第13話



優月視点



翌朝、僕は早めに起きて《獣化:白虎》を試してみる。服は一応脱いでおく。これはスキルにより、服が破けるのを避けるためである。



スキル発動 獣化:白虎



発動した瞬間、頭とお尻に違和感を感じる。気になって触ってみるとそこには虎耳と虎の尾があった。



(なるほど……。獣化すると生えるのか。まぁ想像していた通りだけど。この段階でも身体能力が相当に上がってるのが分かるな。しかもこのスキルまだ、先がありそうだ。予定を変更しよう。今日は一日これを理解するために使うとしよう。)



そう決めた僕は野営具等は片付けずにおき、そのままスキルの練習に入る。



それから半日以上後、スキルの練習がおおよそ完了したため休息を取る。そして夕食(いつもの干し肉だが。)をとりながらスキルについて分かったことをまとめていく。



1 . このスキルには段階が三段階存在する。


 一段階目は一番最初に発動した耳と尾が出てくる状態。この状態の時は身体能力の上昇と感覚の鋭敏化、特に聴覚と気配察知が向上する。特に気配察知は《感知》を使用しなくても自身から半径二百メートルを完璧に把握することができるほどであった。


 二段階目は先程の状態に加えてさらに腕と足と目が虎のものに変身する。この状態だと特に腕力と脚力が白虎と同等になる。そして目も通常より良くなり、視力、動体視力、等が大幅に向上する。


 三段階目は完全に虎になる。四足歩行となり、身体能力は白虎と同等となり、全ての感覚が鋭敏化される。

しかし、この状態になると、理性が失われかけてしまう。短時間であれば理性を保つことが可能だが、長時間この状態を維持すると完全に虎となり、その本能のまま行動する。この状態になって仕舞えば、おそらくスキルの解除は不可能であり、一生を虎として終えることになるだろう。


僕はこの三段階存在する状態に名称を付けた。といっても簡単なものだが。


一段階目はフェイズ1 以降ワンと称す。


二段階目はフェイズ2 以降ツーと称す。


三段階目はフェイズ3 以降スリーと称す。


である。名称を付けたのは今後スキル発動時に分かりやすくなるからであり、今後はこの呼び名を使うことになるだろう。



2 . スキル発動中は白虎の固有スキル《再生》が常時発動している。これは、《再生》といっても段階によってその効果が異なってくる。


ワンでは、《再生》というよりは治癒速度の上昇といったところだろう。それでもかすり傷ぐらいのものであれば瞬時に治すほどの治癒能力を持っている。


ツーではかすり傷より大きく、酷い傷でも時間が少しかかるが治すことができるようになる。しかし、致命傷や部位欠損は治すことができない。


スリーでは致命傷や部位欠損でも治すことが可能になる。部位欠損の場合は新しいのが生えてくるのだ。

これからはヤモリやトカゲのような尻尾切りができるようになった。これは結構強力な力になるが、使いどころは選ぶ必要がありそうだ。



3 . これはまだ検証が必要なため、まとめなくてもいいだろう。



以上3つのことがわかったことだ。


確認を終えたのちに僕は明日に備えて早々に寝た。



*********



翌日……


僕は装備を整えて、次の階層に向かう。しかしなぜか次の階層を《感知》できない。首をかしげながら階段を降りていき次の階層に足を踏み入れると常時発動していた《感知》と《把握》が解除される。



(どういうことだ?)



僕はその階層を見渡す。そこには異様な光景が広がっていた。


荒れ果てた大地に幾本もの剣が突き刺さっていた。剣はさまざまな種類があり、それらの中には大層な業物や禍々しい気を放つ剣も存在した。


僕はその剣等の間を歩いていく。中央に行くと1人の人間が大地に立っていた。その人物は空を見上げて憂いを帯びた目をしていた。髪は白く短髪にしており、顔立ちは40代半ばの普通の男性であり、青色の着物を着ていた。足には草鞋を履いており、腰の帯には一振りの今まで見たことのないほどの業物だろう剣を佩いていた。


その男はこちらに気づいたようで顔を向けてくる。



「君は?」



そうしわがれた声で尋ねてくる。



「この迷宮の挑戦者ですよ。」



「そんなことは知っている。ただ自己紹介をして欲しかっただけだ。まぁいい。私からしようか。

私はラスタルという。ここで迷宮の番人をしている剣士だ。」



「ではこちらも。

僕は十六夜 優月と言います。十六夜が姓で優月が名です。この迷宮に挑む暗殺者であり剣士です。」



「そうか、君も剣士か……」



「ええ。ところで先程から気になっていたのですがこの階層ではスキルの発動はできないのですか?」



「ん?あぁそうか。それを説明していなかった。この階層にはスキルと魔力を使えない特殊な結界が展開されているんだ。それによって君はスキルも魔法も使えないし、魔力自体すら使えないんだ。要はこの階層では本当に自らの力のみで戦うしかないというわけだ。」



「そういうことだったんですか。この階層に来てからの違和感の正体が分かって良かったです。

それにしてもここの剣等は凄いですね。業物ばかりだ。勿論貴方の剣には及ばないですが。」



「ふむ、これの価値に気付けるか。なかなか良い目をしている。ここにある剣等は全て私が生・前・戦い得てきたものでな。当時の私は剣ではこの世界でも最強クラスだったと自負している。それらがこの階層に召喚された時に共にこの階層に出現したのだ。私の剣は勿論戦って得たものではないがな。」



「待って下さい。その言い方だと貴方は既に死んでいるということになりますが?」



「その通り、私は既に死を経験している。この迷宮の創造主が私を蘇らせたのだ。この階層を守護させるためにな。わざわざ私に新たな肉体を与えてまで。元は人族だった私も今では吸血鬼族になった。そのおかげで肉体は生前より強くなり剣をさらに極めていくことができたのだがな。」



ラスタルは自嘲するように薄く笑った。



「そんなことができるとは、この迷宮の主人はどうやら天使ではなく神のようですね。」



「あぁ、ここの主人は神という存在だよ。

さて、話もこのぐらいにしてそろそろ始めようか。君の剣も素晴らしい逸品のようだから頂かせてもらおう。では、


『狂剣鬼』 ラスタル


いざ尋常に勝負ッ!」



ラスタルはその名乗りと共に剣を抜く。



「名乗りをするのは久しぶりですね。では、


『絶影』 十六夜 優月


参ります。」



僕もそれに対して静かに名乗り刀を抜く。



異界の迷宮にて地球最高峰の暗殺剣士とエルドラ最高峰の吸血鬼剣士が今遂にその剣を交えようとしていた……




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