第5話



優月視点



僕らが戦闘を終えたのは明け方のことだった。すぐに宿に戻って身支度を整える。今日は一睡もしていないが一徹くらい何の影響も出ない。組織にいた頃はあの時期を除いて、まともな睡眠なんて取れたことがあるか疑わしいほどだ。


それは置いといて宿の人が起きるまでまだ時間があったので戦闘でかいた汗を流しておく。ちなみに夜天一式は勝手に清浄されるので洗う必要がない。だが落ち着いたら一度洗っておきたいとは思う。


装備を整えて身も綺麗にし終わると宿の人たちは既に働き始めていた。僕は朝食を貰い宿を出払う。そのまま彼女の所に向けて歩き始める。


裏路地を通っていくと大人から子供まで色々な人がこちらを見てくる。奇怪なものを見る目や獲物を狙う目、中には憎しみの籠もった目を向けてくるものすらいた。

そんな視線を受けながらも気にすることなく目的地へと歩を進める。数分でボロボロの建物に着く。そこで何か違和感を感じて《感知》を集中させる。するとこの建物の下にいくつもの部屋があることに気づく。



(なるほど、このボロい外観はフェイクで地下が本当の拠点なのか。) 



そう一人で納得していると扉が開いて中からリーナが出てくる。



「もう来たのか。随分と早かったな。さあ入ってくれ。ユヅキ殿なら分かっていると思うが地下が本当の拠点だ。そちらに案内しよう。」



「ありがとうございます。それにしても上手い隠し方をしてますね。」



「ああこれは私が発案したものでな土属性魔法が使える者に建築してもらったんだ。自慢の拠点だな。」



そんな会話をしながら地下への階段を降りていく。地下に降りるとそこには大きな訓練場が広がっていた。何人かの人たちはそこで訓練をしており、どの人も中々の練度だった。



「さてそれでは私たちも始めるとするか。」



「ここを使って良いんですか?」



「ああ勿論だとも。なんせここのリーダーは私だからな!」



「そうなんですか。後僕のことは呼び捨てで構わないですよ。」



「そうか。なら私もリーナで良いぞユヅキ。敬語もいらない。」



「分かった、リーナ。」



「ところでユヅキのクラスはなんだ?それによっては無駄な技術になる場合もあるから、聞いておきたいんだが。」



「ああ、僕まだクラス就いてないんだ。」



「は……?ちょっと待て。ーーじゃあユヅキはクラスについてない状態であの実力だと。それはとんでもない強さだな。まぁ良い、なら先にクラスに就いて来ると良い。冒険者ギルドで就けるから。」



「分かった。そうさせてもらう。あと今日からここで寝泊まりしても良いかな?」



「ああ問題ない。あとで部屋を案内しよう。」



それに対して“ありがとう”と言うと、建物を出て冒険者ギルドに向かう。



*********



冒険者ギルドに到着すると中が何やら騒がしい。扉を開こうとするといきなり誰かが中から飛び出てくる。それを避けると。その男性は数回地面にバウンドしながら吹っ飛んでいく。


何事かと中に入るとそこには殺意を剥き出しにした大勢の冒険者たちと、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる男、そして怯える受付嬢の姿があった。


僕は近くにいた受付嬢に状況を聞いてみる。



「彼、ガウスっていうんだけど。この都市で最も強い冒険者なのだけれど、問題行動が多いの。それで今はここの領主に雇われてるんだけど、久しぶりに顔を出したと思ったらすぐに他の冒険者を挑発したり、受付嬢に強引に迫ったり、そしたら喧嘩になっちゃって、この有り様よ。」



「そんなに問題行動が多いんですか?」



「ええ彼はSランク冒険者なんだけど、実力は文句なくSランクなのに領主に雇われてからも黒い噂が絶えないの。曰く、仲のいい夫婦を捕らえて妻を夫の前で犯したとか、小さい子をさらって拷問しただとか、そんな酷い噂が多いの。それに彼を雇ったここの領主も黒い噂が多くて、この二人が協力して残虐な行為をしているんじゃないかって言われてるわ。」



「そう…ですか……」



脳裏に母親と父親の顔が浮かぶ。それにあの男の顔も…。


しかし漏れ出そうになった憎悪をすぐに仕舞い、改めて問題のガウスという男を観察する。身長は180cmほどで上質そうな魔物の革の防具をつけ、背中に身の丈程の大剣を背負っている。赤髪を短髪にしており、顔には相変わらず下卑た笑みを浮かべている。



(ああ、こいつは僕がこの世で最も嫌悪する類の人間だ。)



彼を見ると直感的にそう感じる。となると先程の噂もあながち全て嘘、というわけでもなかろう。


僕はそいつと関わらないようにギルドから出ていく。ああいう類の人間と関わるのは得策ではない。特に相手は見たところ中々の強者だ。絡まれでもしたらうっかり戦闘になってしまうかもしれない。いくらなんでもセレーネ様からの依頼の途中で犯罪者として捕まるのはまずい。


いくら相手に黒い噂があったとしてももし証拠がなければ僕の方に非があることになってしまう。それだけはなんとしても避けたい。



そんなことを考えているとそれなりの時間が経過していた。それに気付いてギルドに戻る。ギルドに戻ると既にガウスはおらず、冒険者の数も減っていた。


受付に行き、昨日の報酬を貰いに行く。受付嬢には話が通っていたようですぐにギルドマスターの元へ案内される。ギルドマスターの部屋に着きノックをして中に入る。


中には疲れ気味のギルドマスターが書類の束の前にいた。



「おうきたか。散らかってて悪りぃがそこにかけてくれ。今書類と金を持って来る。」



「分かりました。」



僕は上質そうなソファに腰掛けギルドマスターを待つ。ギルドマスターはたくさんの書類の中から目当てのものを探し当てたようで、それを持って今度は机の引き出しから金の入った袋を取り出す。



「ふう、待たせたなこれが今回のお前さんの報酬だ。この紙はこの前の契約書の履行確認書だ。そしてこれがモーブルの一生の代金。金貨八十枚と大銀貨五十枚だ。これでも交渉して定価より釣り上げたんだぞ。感謝してくれ。」



僕は金貨と大銀貨の枚数を先に確認してから契約履行書を読む。そこには今回のモーブルの値段やらなんやらが書かれていたが見たところ特に気になる点はない。確認し終えたのでギルドマスターに礼を言う。そして本題を話す。



「すみません。クラスに就いてないので就きたいのですが。」



「お前さんクラスに就いてなかったのかッ!マジかよ最近で一番驚いたぜ。っとクラスに就きたいなら受付に言いな。」



僕はお金を貰い礼を言ってから部屋を出る。受付に行き今度はクラスに就きたいという旨を話す。すると水晶がある部屋は使用料がかかるらしく銅貨五枚だそうだ。僕はお金を払って部屋への案内を頼む。部屋は受付の奥にあり、中には水晶以外には何も置いてなかった。



「それでは水晶についての説明をします。水晶はクラスに就きたい場合や就けるクラスを確認したい場合に使用します。やり方は単純で、水晶に手をかざしてクラスに就きたいと思うだけで頭の中に今就けるクラスが浮かび上がってきます。就きたいクラスが見つかった場合、そのクラスに就きたいと思えば就くことができます。また念のためその場にはギルドの職員が一人は在中することになりますが、ご了承下さい。説明は以上です。それでは私は部屋の隅におりますのでどうぞご自由に。」



一応どんなクラスに就いたのか知られないように自身に強固な隠蔽を重ね掛けしていく。そして手を水晶にかざして念じる。すると頭の中に何十ものクラスが浮かんでくる。気になるクラスがいくつも浮かんでくる。詳細も見られるようで、気になったものをひとつづつ見ていく。


しかしここで今の自分のレベルやステータスがわからないことに気づく。幸いにも魔力の訓練はやっていたので恐らく問題はないだろう。受付嬢の人からは見られないように背を向けステータスを見る。



________________________




名前 : ユヅキ イザヨイ

年齢 : 13

性別 : 男

種族 : 人族

職業 :

Lv : 44

魔力量 :5120/5120

魔力純度 : 5120

魔力強度 : 5120

技量ランク : S


スキル : アイテムボックスlv.7 銃術lv.9 空間属性魔法lv.6 付与魔法lv.4 加速lv.3 見切りlv.10 多重詠唱lv.5 無詠唱lv.7 換装lv.8


マスタースキル : 感知lv.10 看破lv9 魔力支配lv.10 身体強化lv.9 明鏡止水lv.10 息吹lv.5 身体操作lv.6


トランスドスキル:劍帝lv.1


ユニークスキル : 神才 暗絶殺 支配ノ瞳lv.8 増幅 獣化:白虎 夜霧lv.1


称号 : 神童 異世界の英雄 神殺し 死神 絶影 支配者 スケルトン殲滅者 王殺し 頂に手をかけし者 神器保持者 月の女神の加護



________________________



色々と増えていたり、レベルが上がっていた。ひとつづつ詳細を見る。



見切り : 相手の攻撃に対する見切りが上手くなる。


多重詠唱 : 一度に複数の詠唱を行える。lvの値だけ詠唱可能。


無詠唱 : 詠唱をすることなく魔法を発動できる。


換装 : 瞬時に装備を変えることができる。事前に装備を登録する必要がある。登録数はlvの分だけできる。


神器保持者 : 神器の保持者を示す証。


月の女神の加護 : 月の女神から受けた加護。月下での行動や戦闘時に全能力が少し上昇する。



何か今更感のあるスキルが多かった。しかし、《見切り》は欲しかったのでこんなにすぐに獲得できたのは幸運だった。後は称号でいつの間にかセレーネ様の加護があったのは驚いた。多分装備を受け取った時に一緒にくれたのだろう。ありがたい。


ステータスの確認も終わってレベルが四十四なので二つのクラスに就ける。改めてクラスを確認する。しばしの間悩み、決断する。

クラスを決定すると淡い光が僕を包みクラスが付与される。


それを終え、僕は部屋から退出してギルドを後にする。そしてまたリーナのところに行く。これから色々な技を習得していき早く地球に帰るようにしよう。


そう気持ちを新たにする。ふと乏しくなった感情が今は顔に出ることはないが以前よりも活発になっているのに気づく。



しかし今はそれについて深く考えることはせずゆっくりと歩いていく。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る