放たれて僕を襲う。
僕も神紋で強化された体と刀の一閃で重たい衝撃波を斬り裂く。
『 我が欲は止まることを知らず
我が渇望は増すばかり
その欲は目に止まるもの全てを欲し
我はそれを力で手に入れる
然れども我が渇望は満たされず
我が欲は衰えを知らぬ
ならば全てを奪い尽くそう 『
更に、七節詠唱のもう一つの神格能力である『
『
『
『断罪の白槍』
上空に展開された白槍の山が垂直に落下してくる。
「漆黒よ」
僕はそれを回避不能と見てすぐに力を注ぎ込んで漆黒を溢れ出させ迎え撃つ。
ズガン!!!
その音ともになんとか白槍の山を相殺する。しかし、これを接触とみなされたのか、体からエネルギーが抜けていく。
「くっ」
その喪失感に思わず声が漏れるが、お返しとばかりに先程の白槍の山から『
『貪食』と『強欲』。悪食と略奪の戦いになりそうな、そんな予感がした。
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