第3話
優月視点
ギルドをでた僕は門のところに行く。そして渡していた通行料を返してもらう。その後は真っ直ぐに武器屋へと向かう。すると目の前に『モルドの工房』という看板が見えてくる。あれが教えてもらったところの店名なのでもう着くようだ。
店の前に来ると奥から鉄を打つ音が聞こえる。扉は空いているので一声かけてから足を踏み入れる。中には沢山の武器が並べられていてどれも良い品ばかりだった。
ふと端の方を見るとある武器が目に止まった。それはまさにいや完全に苦無であった。正直この世界にあるとは思っていなかったが意外に地球と同じ武器が売っているようだ。
「その武器が気になるのか坊主。」
苦無を見ていると突然声をかけられる。もちろん気配に気づいていたので驚くことはないが話しかけられるとは思わなかった。そこには浅黒い肌をして鍛治をしているためか筋肉が発達している男性が立っていた。
「ええ、この武器がここにあるとは思わなかったので。」
「そうか。その武器は異界からの
「ではこれはその神子様が伝えた物なんですね。これは貴方が作った物ですか?」
「ああ、うちは代々鍛冶屋でな、俺は十八代目なんだ。そのクナイはうちに代々伝わっている物でな。俺も作れるというわけだ。」
「そういうことですか。手に取っても?」
「ああ構わねえぜ。」
許可が出たので苦無を手に取りじっくりと観察する。苦無はどれもしっかりと作られていて強度、切れ味、扱いやすさのどれも高水準だった。
「これ一ついくらになりますか?」
「ん?これは一つ銀貨三枚だ。」
「思ったより安いんですね。」
「まあな。作るのは簡単だし、それは単品で買う奴なんかいねえから、こんぐらいの値段がちょうどいいんだよ。高すぎると買ってもらえねぇし安いと損だからな。」
「そうなんですか。今在庫はどのくらいありますか?」
「クナイは今二十といったところかな。」
「それじゃあ十個ほどください。」
「毎度あり!それじゃあ銀貨二十枚か小金貨二枚だな。」
「小金貨二枚で頼むよ。はいこれ。」
「丁度だな。そしてこれが品物だ。また来てくれよな!」
「ああ何か足らないときには利用させてもらうよ。」
僕は苦無を購入してそのまま図書館に行く。苦無は《アイテムボックス》にしまい少し早足で歩く。
図書館に着く頃には日は真上に来ていた。しかしお昼は食べずにそのまま調べ物を始める。入館料は銀貨一枚で出るときに半分の銅貨五枚は返してくれるらしい。
今日調べるのは職業と一部のスキルについてだ。後はここがどこなのかということだ。
まず職業について。
職業とは別名『クラス』と言い大抵の人は『クラス』と呼んでいる。よってここからはクラスと呼ぶことにする。
クラスは神が人界にもたらした力でその人に合った才能がクラスとして発現する。即ちその人に合っていないものは発現することはない。クラスは最初とレベルが三十ごとに一つずつ選択することができる。クラスにつくためには専用の水晶が必要でありそこに手をかざしてクラスについて考えると選択できるクラスが頭の中に表示されるらしい。
クラスにつくとそのクラスに必要な基礎スキルが獲得できる。またそのクラス専用のスキルはステータス上にクラススキルという欄ができそこに表示される。
クラスで最上位のものは例えば武術系統や魔法系統であれば『帝』や『姫』がつくものである。ただし『姫』がつくものは女性にしかなれず逆に『帝』は男がなることができる。例えば『剣帝』、『剣姫』、『魔帝』などである。
またユニーククラスというクラスも存在しこれはそのクラスについている者がいる限りその間は誰もそのクラスに就くことができないクラスだったり、本当にその人のみにしか発現しないものであったりする。例としては『勇者』、『創造者』、『聖女』などである。特に『創造者』は完全なユニークで一度しか現れておらず、その能力は想像と創造である。想像した物質や能力を創造することができるという規格外クラスなのである。
ここまでがクラスについてである。クラスは明日つく予定だ。
次にスキルについて。
今回調べたいスキルは見切り系統のスキルである。勿論なくても見切り等はできるがスキルがあった方がやりやすいのは事実だ。実際剣系統のスキルもあったほうがやりやすい。またこの前のようにスキルが封じられても体に染み込んだ動きはスキルがなくてもできるため身につけておいて損はないのだ。
見切り系統のスキルは今後大型の相手や格上と戦っていく上で非常に重要なスキルだ。大型や格上の攻撃は一撃でも当たればそれが決定打となり得る。そのため自分は全力の攻撃を相手に叩き込みながら相手の攻撃を一つも喰らわずに勝たなければいけない。そのためには回避の技術を大きく向上させる必要がある。
ここが地球であったなら今から見切りスキルを身につけるのは難しかったが、幸いにもここは地球より強者がウヨウヨといる世界だ。訓練するにはもってこいの場所なのである。これならば短期間で大きな成果が見込めるだろう。
見切り系統のスキルについて読み終わったのでこの世界の地理に関する本てここがどこなのかを調べる。
どうでもいいことだが、この世界は地球のように球体で太陽系も地球とほぼ同じといっていいらしい。しかしほぼという言葉通り違うところはいくつか存在している。これは最初にセレーネ様からいただいた知識にあった。よってセレーネ様は次元の移動であり宇宙間の移動はないといっていたが、異世界転移や転生、召喚とは惑星間の移動ではなく宇宙間、正に世界間の移動をしていることになるのではないだろうか。同一宇宙内でも宇宙のあり方に変化があるのだから…
話が逸れたが、この世界は大きく分けて三つの大陸に分かれている。人族は大きく三つの国といくつかの小国を形成している。
大国から順を追って読んでいく、
・オーセリア王国 : この世界で最も領土が広い国である。先程出てきた『創造者』が創り上げた国で基本的にどんな種族でも受け入れていて比較的穏やかな国。特に資源が豊富でその資源によって国力を保っている。僕のいる都市カナンもこの国の中らしい。
・ゲルド帝国 : 軍事力が強い国で戦争をし続け出来上がった大国。今も戦争を繰り返しており、それによって資源を奪っている。帝国は資源に乏しいためこうして戦争を繰り返しているというわけだ。基本的に人族が住んでいて獣人や魔人などは多くは奴隷として生きているが強い者や功績がある者は成り上がっている正に弱肉強食な国だ。
・エーオス神聖国 : 神エーオスを崇める宗教国。国の機関は教皇を最高権力者とした政治体制を敷いている。人族至上主義で同じ人族でもエルフやドワーフは別の種族と認識して迫害している。これはエーオスが人の形をしているかららしい。よって少しでも違えばそれは異端な種族として排斥する。また神セレーネを邪神認定しておりその信者は見つけ次第即刻殺している。
小国は数が多いのでここでは速読でパパッと読むだけにした。
一通りの調べ物を終えたので図書館を出る。日はすでに傾いており、そのまま寄り道せず宿に向かう。宿に着いたら追加で一泊ほどできるかを聞く。
どうやら問題ないらしいのでお金を払う。そして夕食を食べ、部屋に戻る。
部屋に戻ってから今日買った苦無を床に広げる。今から成功するかはわからないが成功すれば相当な発見である実験をする。
これからやることは魔術具を作り出すことだ。普通ならこんなことはできない。地球では魔術具は迷宮や凶魔からのみ得られる特殊な道具であって人の手では未だに生み出すことはできていない。
しかしこの世界である魔法を獲得したとき僕は魔術具を作れる可能性をさらに見いだした。その魔法はもちろん付与魔法だ。この魔法はあらゆるものに魔法を付与できるという魔法だ。
ならばこの苦無に僕の魔法を付与することもできるはずだと考えた。
僕は苦無を一つ手に取り付与魔法を発動させる。するとやり方が頭に思い浮かぶ。僕はその手順通りに魔力を流す。魔力が流れると苦無に魔法陣が浮かび上がる。
今回苦無に付与する魔法は空間属性魔法だ。その中でも強力な転移を付与する。空間属性魔法はずっと練習しておりこの前転移の原理を理解したため使えるようになった。
転移といってもそんなに便利なものでもない。なぜなら転移というスキル自体が存在しているからだ。魔法の転移の場合のやり方は、脳内で転移したい場所の空間の座標を確定させ今自分がいる座標と直線で繋げる。そしたらそこに道を作りその入り口と出口に門をイメージしてそれをくぐると転移できるというわけだ。
簡単に言えば工程は三つ、
1.座標の確定
2.道の形成
3.門の形成
である。ちなみに門と道は同時に形成すると不完全な状態となり道のどこかにランダムで転移してしまうため危険である。ただし慣れるとこの三工程をすぐにできるようになるので多くこなしていくのが一番だ。
そして今回苦無に付与するのは転移を補助する機能だ。この三工程のうち距離が長いとき大変だったり時間がかかるのは座標の確定だ。
よって付与するのは座標を明確にする機能と常時門を形成する機能だ。道を形成するのが最も簡単なのでこの二つを付与する。それにより本当に一瞬で転移することが可能となり戦闘でも使用ができるレベルになる。
展開させた魔法陣に魔力を込め付与をしていく。一つ作るのに結構な魔力を消費する。そうこうして思ったより一つ一つに時間がかかるため全部終わったときには三時間以上が経過していた。
作業を終了して、苦無を片付け寝る準備をしようとする。髪も下ろし他の道具もアイテムボックスに入れていく。そうしていると何となく昨日のあの集団が気になる。あれほどの集団が何の意味もなく集まるはずはなくもしかすると何かを企んでいるのかもしれない。だとしたらそれに巻き込まれる前にこの都市を出たい。
空気の入れ替えも兼ねて窓を開けるのと同時に《感知》を広げて昨日の建物までを範囲に入れる。するとやはりたくさんの人がいる。さらに集中して《感知》をするとどうやら彼ら彼女らは戦闘訓練をしているらしい。その中でも指導者らしい者たちは突出した強さが感じ取れた。僕は念のため《支配ノ瞳》を発動して強者を《把握》しておく。
暫く観察していると最も強い者の反応が消える。その瞬間背後に殺気と同時に攻撃が来るのを感じる。すぐさま魔力で障壁を生成し、防御を試みその結果を見ずにその場から飛び去りながら振り返り血濡れの小太刀を抜く。どうやら相手の得物も小太刀だったようで僕との間を埋めるリーチはなかった。しかし咄嗟とはいえそれなりに強固に生成した魔力障壁をあっさりと突破されたのには驚いた。(表情に変化は全くないが…)
態勢を立て直し改めて敵の姿を確認すると敵は右手に小太刀を持ち全身を黒の装束で闇に溶け込ませるような服を着ていた。髪は黒髪で体型から察するに女性だろうと判断する。
(この人強いな。小太刀の扱いも体の使い方も何をとっても上手い。それにこの部屋の中だと刀は振り回しづらいな。ここは小太刀で上手く切り抜けるしかないか。)
この場をどう凌ぐか考えていると不意に声を掛けられる。
「貴様は何が目的だ?どうして私たちを探るような真似をした。しかも今回は前回より長時間も。」
どうやら彼女は僕が《感知》で探った理由を知りたいらしい。というかまさか《感知》スキルを逆探知されるとは思わなかった。この世界のレベルになると《感知》と隠密を併用したりするのがいいのかもしれない。
「勝手に探ったのは申し訳ありません。僕はスキルの範囲内にあったそちらの様子が少々気になったので。何せ夜の都市にあそこまでの規模の集団がいるとなれば何事かと気になるんですよ。」
「はぐらかすのか?まぁいい、今ここで貴様を捕らえて後で全て吐いてもらうとしよう。」
そういうやいなや彼女はこちらに接近してくる。僕は先程の苦無を開けっ放しの窓に投擲する。苦無はまっすぐ飛んでいきすぐに見えなくなる。彼女は僕の行動に疑問を覚えながらそれでも接近してくる。そしてあと一歩で間合いに入るというところで《空間属性魔法》を発動させる。転移により先程投げた苦無のところに転移する。《感知》は常時発動しているため今の苦無のある場所も把握しているため苦もなく発動に成功する。
一瞬にして景色が切り替わり苦無の元に転移する。苦無はまだ空中にあるためそれを掴んでから下に降りる。
(これで逃げ切ったかな。もう《把握》も終わったしちょうど良かったな。 ん?)
その時またさっきと同じ感覚が僕を襲う。すぐさまその場を飛び退くと魔力の気配と同時に彼女が僕の影から出てくる。
「そんな魔法あるのか……厄介すぎる。」
「貴様は捕らえると言ったはずだぞ。」
するとまた素早い動きでこちらに接近してくる。僕はそれに対して応戦することなく逃げを選択する。こうして追いかけっこが始まった。
(はあ、面倒な。ステータスは多分見れなそうだから《看破》は意味ないな。あとは《支配ノ瞳》の《読心》を一応使ってみるか。)
僕が考えをまとめている間にも彼女との追いかけっこは続いていた。遂には街の外の森の手前にまで行く。暫くすると前方に開けた場所を見つける。そこで、考えがまとまるとクルッと反転して彼女と向き合う。
「やっと諦めたか。痛い思いをする前にさっさと情報を渡すんだな。」
「逃げるのはやめましたが誰が捕まると言いましたか。それにさっき言ったことが本当なんですよ。」
「そんなの信じられるわけないだろう。貴様もそのくらい分かっているはずだ。」
「ええ勿論。だからここからは反撃させて頂きます。」
僕は暗殺者のときのスタイルで右手に小太刀、そして左手は空けておく。これはナイフなどの暗器を使えるようにするためである。しかし脳内は相手をどう殺すかではなくどう捕まえるかに重点を置いて戦略を練る。《読心》を発動させると彼女の心の声が聞こえてくる。
彼女の方も既に戦闘準備はできていたようでこちらの出方を伺っている。彼女は小太刀と短刀の二刀を手に持ちまた気配を完全に消している。
「それではいきます。」
───遂に戦闘が始まる……
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