第16話
ラスタル視点
赤の輝きが収まったのち、ラスタルは驚愕していた。光が収まった後にユヅキ イザヨイが無傷で立っていたからだ。しかも、今までにつけた傷全てがだ。“ありえない”ラスタルの心中はそれでいっぱいだった。
自らが使った【仙気昇華・破仙装】で確実に追い詰めていたし、もう彼には反撃できる余力が残っていないのも明らかだった。さらにそこに自身の最も威力の高い奥義を放ったのだ。生きているなどありえなかった。まして、傷が全て治った状態で。
「君は何をしたんだ!」
ラスタルは気がつくとその問いを投げかけていた。
「僕は………」
そんなラスタルの問いにも表情一つ変えずに彼は答え始める。ラスタルにとっての“ありえない話”を……
*********
優月視点
「君は何をしたんだ!」
そんな必死の表情をしたラスタルの問いに僕は答えた。自らの計画というには短い考えを…
「僕がやったのは単純に貴方の【仙気】を完全に習得して応用しただけのことです。
そもそも僕は貴方の【仙気】を用いた攻撃を受けるたびに通常よりも早く【仙気】の理解を得ることができていました。ですが、貴方の【仙気昇華・破仙装】により、それが難しくなってしまい、攻撃を受けることでしか習得できなくなってしまったので、貴方の攻撃を全て致命傷だけは回避して受け続けていたのです。
僕の予想通り、貴方がとどめを刺してくる一歩手前で完全習得することができ、さらにそれを応用して防いだということです。」
「待て、そこまではわかった。君の才が尋常ではないことも。だが、どうして傷まで癒えた?そんな技は【仙気】にはないはずだ!」
「そもそも貴方は【仙気】とはどんな力だと考えますか?」
「なに?そんなことは分かっている。我々の生命エネルギーが具現化したものに決まっているだろう。」
「ええ。僕もそう考えました。【仙気】とは私たちの生命エネルギーであると。だからこそ思ったんです。生命エネルギーはすべてのものに有るのではないかと。」
「確かに、草木等は生きている以上エネルギーは持っているだろう。だが、それがどうした!それも私は既に知っている!」
「やはり貴方もここまでは知っていますか。では貴方は自分の生命エネルギーとその他のものが持っている生命エネルギーが同質であることは知っていますか?」
「なっ!そんなことあるはずがないだろう。生命エネルギーも魔力と同じで個人間で違う筈だ!」
「いえ、僕が戦闘中に確かめたところ同質でした。恐らく貴方がこれに気づかなかったのは【仙気】という生命エネルギーを使った技を使う者がいなかったからでしょう。それ故に貴方は自分と他との生命エネルギーの関係に気づかなかった。」
「確かに、私は私以外に生命エネルギーを使った技を使う者と会ったことがない…それにそんな事考えもしなかった。」
「さて、これで先程の前提の知識は話し終わりました。ここからが本題です。」
「ここまで聞いといてなんだが、君は私にその技を話してしまっていいのか?私も使えるようになってしまうかもしれないのに。」
「ああ、そんな事ですか。問題無いと僕は考えていますよ。まぁその理由は追々話しましょう。
僕がしたことを簡潔に言えば、貴方の【仙気】を吸収して治癒したんですよ。」
「は?なにを言っているんだ君は。確かに【仙気】は同質だ。だが、それでも個人の差は技にははっきりと出るはずだ!そうでなければ、私と君の【仙気】は全て大地にさえ吸収されてしまうことになる。」
「ええ、もちろん貴方の放った技の【仙気】は貴方特有のものでした。」
「ならば何故!」
「貴方の技の核を壊したんですよ。僕の【仙気】を凝縮して技の核を突いて技を崩壊させたんです。」
「ッ!まさか技の核を見れるものがあるとはな。私もその話は聞いたことがある。魔法の核を見抜き破壊することで霧散させることができるという話だ。」
「ええまさにそれですよ。僕は魔法相手に同じことができる、吸収はできませんが。【仙気】を使った技にも核は存在するのですよ。」
「そうか……だが一つ疑問が残る。何故君はそれをもっと早くに使わなかった?使っていれば君は私に対して優勢に戦闘をできただろうに。」
「それには理由がいくつか有ります。
一つはまだ【仙気】を完全に習得していなかったため核を壊す威力が出せるか懸念があったためです。【聖気】では威力不足は少し否めなかったですから。
もう一つは、この技で吸収できるエネルギー量はその技の半分ほどで、もう半分は核を壊した時に消滅してしまうからです。だから、治癒するには量が足りなかったんですよ。なので僕は自分が治癒できるだけの【仙気】を使った技が来るのをひたすら待ったんです。僕は貴方が最後に確実に僕を殺すために大技を放つと予想しそれまで待っていました。そして貴方は僕の予想通り大技を最後の最後に打った。あとはその技の核を破壊して回復したというわけですよ。」
「なるほど…私の技は君には読まれていたというわけか……
今の状況では私が圧倒的に不利だな。だが、私も諦めるわけにはいかない。見せてあげよう。私が磨き続けてきた技を!!」
「ええ、貴方の全てを僕に教えて下さい。」
そうして僕らはまた武器を取り、激しい剣戟を始める。ラスタルは手負いとは思えないほどの剣を振るう。僕もそれに負けじと自身の技を惜しげもなく披露する。
……‥‥
……
…
それからどのくらいの時間が過ぎたのだろう、数日か、数時間か、あるいは数分か…どのくらい剣を交えたのかなどもう分からない。お互いがただただ己の磨き上げてきた技を今まで出会ってきた中で最強の剣士に思いっきりぶつける。それは今までになかったことだ。
生きるのに必死だった僕と死んでからも誰にも知られずひたすら剣を磨き続けてきたラスタル。
お互いが今まで誰にも使えずとも編み出してきた数多の技を披露できるというこの最高の戦闘に僕は少しの興奮をしているのを自覚した。
今まで戦闘で興奮するなど、グライとの一戦以外なかったことだった。ましてや感情が希薄な今、それを感じるなど…
「はぁはぁはぁ」
「ふぅ、はぁはぁ、、」
僕もラスタルもそろそろ体力の限界が来ていた。お互いに肩で息をしており、技の威力も少しずつ落ちているのが両者ともに言葉を交わさずとも理解できた。
「ユヅキよ、この死合もそろそろ決着としようか。【仙気】などは使わずに己の剣技のみで。」
「ええ、そうですね。では次の一撃で決着といたしましょう。」
そうして僕らは距離を取り、構える。
僕は居合の構えを取り、ラスタルは上段の構えを取る。僕は息を軽く吐き集中を今・の・限界まで引き上げる。
少しの間の後にお互いに合図もなく、しかし同時に技を放つ。
「鬼気破装流 秘奥義
ラスタルの技が発動する瞬間僕は彼の背後に鬼の化身を垣間見た。すると、剣が赤みを帯び、急速に剣速が上がる。きっと威力の方も大きく上がっているのだろう。そして僕はこれがEXではないことも理解する。この技はただの振り下ろしだが、だからこそ強い。ラスタルが己の全てを乗せた最強の一撃なのだろう。剣が赤みを帯びたのは恐らく剣気によるものだろう。
剣気とは剣において一つの頂き、真髄に到達した者のみが稀に出せるという正に剣の奥義なのだ。その威力はスキルを、魔法をも尽く凌駕する。
僕はそのラスタルの技を見ながら自らの刀の鯉口を切り技を繰り出す。
「月華天真流 居合術壱ノ奥義
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月華天真流 居合術壱ノ奥義 天華
その名の通り居合の奥義の一つである。威力は居合術の中では一番だ。この技の一番の特徴はその絶大な破壊力で、居合を放った際に受け止められても押し切ることができる。天にも届く華という意味である。
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両者の技はぶつかり合い激しい火花を散らす。二人を中心に風が吹き荒れ、足元が陥没する。ラスタルの赤い剣に対し、僕の刀は剣気により漆黒に染まっていた。
ラスタルが発現させたように、僕にも剣気を使うことはできた。これは以前に何度か経験があり、その時の感覚と今のラスタルとの剣戟でその感覚を自分のものにすることができたのだ。
しばらくの拮抗の後に遂に僕の技がラスタルの技を破壊した。そして、ラスタルを切り裂く。
「見事だ。」
「そちらこそ。」
そう一言残して、ラスタルは消え去っていく。僕たちの間にはそれだけの言葉で十分だった。
僕は視線を手に持つ刀に向ける。そこには柄を残して、剣身のない刀があった。そう、僕の刀は先程のラスタルの一撃に耐えられず、ラスタルを切った瞬間に砕けてしまったのだ。僕はその刀を鞘に収め、ラスタルの死んだ後に残った剣等を見やる。
ラスタルとの一戦は僕の剣技をさらに向上させてくれた。
剣に生涯を捧げた男…その剣にかけた時間分の自信が彼の技にはあった。だからこそ最後に剣の頂きに到達しそうになった。僕にはないその自信を僕は欲しいのだろう。その自信はきっと僕にさらなる強さを与えてくれるだろうから。彼がそうだったように。だから僕はそれが欲しい。いや、欲しかった…
だってそれがあれば僕は
─────あのとき彼らを失わずに済んだはずなのだから
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