第4話


すみません!投稿時間間違えました。


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優月視点



獅子との戦いはこちらが不利な状況で進んでいた。

こちらの攻撃は今のところ『仙戦気』による斬撃を色々な箇所に飛ばすことしかやっていない。


ゆっくりと敵の弱点を見つけようとしているのだ。既に《弱点看破》は使用しているがこの獅子、種としての位が僕よりも圧倒的に高いせいでこういう干渉系に似たスキルですら受け付けないのだ。

しかし厄介なのはそれほど位が高いくせに神系統までは到達していないということなのだ。


恐らくその一歩手前に位置しているのだろう。それにより《劍帝》の《神斬り》は効果を発揮しない。そのため強力な一撃を叩き込むには他の方法を考える必要があるのだ。



また近づいていないのは、獅子の攻撃速度が速いため迂闊に近づいて攻撃を入れてもその隙を突かれてこちらがやられるのを危惧しているからだ。



魔物と戦うときに重要なことは攻撃を喰らわないようにすることだ。基本的に人と魔物とでは身体能力に差がある。そのため魔物は一撃喰らっても生き残る可能性があるが、人はその一撃で死ぬ可能性のほうが高い。これは地球の凶魔相手でも同じことだ。



今更だが、この世界の魔物と地球の凶魔が同一のものであると分かった。もしかしたら魔物というのは全ての世界、いや宇宙で共通しているのかもしれないとすら思うこともある。


そんなことはさておき、戦闘開始から既に十分が経過していた。僕も獅子も最低限の動きしかしないため体力は全くと言っていいほど減っていない。それに獅子は恐らく僕と同じく常時回復系のスキルを持っているらしい。また、魔法は使わないが魔力は使ってくる。時折魔力を込めた一撃が放たれるが、その威力は半端じゃなかった。大きく回避をしたから良かったものの、もし先程までと同じようにしていたら攻撃範囲内に入っていただろう。


別に僕も唯単純に回避しているわけではない。獅子の動きの癖やパターン、速度などを観察して攻撃の機会を窺っているのだ。もうほとんど見切っているため、こちらから仕掛けるタイミングを待っているのだ。



そのタイミングとは獅子が魔力を使った攻撃をした直後、少しだけできる隙があるのだ。そこを攻撃する。攻撃が通用する箇所は恐らく毛皮に覆われていない部分のみ。要は口、目、耳、足裏である。また尻尾の先端も毛皮が薄いため狙い目だ。が、勿論そう簡単に狙えるなら苦労はしていない。

この獅子は自分の弱点を把握しているらしく、僕がそこを狙おうとするとすぐに察知して隠されてしまう。


流石にこれではいつになっても獅子を倒せない。むしろこちらが段々と不利になっていくだろう。それは体力面でもそうだし、そもそも種としての差が大きすぎるというのもある。やはり魔物と人の身体能力の差はそう簡単に詰められるものではない。


本来、人が全力を出し続けられる時間は一分にも満たない。それを考えるとスキルやレベルという存在が無ければ人は魔物とはほとんど戦えなかっただろう。


一旦落ち着いて情報を整理する。獅子は防御が硬すぎて攻撃が全く通らない。その防御力は毛皮によるもので毛皮のない箇所や比較的薄い箇所が弱点と言えるだろう。防御力に特化した反面、攻撃力はあまり高くない。その身体能力の高さから繰り出される一撃は破壊力こそあるものの躱せないものではない。


要は勝つには自身の持つ技の中でも強力な技を獅子の弱点に叩き込む必要があるというわけだ。



思考を終了して、獅子との戦闘に意識を全て向ける。相変わらず獅子は単調な攻撃ばかりだが、それでもその身体能力の高さにより、脅威的なものとなっている。目の前に迫る獅子の前足をバックステップで躱し、着地直後に獅子に向かって前進する。


『仙戦気』を刀にも流して威力を上げ前足に向かって横薙ぎする。しかし、やはり毛皮に阻まれ切り傷すらつけられない。だが、ここまでは分かっていたことだ。ここからは新しい試みをする。『仙戦気』を解除して魔力を練り上げ、循環させる。


今まで、魔力は血液のように循環させて身体能力を上げていたが、それが魔素を操れるようになったためさらに緻密な操作が可能になった。それにより自身の細胞一つ一つに魔素を取り込むように意識して操作し、体内の全てを魔素で満たす。これを『魔纒』という。


ちなみにだが、魔力、【仙気】、《闘気》、【聖気】には相性があり、魔力だけは【仙気】と【聖気】とは相性が悪く、一緒に使えない。逆にそれ以外の組み合わせならば問題ない。《絶気》はどれでもオッケーである。


『魔纒』を発動してから、一度退避し、再び気を伺う。『魔纒』により脚を重点的に強化し速度をつけることで狙いを定めずらいように獅子の周囲を移動する。


そして見つけた隙に飛び込み獅子の胴体に狙いをつける。しかし尻尾が迫ってきたため離れようとするが、そこで咄嗟にこのまま倒す手段を思いつく。


『天駆』で尻尾をギリギリで躱し、刀の切っ先に魔素を集中させ、そのまま威力は付けずに優しく触れるように毛皮に当てる。そして切っ先に込めた魔力を一気に押し出すように『魔纒』で使っていた魔素を獅子の体内に放出する。要は『魔力吸収』の逆バージョンである。吸収に対してこちらは放出と言った感じである。


魔放撃 : 自身の魔力を相手に直接送り込む技。それにより相手の魔力と反発する。結果として内部から相手を破壊することができる。


『魔放撃』により、刀を経由して獅子に大量の魔力を送り込む。すると獅子はビクンッ!と体を震わせたと思ったら粒子となり死ぬ。あの防御力も流石に体内までは効果を及ぼしていなかったらしい。咄嗟の判断でこちらの攻撃に切り替えられて良かったというわけだ。


獅子を殺した後には宝箱が置いてあり、その中にドロップ品が入っていた。ルドラの迷宮とは違いこの迷宮では宝箱がドロップするらしい。中には装備品や素材が入っていた。《看破》で詳細を確認する。



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獅子王の毛皮


レア度 : 伝説級


獅子王の毛皮。その毛皮は硬すぎるが故に加工が大変難しい。


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獅子王の爪


レア度 : 伝説級


獅子王の爪。その爪は硬く鋭い上に加工しやすい。


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獅子王の腕輪


レア度 : 伝説級


獅子王を模した腕輪。獅子王の力が秘められている。


基礎身体能力強化(超) 五感強化(大)

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とても良いドロップ品だった。特に腕輪は基礎身体能力、つまりは素の身体能力を大幅に強化してくれるため重宝しそうだ。


今更だが、基本的に装備品による身体能力の強化というのは、その者のスキルや魔力を使った身体能力を強化する時に上乗せされるものだ。これだと使い道が限定されるように思えるが、人には必ず魔力が存在しているので常時発動されている。


しかし、特殊な環境下、つまり魔力やスキルを使用禁止にされたときにはその効果を失うのだ。その分この腕輪の身体能力強化は魔力やスキルを介さないので、そのデメリットが取り払われる。このような効果のものは非常に珍しく、数が少ないため希少なのだ。


僕は獅子王の腕輪を右腕に装着し、感覚を確かめる。すると体がすごく軽く感じる。また五感もクリアになっているのが分かる。

感覚を試し終えると《アイテムボックス》の中に素材をしまって野営の準備をする。軽くご飯を食べてから柔軟をして体をほぐす。そして水を《生活魔法》で加熱してお湯にし体を洗ってから寝る。




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翌日。

軽く運動をしてから朝ご飯を食べて次の二十三階層に向かう。階段を下りきると紫色の霧が漂ってきた。すぐにそれが毒だと気づくが、生憎毒に対しては絶対的な耐性を持っているため何の効果もない。この階層は毒による罠や魔物の毒による攻撃主体だったので毒が効かない僕は全く苦戦することなく踏破していった。途中珍しい毒草などは採取して《アイテムボックス》に入れていった。そしてあっという間にボス部屋らしき扉の前まで到着する。


扉を開き中を見るとそこには九つの首と巨大な胴体を持った大蛇がいた。その姿からこの怪物の正体がすぐに察せられる。


『ヒュドラ』


それがこの怪物の名前だろう。ヒュドラの周りは毒々しい紫の煙が上がっており、また呼吸する口や鼻からも毒の霧が漂っていた。


その毒はおそらく今の僕では無効化できないだろうと分かるほどの脅威だ。今も《危機感知》が僕にあの毒に対しての警戒を訴えている。だが、それでも僕とヒュドラの相性は抜群だ。なぜならヒュドラの持つ不死の力は《劍帝》の《不死者斬り》でどうとでもできる。それに毒はほぼ効かない体を得た僕だが、それでもやはりその耐性を超えてくる毒の持ち主は必ずいると思っていた。だから今その相手との戦いということで新しい段階へと移行する時が来たのだと思う。



それは毒の脅威を完全に消すこと。


これは僕が組織にいた頃にやらされていた実験のうちの一つだった。この実験の結果、僕は毒に対する高い耐性を得た。しかしこの実験の最終目標は毒を完全に無効化すること。

どれだけ強い人でも、やはり毒を喰らえば死なずとも少しはその効果で怯んだりしてしまう。だからこそそれを無くせば、暗殺などの心配も大幅に減る。組織のボスはそれを習得するために僕で実験しその方法を探していた。


そして得た答えはただただ毒を喰らい続け耐性をつけること。単純なつまらない答えだった。そして実験では僕はひたすら毒を喰らい苦しみながら耐性がつくのを待つだけ。それはとても辛かったが一つ毒を完全に無効化する方法を同時に思いついた。

今その方法をこの怪物相手に実践してこの毒を克服する。だが、まずはヒュドラをさっさと倒してしまおう。


刀を抜き、上段に構え、『魔纒』を発動する。そして体に残った使っていない魔素を一箇所に集める。さらに集中力を大きく高める。


『剣気』


以前ラスタルとの戦いにおいて力を発揮した剣の奥義。今ではそれを自在に扱うことが出来るようになっていた。『剣気』は黒色に染まっておりそれが刀から溢れるようにゆらゆらとしている。そこに先ほど集めた魔素を混ぜるように合わせていく。

そしてできたのが黒色の炎のようなもの。


『剣魔』と言いその特性は伸縮自在である。『剣魔』を伸ばしたり縮めたりすることができるだけだが、『剣魔』自体が恐ろしいほどの切断力を持つため、大きな脅威となる。


『剣魔』を使い刀を振るう。もちろんここからでは刀自体はヒュドラに届くことはないが『剣魔』がその軌道上を鞭のようになぞる。そしてヒュドラの首を一つ切り落とすことに成功する。


しかし伝承通りヒュドラの首は一瞬にして再生し二本の首が生えてきた。それを確認すると《付与魔法》を発動させる。


その間にもヒュドラはこちらに毒のブレスを吐いてくるが、大きく距離を取りながら回避しているため余裕を持って行動できる。


偶に首がこちらに来て噛みつこうとしてくるがそれでも僕にとってはそれは速いというわけではないので避けるのは簡単だった。ヒュドラはその場を動かずにいるため攻撃はパターン化されているため避けやすい。ただ、ヒュドラのいる周りはどんどんその毒が染み込んでいるため近づくこともできないのだが。


毒を吸わないようにしながら移動しつつ《付与魔法》で《空間属性魔法》を刀にエンチャントする。先程の再生を見たところあの再生には空間に干渉する力はないということが分かった。だから空間に干渉して再生を妨害する技を放つ。『剣魔』にまでエンチャントを施し、『次元斬』を発動させる。そして、鋭く息を吐くとともに刀を振るう。『剣魔』は一瞬にして伸びヒュドラの首を二つも斬り裂く。



「GYUAAAaaaa!?!」



『次元斬』の効果が発揮され再生が妨害される。空間ごと斬ったため血も流れることはなくヒュドラは痛みともに戸惑いの声を発しる。


しかしさらにもう一度雄叫びを上げると今度は残った八本の首がこちらに向きブレスを吐こうとしてくる。《危機感知》の警告に従いすぐにその場を離れるも、相手の方が一歩速かった。


紫色のブレスには今まで経験したことのないほど凶悪な毒が含まれており、それが足に直撃する。鋭い痛みと倦怠感、吐き気、酩酊、麻痺が一気に襲いかかってくる。耐性スキルを破って尚この威力は相当危険だ。だが、


それでもふらつくこともなくすぐに次の『次元斬』を放つ。今まで何度も毒に侵され、さらにはその状況でも戦ってきたため影響はあるが、戦えなくなるほどではない。ヒュドラも僕の動きが毒で鈍くはなっているが、大きくダメージを与えていないと見ると攻撃の仕方を変えてきた。残った首で噛みつこうとしてくる。それだけだが、その大きさと数により中々厄介である。



左右から来た首を上へ飛んで躱しつつも『次元斬』を放つ。しかしその直前に他の首が突っ込んでくるため技を中断し『天駆』で空を蹴り回避する。その回避先に再び首が迫る。すぐにその場を離れるも、着地する場所が毒に侵されていた。首が動き回ったことにより毒が散布されたのだ。


毒に当たること覚悟で一度地面に降りる。毒が靴の上からでも足に届きじわじわと毒が広がってくる。『剣魔』を解除し、別の技を発動する。


『聖闘気』


【聖気】と《闘気》の合わせ技だ。効果は『仙闘気』と似たようなものだが少し違うところがある。それは体に最高位特殊属性である神聖を付与するということだ。


そもそも【聖気】とは聖獣や聖人が持っているもので、それは神に祝福されたという特別な証だ。【聖気】の効果は浄化と強化だ。浄化はこの世界や自分の害となる悪しきもの(例えばアンデットや呪いなど)を消し去ることができ、また、対象を癒すこともできる。強化はその名の通り自身の身体能力、精神、耐性を強化して悪しきものに害されづらくなるようにする。


この二つが【聖気】の能力であり、『聖闘気』はこのうちの浄化の力が主に強化される。そして強化された力は神聖属性にまで至ったということだ。


余談だが、【仙気】の力は肉体の活性化だ。生命エネルギーを用いることで肉体強度を大幅に上げ、その上で自身の身体能力や五感を強化する。また生命エネルギーを使っているためその力で回復もできるし、鍛錬すればラスタルのように若返りというチート的なこともできる。


このため【聖気】相手には圧倒できたのだ。肉体の強化一辺倒だが、それゆえに強い、というわけだ。付け加えるならば、この時すでに僕は【聖気】と【仙気】の両方を中途半端にだが使っていた。そのため何とか喰らいつけていたということだ。



話を戻すが、今『聖闘気』を発動したのはその浄化の力を使うためだ。毒に蝕まれていた体は白く輝く神聖属性によりどんどん回復していく。毒を克服して仕舞えば、あとはこちらのものだ。『次元斬』を続け様に放ち、不死の首以外を全て斬り落とす。さらに『聖闘気』を『仙闘気』同様に身体に納める。そして刀にも纏わせ《天駆》で一気に駆けていく。一歩、二歩、三歩とヒュドラの毒による攻撃を躱して駆け上がっていく。そしてヒュドラの頭さえ越して刀を上段に構え技を放つ。



月華天真流 天降あまくだり



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月華天真流 天降


空中で体勢を整え重力や身体の捻りによるバネを利用して威力を高め地上まで一直線に振り下ろす技。天から降りてくるという意味。


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ヒュドラの頭の天辺から一直線に胴体すらも斬り裂いて真っ二つにする。その不死性は、《劍帝》のスキルの前には意味を為さずアイテムを残して粒子となる。

僕は刀を鞘に納めフゥーッと息を吐く。そしてアイテムと宝箱の中身を見始めた。


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