第2話
優月視点
翌日朝起きると髪を結んでいた紐がいつの間にか切れていたことに気づいた。アイテムボックスから新しいのを取り出しいつものように結ぶ。それから身支度を終えて身体をほぐす。地球ではいつもならこの後自主稽古をするのだが、迷宮ではやっている場合ではなかったし今も部屋の中ではやれないので、やめておく。
朝食を食べるために部屋を出て昨日の場所へと行く。するとすでに女将さんも娘さんもおり働いていた。近くにいた娘さんに朝食をもらうために声をかける。
「おはようございます。朝食をいただきたいのですが。」
「っ!え!もしかしてユヅキさんですか?」
「?ええそうですよ。」
「ご、ごめんなさい。昨日とは随分印象が違うので驚いちゃって。それで朝食でしたっけ。それなら昨日と同じ席に座ってもらってメニューを見て注文してください。」
「分かりました。それでは。」
僕は娘さんとの会話を終えて、席に着くとメニューを見る。そこにはまたおまかせがあったのでそれにする。すると、今日はサラダとスープ、黒パン、それに卵料理が出てきた。ささっと食べ終わると鍵を受付に預けてギルドに向かう。場所はすでに昨日把握しているので、迷うこともない。
しばらく歩いていると段々と武装した人たちが増えてくる。恐らく彼らが『冒険者』と呼ばれる人たちなのだろう。そして彼らの行先には盾の上に剣が乗った看板があり“冒険者ギルド”と書かれた建物が存在している。
「ここが冒険者ギルドか…早いとこ登録して門のところに行ってお金返してもらわなきゃ。」
僕はギルドの扉を開けて中に入る。中には正面にカウンター、その右隣に掲示板(恐らく依頼書)、左に酒場となっていた。掲示板の前には多くの冒険者が依頼を吟味しており、カウンターには美人な受付嬢が何人かいて冒険者の対応をしていた。僕は適当に人が少なさそうなところに並ぶ。とはいえ5列あるカウンターはどれも同じくらい人が並んでいるためさして変わらないのだが…
ふと、周囲に目を配ると多くの視線が僕に向いていたことに気づく。男性は子供が何をしに来た、という目で、女性は頰を赤くさせて見てくる。
僕はそのどれもを無視して並ぶ。このギルドにいる冒険者のうち三分の一と少しほどが地球基準でいえば相当な猛者だった。
そんなことを考えていると僕の番が回ってくる。
「ご用件はなんでしょうか?」
すると受付嬢さんがそう聞いてくる。心なしか頰が少し赤い。
「今日は登録をしたくてきました。」
「登録、ですか…失礼ですが年齢は十二歳をすぎていますよね?」
すると受付嬢さんは年齢について聞いてくる。理由は冒険者ギルドの規則で十二歳未満の人は登録できないからだ。
「ええ、十三です。」
「そうですか。水晶が光らないということは嘘ではないようですね。ではこの紙に必要事項を記入してください。」
そう言って受付嬢さんは紙を一枚出してくる。僕はその紙に必要事項を記入していく。名前、年齢、職業、得意武器、スキル、魔法と書かれた紙を上から埋めていく。
「すみません。職業にはまだつけていないんですが、あとスキルと魔法は全て書く必要はありますか?」
「職業は空欄でも大丈夫ですよ。スキルと魔法は全て書かなくても問題ありません。パーティーを組むときに必要なだけですので。」
「分かりました。」
僕はスキルの欄に隠密と剣術、銃術と書き、魔法の欄は空欄にした。書き終えた紙を提出すると受付嬢さんは少しの間奥に行き、すぐにカードを持って出てきた。
「お待たせしました。これが冒険者ライセンスです。冒険者についての説明は要りますか?」
「お願いします。」
「分かりました。冒険者とは………」
受付嬢さんの話をまとめるとこんな感じだ。
・冒険者ライセンスはランクがあり低い方からF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとなっている。ただし今はSSSランクは1人もおらずSSランクは世界でも数人といったような具合らしい。
・依頼書にもランクがあり、F〜SSSまでとなっている。冒険者は自身のランクの一つ上まで受けることができる。また依頼失敗時は違約金を払わなければならないので無理な依頼は受けると痛い目に合う。
・ライセンスは魔道具で登録するとその他の人には操作できなくなる。ライセンスには自動で討伐した魔物を記録する能力や受注中の依頼を表示する能力が備わっている。
・ランクを上げるには依頼をこなしていき一定量達成するとランクが上がる。しかしそれで上がるのはCランクまででBランクからは試験も存在する。また特例でギルドがその者の実力が高いと認めた場合のみランクを上げることもあるそうだ。
・冒険者間の諍いはギルド内では禁止されているが、決闘の場合は許可される。決闘とは互いに何かをかけて行われる闘いのことで両者の合意があって初めて成立する。また内容はきちんと契約書に書かれるため不正も無いらしい。
以上が冒険者についての説明だった。
「すみません。おすすめの武器屋と図書館があればその場所を教えてください。」
僕がそう言うと受付嬢さんは紙を取り出してここからの道のりと店の名前を書いた紙を用意してくれた。僕はお礼を言ってギルドから去ろうとする。しかしここで予想外の出来事が起きた。
「おいおい、ここはいつからこんな貧弱なガキが登録できるところになったんだ?」
なんと筋骨隆々の大男が絡んできたのだ。僕はそれに対して冷静に対処する。
「ここは十二歳未満でなければ登録できるはずですが。」
そう答えるとギルドにいた冒険者たちはゲラゲラ笑い出す。そして羞恥からか顔を赤くした大男を
「だせえな、モーブル。ガキに正論言われてんじゃねえよ。」
と挑発する。
「うるせえ!!俺はCランクだぞ!お前なんかぶっ殺してやる!!決闘だ!俺と決闘しろ!俺が勝ったらお前は俺の奴隷になれ!」
すると何故か大男、モーブルは僕に決闘を申し込んでくる。それを聞いた冒険者たちは野次馬と化して騒ぎ立てる。
「すいません。僕にはやるメリットがないのでお断りさせていただきます。」
この決闘僕にメリットがなさすぎる。負けたら奴隷だし勝っても正直欲しいものはない。強いて言うならお金くらいだ。お金はあって困ることはないしこの後武器屋に行くので少しでも多い方が良い。
だが、野次馬が騒ぎ立てたせいで断りづらくなってきた。
しかしここで奥から額に傷がある男が出てくる。
「おいこれはなんの騒ぎだ?」
「ギ、ギルドマスター!どうしてここに⁈」
「なんでって、てめえらが朝っぱらからうるせぇからだよ。それで何が原因だ?」
どうやらこの男性はギルドマスターらしい。モーブルも彼を前に少々怯えているようだ。そんな中モーブルはことの説明をギルドマスターにしていく。そして説明が終わるとギルドマスターが口を開ける。
「話は分かった。おいモーブル」
「な、なんだよ。」
「今回はお前が悪い。決闘はかまわねえが賭けるものが対等じゃなさすぎる。もしその条件ならお前も同様に自分の人生を賭ける必要があるぞ。」
「ぐっ。だ、だけどあいつより俺の方が価値は高いはずだ!なんせ俺はCランクであいつはFランクだからな!」
モーブルはギルドマスターの言ったことに対してギルドのランクで対応する。
「はぁ、モーブルよぅ俺が見た限りお前さんよりこっちの坊主の方が価値があると思うぞ。」
「なっ!そんなことあるわけない。」
「まず容姿、これは大きいぞ。そして年齢。これからが伸び盛りの坊主の方が伸び代がある。これだけ揃っていればお前の歳の頃にはお前より強い可能性も十二分にあるぞ。」
この話し合いは一体いつまで続くのだろう。それに人の価値を勝手に決めないで欲しい。というかこれ以上長引くのは勘弁してもらいたい。この後もやることはたくさんあるのでここは妥協するのが良いと考え始める。この状態ならむしろ決闘受けた方が早く終わりそうだ。
「あのすみません。」
「ん、なんだ坊主?」
「この後もやることがあるので手早く終わらせるために決闘は受けても構いません。」
僕がそういうとみんなが驚いた顔をする。いやモーブルだけはニヤリと笑ったが。
「おいおい、いいのか坊主?お前自分の人生を賭けることになるんだぜ?まぁどうしてもというなら止めはしないがな。」
「問題ありません。あと賭けるものが僕の人生なら彼にも人生を賭けてもらいます。それでもいいならやりましょう。」
「俺は構わねえぜ。どうせ俺が勝つんだからな!」
「分かった。それじゃあここに賭けるものを記入してくれ。」
そうして渡された紙にモーブルは勝てば僕を奴隷にするという旨を書く。僕はモーブルなんていらないのでなんで書くか少し迷う。
「何を悩んでんだ坊主。確かにお前さんはこいつなんかいらないのかもしれんが賭けるものは同じにしなくちゃな。てかそれでもモーブルの方が利益が大きくなるだろうけどな。」
「それでは彼を奴隷にしたあとあなた方ギルドが彼を売ってそのお金を僕に渡してもらうというのを加えてもいいですか?」
「おう構わねえぜ。あとは俺からの提案なんだが、モーブルに勝ったら坊主をCランクにまで上げてやろう。」
「分かりましたそれでお願いします。」
「モーブルもそれでいいな。」
「ああなんでも賭ければ良い。どうせ俺が勝つんだからな」
「そうか。それじゃあ決闘場に移動するか。」
そう促されて僕たちは決闘場まで移動する。決闘場はギルドの地下にあるようでコロッセオのようになっていた。僕とモーブルはそこで向かい合い武器を抜く。モーブルは背中から両手斧を抜き、僕は魔術銃を二丁抜く。それを見たモーブルはニヤニヤとしてこちらを見てくる。まさに自分の勝ちを確信している顔だ。
「それではただいまより決闘を始める。この決闘は正式に契約書に決められたものであることをギルドマスターたる俺が証明しよう。またここでの傷は結界の外を出ると精神ダメージに変換されるため死ぬことはない。死ぬようなダメージを受けた場合結界外に弾き出されるからな。それでは両者準備はいいか?」
「「はい(おう!)」」
「それでは始め!!」
その言葉と同時にモーブルは魔力で雑な身体強化を施して僕に向けて突っ込んでくる。僕はそれに対して銃口をモーブルの右手に定めもう一方の銃口を背中から上空に向けて放つ。それと同時にモーブルの右手に向けて発砲する。だが流石にそれは斧で防がれる。同じCランクといってもやはり地球とでは戦闘能力が大きく違う。地球のCランク探索者だったらあれで多少なりとも体勢が崩れるなりしただろう。
モーブルはニヤニヤとしながら斧を振りかぶり必殺の間合いに僕を捕らえようとする。そして遂にその間合いに入る。モーブルはニヤニヤとしていた顔をさらに歪め僕を斧で叩き潰そうとしてくる。
しかし斧が振り下ろされる前に僕が最初に撃った魔術弾が上から落ちてきてモーブルの脳天を完璧に打ち抜く。モーブルは何が起きたか分からない顔をして結界外に弾き出される。
まぁ簡単に言えば迷宮でやったのと同じことである。
「勝者、ユヅキ!」
それを見たギルドマスターが高らかに僕の勝利を宣言する。それと同時にいつの間にかいた観客たちから歓声が聞こえる。
僕は短く息を吐きギルドマスターにライセンスを渡してランクの更新をお願いする。そのまま適当なところに腰をかけて待つ。
少しするとギルドマスターが来てライセンスを渡してくる。そこには確かにCランクと表示されている。
「坊主、モーブルを売った金は後日取りに来てくれ。あとあいつを倒してくれて助かった。あいつはこの頃新人相手に絡んで金やらなんやらを奪っていてな。捕まえようと思っていたんだ。だがこれといって証拠が無いせいで捕まえられなくてな。だからモーブルはうちで買い取らせてもらうぜ。そしたらこれまでやってきたことを聞けるからな。」
「そこはご自由にどうぞ。僕は他にも行くところがあるのでもう行きますね。後の処理はよろしくお願いします。」
そうして僕はやっと今日の本題に行くことができたのだった。
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