第7話




優月視点



外に出た僕は夜天を抜きいきなり『円月・断閃』を放つ。飛ぶ斬撃は半径1km内にいたゴブリンどもをあっさりと両断する。上位種の一部は伏せて回避したようだがそれでも一気に百体程が死ぬ。



(いつもより威力が高いな。スキルとクラスの効果か。)



突然だが僕が取ったクラスはどちらも物理主体のものだ。


1つは〔剣帝〕のクラス。言わずと知れた武術系統の剣士最上位クラスだ。

このクラスは剣に関する技能全体を向上させる。またそれに伴ったスキルも発現したがそれはまた後ほど。


2つ目は〔月隠つきがくれ〕のクラス。これは隠密系統の最上位クラスだ。

このクラスにより今までの隠密のさらに上に行くことができた。隠密性は今までの比ではなくなり、これで潜入などの隠密系の依頼は楽になるだろう。もちろんスキルも発現している。


そしてなによりこの二つのクラスをとったことで変わったのが自身の身体能力の高さだ。今まではレベルアップにより上がっていた身体能力が大幅に向上した。そんなこんなで今の僕の剣は威力、速度共に一段も二段も上がっているのだ。


ゴブリンたちは統率が取れているようで驚くべきことに隊列を組んでいる。ソルジャー系が前衛、後衛にアーチャーやウィザードという定番の配置をしている。そしてその一番奥にエンペラー、キング、ジェネラルがあるようだ。


補足だがゴブリンの上位種の種類は多岐にわたる。しかしその最終的な種はエンペラーとなる。

ソルジャー(剣士)、ファイター(拳闘士)、ウィザード(魔法使い)、アーチャー(弓使い)、モンク(僧侶)が基本的な上位種でその上にジェネラル(将軍)、キング(王)、エンペラー(皇帝)となっている。特にジェネラルまで行くと冒険者ランクがB以上のパーティーで挑む必要が出てくる。エンペラーともなればSランクが必要になってくる。


要はこのコロニーは冒険者が総出で倒すべきものだということだ。それに対して一人で向かうなど愚の骨頂だが、生憎と今日は調子がいい。前衛に向かって切り込んでいく。対するは三百程のソルジャー、ファイター。



月華天真流 魔天 破地天撃



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月華天真流 魔天 破地天撃


ラスタルの鬼気破装流を改良した技。この技は純粋な剣技というより魔力を使った技である。地面に魔力を纏った剣を振り下ろし地割れを引き起こしさらにその地面から天に伸びる魔力で形成された巨大な刃が四つ飛び出してくる範囲攻撃技。地と天を破壊するという意味。


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ゴブリンを巻き込んで地割れが起き、ゴブリンの体勢が崩れ、いくつかは地割れに巻き込まれて死ぬ。そして地から魔刃が生えてゴブリンどもを斬り裂く。三百もいたゴブリンは一気に数を減らし百にも満たない数になる。そして僕は前衛をあっさりとやられたことで動揺する後衛のゴブリンを見逃しはしなかった。

夜天の《夜喰》により回復した魔力で技を放つ。



月華天真流 魔天 落月らくづき



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月華天真流 魔天 落月


上空に飛び上がり落下時の威力を上乗せした一撃を振り下ろし周囲一帯全てをその威力で吹き飛ばす技。月が落ちるようだという意味。


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僕は《天駆》で高く駆け上がり、そこからモンク、アーチャーの群れの中心に落下し『落月』を放つ。僕が一撃を地面に当てると周囲が円状に陥没し衝撃で近くにいた者は圧死し、遠くにいたゴブリンは衝撃波で吹き飛ぶ。


《スキル衝撃波を獲得しました。》


スキルの獲得が早すぎる気しかしない。

僕はそのまま『円月・断閃』を放ちどんどん数を減らしていく。そこからはただの虐殺だった。ジェネラルの統率にもまともに応えられないほどに場を引っ掻き回し後はその有象無象を一方的に攻撃して殺す。いつの間にかあれほどいたゴブリンも残すはジェネラルが十体、キングが三体、そしてエンペラーのみとなっていた。

僕はそこまで魔力を発しながら悠然と歩いていく。


《スキル威圧を獲得しました。》


こんなにスキルの獲得が早い理由は何となく分かってはいるがそのことについてはまた後でにしよう。そしてエンペラーの目の前に行くとその前にジェネラルとキングが立ちはだかる。エンペラーはまだ余裕をこいているのか動く気配がない。


僕はここで《増幅》を発動して、次の一撃の威力を高めていく。そして既に《支配ノ瞳》の《把握》は終了しているためいつでも《命令》を使うことができる。


幾ばくか睨み合っていると痺れを切らしたのか襲いかかってくる。ジェネラル、キングは一斉に襲いかかってくるが連携は少々お粗末なので全てを最小限の動きで回避していく。その間にも《増幅》によりどんどん威力が上がっていく。そして夜天を納刀する。回避し続けながら気を伺い鯉口を切る。



月華天真流 静天



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月華天真流 静天


抜刀術。多人数が相手の時に使う技で、抜刀と同時に体を捻り全方向どの敵にも神速の一撃を正確に叩き込む技。放った後には剣の残像が残る。静かに天を描くという意味。


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《増幅》により切れ味が最大限まで引き上げられた夜天を使った抜刀術はジェネラルとキングの首をバターを切るような感覚で刎ね飛ばす。そしてそこには綺麗な残像が残る。

僕は崩れ落ちるキングたちに見向きもせずエンペラーと相対する。



「ゴブリンエンペラー。お前の配下は消えたがどうする?今なら痛みなく殺してやることを約束するが。」



言葉が理解できるかは分からないが何となく話しかけてみる。思えば戦闘の中、敵に話しかけるのは随分と久しぶりな気がする。それだけ今の自分は余裕があるということなのだろう。

ゴブリンエンペラーは遂に椅子から立ち上がりその大きな体躯で僕を見下ろしてくる。そして驚くべきことに僕の言葉に人語で応じてくる。



“チョウシニノルナヒトノコヨ。ソノコトバハナンジニソノママカエソウ。ソシテソレガウケイレラレヌナラナンジニゼツボウヲアタエヨウ。”



「それでは交渉決裂だ。それと絶望を与えるのは僕の方だ。」



夜天を抜いたまま車の構えをとる。エンペラーはそばにあった無骨な大剣を手に取る。その途端エンペラーの体を赤い筋が走っていく。それは全身に行き渡る。するとエンペラーの体躯がさらに筋肉が膨張したことにより大きくなる。目は赤く光り、息は荒いが目に知性が宿っている。



(あの大剣は魔剣の類か。だけど見たところ魔剣に呑まれている様子はないな。魔剣は純粋に強化する能力か何かしらの特殊能力を付与するかのどちらかだが、あれがどっちかは分からないな。ただ言えるのはあれを手放させるか壊せばこちらの勝ちだ。勝負は一番最初、エンペラーに先手を取らせて大剣を振らせてそれを斬る。今までも魔剣の類は切ったことがあるけど今回もうまくいくかは分からないけどやるしかないな。)



先手はエンペラーだった。その大きな体躯に似合わない素早さで接近し大剣を横薙ぎにする。



月華天真流 真閃天



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月華天真流 真閃天


カウンター技。神速にして絶対切断の一撃を放つ。それは回避不能であり、この技は奥義の一歩手前に位置する。天に閃き真空をも生み出すという意味。


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大剣の最も脆い部分を見極めそこに技を放つ。狙い通り大剣を綺麗に両断する。


《スキル斬鉄を獲得しました。》


《スキル斬鉄は劍帝に統合されます。》


アナウンスがスキルの獲得を言ってくるが今はそんなところではない。スキルに関しては無視だ。今は目の前にいる隙だらけの魔物に一撃入れるのが先だ。



月華天真流 双天月



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月華天真流 双天月


二連撃技。一度に二回斬りつけるという極技。そのためある意味二連撃というわけでもない。月を天に双つ描くという意味。


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反転してエンペラーの両手を肩から切断する。そしてさらに『双天月』を膝に叩き込み両断する。



“ガァァアァ!!”



エンペラーは悲鳴を上げ崩れ落ちる。既に魔剣は効果を発揮してはおらず、結局はどんな効果だったのかも分からなかった。



「やはり絶望を与えるのは僕だったな。どうだ?見下していたニンゲン相手に無様な姿を晒し、見下し返されるのは。」



“ハァハァッ、キサマァァ!カトウナニンゲンフゼイガァァコロシテヤルコロシテヤルゥ!”



「はぁ、状況考えて言ってくれ。もういいか。」



僕は夜天を振り下ろし首を刎ね飛ばす。エンペラーは生き絶えたようで苦悶の表情を浮かべながら死んでいた。


すると急に夜天が《夜喰》を使用し始める。このスキルは常時発動なので勝手に能力を発揮するのは当たり前だが、ここまで顕著に発動するのは珍しい。吸い込んでくる魔力はエンペラーからの魔力以外にもう一つあり禍々しい魔力だった。

それに気づくがもう遅かった。既に吸い尽くし僕の中に入ってくる。よくよく吸収元を見るとどうやら魔剣の魔力のようだ。途端に僕の身体に痛みが走る。勿論痛みには耐性があるので、耐えられるが暫くの間その場から動けなくなる。


《スキル活性化を獲得しました。》


《スキル鬼門開放を獲得しました。》


《スキル七命剣を獲得しました。》


《スキル七命剣は劍帝に統合されます。》


《劍帝のスキルレベルが上昇しました。それに伴い能力が解放されます。また解放された能力の影響で所有者の体の最適化が必要です。実行しますか?》


どうやらあの魔剣の能力を獲得することができたようだ。このことから夜天の《夜喰》は魔力を宿した武器も対象としてその能力も同時に獲得できるようだ。後アナウンスが大事なことを言ってくるが今は保留だ。

僕はゴブリンを一箇所に集めてから火打ち石を使って燃やす。魔石はエンペラーとキング、ジェネラルの分だけ回収して他は夜天で壊して魔力を喰らう。そして吸収した分を使って燃えやすいようにする。火に魔力を供給するとよく燃えるのだ。


燃やし終えると女性たちを《アイテムボックス》に仕舞う。少し不謹慎な気もするがこのままでは運べないので仕方がない。全員が《アイテムボックス》に入り死亡していることがわかる。《アイテムボックス》は生者を収納することはできないので死亡してるかの確認にも使うことができる。

女性を全員収納すると小屋の隅に冒険者ライセンスを見つける。どうやらここにいた人達は冒険者だったらしい。それらを回収すると都市に戻る。門を潜りギルドに向かう。


ギルドに到着し依頼の完了を報告する。受付嬢は確認のためライセンスの討伐履歴を見ると愕然とし、

「ええぇぇぇぇ」と悲鳴のような声を出す。そんなことをすれば周囲の冒険者は勿論何事かと目を向けてくる。僕はその視線を躱してギルドマスターに取り次ぐようにお願いする。


受付嬢も自分の身に余る案件だと理解したのだろう。すぐに呼んでくると言って奥に姿を消す。存外ここの受付嬢は優秀なのだろう。それを待つ間僕は隅でエンペラーの持っていた宝石を手にとり調べる。


実はエンペラーを倒したあと燃やすために運んだ時エンペラーが腰に幾つかの宝石を入れた袋を持っていることに気付いて回収したのだ。宝石は全部で七個あり色は緋、蒼、黄金、紫、翠、漆黒、純白で、形は全て丸く球体でどれも一目で素晴らしいものだと分かる。ただ気になるのはこの宝石が何か不思議な雰囲気を纏っていることだ。

気になるので《看破》で調べる。



__________________________


魔導の宝石(緋)


レア度 : 幻想級


魔導の力が込められた宝石。世界でも一つしかない貴重なもの。


__________________________



他のものも同じ説明だった。〈魔導〉という言葉は聞いたことが無い。



『ルドラ聞こえてる?』



『ああ聞こえているぞ。久しいな』



『そうだね。それで聞きたいことがあるんだけど、〈魔導〉って言葉聞いたことはある?』



『〈魔導〉か。久々にその言葉を聞いたな。勿論知っているとも。』



『そうなんだ。今その〈魔導〉の力が込められた宝石を手に入れたんだけど、これが何か検討も付かなくて。知っているのなら教えてよ。

っとごめん。迎えが来たようだから一旦切るね。このことはまた後で教えて。』



『ああ了解した。』



受付嬢さんが帰ってきたので僕はそちらに行きギルドマスターの部屋に案内される。



「昨日ぶりだな。それでこれはどういうことか説明してくれるな。」



いつになく真剣な顔で僕のライセンスの討伐履歴を指して聞いてくる。僕はそれに対して事の詳細を説明していく。



「なるほど。そりゃお前さんには感謝の言葉しかねぇな。本当に助かった。死んじまった奴らも浮かばれるだろうよ。遺体はこちらで埋葬しておくからライセンスと一緒に出しといてくれ。後報酬は受付でもらってくれ。最後にエンペラーとその群れを倒した功績として特例でお前さんをAランクに認定する。」



そう言って渡していたライセンスを返してくる。ライセンスはAランクになっていた。僕はそれを受け取り、部屋を出てから案内された場所に遺体と遺品を置き、受付でお金を貰う。倒したゴブリンは合計で千百二十三体で金貨一枚と大銀貨一枚、そして銀貨二枚と銅貨三枚だった。今回受けた依頼はあくまでもゴブリン退治だったためどれだけ上位種を倒してもお金は一緒だった。因みに魔石はジェネラルの分だけしか提出していない。エンペラーやキングのは自分で使う予定だ。


僕は地下に帰り、キッチンを借りる。そこで狩ってきたボアを取り出し捌いて簡単に調理する。


《スキル解体を獲得しました。》


《スキル料理を獲得しました。》


スキルが獲得できたためかいつもより早い手際で終わらせることができた。夕飯をパパッと食べ、部屋に戻る。そしてついでに文献があるという部屋まで行く。そこで薬学に関する本もいくつかピックアップして部屋に持ち帰る。

そこでやっと装備を解除し一息つくことができる。



(さてとこの後はいろいろ確認するかな。)



そう考えながら僕は夜の帳が降りたのを感じさせない地下の部屋で次の動きに入った。






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