第2節 正義の暗殺
第1話
優月視点
森の中に転移した僕は近くに街や都市がないか、《感知》を発動して確認しはじめた。
『ルドラ、ここはどこら辺か分かる?』
『いや、我は迷宮の転移陣がどこに繋がっているのかは分からんのだ。すまんな。』
『大丈夫。スキルで大体は把握できたから後は真っ直ぐに向かうだけだし。でも、身分証もお金もがないから上手く街に入れるかは分からないな。』
僕はそんな会話をしながら目的地へと歩いていく。しばらく歩いていると《感知》に謎の生命体の反応を見つける。
「これは……まさか…」
僕はその反応のあった場所へと急いで向かう。そして遂に謎の生命体を発見する。
それは人型で緑色の皮膚をしており、目は赤く、全長約1.3m程であった。手にはボロボロの鉈を持ち仕切りに周囲を見回している。
僕は《看破》を使いステータスを見る。
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名前 :グが
性別 :男
種族 :緑鬼族
鬼深度 : 1
スキル : 剣術lv.4 肉体強化lv.2
マスタースキル :
ユニークスキル :
称号 :
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そんなに強いとは感じない。ただ、鬼深度というものがなんなのか分からないためそこをさらに集中して見る。
鬼深度 : 鬼特有の強さを表す数値。深度が高いほど強く低いほど弱い。1〜3までが下位、4〜7が中位、8〜 12が上位で13〜は王位となっている。上限はない。竜でも同様であるが、龍は違う。
となっているらしい。目の前の鬼は鬼深度が1なので最弱の鬼なのだろう。折角の機会なので殺せるのか試してみる。
夜天を抜き神器を発動させる。神器は起動させるために《
「 《
するとたちまち夜天を中心に風が吹き荒れる。グがも僕に気付いたようでこちらに殺意を剥き出しにして襲いかかってくる。僕は夜天の切っ先に風を集中させ、グがに向けて放つ。
「エアリアルバースト」
一言。それだけで圧縮された風が解放されグがを切り刻む。後に残ったのはグがの核だけだった。鬼核は緑色をしており、豆粒ほどの大きさだった。それを拾うと腰のポーチにしまう。
神器を使ってみた感想は使いやすい、という感じだ。魔力の消費も少なくて済むし威力は中々といった感じのため使っていて楽というのが真っ先に思ったことだった。また神器にもステータスのようなものがあり使用できる能力が載っている。ルドラに何故このような機能があるのか聞いたところ、“人間に使いやすいようにするため”ということらしい。ちなみに能力の一覧がこれだ。
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神器 シュトゥルムヴァント
契約者 十六夜優月
能力
暴風 : 風を自由自在に操り支配することができる。
荒水 : 荒ぶる水を支配する。
慈雨 : 癒しの雨を降らせる。雨に当たった者の傷を癒し、魔力を回復させる。
弓の射手 : 弓の扱いが上手くなる。
矢自動生成 : 矢を自動で魔力から生成する。
神の咆哮 : チャージ攻撃。一定時間の溜めにより次の一撃の威力を高める。チャージは最大5分。
神装 ???
契約者 十六夜優月
能力不明
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となっている。今し方放った技は《暴風神》を利用して風を生成しそれを集めて圧縮して指向性を持たせてから開放するだけという簡単な技だ。ただし予想以上の威力だったため周囲が荒れてしまったが。
『どうだ我の力は?』
『良い能力だよ。応用も効きやすいし単純な威力も高い。僕との相性も問題なさそうだ。ルドラが最上位なのも納得だよ。』
『そうかそうか。これからもどんどん使っていってくれ。』
『そうさせてもらうよ。』
僕は再び街の方へと歩き始める。道中いくつかの魔物と出会ったがどれも性能実験をしながら倒せるレベルの魔物や鬼ばかりだった。竜とは出会わなかったので、鬼の方が数が多いのかもしれない。
日が少し傾いてきた頃ようやく僕の視界の中に防壁のようなものが見えてくる。門のところには門番がおり何人かの人が出入りしている。
僕は早速その列に並び自分の番を待つ。
(やっと着いたな。まずは中に入って宿を取って、その後冒険者ギルドというところがあるらしいからそこで身分証を発行してもらう。と、ここまでが今日やることだな。幸いお金は迷宮の宝物庫にあったしこれで宿代と夕飯、ギルドの登録料も大丈夫だろう。)
そうこうしているうちに僕の番がやってくる。
「身分証の提示をしろ。」
「すみません。持っていませんので別の方法を教えて頂きたいのですが。」
「はぁ?身分証がない?そんなこと普通あり得ないだろ。まぁいい、この水晶に触れてくれ。」
「分かりました。」
水晶に触れると水晶は青色に光出す。
「よし。犯罪履歴はないな。じゃあ通行料の銅貨3枚を払え。これは後から身分証ができたらそれを持ってきて見せてくれれば返すから忘れるなよ。3日以内に来ない場合は返却しないからな。」
「ご説明ありがとうございます。それでは。」
僕は銅貨3枚を門番の人に渡して門をくぐる。
「ああ、ようこそ都市“カナン”へ」
都市の中は賑わっていた。道には屋台があり酒場と思しき店では幾人もの人が酒を片手に騒いでいる。活気で溢れていてみんながとても楽しそうである。しかもいろんなところに獣人、エルフ、ドワーフなどの人族以外の種族もいる。街並みは中世のヨーロッパごろのものなのでこの世界は戦闘において最上位クラスなのだろう。
周囲を見渡していると時々浮浪者や乞食、などがいる。彼らは大通りをされた裏路地に潜んでいてたまにほんの少しのおこぼれを貰っていた。あの裏路地の奥にはスラムがあるのだろうという予想は簡単にできた。裏路地の奥にはこの都市の街並みに似合わないほどの大きく廃れた建物もある。また奴隷のような者もおり、主人の命令に従っていた。
いくら基礎知識を得ているとしてもそれを実際に見るのとでは比べ物にならないほどの情報量を誇っているのだ。
僕はその中を歩いていき宿屋を探す。すると、遠くに〔止まり木の宿〕という看板が見える。そこが宿屋だと思い少し急ぎ足で行く。到着すると中には恰幅の良い女性とその娘と思われる女の子がいた。
「すみません。ここは宿屋であっていますか?」
「ん?そうだが…なんだいあんたお客さんかい?」
「ええ、ここで一泊したいんですけど。空いていますか?」
「ああ、丁度さっき出ていったお客さんがいてね。一部屋空いたところだよ。あのお客さんも変な人だねぇ、こんな夕方に出て行くなんて…まぁいいさ。それで一泊だったね。一泊銀貨1枚に加えて朝夕のご飯と桶の使用も欲しいなら合わせて銀貨1枚と銅貨5枚だよ。どうする?」
「じゃあご飯と桶もお願いします。」
僕はそう言ってお金を払う。女性はそれを確認してから受け取り鍵を渡してくる。
「毎度あり!悪いね、うちは先払いだから。これは部屋の鍵だよ。出かける時は部屋に鍵をかけてから受付にいる私か、私の娘に渡してくれ。ご飯は今すぐ食べられるがどうする?」
「じゃあお願いします。」
「はいよ!あとあんたの名前を聞いてなかったね。私はマーサ、あの子はアンナだよ。よろしくね!」
「十六夜優月と言います。こちらこそよろしくお願いします。」
「そうかい。それじゃあそこら辺に座って注文を決めな。決まったら私かあの娘を呼んで言ってくれればいいから。」
「分かりました。」
僕はそう言って適当な場所に腰を下ろしメニューを見る。見ていると“おまかせ”というのがあったのでそれにしてみる。というより他のメニューを見てもどれがいいのか分からないからだ。
近くにいた先程の女将さんの娘さんを呼んで注文を伝える。注文を伝えてしばらくすると、いい匂いが漂ってくる。すると、娘さんが料理を両手に持ってこちらへ来る。
「お待ちどうさま。これがボアのステーキでこっちが自家製の野菜を使った野菜スープだよ。後は黒パンね。黒パンはおかわり自由だからお好きに食べてね。」
娘さんが戻って行くのを見て僕も目の前の料理を食べ始める。ステーキを食べ、スープを飲み、パンを頬張る。手早く食べ終わり、女将さんに声をかけてから自分の部屋を探して鍵を開ける。中は簡素な作りだった。ベッドにタンス、そして机とこれだけしか置いてなかった。
(まあ、テレビとかはこの世界には無いからこれが当たり前なのか。)
僕は武装を解いてベッドに横になる。
(そういえば今日の宿は日本基準で言えば安かったな。この世界の基準だとどうかは知らないけど。)
〜〜〜〜〜
この世界の通貨は全て硬貨で紙幣は使われていない。
種類は全部で7種類で高価なものから
白金貨 大金貨 金貨 大銀貨 銀貨 銅貨
となっている。銅貨10枚で銀貨、銀貨10枚で大銀貨、大銀貨10枚で金貨、金貨10枚で大金貨、大金貨100枚で白金貨となっている。白金貨は滅多に使われないため大金貨100枚分の価値が付けられている。日本円で言えば銅貨が100円だと思ってもらえればいいだろう。銀貨が1000円、大銀貨が10000円、金貨が100000円、大金貨が1000000円となっている。白金貨は大体1枚10億ほどだろう。
これを加味すると先程の値段は1,500円という破格の値段だということが分かる。
ちなみにお金は全国共通のものを使っているらしい。とても珍しいのでこれには素直に驚いた。
〜〜〜〜〜
今手元にあるお金なら何もしなくても数年は暮らせるほどのお金があるが、早く地球に帰りたいのでどうでもいい。
明日は冒険者ギルドで登録をした後、職業というものや魔法について知るために図書館か何かで情報を集める予定だ。後はここがどこなのかも。なんせまだ都市名しか知らないのだから。
明日はそのまま武器屋でちょっと買い物をして試してみたいことをしたり、色々と準備を整えたら終わりそうだから、明後日から本格的に竜や鬼狩りを始めようと思う。ただし先に龍を倒して龍装を獲得したいとも思っている。これが中途半端に上位の鬼や竜を倒して竜装や鬼装を手に入れるなんてことは起きて欲しくは無い。
明日の予定を決めた後桶を使って体を拭いていく。拭き終わると緩めの服に着替えてから桶を返却してベッドに横になって寝ようとする。
ふと窓を見るとそこから月光が差し込んでいた。この世界が地球と違うところの一つは月が2つ存在するということだ。小さいのと大きいのがありどちらも地上を淡い光で静かに照らしている。都市に入ったとき騒がしさはすでに消え嘘のような静寂が広がっている。
その時夜になってから常時発動していた《感知》にこの静寂に似合わないほどの人の集団が入り込む。距離はそう遠くなく恐らくあのボロい建物内だろう。
(何をしてるんだろう。気になるけど別に関わらなくてもいいか。)
僕は《感知》を切り、いつものように浅い眠りにつく。
*******
???視点
(ーッ!この感覚、誰かが私達のことを見ていたのか?いや気配を察知されたのか。いずれにしても危険だな。今後は警戒度を高めておこう。次に察知されたら消すしか無いな…。)
「どうかいたしましたか、リーナ様?」
「いえなんでもないわ。訓練を続けなさい。」
「はっ!了解いたしました。」
(皆強くなってきた。これなら計画の実行も近いな……)
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