第4節 帰還

第1話



優月視点



エレオノーラさんと出会ってから約三ヶ月が経った。



あの日エレオノーラさんと出会った後、僕はオーセリア王国の王都に招かれた。


そこでオーセリア国王に謁見して、半ば強引に黒龍討伐の褒賞と褒美を与えられ、諸外国に対しての牽制の道具に使われてしまった。


この勝手に外交に利用された件については少々、いやかなり酷い扱いだと感じたが、エレオノーラさんの僕に対する真摯な謝罪と改善を約束する言葉を受けて、一応は納得するといった形を取った。



その後は龍討伐の任を負わされた。その際にパーティーメンバーを集めていけと言われたが、流石に龍相手に神装なしでは話にならないのでその話はなしにしてもらい、ソロでの活動をすることになった。



ソロでの活動を再び始めた僕はまずは鬼王や竜王の所在を見つけて倒すことを目的として各地を飛び回った。


その間に様々な国へと赴き、地球にはいない種族との関わりや、他国の様子を知ることができた。



また、既に倒した焔鬼以外の三体の鬼王と八体の竜王の討伐も順調に進んだ。


やはり鬼王や竜王はその強さからか、目立ちやすいため比較的簡単にその場所を知ることができたのだ。


そして奴らの絶対上位者である龍の力を持つ龍装とそれに匹敵する神装の力を持つ僕にとって、奴らは既に敵ではなく、あっさりと倒すことが出来る相手だった。





そんな風に各地を回る間に、勿論龍との遭遇もあった。


今まで遭遇して倒したのは、赤龍、青龍、黄龍だ。


この中でも特に厄介だったのが黄龍だ。黄龍は大地を操るため、兎に角地面に足を付けることができないという厄介さを持っていた。


地面に足を付けて戦うと、全方位から地面を使った攻撃が絶え間なくやってくるので空中での戦闘を余儀なくされたのだ。


あれは黒龍の龍装があるといっても中々キツかったのを覚えている。


そんな僕は今、緑龍との戦闘中である。

緑龍は主に風を操る龍でその派生として雷や竜巻も起こせるというまさに空の支配者といっても過言ではない強さを持つ。


しかし、今の僕にはその強さも脅威となるものではない。緑龍の暴風のブレスに対して黒龍の龍装『ニーズヘッグ』を発動して《龍力》で《漆黒》を発動、さらに膨大な量の《漆黒》を水があふれるかの如く生成して刀に纏う。


そして放たれた暴風のブレスに対して縦に一閃する一閃する一閃する。


刀に凝縮されていた《漆黒》は刀の軌道上を真っ二つにするほどの威力で放たれて、ブレスを難なく切り裂き緑龍をも斬る。


《漆黒》に飲み込まれるように斬られた緑龍はすでに満身創痍といった体となっていた。

僕はトドメを刺すべく《漆黒》を再び刀に纏わせて空に駆け上がる。


緑龍はそれを阻止しようと風を操ったり、雷を落として攻撃してくるが、全て《漆黒》によって防ぐ。



そして遂に緑龍への接近を果たすと、高威力の一撃をもって緑龍を倒しにかかる。


「『龍刃』」


《龍属性魔法》の一つ、『龍刃』。ブレスの威力を自身の装備に付与する魔法だ。


僕は緑龍の核の位置を見極め、ブーツのスキル《空翔》を発動させると一気に加速して漆黒と『龍刃』の二つの威力を兼ね備えた一撃で緑龍を核ごとぶった斬った。



その一撃に、緑龍は死に、その中から龍装が出てくるが、それをすかさず『ニーズヘッグ』の『貪食グラ』で喰らい、その力を取り込んだ。



今まで倒した奴らの龍装や鬼装、竜装も全て『貪食』で喰らいその力を自分のものとしているのだ。


そのおかげで今の龍装『ニーズヘッグ』は神装すらも超えた僕の装備の中で最強の力となっている。



________________________


龍装 ニーズヘッグ


契約者 十六夜優月


能力

・龍気 : 龍固有の力。


・鬼気 : 鬼固有の力。


・竜気 : 竜固有の力。


・漆黒 : 龍気が変換した万能の漆黒を自由に操作できる。

└・黒紅蓮こくぐれん : 黒の火炎を自在に操る。

 ・黒紺青こくこんじょう : 黒の水氷を自在に操る。

 ・黒翠こくすい : 黒の風雷を自在に操る。

 ・黒橙こくとう : 黒の大地を自在に操る。


貪食グラ : 全てを喰らい己の糧とする。自身が殺した相手の魂を喰らうと、相手の力を得ることができる。


憤怒イラ : 自身の力を何十倍にも膨れ上がらせる。強化倍数は怒りの深度により、発動後は狂化状態となり、狂化は怒りの深度によって変化する。


色欲ルクスリア : 自身の触れた相手の心理を操作する。魅了や洗脳を超えた力で相手の心を意のままに操る。


怠惰アケディア : 自身の周囲の全てを停滞させる。停滞の度合いは自身のMPの減少量により変化する。



・龍属性魔法 : 龍固有の大威力の魔法を使える。


・鬼属性魔法 : 鬼固有の超強化の魔法を使える。


・竜属性魔法 : 竜固有の超広範囲の魔法を使える。



________________________




となっている。

特に新しく増えた『色欲ルクスリア』と『怠惰アケディア』はとてつもなく強い能力であり、黒龍の『貪食』や『憤怒』同様にその龍の神格の一つだった。


それらも全て『貪食』で喰らい取って自身の糧にしてきたのだ。


僕は緑龍を倒し終えると、その場を離れてあてがわれた屋敷へと戻る。


そこで沢山のメイドに出迎えられると、自分の部屋でゆっくりとくつろぐ。この屋敷はとても高価なだけあって、休むのにはうってつけだ。


(後は白龍だけか。白龍は恐らく黒龍同様に他の龍から逸脱した強さを持つはず。今回は黒龍の龍装があるから黒龍戦よりは楽なはず。

兎に角他の龍を狩ってレベルもスキルも上がったし、竜王や鬼王もすべて狩り尽くした。

少し休息を取ったら、近いうちに白龍のいるところへ行くか。)


白龍の居場所は既に判明しており、奴がいるのは『白霧森』という名前の通り白い霧が漂う森の中だ。


かつてはエルフが住んでいたそうだが、白龍がそこに目をつけて強引に占領したため、エルフはその数を大きく減らし、そこから退避しなければいけなかったらしい。



僕が休息を取っていると、エレオノーラさんが屋敷を訪れたようだ。


「久しいなユヅキ。それと聞いたぞ!緑龍を討伐したそうじゃないか。本当にお前の強さは尋常ではないな。」


「ありがとうございます。それとお久しぶりですエレオノーラさん。」


僕とエレオノーラさんは二人きりで暫くたわいもない話をしてから、本題の白龍討伐についての話をする。


「それで、白龍の方は大丈夫なのか?」


エレオノーラさんは心配そうな顔を僕に向ける。彼女も白龍が他とは別格の強さを有することを知っているのだ。


「はい。今のところは色々と準備できていますし、前よりはレベルも上がって強くなってます。それに龍装と神装もありますから。」


「そうか。それならいいんだが。我々にはこうして君の支援をすることしかできない。情けない限りだ。」


エレオノーラさんはそう言うと沈んだ表情を見せる。


「いえ、いいんですよ。元から僕も龍退治が目的ですから。支援してくれるだけでもありがたいです。」


僕はそう言ってエレオノーラさんに負い目を感じなくてもいいと告げる。

実際彼女の実力は地球で言うならば『剣聖』にも勝てるくらいある。


エレオノーラさんはこうして良く話に来てくれるので、彼女との仲は結構深まっていた。


「そう言えば、エレオノーラさんは良くここに来ますけど、執務の方はいいんですか?」


彼女は王国の第一王女だ。国を継ぐことはないといっても、彼女は王族で勉学も優秀のため書類仕事が割り当てられているのだ。


ちなみに王国の次期国王、つまりは王太子はエレオノーラさんよりも歳が上で、既に国王の側で仕事を本格的にこなしているらしい。


「ん?ああ、それは大丈夫だ。ここに来る前に残っていたものは消化してるし、急を要する件もないと確認しているからな。」


「相変わらず優秀ですね。」


「そんなことはない。私がやるのは簡単なものばかりなだけさ。」


彼女は僕の言葉に苦笑して答える。


正直僕としては彼女が国を継いだ方が良い気がする。この国の王と王太子はどちらも愚王というまでではないが、優秀というわけではない。

政務も武力もどちらの面もそれなり程度だ。特に武力に関しては政務よりも悪いが、まぁそれは国王なのでなくても構わないだろう。


その点実力は市井に広まるほどに優れ、政務も仕事の量に比してその処理速度と判断力は優秀の一言だ。


どう考えても彼女の方があらゆる面で優っているのだが、女という一点だけで王候補から外されてしまうのは、正直勿体ないとしか言いようがない。


実際、王国には優秀な彼女を担ぎ上げようとする貴族達も多い。彼らは皆、彼女の優秀さとカリスマ性に期待を寄せているのだ。


「そうですか。」


僕はそのことを口には出さずに、彼女の謙遜に言葉を短く返す。


「そういえば、父上、国王が全龍討伐の後には君を王城へと招いて、盛大に祝いたいと言っている。それを君に伝えたくてな。サプライズも用意していると聞いているから、楽しみにしてくれ。」


彼女はその美しい顔に花のような笑みを浮かべて僕に言う。


「…サプライズってバラして良かったんですか?」


「…今のは知らなかったことにしといてくれ。それに内容までは私も知らないから問題ない。」


彼女はそれに少し焦ったような顔を見せる。


「分かりました。」


僕は


僕は黒龍との戦いで昔の記憶を思い出した反動で、昔の自分、つまりは感情を表に出していた頃の自分を思い出したのだ。


そのため、こうして薄っすらとなら思いを表に出す事ができるようになったのだ。

とはいってもこれも根気よく僕と話してくれたエレオノーラさんのおかげだ。


僕は思いを表に出すことを長い間できなかったため、それができるようになるまでの間訓練が必要だった。しかも感情は薄く一握り程度しかない。

そのため大抵のことには動かなかった。しかし彼女は様々な話や豊かな感情を僕にずっと与えてくれたのだ。


おかげでこの通り一握り程度でも感情を表に出すようになれた。


「それでは白龍討伐後を楽しみにしていますね。」


「ああ、私もしっかりと準備しておこう。…おっと、時間だ。では私はもう行くよ。また来る。それではな。」


「はい。」


僕は手を振って帰る彼女に手を振りかえしながら別れるのだった。




*********


お久しぶりです。遅くなってしまいすみません。ここから第4節スタートとなります。

よろしくお願いします。


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