第6話


めちゃめちゃお久しぶりです。

更新遅くなってしまってすみません!


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優月視点



翌日目が覚めると万全の体調であった。体を良くほぐしてから、野営の片付けをして朝食を軽く食べる。


そして、五十階層への階段を降り始めた。


『ルドラ、僕の勝率はどのくらいかな。』


『…恐らくは一割あるかないかであろう。この迷宮でそれなりの力が付けられたのは幸運であったな。』


『そっか。でも一割有れば十分だ。それじゃあ行こうか。』


『うむ。』


階段を降りきり、大きな扉の前に立つ。扉には意匠が施されており、荘厳な雰囲気だった。

扉に手をかけゆっくりと開ける。


中はルドラの時同様魔法陣があり、そしてその奥に黒龍がいた。魔法陣はその光を失っているが、まだ微かに反応が感じられる。また、部屋の中は拡張されているのか、ルドラの時の部屋の場合以上の広さだった。


『よく来た神器を持つ者よ。どうやら少しは戦える実力を身につけたらしい。』


黒龍はその巨体を起き上がらせ、僕を見下ろしてくる。


「お前を殺すために来た。だから覚悟しておいて。」


僕は珍しく黒龍に勝利宣言に似たことを言う。どうやら、僕の消えたはずの感情が少し現れているようだ。


『フハハハッ!面白い!我相手にその言葉、気に入ったぞ。我もお前を殺したくなった!そうだ、我の名を貴様に教えてやろう。我が名はニーズヘッグ漆黒の龍である!』


「僕は十六夜優月。神器を使う者だよ。それじゃあ始めようか。」


『ああ!』


『出し惜しみはなしだ。いくよルドラ。』


『主よ。彼奴を倒すぞ!』


『うん。』


「 《起句》 吹き荒れろ 『シュトゥルムヴァント』 」


神器を解放して、風が吹き荒れる。刀は納刀状態で鯉口が切られている。


『それが神器か。さあ来い神器使い!』


「月華天真流 居合術 紅梅べにうめ



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月華天真流 居合術 紅梅べにうめ


流れるような抜刀から五つの斬撃をほぼ同時に放つ技。斬撃は全て刀の実体を持つため、飛ぶ斬撃とは一線を画す威力を持つ。意味は斬撃が紅梅を連想させるからである。


*********




五つの斬撃が黒龍の身体向けて放たれる。斬撃は風を纏いその斬れ味を増している。


咆哮ロア


黒龍は口から何か透明なブレスを吐くと、斬撃が一瞬にして掻き消える。


『ルドラ今のは何?』


『あれは龍のみが使える《龍気》だ。効果は正に万能。攻撃、防御、回復、強化なんでも可能だ。』


滅茶苦茶なスキルだった。僕は『紅梅』が防がれたのを見届けたのち、『魔纒』と《国士無双》を発動する。


暴風付与プレステルエンチャント


そして、一気に懐に飛び込み『龍月翔』を放つ。が、黒龍の身体に届く前に透明な障壁に阻まれる。


『それは《龍気》による自動防御障壁だ。』


ルドラの言葉を聞きつつ、黒龍の前足が迫っているのを感じ、即座に離れる。その間に『風剣エアリアルブレード』を放つも、やはり『自動防御障壁』のせいで攻撃が通らない。


『今度は我の番だぞ!』


黒龍はそう言うと、尻尾と《龍気》による攻撃を始める。

僕は右からくる尻尾を跳躍して回避する。


風弾エアリアルバレット


回避の際に風を凝縮した弾丸を撃ち込むもやはり自動防御障壁によって阻まれる。尻尾を躱された黒龍は空中にいる僕に向けて


咆哮ロア


「多重空間障壁」


黒龍の『咆哮』を『多重空間障壁』で防ぐ。一気に何枚も破られるが防ぎ切る事に成功し、着地する。やはり、魔力を使っていないため先のガウス戦のように適切な量の魔力で相殺ということはできない。


「月華天真流 魔天 破地天撃」


着地と同時に刀を思いっ切り振り下ろし、地割れを引き起こして更に黒龍の足元から四本の刃を飛び出させる。


『ぬはははっ!ぬるいぞ、神器使い!』


やはり自動防御障壁がその全てを簡単に防ぎ、未だに一つの攻撃も当たらない。

戦闘開始からまだ、黒龍は一歩も動いておらず、攻撃も尻尾による連撃と『咆哮』以外はしていない。こちらは神器を解放してバフもかけまくっているというのに。


『尾斬・連波』


僕が攻めあぐね少しの焦りを感じた隙を黒龍は見逃さなかった。黒龍の尻尾による攻撃が無数に分裂し僕に向けて四方八方から尾の攻撃が迫る。


月華天真流 桜華・斬


刺突ではなく斬撃による桜華の八連撃で尻尾を迎撃し、更に『双天月』の連続技で何とか尾を凌ぎ切る。


咆哮ロア


尾を凌ぎ切った瞬間、黒龍の『咆哮』が間髪入れずに放たれる。


「くっ!風咆哮エアリアルロア


消耗の大きい『風咆哮』を放ち、ギリギリのところで『咆哮』を防ぐも、上から尾の一撃が降り注ぐ。


「《夜霧》、《潜影》」


一時的に《夜霧》で周囲を夜にし、できた影に《潜影》で入り込んで、尾を回避する。そして、すぐさま黒龍の懐から飛び出る。


『咆哮』


《夜霧》はすぐに『咆哮』で破られるも、回避と同時に攻勢に出る事に成功する。


『魔纒』を解き、奥の手を一つ切る。


「【仙気解放・回炎】」


溜め込まれた【仙気】が一気に解放され、緑から赤に変わり、炎のように揺らめく。



【仙気解放・回炎】とは【仙気】による、超強化だ。今まで凝縮していた【仙気】を一気に解き放ち凝縮された力をそのまま身に宿す。それにより、一定値を超えた【仙気】は赤く染まり、炎のようになる。


しかし、あくまでも事前に【仙気】の凝縮をやっておかなければならないので戦闘中にいきなり発動することは不可能な技だ。また、一気に解放してそれを使うので、準備していた【仙気】が一瞬にして尽きてしまうため、発動時間はワンアクションのみとなる。


このように欠点もあるこの技だが、それでもこの技の威力は正に一撃必殺。その一回さえあれば、大抵の敵は殺せるのだ。


【仙気解放・回炎】に加えて、《超加速》、《絶気》、『次元斬』、《漆黒纏》、《一撃必殺》、[奇跡剣]を重ね掛けする。更にそこに『暴風付与』が施される。これは今出せる中ではほぼ最大の出力だ。



「月華天真流 壱ノ奥義 月喰つきくい



*********


月華天真流 壱ノ奥義 月喰つきくい


刀術の奥義の一つ。下段からしか放つことができない。速度はないものの、その威力は高い。刀術奥義の中では最もシンプルであるが、その威力は計り知れない。この奥義の最大の強みは威力を外部と内部の両方に同時かつ、威力の半減なしにダメージを与えることができる点だ。また、シンプル故に工夫しやすく、威力や速度を変えることが可能である。

月を喰い尽くすという意味。


*********



黒龍は意表を突かれたようで、防御は自動防御障壁のみ。


まず、超加速された刀の周囲に纏っていた『次元斬』と[奇跡剣]が自動防御障壁と衝突する。


ギリリリィィィィ!!


という音と共に、鍔迫り合いが起こりる。


最初に[奇跡剣]がその効果をなくすが、その効果を発揮し、付与されていた属性がそれぞれ同時に障壁に攻撃した事に加えて、『暴風付与』による攻撃で、障壁に揺らぎが生じる。


そこに特大威力の『次元斬』(暴風付与)が更に攻撃をかける。それにより揺らいでいた障壁に大きなヒビを入れることに成功する。しかし、それと同時に『次元斬』も消滅する。


そして、自動防御障壁も限界だったのだろう。『次元斬』の消滅と共に自動防御障壁もパリィン!という音とともに割れる。


[奇跡剣]と『次元斬』により遂に自動防御障壁を突破して、黒龍本体に刀が当たる。

そして《漆黒纏》、《一撃必殺》、【仙気解放・回炎】の《絶気》による強化攻撃が『月喰』により内部と外部の両方にダメージを与える。


「ふっ!」


『これは…ぬっ!』


内部のダメージはどうやら《龍気》に阻まれてしまったようだ。しかし、外部への斬撃は超硬度の龍鱗を斬り裂き、刀傷をつけることに成功する。


すぐさま黒龍が尾による攻撃を仕掛けてきた。僕はすぐに後退しつつも、攻撃が通るという実感を得ていた。黒龍の胴体には先程の攻撃による傷がしっかりと刻まれており、血が流れていた。

こちらも既に【仙気解放・回炎】は切れてしまっているが、奥の手の一つを切った甲斐はあっただろう。


「ハアハアハア…」


何重ものスキルの重ね掛けで疲労し、乱れた息を少しずつ整えていく。


『ほう、人の技で我に傷をつけるか…。思いの外やるではないか神器使い。このような傷を負ったのは貴様が初めてだぞ。これは我ももう少し力を出さねばいけぬようだ。』


黒龍が嬉しそうな顔でそう言うと、ルドラが警戒を促してくる。そう、今黒龍は更に力を使うと言ったのだ。ということは今より強さが上がるということ。今まででさえ、硬い防御と一撃一撃が僕を殺せる攻撃が強くなる。本気を出していないのは分かっていたが、まだまだ底が知れない。


僕は刀を納刀すると抜刀の構えを取り、黒龍の出方を待つ。

そして遂に黒龍が一歩踏み出した。それと同時に物凄い圧力が僕を襲う。これはまるでネズミとリュウの戦いだ。僕がそう感じるほどの圧倒的なまでの存在の格差。それが身をもって知らされる。


『落ち着け主よ。確かに奴は神格を得るまでに至っているが、こちらも我がいる。まだまだこれからだぞ。』


ルドラの声に僕は息を整え、相手のことを観察する。黒龍の周りには『咆哮』のときのような透明な揺らぎが生じているのが見て取れることから、どうやら扱う《龍気》の量を大きく増やしたらしい。だが、それだけだ。まだ、それ以外の変化は見受けられない。それならば問題はない。先程と同じように回避して一撃を叩き込むのみ。


ふと、黒龍が《龍気》を傷口に集める。すると、傷がどんどん癒えていく。《漆黒纏》の止血妨害の呪いも効いていないようだ。


『神器で傷をつけたのに。』


『やはり、この状態の神器では、その効力より、黒龍の力の方が強いのだろう。』


『そっか。だとしたら。』


『そうだ主よ。するべきだ。』


『分かった。』


黒龍はあっという間に先程ようやく付けた傷を治してしまい、こちらを見て笑う。


『さあ、神器使いよ。もっと我を楽しませてくれよ!』


黒龍はそう楽しそうに笑うと、先程とは桁違いの速度と威力の尻尾による攻撃を放つ。僕はそれを躱して『瞬華・飛天』と『魔空牙』を放つ。この速さだと懐に飛び込むのはかえって危険になる。


もし懐に入れても、今の素早い黒龍相手では足で薙ぎ払われてしまうだろう。そのため、まずは遠距離から攻撃を放ち、パワーアップの度合いを窺う。


『ぬるいぬるい。龍咆哮ドラゴロア


先程までの『咆哮ロア』とは威力が格段に違う。


エアリアルよ 我をアミナる 盾とアスピダせ 『風護障壁エアリアルエスクード』」


僕はその威力に、半端な防御は通用しないと悟り詠唱を加えて、強化した風の障壁を展開する。

あちらが桁違いの威力の攻撃をするならば、それに合わせてこちらの防御も強化すれば良い、ではこちらが圧倒的に不利だが、神器による技は基本的に燃費が良いので問題はない。


上手く相殺することに成功し、僕は『風弾』を何発か撃ちながら、黒龍の自動防御障壁を少しでも削っていく。


これならば、攻撃の方は問題ないだろう。しかし問題なのはその防御力である。

事前に切り札をいくつか用意したとはいえ、それを次々使っていたら、黒龍が本気になる前に無くなってしまう。さっきは攻撃が入るかどうかを確かめるのにも必要な一撃だったが、今はまだ使いどきではない。


それに、まだ凌げるレベルだ。


龍爪ドラゴニヒ・乱網』


黒龍の両足のそれぞれ五本の爪から斬撃が放たれる。斬撃一つ一つのサイズが大きく、速度も速い。さらには網目状になって迫ってくるため回避し辛い。


風刺螺旋エアリアルスピア……解放ショット


網目の一点を狙って破り、そこから回避する。横から尾が迫ってきているが跳躍で躱し、尻尾に向けて『円月』を放つ。


『円月』は自動防御障壁と衝突しガキィン!という音を鳴らす。だが、障壁を破るには至らず、すぐに後退する。


『やっぱり攻撃力が足らないな。ルドラ、障壁の弱点は分かった?』


『ああ、先程の[奇跡剣]から判断するにやはり単一属性の攻撃ではなく重複属性の攻撃の方が効きやすいようだ。というより単一の攻撃に対してはほぼ絶対的な防御力を持っているぞ。』


『そういうことか。それなら何とかなるかもね。』


『その通りだ主。我の神器は暴風と水の二属性だからな。』


『うん。それじゃあいこうか。本来の神器で戦うよ。』


『存分に力を振るうが良いぞ。』


僕は黒龍の攻撃に対して回避又は相殺に徹して、その間にルドラとの会話を済ませる。そして、防戦一方であり、攻撃不足の状況の打開を図る。


エアリアルよ 我をアミナる 盾とアスピダせ 『風護障壁エアリアルエスクード』 多重展開」


「更に加えて、 多重空間障壁展開 」


僕は一度その場に立ち止まり、防御を重ねる。そして、神器を宿す夜天を眼前に構える。


「我求めるはさらなる力。汝が王に汝が力の権利を授けよ。 解放アペレフセロスィ 『シュトゥルムヴァント』 」


詠唱の完了とともに荒れ狂う風が刀を中心に吹き荒れる。


風が収まると、そこには翡翠色に輝く刀があった。


「それじゃあ反撃開始といこうか。」


僕は夜天を構えて淡々と、不敵に言い放った。



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改めてお久しぶりです。最近ようやく余裕が出来たので更新しました。

とはいってもストックがあまりなく、基本的には以前と同様に第三節は週一更新でいきます。

第四節についてはまた後ほど活動報告使って報告していく予定です。


今後もこの作品を読んでいただけると幸いです。よろしくお願いします。

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