第15話
優月視点
それからしばらくの間、戦いは完全な均衡状態になっていた。ラスタルがどのような技を繰り出してきても、僕は彼と全く同じ技で迎え撃つため決着がつかないのである。
では何故ラスタルの技を全てそのまま返すことができているのか。その理由が僕のEXにあった。
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EX 鏡花水月
このEXは鏡花水月の名前の通りの効果である。相手のしていることを完璧に模倣して、再現する。それがたとえ、魔法でもスキルでもEXでもだ。さらに、ずっと模倣をしていくと相手の技を習得することもできる。
しかし、このEXは目と脳の解析能力に依存するため、視界が潰されたりすると効果を発揮できないという欠点も存在していた。
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今僕が【鏡花水月】により模倣しているのは二つ。
一つは彼の剣技と体捌き。
もう一つは彼のEXである【仙気】だ。
この二つのうち既に剣技と体捌きはほとんどを習得している。【仙気】も結構理解しているが、まだ習得には至っていない。
先程は説明していなかったが、相手の技を習得できるということはその技にさらに改良を加えて、自分なりに強くすることができるということだ。今はまだ、【仙気】習得のため剣戟を続けているが、【仙気】習得と同時に仕掛けるつもりだ。
この状況を把握するとこちらが有利にも思えるが、そういうわけでもない。EXを習得するのは相当大変であり、今打ち合っているのは限界に近くなってきている。
ラスタルも僕の動きが鈍いのを察知してか、先程から、攻撃の密度が高まってきている。
「鬼気破葬流 仙技 仙気破斬!」
そして、僕が一瞬ひるんだ隙に剣に膨大な【仙気】を流し込み叩きつけてくる。この状態では技はまだしも、もう【仙気】の模倣はできない。
(くっ、仕方ない。ぶっつけ本番になるけど、あれを試すか。)
僕はまだ実戦で使用したことのない技の使用を決める。
EX発動
発動した瞬間に白銀のオーラが僕の身体に纏われる。それと同時に自らの能力全てが一段上に昇華されたのが感じられる。しかし、扱いきれていないため、その分の【聖気】によって僕の身体に激痛が走る。だが、それは想定内であり以前までの実験の日々の苦痛に比べたらなんてことはないものであった。
このEXは《獣化:白虎》の練習をしていたときに発見したものだ。獣化すると【聖気】が感じられたのである。しかし流石にEXを一日程度では習得することができずに未完成な状態のままでいたのだ。
僕は【聖気】を刀に纏わせ、ラスタルの技を模倣する。
「鬼気破葬流 聖技 聖気破斬」
静かに技名をつぶやいて、ラスタルの剣を受け止める。
互いの技がぶつかり合う。しかし、それは今までとは違い、完全な互角ではなかった。
長年の積み重ねにより極めた技と今いきなり放った未完成の技。
どちらが勝つなど自明の理であった。
僕の技はラスタルとは違い完全にEXを刀に流し込むほどの操作性が無かった。それが原因であり、決定的な敗因である。
僕は競り負け吹き飛ばされる。
ドォォン!
階層の壁に衝突し、吐血する。
「鬼気破葬流 仙技 気翔仙破斬!」
ラスタルの抜刀術。さらに追撃の一撃がやってくる。僕は何とか身を捩り致命傷を回避するも左の脇腹が切り裂かれる。
「鬼気破葬流 仙技 気翔仙破斬・連!」
今度は先程の斬撃が何十、何百と絶え間なく僕を襲ってくる。
僕は斬撃の雨が降り注ぐ中【聖気】を使って障壁を生成することで時間を稼ぐ。その間に何とか体制を整えて、ラスタルの斬撃に対抗するために抜刀術を行使する。
月華天真流 聖技 瞬華・飛天・連
ラスタルの技を取り込みさらにそれを改良する。ここにきて【鏡花水月】の本領が発揮される。ラスタルの斬撃の雨を完全に相殺することに成功する。
僕はラスタルの斬撃を凌ぎながら思考を止めずに打開する方法を考える。
(まだ、こちらが劣勢なのは変わらない。あちらは無傷なのに対してこちらは内臓に損傷、脇腹からは出血が止まっていない。さらに体力も【聖気】のせいで加速度的に減少している。
だけど、ラスタルの技は完璧に習得できたし、【仙気】も技をくらったおかげで理解できた、【聖気】の方も大分慣れてきたから、勝機がないわけじゃあないな。取り敢えずは【仙気】を習得することに集中しよう。)
思考を続けていると、ラスタルの斬撃が止む。
「まさか、防がれるとはな。素晴らしい!君は間違いなく私が戦ってきた中では最強だよ。」
僕はラスタルの賞賛を受けても何も答えず、ただ黙っている。
「無反応とは悲しいな。まぁいいか。それじゃあ君に敬意を表して【仙気】の真髄を見せてあげよう。」
「【仙気昇華・
すると、今までラスタルの纏っていた緑のオーラが変色する。緑から赤へと変化し、その存在感が先程までとは比べ物にならないほどに大きくなる。赤のオーラはラスタルの白髪と目を赤に染め上げる。顔には赤の紋様が刻まれる。さらに驚くべきことにラスタルの体が若返っていく。しぼんでいた筋肉は発達し、顔の造形は二十代前半といったところになる。
「ふぅ。これを使ったのは久しぶりだな。どうだ、十六夜 優月、これが私の極地、本当の奥義だ!さぁ、行くぞ!」
ラスタルは赤の残像を残しながら剣を中段に構えて突っ込んでくる。
僕はその速さを見切りながら中段に構える。
「鬼気破葬流 破仙技 天破!」
強烈な突きが僕を襲う。僕は【鏡花水月】により模倣をしようとするが、ラスタルの【仙気昇華・破仙装】を完璧に模倣することに失敗する。
即座に切り替えてありったけの【聖気】を注いで対抗するも、呆気なく打ち負ける。何とか上体を捻り致命傷を回避するも、左肩に剣が掠る。
そこからは完全にラスタルの一方的な攻めの時間だった。僕のEXではラスタルの【仙気昇華・破仙装】に対抗できず、何とか凌いでいくも傷が増えていくばかり、途中から【聖気】を全て防御に回すもそれをも突き破ってくる。
現状を端的に言ってしまえば “詰み” であった。
しかしそんな状況にもかかわらず、致命傷に至る攻撃だけは確実に回避して凌いでいた。多少の負傷は厭わずただただ耐える。
死ななければいい。
ラスタルから見ればそんな風に見えたことだろう。それほどまでに僕はぎりぎりのところで耐えていた。
それからさらに時が経つ…
僕のきている服は最早ボロ布と化し、体中血まみれで、まさに瀕死の状態であった。致命傷だけは回避してきたが流石に細かな傷でも量が多すぎた。
「君はよくやったよ。生前も今世もこの状態になった私とやり合ってここまで耐えたのは君だけだ。だが、君はもう限界だ。次の一撃で終わりにしよう。」
「ハァァァァ!
鬼気破葬流 破仙技 奥義 鬼葬天仙破!」
ラスタルの剣に膨大な量の仙気が注がれ、剣が真紅の輝きを放つ。そして遂にそれが放たれる。
右袈裟斬り、左袈裟斬り、そして最後に突きの三連撃技。その技とともに赤の輝きが増し、光が僕を呑み込んで行く。
全て僕の計画通りとも知らずに……
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