第10話



優月視点



*********



「ユー…お前は俺にとっての最強で、最高の友達で親友で相棒だ…。俺らは世界最強だ。何せ神をも共に倒したんだからな…」



銀髪の少年、僕の相棒であるグライは僕にそう言っていた。

彼は神との戦闘で、致命傷を負い、そのまま息を引き取った。




「ユーくんならこれからも大丈夫だよ。私がずっと見守っていてあげるからね。」



茶髪の少女、僕の親友で、グライの恋人だったリアはいつも僕を支えてくれて、癒してくれた。

けれど、神との戦闘で力を使い果たして、命をも使い果たして、グライと共に眠るように息を引き取った。





「ユヅキ。お前は強い男だ。だが、それは表面上のものに過ぎない。必ず本当のお前を理解してくれる仲間を見つけるんだぞ。そうすれば、お前は感情を全て取り戻せるはずだ。それまで強く生きろよ。」



組織にいた頃の僕を支え、導いてくれた黒髪の女性、黒石くろいしれいは僕が殺した。

その頃の僕は完全に鴉王クロウキングの言いなりで、度重なる拷問のような訓練や実験などで精神は摩耗し、自我は崩壊の一途を辿っていた。


そんな時僕に対して鴉王は訓練の一つとして、親しい人を殺すことのできる冷酷さを得るために麗を殺すように命じた。

麗はそれを察して、自ら僕の手で殺されに来て、殺した。



*********



地球での穴があった記憶も、異世界でのグライとリアとの日々も全てを思い出した。

それと同時に今の歪な戦闘技術も本来のものに改編されていく。


《告。ユニークスキル《慈愛》が解除されたことにより、《慈愛》の効果が発揮されます。

スキル継承:《神聖属性魔法》を獲得しました。》

スキル発動:《慈愛の加護》が付与されました。


《告。ユニークスキル《氷結》が解除されたことにより、《氷結》されていた記録が反映されます。

スキル継承:《勇者ノ心ブレイブハート》を獲得しました。

スキル発動:《勇者王の加護》が付与されました。》


《告。ユニークスキル《封印》が解除されたことにより、《封印》されていた記録が反映されます。

スキル継承:《錬金術》を獲得しました。

特殊継承:《錬金術師の知識》を獲得しました。》




《告。制限されていた経験値が反映されます。》


スキルアナウンスを聞きながら、僕は心からグライ、リア、麗に感謝していた。彼らは死んでも僕を守ってくれていたのだ。


「我が手に癒しを与えたまへ

 我が肉体に休息を与えたまへ

 我が精神に希望を与えたまへ

 それは癒しの光、希望の光、導きの光

 その光をもって傷つき倒れる我らを包み生を与えよ

 神聖属性魔法『光輪ノ聖天』」


左手にある魔封のブレスレットから魔力を大量に取り出して、大技の回復魔法を発動する。僕の頭上に光の輪が出現し僕を中心に降りてくる。


すると、致命傷が瞬く間に光に包まれ、回復していく。千切れ掛けの手足はくっつき、穴の空いていた胴体も塞がっていく。右手と右足も付け根から再生を始める。右手の方は装備していた腕輪は消滅していた。

失った血すらも再生をして、完全に回復する。

しかし、右目はダメージが深刻すぎた上に、『貪食グラトニー漆黒カタマヴロス』による治癒阻害が強く、回復できなかった。止血だけは完了し右目を《アイテムボックス》から出した布で覆うと立ち上がる。

右目は見えなくても、スキルでカバーできるので戦闘への支障は全くない。


そして、思い出した記憶から理解した、獲得したばかりのスキルを発動する。


「契約発動 《 召喚サモン:『終夜幻刀ついよげんとう 天朧あまおぼろ』 》」


魔法陣から漆黒の刀が現れる。刀はまるで幻想のような美しさだった。刀身は夜天よりも少し長く、握ると手に馴染む。


この刀は前の異世界の時の愛刀でこの刀で神を殺した。思い出深い刀だ。久方ぶりの愛刀は良く手に馴染みなんの違和感も感じさせなかった。


(さて、準備万端だし黒龍相手の打開策を使うか。位置も丁度いいことだし。)


ルドラは未だ僕を背に黒龍相手に防御壁を展開して生き残っているが、もう時間がないのが見て取れる。


「ふう、やるか。」


僕は《天乃御剣》を発動して、足元の魔法陣に神気を流し込んでいく。僅かな光を放っていた魔法陣は神気を得て輝きを増してくる。


『お前が俺に力を分け与えてくれたのか?』


すると野性味のある男の声が聞こえる。


「はい。貴方の力が必要な状況なのです。」


『それは知ってる。ここはだからな。さて坊主、俺に力を与えたということは俺との契約を望むということで構わねえな?』


「勿論です。」


『そうか。それじゃあ契約を開始しよう。』


「 我が名の下に汝との契約を欲す

 契約の下に汝が力を我に与えたまえ

 我が名は十六夜 優月 」


『 契約の求めに応じ汝に我が力を与えんとす

  我が名の下に契約に記そう

  我が名は 神代の英雄なり 』


魔法陣の輝きが一層強まり、僕を包む。


「契約はここに成った。汝の力を我に与えたまえ。」


『喜んで俺の力を我が王の下に!』


契約が完了すると、僕の左手に神紋が刻印される。どうやらヘラクレスの神器は刻印型だったらしい。


僕はヘラクレスとの契約を終えると、一歩前に踏み出す。


「聖なる壁よ敵を阻め『聖壁』」


短文詠唱で強固な障壁を展開するとルドラの元まで歩く。


『ルドラ、後は僕に任せて。』


僕はそう言いながらルドラの前に出る。


『なっ!主!』


『ほう…』


ルドラは僕が回復して前に出たことに驚き、黒龍は興味深そうに僕を見る。

僕はルドラを見る。ルドラはもう実体を保ってすらいなく、殆どが霊体となっていて、神格も尽きていた。


『ルドラ、今までありがとう。あとは僕がやるからゆっくりと休んでて。』


ルドラは僕の言葉に一瞬驚いた顔をするも、すぐに優しい笑みを浮かべる。そして、


『ああ、あとは頼んだぞ主、いやユヅキ。』


と言った。


『うん。任せて』


僕がそう返事をすると心の底から安心した笑顔を浮かべて消えていく。


(結局助けられなかったな。でも、これで最後だ。僕は僕の大切を見つけて今度こそ守り切る。)


『さようなら、ルドラ…』


僕はルドラが消えていくのを見届けると、黒龍の方へと視線を移す。


「わざわざ待ってくれるなんて、優しいね。」


『ククク、我もそのくらいの理解はある。それに折角お主と戦えるのだ。そのくらいは待つとも。さあ始めようではないか神装使い!』


『うん。今度こそお前を倒して僕は前に進むよ、黒龍。」



僕は《闘気》を纏うと天朧の柄に手をかけて鯉口を切り、黒龍は『黒剣・無限刃』を背後に展開する。


『行くぞ!』

「行くよ。」


声とともに黒剣が飛来する。それは先程と同じ攻撃であり、しかしその量は圧倒的に多くなっていた。

先程まででは確実に手一杯だったはずだが、今は違う。


「【全見ビジョン:死核】」


その瞬間視界に青い線が張り巡らされ、黒剣や黒龍には青い点が出現する。それはスフェラとの戦いで極限の集中の中起こった現象だ。

あれは、記憶を失う前の異世界では僕が常時使っていた【全見】の派生能力だった。


能力は敵の核、つまりは敵が確実に死ぬ、または壊れる点が見えること。それは物でも生き物でもあらゆるものに見ることができる。また、青い線は移動する点が通る場所を示す。そのためそこをなぞれば必然相手の核に辿り着くというわけだ。


これは全て超高度な計算などから成り立つものなので、通用しないこともあるが、今までそんな相手と戦ったことはない。要はこの能力が通用しなかった相手はいなかった。


そして今回の黒龍相手でもそれは遺憾なく発揮された。


僕は愛刀の天朧を高速で振り続け、黒剣をいとも容易く破壊していく。そして黒剣を破壊しながらゆっくりと黒龍へと近づいていく。


『ならば、『黒剣・一刀』!』


すると黒剣は一つの大きな黒剣を作り上げ、それが物凄いスピードで上から振り下ろされる。

僕はそれを真正面から受け止める。衝撃で地面に亀裂が入り、押し込まれていく。

このままではパワー不足で負けるのは間違いないだろうが、今の僕にはそのパワーを補う方法がある。


「 《起句コール》 捩じ伏せろ 『イロアスジィナミ』 」


起句を唱えるとともに神紋が輝く。

ヘラクレスの神器は刻印型なのでその能力は全て常時発動型だ。そのほとんどが神器使いを強化するだけだが、その強化度合いがあり得ないほどに高い。


圧倒的なパワーを得た僕は黒龍の巨大黒剣をあっさりと跳ね返して破壊する。


「月華天真流 居合術 鳳仙花」


その移動は先程までとは比べものにならないほど研ぎ澄まされており、黒龍も一瞬で見失うほどだった。


僕は黒龍の懐まで移動すると抜刀して《神聖属性魔法》、《空間属性魔法》の二つの属性魔力を刀に流し込んで二属性に変化させて黒龍の足を斬る。重複属性により自動防御障壁は破れている。


そこで《慈愛の加護》の《反転》が発動する。それにより切断という大きな傷を負った黒龍の前足は再生していない。


『グガァア!』


「月華天真流 壱ノ奥義 月喰」


下段からの超高威力の一撃をさらに放ち、反撃として飛来してきた尻尾を根元から両断する。さらに追撃にあたろうとするが、やはり相手は神格持ち、そう簡単にはいかない。


足元から飛び出てくる漆黒の槍をバックステップで回避する。が、黒龍はそれも想定済みだったのかステップで着地した瞬間に足を貫かれた。


『我が王、《支配ノ瞳》と《弱点看破》が持ってかれた!』


『大丈夫…』


今回持ってかれたのも問題ないものばかりだ。特に《支配ノ瞳》は最近格下か格上とばかりやっているためあまり役立っていない。それに最近はいらない情報をカットするために使っていなかった。


《弱点看破》の方も【全見:死核】があるので今はなくても問題ない。


僕はすぐさま足を魔法で治すと再び大きく距離を取る。黒龍の方は前足と尾は切断されて地面に転がっており、治療もできていないようだった。しかし、《漆黒》により前足と尾を擬似的に再現しており、支障は無さそうに見える。


『ククク、素晴らしいな。これが戦い、これが殺し合いか。我は今生まれて初めて我を殺し得る敵に遭遇したぞ!』


そこからの戦闘は苛烈を極めた。興奮した黒龍は先程同様どんどんとそのパワーが上がっている。対してこちらも『イロアスジィナミ』による肉体強化に体が慣れ始め、少しずつ肉体強化の度合いを強めることができていた。


そして両者は互角、いや僅かにこちらが勝っている。だが、体力的な問題でいずれ逆転される可能性もある。


それでも僕は攻め続ける。それが僕の本来の戦い方だ。《漆黒》が荒れ狂う中を刀で切り開き、魔法で防ぎ、どんどん黒龍との距離を詰める。


夜天の《夜喰》はないためどんどん魔力が削られていくが、魔封のブレスレットにたっぷり貯めておいた魔力を消費して魔力を使いまくる。


「神聖なる剣よ我が敵を斬り裂け 『光剣』」


僕は黒剣のような剣を何本も作り出し、《漆黒》を斬っていく。そして遂に黒龍までの道が開いた。


夜刀神やとがみ夢幻むげんりゅう 斬ノ型 弧月」



*********


夜刀神夢幻流


優月が編み出した超攻撃型刀術。月華天真流は記憶を持っていなかった優月が編み出した派生刀術であり、その大元が夜刀神夢幻流である。

異世界でグライと完成させた刀術であり、グライは流派と技の命名をした。

三つの型から成っている。


斬ノ型


夜刀神夢幻流の攻撃の型。全部で六つの技と三つの奥義で構成されている。


弧月


歩法による一瞬での移動に加えて高威力の一撃を放つ。この一連の流れを一つの動作として完結させた技。

斬ノ型では優月が最も多用する応用のきく技。


*********



黒龍まで開いた道を一瞬で進み、黒龍を斬る。自動防御障壁を破り、黒龍の胴体を深く斬り裂く。


『グゥゥゥ!』


「夜刀神夢幻流 斬ノ型 弧月 返し」


『返し』とはどの技にもあるもので、一撃目の後にそのまま流れるように二撃目を放つことを指す。


刀を斬り返してもう一度胴体を深く斬り裂く。そして更に黒龍を斬り刻んでいく。


『ガァァアァ!だが、これでどうだ!』


黒龍は痛みに悶絶しながらも、反撃をしてくる。

地面に部屋全体を範囲とするほどの大規模魔法陣が発動した。それは圧倒的なまでのエネルギーを秘めており、黒龍の血と龍気を多量に含んでいた。


『大規模設置型必殺撃『冥黒星』!』


魔法陣がその輝きを強くする。


「ッッ」


(そんな、設置型魔法陣には注意してたのに気づかなかった。しかもこんな大規模なもの。《漆黒》で部屋中にエネルギーの塊を撒き散らしてたせいで、感知できなかったのか…。まずいっ。)


「空間を断ちて外敵を阻め 『空断障壁』

聖なる結界を連ね邪悪なる侵略者を阻む領域を 『聖天領域』 」


僕は咄嗟に二つの防御魔法を唱えたが、ここまでが最後の抵抗だった。


『発動!』


黒龍の合図とともに僕の視界は真っ黒に染まり、部屋中に《漆黒》が吹き荒れる。


………………

…………

……



気づけば僕は滅茶苦茶になった部屋の地面に倒れていた。身体中傷だらけで出血も凄い量だった。



『ヘラクレス。状況報告。』


『よく生きてたな我が王。状況つっても、ニーズヘッグの魔法陣で我が王は致命傷を受けた。咄嗟に貼った防御魔法がなけりゃ多分死んでたな。

んで、黒龍の方はこちらもまた満身創痍。我が王の攻撃で今は部屋の隅にいて、治療に専念って感じだ。追撃として『息吹ブレス』を放ったけど阻まれて、それでも『聖天領域』が持続してるから諦めたって感じだな。』


たしかによく見ると『聖天領域』はきちんと機能していた。『聖天領域』は防御魔法だが、その本質はその持続力にある。展開した領域内に発動者がいる限り途切れることはない。そして、領域内は微弱な回復魔法が常時発動している。


この魔法はとても難しく、本来ならば長い詠唱を必要とするのだが今回は上手く短縮して発動できた。基本的に《神聖属性魔法》はどれも難しいのだ。


更に今回は僕が一度に出せる最高出力で魔法を発動したため、とても高い効果を発揮して黒龍の追撃も防いだ。


『まぁそれで、肝心のスキルの方はこれまた沢山喰われたな。今ニーズヘッグも我が王から喰った分のエネルギーで回復してるし。』


『喰われた内容教えて。』


『了解した。ノーマルスキルは喰われなかった。そして〔武の英雄〕のクラス自体が喰われたことでこのクラスのクラススキルも全てが喰われたな。次にユニークスキルは《増幅》と《全てはオールフォア暗殺の為にアサシネーション》、《毒生成》、《潜影》の四つが喰われた。

そしてトランスドスキル。これは《身体超越》から《千里眼》、《適応》、《超加速》の三つが、《劍帝》からは《剣舞》が喰われた。

最後に称号が一つ。『神殺し』が持ってかれた。これは痛いな。

以上で全部だ。まぁ盛大に喰われたもんだな。』


『うん。笑い事じゃ済まないくらいね。』


今回は大層喰われたようだ。特にクラスに戦闘系のスキルと称号が取られたのが痛すぎる。


(はあ、やっぱり神格保有してる奴らは化け物だな。全力出してこれだし。能力は反則チートだし。でも、今回も勝つ。)


「ぐっ。」


僕は痛む身体に鞭打って身体を起こし、刀を握って立つ。


『ヘラクレス。やるよ。』


『おっ!俺を使うのか?いいぜ、思いっきりやれ我が王!』


「黒龍、いやニーズヘッグ。僕はまだやれるよ。」


僕はニーズヘッグにそう言う。


『舐めるな!我もまだ切り札を持っているのだ!』


ニーズヘッグはそう言って傷だらけの身体を起こし、気迫を漲らせる。


「なら続けようか、殺し合いを。」


『勿論だとも!』



「 力と不屈の化身よ

  汝が王の求めに応じその身を顕現せよ

  其は世界の理なり

  故に我が命運は汝とともにあらん

  豪腕と英明 勇猛と不屈

  汝が力を我が意志の下に集わせよ

  試練を超えし英雄よ 汝不屈の神なり!

  神装 『アフィティビトス』 」


『 我が身体は燃えている

  我が身より溢れる怒りによって

  我が身体はうずくまっている

  我が身を狂わす怒りを抑える為に

  我が怒りは消えることを知らず

  忘れることを許さない

  我が怒りは全てを壊し 全てを粉砕する

  ひれ伏せ! 絶望しろ! 泣いて乞え!

  今我が怒りは解き放たれた

  怒り狂え 『憤怒イラ』! 』




そして戦いは最終局面へと移行していった…




******************


スキル解説



・錬金術…錬成の最上位スキル。材料と魔力だけで道具や薬を作り出せる。

└・錬金術師の知識…過去に前スキル保持者が作ったことのあるものや材料に関する情報を知ることができる。


・神聖属性魔法…光系統最上位の魔法。回復、防御、支援に特化した魔法を使える。


・勇者ノ心…勇者専用スキル。光系統魔法の強化と精神攻撃への絶対的な耐性を得る。


・慈愛の加護…前慈愛スキル保持者による加護。光系統魔法の強化。

 └反転…敵に与えた傷に治癒阻害がかかる。効果の大きさは与えた傷の度合いに比例する。


・勇者王の加護…前勇者王スキル保持者による加護。聖剣適性と神剣適性獲得。肉体能力の向上。勇者専用スキルの獲得、使用が可能となる。

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